初期刀のはじめの物語
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私たちは人間でした。
今より、季節が二つほど前のことです。娘と二人、慎ましく暮らす私たち親子をある人たちが訪ねてきました。黒のスーツをきっちりと着こなしたその人たちは、“時の政府”と名乗りました。私は、時の政府とやらの存在を知らずにいましたから、『おかしな人達が来たものだ』と玄関先で断り、帰って頂きました。元より、私には親族が娘しかおらず、友と呼べる人も疎遠になっています。そんな私を訪ねてくる人などいやしません。珍しい客人に娘は興奮しておりましたが、私は何処か纏わりつくような――嫌な気がしていたのを、今でも覚えています。
その嫌な気が当たったのか、時の政府は度々私たちを訪ねてきました。手ぶらで来ていたのが、いつしか手土産を用意しだし、それを娘へと渡すのです。その後の反応は想像するに難くないでしょう。娘は大喜びで、すぐにその人たちへ好感を持ちました。
「お父さん。この人たちのお話、聞いてあげてよ」
悲しそうに頼む娘の願いを叶えてやれない。そんな父親でありたいわけもなく、気がかりはあれど渋々話の場を設けました。
「それで、私に何の用でしょうか」
「私たちと共に来て、力添えをして頂きたいのです」
力添えとは何か。静かに話を聞いていけば、だんだんと握る拳に力が入っていくのがわかりました。
「……それは、私と娘に“命を晒せ”と言うことですか」
話が途切れた頃合いを見計らい、口に出した一言は凛と響き渡りました。その言葉にたじろぐように彼等は口を噤みました。
彼等が言うのは、こうです。
『歴史改変を目論む者がいる』
『正しい歴史を守る為に、付喪神の依代として私に力を貸してほしい』
『それにあたり、付喪神を励起させる“審神者”という職を娘にさせる為、連れて行きたい』
それらをただ、言葉を変えては延々と話していました。戦いに身を投じるのが、私だけならばまだ良かった。でも、娘を巻き込むとなれば話は別です。十に満たない娘を、誰が戦へと連れて行けるでしょうか。怒りに震える私に、小さく温かい手がゆっくりと背を撫でました。
「私、お父さんと一緒にいたい。何処だって良いから……」
そう小さく呟いた娘は、何かを悟っていたのかもしれません。重なった視線は言葉とは裏腹に、真っ直ぐと力強く私を見ていたのですから――。
「あぁ、置いていかない。お前を一人残して行くわけが無いよ」
大切に抱き締めた娘は、私が抱え込めば隠れてしまうほどにまだまだ小さいのです。そんな娘を置いて私がいなくなれば、娘は天涯孤独の身であり、訪ねる者もいない今では何かあった場合、助けも期待出来ない状態になってしまう。それを失念していたなど、なんと酷い父親でしょうか。
時の政府へと視線を移して見据えれば、彼等は言葉を待っていました。
「戦いには、身を投じましょう。ただし、娘を保護してくださることが条件です」
「もちろんです。審神者は大切な人材ですから、なるべく安全な場所へいてもらうつもりです」
「わかりました。……それで、私は何を?」
「あなたには、刀の付喪神の依代になって頂きます」
差し出された一振りの刀とお札。お札に書かれているのは、“蜂須賀虎徹”という文字でした。
「これをどうするのです?」
「娘さんに刀と札を持ってもらい、力を込めて頂きたいのです」
重さを感じる刀とお札を手に取り、向かい合った娘へと手渡しました。瞳を閉じた娘がどうしたのかはわかりません。眩い光と激しい電流が走ったかのような衝撃に意識が飛びそうになりながら、するりと顔の横を流れた自らの髪に驚きました。黒い長髪だった私の髪は、紫色の長髪になっていたのですから。
「お父さん、綺麗だね!」
姿が変わった私にかけた娘の最初の言葉は、これでした。なんとも複雑なものです。
“私たちは人間でした”
いえ、正しくは、“私は人でした”。娘と共にありたかった、ただの父親でした。巻き込んでしまった娘もまた――。
気付けば、娘を“主”と呼び、私は刀を手に戦場を駆ける“もの”になっていた。もう、元には戻れないのだとわかっている。私――俺には、刀の記憶があるのだから。だが、人だった頃、不安に思っていたことがあるんだ。
今なら告げられる。
「俺は、主とこれからも共にいられるよ」