刀剣乱舞
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空が白んできた頃、一人机に向かい筆を執る。昼間に聞こえる蝉の声は、まだ時間が早いからだろうか。聞こえることなく、辺りは静寂が包んでいる。
昨日届いた政府からの手紙を一瞥し、なんとも重い溜め息が出た。気を取り直そうと引き出しから取り出したのは、まっさらな便箋。そして、その一番上に書いたのは、私の大切な初期刀の名前だ。
さて、何から書こうか。そう思いながらも、手は書きたいことがわかっているとでも言うように、すらすらと動いて文字を羅列していく。驚くと同時に、何も悩むことはなかったかと思わず苦笑してしまったくらいだ。
書き始めてから、どれくらい経ったのか。窓から見える白んでいた空は、朝焼けの赤色を通り過ぎ、徐々に青みを増していて、鳥の鳴く声が聞こえ始める。時間的に、そろそろ男士達が起きて活動を始めだすだろう。最後に書き間違いが無いか、手紙に目を通す。
『貴方を選び、戦いに身を投じてから長い時が経ちました。
配属された本丸。自らが選んだとはいえ、どうなるかわからない戦いに、緊張している中、貴方を選んだことは今でも思い出せるほど。それほどに、私にとっては始まりの、とても大切な思い出です。
交わした言葉も、初めての出陣で負傷して帰ってきたときの衝撃も、仲間が増えたときの喜びも、貴方と分かち合ってきた。
目指す目標は同じでも、お互いにやり方を譲ることが出来なくて、口論になったこともありました。他の男士が焦って止めに来ていたのも、今となっては懐かしく、良い思い出の一つです。
演練に勝ったこと、負けたこと。遠征であったことの話や、時間遡行軍が攻めてきたときにみんなで協力したこと。政府の会議で責められたとき、帰り道に慰めてくれたこと。刀装作りも、内番も万屋への買い物も、軽装で出かけたことだって、どれも私の中にある貴方と、貴方達と過ごした忘れられない大切な思い出です。
この戦いが終わらなければ、貴方達ともっと一緒にいられるのかもしれないと、思ったことは一度や二度ではありません。戦いを終わらせる為に身を投じたというのに、なんとも悪い主かもしれませんが、それほどまでに貴方達と過ごした時間が大切で楽しかったの。
でも、それもとうとう終わりが来てしまいました。きっとこの手紙を見るときは、私が本丸を去り、解体に向けて動いているときでしょう。この手紙が見つからなかったとしても、私のここに込めた気持ちが解体された本丸に眠るのだと思えば、それも良いかもしれません。
初期刀に、貴方を選んで本当に良かった。
貴方が本当に大切で、大好きだった。
もし、今世が難しく、来世があるのだとしたら。
その時は、――――』
「…そんな関係になれると良いなぁ」
ぽたぽたと、涙が頬を伝っては落ちていく。便箋に涙が滲むのを防ごうと、慌てて上を向いたけれど、止めどなく溢れてくるものを止める術が見当たらない。仕方なく目を腕で擦り、落ちるのを少し食い止めたところで、便箋を折り封筒へ入れる。宛名はもちろん、初期刀の彼だ。
封筒と政府からの手紙を、私しか開けない引き出しへと入れる。一番上では目立ってしまうから、引き出しの中に入れている箱の中に。ようやく、終わったと伸びをすれば、見えた空はもう水色一色、雲一つなく。
「主君、おはようございます。お目覚めでしょうか?」
「…前田?おはよう」
驚きながらも、障子越しにかけられた声に返答する。泣いていたからか、声が少し震えてしまった。
「……何かありましたか?涙声に聞こえるのですが…」
「あぁ、心配させてごめんね。…怖い夢見ちゃった」
やはり、気付いたらしい前田に本当のような嘘を付く。夢を見てはいないけれど、貴方達と離れることは怖くあるから。
「そうでしたか…。もう少し休まれますか?必要であれば、朝食はお持ちしますよ」
「大丈夫だよ。準備したら向かうね」
「わかりました。…ですが、無理は駄目ですよ」
「うん。ありがとう」
「では、先に行ってお待ちしております」
廊下を歩く音が遠ざかる。あぁも甘い提案をしてくれるのは、王子様のような前田だからだろうか。そう思いながら支度をしていく。涙は、話しているうちに完全に止まってくれたらしい。気が紛れたのかもしれないけれど、話していると安心する。それほどまでに、彼等は私の支えになってくれていた。
「ちゃんと、勤め上げてみせるから…」
残された時間が、あと僅かだとしても。
最後の日まで、貴方達が“良かった”と思える主でいられるように。