テニスの王子様
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日が暮れ、廊下の寒さが増してきた放課後の教室。椅子に腰掛けながら、呆れた顔で見つめる。
――目の前のアホは何しとんや。
「……いや、これは角度がイマイチか?……やっぱこっちの方が、一回でたくさん貰えんちゃうか?なぁ、瑠奈はどう思うー?どっちの方が無駄あらへんやろ?」
「どっちでもえぇっちゅーねん!!ドアホ!!」
大変良い笑顔で振り返った彼に、思わず考えとったことを言うてもうた。“アホ”と言うたけど、これでも目の前の蔵は我等がテニス部の部長さんや。普段は尊敬しとる。それはもうこれ以上ない程、尊敬しとるで。
――……せやけど、これは無いやろ。
変わらず目の前で行われてんのは、机に置かれた鏡の前で手の角度やら指の開き具合見て、どれが一番チョコレート貰うのに無駄が無いかを研究しとる。そう、もうすぐバレンタインやから、女の子からバレンタインのチョコレートもらう研究。ほんで実は、ウチは蔵の彼女やったりする。これでもな。
――せやけどこれ、彼女の前でやることか?角度とか聞いてくるし……。
『何のこだわりやねん』と言いたくなる。しかも、こういった練習するってことは、最初からたくさん貰うこと前提で考えとるから腹立つ。――いや、実際めっちゃ貰ってるんやろうけどな。
それに蔵も蔵やけど、学校の子等もウチと付き合ってんの知ってんのに、渡そうとするもんやから。渡すのは個人の自由やから、『しゃーない』とは思ってんねんけど。
「ドアホは酷いわ……。こないだ、財前にもキモい言われてんで」
「財前、ナイスやわ。今、1コケシやりたいわ」
「いやいや、彼氏慰めてや」
普段はそんな事言わんくせに、こういうときばっかり“彼氏”て言う。さっきから感じとった苛々。それが溜まりに溜まったんやろか、さっきの言葉が引き金やったんか。火山が噴火するかのように自分の中で思いが爆発した。
――あー!おもんない!!蔵にチョコレートあげる女の子も、蔵も!!
そう思ってもうたら、表面に出てくるのはツンツンとした態度。
「ふん!知らへんし!!謙也並みに、財前に弄られて罵られたらえぇやん!」
「……瑠奈、どないしたん?今日はえらい意地はるやんか?」
「意地とか、はってへんし……っ!いきなり何言い出すん!?」
驚き、思わず吃ってしまう。やって、急に寂しそうな目をして、優しく聞いてくるもんやから。視線を合わせてられへんくて、バッと逸した。
「いや?いつもより、何や気ぃ立ってんなぁ思て」
「気ぃ立ってへんよ」
「……やったらえぇけど」
気にはしてくれとっても、『ウチが話さへん』と分かったら深くは踏み込んでこやん。そこが蔵のえぇとこでもあるんやけど。せやけど、次の言葉に思わず蔵を凝視することになる。
「あ、そう言えばバレンタインの日、瑠奈から貰えんのメッチャ楽しみにしてんねんけど」
「……は?」
――今、蔵は何言うた?
少し耳を疑いながら、恐る恐る聞き返す。
「バレンタイン?」
「おー」
「ウチからの?」
「せやで」
確認したけど、どうやら聞き間違いやないらしい。思わず出るんは溜め息。
「蔵……他の子からももろて、まだ貰うつもりなん?」
「え?やって俺は、自分から貰うんが一番楽しみなんやけど」
――……よー言うわ。
その一言でぷつんと切れたんは、“我慢”やった。出すつもりのなかった嫉妬の言葉。
「ウチのが楽しみなんやったら、貰う練習とかせんと、ウチのだけ待ってたらえぇやん!!」
「せやけど、くれる子等の努力を無駄には出来んやろ?」
そういうとこは流石やなと思う。蔵に惚れたんも、そこがきっかけやったけど。
「……蔵の、誰に対しても優しいとこ、メッチャ好きや。やけど、今回は渡されへんわ。……こんな気持ちのまま、蔵にあげるもん作りたないし」
ぽつりと呟いた言葉やったけど、静かな教室にはウチと蔵だけ。しっかりと聞こえた。こんな、嫉妬にまみれた中で作りたない。
――そんなん思いながら作ったもんなんて、それこそ好きな人にあげるもんやないやろ?
そう思ったからの言葉やったし、自分なりに蔵を思っての事やった。
「やから、今回はごめん……」
そう言えば、慌てだしたんは蔵。ウチの肩をがっしり掴んだと思ったら、めちゃくちゃ真剣な顔でこっちを見る。
「ちょ、待ってや!俺にとったら、瑠奈のは特別やねん!!前からテニス部で自慢してんのに!!」
「何さらしとんねん、己は」
――今、めちゃくちゃえぇ雰囲気やったやん……。
そんな心情よりも先に出たのはツッコミやった。蔵の奇怪な行動が気になるけど。せやけど、ようよう考えれば、蔵がテニス部で自慢してたとか、そんなことは有り得へんやろう。
――何でそんなこと言うたんやろ……。
呆れてそっぽを向いたら、目の前が真っ暗で。何が起きたんか考えるよりも先に聞こえた声と、背中に回った温かい手。
「瑠奈。やっぱ俺は、一番好きで恋人の瑠奈から欲しい。せやから、当日はチョコレート頂戴や。……てか、瑠奈がくれへんねやったら、俺卒業式まで学校ボイコットしたんねん……」
「蔵、ホンマあんたは……」
――ホンマに、ズルいよな。
言うてる言葉は駄々こねてる子供とおんなじやのに。ウチも単純なんやろな。“好き”とか、そんなん言われたらあげるしかないやん。嬉しさで緩んだ口元を隠すように、横を向きながらそっと蔵の背中に腕を回す。
「まぁ、学校来てもらわんなアカンしな。しゃーないからあげるわ」
「え!?理由そこだけなん!?」
「そう……やったら良かったのに」
「え……って事は、瑠奈!!」
伝えたときの蔵の喜びようは、すごかった。『こんなにも好かれてるんやな』と思う一方で、恥ずかしさからまた悪態をつく。
「……っもう、うっさい!!」
思わず蔵に向いてもうたからやろか。そんな言葉を言うたのに、私の顔を見た蔵はどこか嬉しそうで。見られたないけど、離れたくもない。考えた末に、熱くなる顔を蔵の胸に埋めた。
後日、チョコを蔵に渡したら、テニス部員の前で名前を叫ばれながら抱き締められたんは別の話。