追った貴方の見てる先
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サバイバルなんかして、大変やった数日間。『ここから見る海も山も最後か』なんて、感傷に浸っとった時やった。
「っ……ごめ……なさ……!」
「いや、こっちこそ……瑠奈ちゃん?」
森から飛び出してきた人とぶつかった。謝ろう思ったら、ぶつかった相手は泣いとって。しかもそれが、昔から知っとる瑠奈ちゃんやったから、表情には出さんかったけど内心めっちゃ焦ってた。子供の頃しとったみたいに抱き締める。昔はおんなじくらいの大きさやったのに、今では悠々と瑠奈ちゃんが腕の中に収まってまう。俺の背中に回った瑠奈ちゃんの手はどこか弱々しかった。
「どないしたん?何かあったんか?」
「……侑士くんに、言うのはちょっと」
「何でやねん。俺ら、幼馴染みやん?」
「小学生の時だけね」
「……つれへんわぁ」
「そりゃ……侑士くん相手だから」
最初は渋っていた瑠奈ちゃんも、一言一言話している内に、ちょっとずついつものような会話が出来てきて。
――ちょっと元気出てきたんちゃうか?
そう思った矢先、瑠奈ちゃんの向こう側に見えたんは、立海の幸村と辻本さんが、仲良う手を繋いでる姿やった。そうか、瑠奈ちゃんが泣いとったんは、これが原因やったんか。じっと見とったら、幸村と目が合ってこっちを睨んできよった。
――……瑠奈ちゃんが他の男に抱き締められてんの見て、そんな顔するくらいやったら離さんかったら良かったんちゃうん?ほら、はよ横の彼女さん連れて行きや。
そう思ってまうのは仕方ないと思う。ずっと瑠奈ちゃんのこと思って、気持ちを優先させてきたけど、今回瑠奈ちゃんを傷付けたんは幸村や。この先かて、もう傷付くだけなんやったら、立海におらんくてもえぇやろ――?
「なぁ、瑠奈ちゃん」
「何?」
「高校からでも氷帝に来やん?」
「何で急に……。それに、私が立海に行ったのは……」
氷帝に誘う。それが、俺の出来る瑠奈ちゃんを守る方法やった。
「部活に力入れとる立海やもんな。瑠奈ちゃんがやりたいことあったんもわかる。幸村を見る為やったんもあるし…」
「……そう、だけど。本当に私が立海に行った理由をよく覚えてるね」
幸村に憧れとった瑠奈ちゃん。それがどれだけ羨ましいと思っとったか、瑠奈ちゃんは知らんやろう。俺がどれだけ、自分のこと見てきとったか。
「そりゃ、瑠奈ちゃんの事やから。小学校転校してからも、たまに連絡は取っとったやん?」
「……変態くさい」
「止めてや、今大事な話やから」
話が逸らされそうになって、先に釘をさしておく。それを感じ取ったんか、俺が真剣なんわかったんか――。一息ついてから、今まで俯いていた顔が真っ直ぐ俺を見据えた。
「わかった」
「ありがとうなぁ。で、瑠奈ちゃん泣かしたん、幸村やろ」
「……わかっちゃうんだね」
さっきの幸村の様子もさることながら、ちょこちょこジロー経由で幸村と瑠奈ちゃんの話は聞いとった。二人が、どれだけ仲えぇかも一緒に。
「……まぁ、見えてもうてな。あとは……跡部とか宍戸とかからも聞いとってん。幸村の事もやけど、瑠奈ちゃんが元気あらへんて言うんも」
「そうだったんだ……」
「それで、そんな傷付けたやつおるとこにずっとおることないやん。俺かて瑠奈ちゃん傷付けたん許したないし」
これは俺の気持ちだけやけど、思いは間違いない。許すやなんて、出来ひんかった。
「それにウチはテニス部も強い。設備も最新やし豊富やから、瑠奈ちゃんのやりたいことは出来ると思うで。立海での条件満たせる上に、えぇことしかないやろ?」
「そうだけど……神奈川からは遠いよ」
正直、立海も立派な学校や思うけど、氷帝の設備に比べたら敵わん。絶対ウチ来たら、もっと色んな事出来るはずや。
――俺も……瑠奈ちゃん放っとかれへんし、一緒におりたい。
ほんで、通うことを考えたら絶対来ると思っとった家の話。
「……それやったら、うち来たらえぇ。瑠奈ちゃんのおばちゃんもおっちゃんも、うちやったら安心やろ?姉ちゃんも喜ぶし……。もしそれが嫌やったら、跡部が用意した部屋で住んだらえぇ」
ウチはおとんもおかんも姉貴も瑠奈ちゃん大好きやから、絶対反対しやん。瑠奈ちゃんのおっちゃん、おばちゃんも昔から知っとる仲や。安心やろ思ってのことやった。
「侑士くんの家なら、確かに反対されないだろうけど……。跡部が部屋用意するってどういう事?」
「そのままやで。外部から来る子があんまりおらんから、来やすいように近々寮みたいなん用意するって言うとった」
「寮か……。それなら……」
寮の話は、こないだ跡部が榊監督と話しとった内容や。学校の設備も申し分なくて、住む場所も用意される。そうなったら、確実に揺らいできてんのがわかる。
――もうちょっとや。もうちょっとで、高校から瑠奈ちゃんと一緒やな……。
そう思っとったのに。
「瑠奈、氷帝に行くのかい?」
「……っ!」
「……邪魔せんとってくれる?幸村」
声かけてきたんは幸村やった。瑠奈ちゃんが腕の中で、強張ったんがわかる。
――あともう一押しやのに、ここで来るやなんて。
瑠奈ちゃんを安心させるんと、自分が安心したいんとで、抱き締める腕に力がこもる。
「幸村には関係ないはずやけど?これ、瑠奈ちゃんの話やし」
「関係なくないと思うけど。俺、立海で瑠奈と一番仲の良い……友達だからね」
「友達……」
――あんな顔しといて“友達”やなんて、よー言うわ。
そうツッコミたくなったけれど、敵に塩を送ることになりそうでそっと口を噤む。瑠奈ちゃんの小さくと聞こえた言葉は、認めたくなかった最後の抵抗やったんかどうなんか。やけど、そのすぐ後、俺の目にはっきり映ったんは迷いもなんもなくなった、意志の宿った顔やった。
「侑士くん。私、氷帝に行くよ」
「瑠奈ちゃん……」
「瑠奈、どういうつもりだい?」
「そのままの意味だよ。立海は好きだけど、氷帝なら今以上の設備で更に上を目指せる」
理由はどうであれ、瑠奈ちゃんは氷帝を選んだ。それだけで、俺の気持ちは舞い上がるようやったのに。
「へぇ。上を目指すのは良いことだ。……だけど、あの時俺を励ましたくれた言葉は嘘だったのか?『応援したい』って言ってくれた言葉は……その時だけだった?」
「違う!嘘じゃない!!嘘じゃ……!」
「嘘じゃないなら、何で違うところに行くんだ?立海で、俺達の……俺の活躍を見ていたら良かっただろ。……わざわざ、あんな嘘つかなくても……」
「違う!!」
幸村と瑠奈ちゃんの間に、どんな思い出があったんかはわからへん。せやけど、今まで応援して、好きやったやろう人に嘘つき呼ばわりされて。幸村は、多分嫉妬からこんなこと言うたんやと思うけど――。目に涙を浮かべながら必死に否定してる瑠奈ちゃんの、こんな可哀想な姿をこれ以上見たくなくて、ホンマは教えたなかったけど言うたることにした。
「……瑠奈ちゃんの言うてる事は、嘘やあらへんで幸村。立海に行った理由の一つがそれなんやから」
「そう……なのかい?」
「うん……。私は、やりたいこともあったけど、幸村に憧れて立海へ進学を決めたの。応援だってそう……。だけど、幸村は“友達”だとしても、私の言葉は信じてくれないんだね」
「……ごめん。そうじゃないんだ……瑠奈がいなくなると思ったら、気が気じゃ……」
幸村と向き合っとった瑠奈ちゃんは、幸村の言葉を拒絶するように、くるりと背を向ける。そして、俺に微笑んだ。
「侑士くん。氷帝に行くの、高校からって言ってたけど、新学期が始まってから通えないかな?」
「榊監督もおるし、跡部と監督に言うたら手配はしてくれると思うけど……。寮まではどやろか……」
驚いた。高校やと思ってたんが、新学期からて返答が来たことに。ここに先生もおるから、おそらく手続きは戻ってからになるとは言うても、問題なく行くやろう。せやけど、寮を設けると言っていたのは、近々とはいえ将来的な話。
「そっか……。寮に移るまで、侑士くんの家にお世話になっちゃ大変だし……」
「いや、俺んちは構へんで。おとんもおかんも瑠奈ちゃんみたいな娘ほしいて常言うとるし、諸手上げて喜びよるやろ」
「娘って……侑士くんのお姉ちゃんもいるのにね。でも、ありがとう」
クスクスと笑った瑠奈ちゃんは、さっきまで泣きそうやった姿とは別人やった。今はもう、真っ直ぐ前を向いとる。
――……色々と吹っ切ってもうたんかもしれんな。
「私も帰ったら親に言わなきゃ。侑士くんのところにも、お願いしに行きたいから」
「ひとまず、一回遊びに来ぃや。喜ぶから」
「ありがとう、そうする」
そんな風に話しとったら、幸村が近付いてくる。それに気付いた瑠奈ちゃんは、貼り付けたような笑顔で対応するやないか。
「……この合宿が終わったら、もう会うことはないかもしれないね。あと短期間だけど、よろしく幸村」
「瑠奈……そんな……待っ……」
手を伸ばした幸村。せやけど、もう瑠奈ちゃんに届くことはあらへん。やって、立っとる場所が違うんやから。そんな姿を見て、浮かぶんは同情やろうか。
「ほんなら行こか、瑠奈ちゃん。氷帝の面子に改めて言うとかんと」
「そうだね」
「……幸村。『待ってほしい』やなんて言われへんで。離してしもたん、自分なんやから」
俺の言葉に奥歯を噛み締めて黙った幸村を置いて、瑠奈ちゃんと去る。『瑠奈ちゃんの為や』と、『これが瑠奈ちゃんの望みやから』と泣く泣く立海に進むんを見てた。それが今は隣におって、これから氷帝にも一緒に通えることになって。あまつさえ、寮が用意されるまででも一緒に住める。
――……こんなえぇことだらけでえぇんか?
そう夢のようやと考えてもうても、これが現実やと隣におる温かさが教えてくれる。
「新学期、楽しみだなぁ」
「せやな。俺も楽しみやわ」
正直、『勝てんかもしれん』とまで思っとった、一番の強敵に勝ったんや。これ以上怖いことはあらへん。
なぁ、瑠奈ちゃん。これで一緒やな。
もう絶対に離したれへん。