刀剣乱舞
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「何してるの?」
思わず声をかけたのは、しゃがみ込んでみんなで固まり、少し開いた扉から中を覗く江の面々。勢いよく振り返ったと思えば、『しーっ!』と口に人差し指を当てている。あまりの勢いにパッと口に手を当てれば、静かになったのを確認して豊前がちょいちょいと手招く。
――静かにしなきゃ。
先程のこともあって、心しながらそろりそろりと近寄る。私が近くまで来たのを確認して、松井が指を差すのは少し開いた扉の中。声をかけるまでみんなが見ていた先だ。
――あ、村雲……。
視線の先にいたのは、ここにいなかった村雲だ。見ていれば、何回も何回も同じダンスを繰り返している。練習をしているのだろう。
――今度の出し物のものかな?
来週に、本丸でちょっとした出し物の大会をやる予定にしている。参加者は何組かいるが、その内の一組が江のみんなだ。内容は、篭手切発案でアイドルさながら歌って踊ると聞いている。
五月雨に手を引かれて、少し離れた場所へ。村雲に声が届かない距離であることを確認して、五月雨はようやく口を開いた。
「雲さんは今、“こそ練”中でして……」
「こそ練?」
「はい。こそ練です」
聞けば、江で出し物に出ることが決まってから毎日やっているのだという。江としての練習もあるというのに、こそ練もやっているとは――。
「とても、頑張ってるんだね」
「えぇ。雲さんは頑張り屋さんですから」
「確かに!いつも頑張ってくれているもんね」
うちの村雲は、近侍を任せても隊長を任せても頑張ってくれていることを知っている。“他の男士が頑張っていない”ということではない。ただ、近侍にしても隊長にしても『もっと上手く出来るように』と隠れて練習や勉強をしているのだ。近侍にしたら書類の書き方を練習していて、隊長にしたら指示の出し方や陣形を学んでいる。
――だから、今回も……。
そう五月雨から聞けば、納得してしまう。あと一週間の間とはいえ、村雲のことだ。毎日続けるのだろう。
「上手く行くと良いね」
「えぇ。私も雲さんに負けないよう、頑張らなければいけません」
「本当だ。応援してるよ」
「ありがとうございます。頭」
そこで江のみんなと別れ、自室へと戻る。元々、この大会では参加した男士へ、ちょっとしたものではあるけれど参加賞を渡す予定にしていた。
――でも、あんな姿見ちゃったらなぁ……。
何かしたくなると言うもの。さて、どうしたものかと考えながら歩いていれば、ふと一つ思い至る。
――あれなら、応援も出来るし良いんじゃないかな。
そう考え出すと、それしか答えがないかのような気がしてくる。むくむくと心の内を占めていくのは、少しばかりの興奮と子供のようなわくわく感。そして、これを村雲に見せた時、どんな反応が返ってくるのかを想像する楽しみもある。
そうと決まればすぐにでも行動したくて、駆け足で自室へと戻る。『しばらく自室には誰も来ないように』と本丸内で全体連絡を流し、早速作業に取りかかった。
今日が大会本番の日。本丸の広場のようなところに少し大きめのステージを作り、観客である男士たちが食事をしながらそこを見つめている。今日まで各所で練習している姿を見かけていたから、きっと当日はすごいのだろうと思っていたけれど、見た感想としては圧巻だった。新選組のバンドに始まり、石切丸と小狐丸のコント、粟田口のオーケストラ、小烏丸と三日月の舞、伊達組のカルテットなど、どれも感嘆するものだった。申請の時に内容を聞いていたとはいえ、想像以上のものでまだ余韻に浸っている。
そして、次が江の番だ。村雲は、やはり毎日練習していた。
――うん、やっぱり作って良かったかも。
前の方へ行き、ステージを見ていれば音楽と共に江のみんなが飛び出してくる。明るく軽快な曲を難なく歌いこなし、テンポも早い曲なのに一糸乱れぬダンスも流石の一言だ。そして、ダンスの最中に村雲が目の前に来た。
「村雲ー!頑張れー!」
今だと声援を送り、“村雲頑張れ”と書いたうちわを振る。村雲は驚いて、きょろきょろと周りを見ていた。周りの江の面々は、そんな村雲と私のやりとりを微笑ましく見ているだけだったけれど。
「あ……ありがとう!」
歌の合間にそう言ってくれた村雲の顔は、今まで見たどの笑顔よりも嬉しそうだった。
――うん、作って良かった。
それを見て、私も胸が温かくなる。そして、熱中して見ていたからだろうか。気付けば、もう曲は終わりを迎えていた。江で出し物は最後だから、あとは初期刀の挨拶でこの大会は終わる。江のみんなとステージから捌けていく村雲の後ろ姿を見て、考えるよりも先に『伝えなければ』と叫んでいた。
「村雲!とっても格好良かった!」
「えぇ!?俺!?」
「うん!素敵だったよー!」
私の言葉が届いてくれたからか、それとも先程まで踊っていたからか。紅潮した村雲は照れくさそうに笑っている。
「主、そっち行くから待ってて!」
私の方を指差して、村雲はステージの向こうへ消えた。そして、私は――。
「あれ……?」
いつもより早い心拍数と村雲の紅潮していた姿につられたのだろうか。
――顔が熱い。
熱を持った頬に手を当て、不思議に思いながら村雲が来るのを心待ちにした。