刀剣乱舞
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「え?主、体調悪いの?」
「みたいです。なので、今日は部屋に籠もると」
篭手切からそう聞いたのは、つい先程のこと。朝から主を見かけないと思いながら、執務で忙しいのだろうと憶測を立てていた。するとどうだ。まさかの返答が返ってきたではないか。
「えぇー…それ大丈夫なん?」
「一応、薬研さんも様子を見に行ってくれてるみたいですし、執務に関しても松井さんや長谷部さん、長義さんが引き受けているみたいで」
「へぇ…。……そっか」
思わず出た言葉は何処か頼りなく、消えてしまいそうな気がした。僕は、ずっと主を見ているつもりでいたけれど、そうじゃなかった。こうしたことにだって気付けなかったし、結局執務の手伝いだっていつもの書類仕事が得意な面子が揃っている。主の力になりたいと思っていたけれど、自分には何も出来なかったのか。そう思えば、どんどんと視線は下がっていく。
「あ…あの、桑名…さん」
「…ん?何?」
傍から見てもわかるほどだったらしく、顔を上げればわたわたとする篭手切が見えた。慰めてくれるつもりなのかもしれない。篭手切は優しい刀だから。
「自分の不甲斐なさがわかっただけだから、篭手切は気にしなくて…」
「あの!…桑名さんは、不甲斐なくなんかないです。主が、“桑名さんの作ったお野菜は、体調悪くても美味しく感じて元気が出るみたいだ”って…」
「…それ、本当?」
「本当です。嘘なんか言いません。だから、桑名さんには…え⁉桑名さん⁉」
是と答えてくれた瞬間に、廊下から庭へ飛び出す。焦った篭手切の声を背中に受けながら、目指す場所は畑だ。僕にも主に出来ることがあった。僕しか出来ないような、僕が誇れる大事なこと。
「今の旬なら…」
畑に着き、直ぐ様目当ての場所へ向かう。ほうれん草、白菜、大根に人参。あとは…南瓜とかぶ。それから葱も。今、収穫出来る物を一つずつ籠に乗せて走る。少しでも早く、主に届けたくて。
「歌仙!!」
「うわぁ!!…びっくりした。そうそう叫ぶものじゃないよ、桑名」
「ごめん…。でも、早く歌仙に渡したくて…」
「…冬野菜かい?」
厨へ着き、開口一番に叫んでしまったものだから、歌仙には怒られてしまった。だけれど、僕よりはきっと歌仙の方が上手く料理してくれるだろう。そう思ってのことだった。
「主が、体調悪いって聞いて…。僕の作った野菜なら、美味しく感じるって話を聞いたから…」
「…確かに、これだけ立派な野菜なんだ。美味しいと思うだろうね」
「なら、これで主へ料理を作って欲しいんだ。少しでも、元気になるように」
自分にも厨当番が回ってくるとはいえ、やはり初期の頃から腕を振るっている歌仙には敵わない。手際にしろ味にしろ、毎度見事なものだから。
「そうか。…わかった。調理しよう」
「ありがとう、歌仙!」
「ただし、僕一人ではないよ。桑名も一緒にやるんだ。いいね?」
一瞬、何を言われたか分からずに固まる。少し経った後、ようやく意味を飲み込んだ僕は、慌てふためくことしか出来なくて。
「え…えぇぇぇ……!僕には手際良く出来んて…!!」
「何事も経験だろう?それに、主は喜ぶと思うよ。自分の為に収穫してくれて、調理までしてくれた料理を」
「そう…かな……」
「そうだとも。さ、早く取り掛かろう」
「……うん!」
歌仙に助言を貰いながら、まだまだ慣れない手付きで皮を剥き、材料を切っていく。普段ならば、多少皮が残っていても良いかと思うのに、今日はとても気にしてしまう。
「皮が残ってたって死にはしないさ」
「そうやけど……」
少し笑いながら言われるが、主が食べるなら見た目だって綺麗にしたくて。それからも気にかけながら、ようやく料理が出来た頃には一時間程が過ぎていた。
「ちょっ…やから言うたやん……!手際良く出来んって…」
「まぁまぁ。きっと主もゆっくり休んだだろうし、今なら起きてるんじゃないか?」
「…持って行ってくる」
歌仙の言葉を信じて、僕が作ったお出汁の鍋と、歌仙が作ってくれた南瓜の煮物を盆に乗せて主の部屋へ。その距離なんてあっという間で、心の準備なんて出来るはずもなく。ひとまず、部屋の前で深呼吸して心を落ち着ける。
「…主、大丈夫?」
「桑名…?」
かたりと音を立て、戸が開けば顔色が悪い主が顔を覗かせる。やはり、相当体調が悪いのでは?そう思えて仕方ない。今、もしかしたら食べられないんじゃ…。何と声をかけたものかと言葉を探していれば、先に主が料理を見つけてしまった。
「それ…歌仙が?」
「あ…うん。歌仙と、僕が…」
「桑名が?桑名も作ってくれたの…?」
「うん。野菜も採れたての物で作ったんだ」
おずおずと差し出せば、まだ辛そうではあるものの、笑みが浮かぶ。それだけで今、作って良かったと頭を過った。
「嬉しい…!ありがとう、桑名。これ食べて…早く元気になるね」
「本当だよ。…僕、心配してたんだから」
「ごめんね…。じゃ、早速いただきます」
「あ、取皿によそうから待って」
先程よりも少し明るくなった主に、鍋で煮込んだ野菜達を取皿に入れる。湯気が立つ野菜を口に入れた瞬間、綻び嬉しそうな顔を見て、“この顔が見たかったんだ”なんて。
今はそんなこと言えるはずもなくて、僕だけの秘密にしようと、そっと胸にしまった。