刀剣乱舞
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「さみくん、早くー!」
「瑠奈、前を見ないと転けてしまいますよ」
今、私を呼びながら駆けていくのは、真新しい制服に身を包んだ女性。そして、前の世では刀剣男士であった私も、今は目の前の女性と同じ歳の頃。そして、同じく真新しい制服を着用している。
私が刀剣男士であった頃の最後の記憶は、戦いが終わり、本丸を解体する日のこと。涙を浮かべながら、他の刀剣男士と挨拶を交わす頭の姿を遠くの木の上から眺めていた。
『私の頭なのに』とちりちり焦げそうな程の嫉妬が半分、『みんなの頭である』と嫉妬心に水をかけて冷静にする理性が半分。
「五月雨」
ぼうっと眺めていれば、いつの間に来たのだろうか。頭が私のいる木の下へ来ていた。前面に出してしまいそうなほど嬉しくなる心を、必死に隠して木の枝から降りる。音もなく着地したそれを、頭は『待っていた』と言うかのように駆け寄ってくれた。
「……挨拶、最後にしてしまってごめんね」
「いえ。最後の方が、頭とたくさん話せますから」
『相手に良く見せたいと思うのは、恋をしているからだ』と江の誰かが言っていた。そう思っても仕方がないだろう。現に、頭は私の愛する人で、頭も私を愛してくれている。『格好が良いと思われたい』 『甘えたい』 『私の近くにいてほしい』様々な思いを抱えながら過ごした頭との時間は、愛を残したまま――ここで潰える。
「五月雨と恋人になれた日ね、とても嬉しかったの」
「頭……私もですよ」
「本当は、もっともっと色んなところに行きたかったんだ」
「貴女と、見る季語は素敵だったでしょうね」
ぽつり、ぽつりと話している内に終わりの時間は迫る。もう、解体準備をする為に政府の役人が来ていた。
「五月雨は、生まれ変わる道を選んだんだね」
「えぇ。また……頭と巡り会う為に」
「五月雨……」
伝えれば、堪えきれなかったのだろう。涙がはらはらと流れる。思わず伸びそうになる手を、そっと握り締めた。
――もう私はいなくなる身。側にいることは出来ないのだから。
そう言い聞かせ、今すぐ動いてしまいそうな身体を押し留めた。そして、最後に笑って言ったのだ。
「頭。ここでお別れです。人の世でも必ず貴女を見つけますから、待っていてください」
「待って……。五月雨!!」
最後に聞いた、貴女が私を呼ぶ声。それと共に途切れた意識。それが、刀剣男士だった頃の最後の記憶だ。
それから今現在、冒頭に戻るわけだが。結論としては、彼女――頭と巡り会うことは出来た。それも、幼馴染として。あの頃は見られなかった、幼い頃の彼女を見て過ごせる優越感はあった。けれど、弊害もまたあったのだ。
「平気平気!っわ!!」
「瑠奈!!」
『転ける』と注意したにも関わらず、余所見をして転けそうになる彼女。思わず手を引き、胸に抱き留めた。
――大事にならなくて良かった……。
そう思うと同時に、自らの腕の中にいる存在を思い出す。前世から愛している人が、ここにいる。それに気付けば身体の反応は早く、鼓動は早鐘のように打つし、体温だって熱いくらいだ。
――流石にバレるのでは……?
そんな思いでちらりと目を遣ると、彼女は私を見上げて微笑む。
「ごめんね、さみくん。助かった!」
「……はぁ」
微笑みから、音が付きそうな程の満面の笑みへ。彼女には審神者時代の記憶はない。それに今の彼女は、残念ながら“幼馴染”としてしか私を見ていないのだ。意識される以前の問題に、思わず溜め息も付きたくなるだろう。
「あれ?何かあった?」
「えぇ、まぁ……」
「そっか。……何かわからないけど、応援してるよ!」
ぎゅっと背中に回った彼女の腕に、愛おしさが込み上げる。『何故今、彼女の記憶が無いのか』と思うところはあるけれど。
「……そうですね。私さえ覚えていれば、瑠奈はまた私を見てくれますから」
それは、確信のようなもので。私が横に控えていれば、彼女の周りに虫が寄らないように出来る。そして周りを固め、彼女に愛を注ぎ続ければ、貴女は――。
「え?どういうこと?」
「今は、このままで我慢します」
「ちょっと、理解出来てないんだけど……!!」
戸惑う彼女を余所に、逃さないよう抱き締める腕の力を強めた。