BLEACH
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私が初めて日番谷隊長をお見かけしたのは、真央霊術院にいた頃だ。自分の隊に入れる新しい隊士候補を見に来たのだろう。松本副隊長と話しながら歩いているのを授業の傍らで見ていた。
――あの人が最年少の隊長か。
最初の印象はそんなところ。ただ、“天才児の隊長”というそれ以上でもそれ以下でもない、認識に近いものだった。
自分よりも小さな身長なのに、授業でよく見る浅打よりも長い斬魄刀を背負い、羽織を靡かせながら歩いていく。時々横にいる松本副隊長と話しては、怒っているような雰囲気が漂って見えた。それが流魂街にいた頃によく見た、姉に弄られて言い返す弟の姿と重なって思わず笑ってしまう。
「宮坂!そんな余所見している暇があるのか!!」
「っすいません!!」
教室に響いた怒号に思わず立ち上がる。くすくすと笑う同期たちの声にどんどん羞恥は込み上げるし、顔に熱も集まってくる。見た目は変わらないけれど、もしも精神を映し出す何かがあるとすれば、今、私の精神は小人のように小さくなっているだろう。
――消えたい……。
頭を項垂れながら、もう一度『すいません』と言って再度席についた。先生にバレないようにちらりと先程まで見ていたところを確認すれば、そこにはもう隊長も副隊長もおらず、いつもの風景がそこにあるだけだった。
――きっと、もっと優秀な人が選ばれるだろうな。
隊長自身が天才なのだ。彼の隊で隊士になっても、求められる基準が高そうだと思う。偏見ではあるけれど、優秀で天才と呼ばれる隊長を支えられるような人。そんな人が相応しいと思わずにはいられない。
――それに実力が無いから、選ばれても付いていけるかどうか……。
一組である特進にいるけれど、私の成績はほぼ平均より少し上程度だ。少しばかり剣術の成績は良いけれど、それでも天才を支えるほどの人材に将来なれる気はしない。
だから、書簡を頂いた時は目を疑った。
「これ……何ですか?」
「入隊の内定だ」
「……え?冗談ですよね」
「誰がふざけてそんなことを言うんだ」
『いいから読め』と力強く押し付けられた書簡をゆっくりと開く。つらつらと綴られた字を流し見て、最後に辿り着けば、そこにあるのは“日番谷冬獅郎”の文字。
「何の詐欺ですか?」
「正式に来た書簡だぞ!詐欺な理由があるか!!」
「や、だって日番谷隊長が私を選ぶ理由が――」
そこでふと、書簡のある一文に目が止まった。
『何に遠慮しているかは知らないが、お前の剣術の実力はこんなものではないだろう』
先程見た時には、見落とした一文だ。
――いつ、私の剣術を見たんだろう。
確かに、剣術の授業の際は一歩引いている。『あまり目立ちたくない』ということが一つ。そして、他にも練習すべき事柄があるのに剣術だけを極めるのは――と気が引けたからだ。だから、勝てそうな試合でも手を抜いたり、打ち込んできた斬撃を受けるだけで終わらせたこともある。時々、手加減が出来なくて勝ってしまったところを見ていなければ、私への評価は低いはずだ。
「とにかく、卒業後は十番隊へ所属となる。しっかりと励め」
「……はい」
先生からの声かけを最後に、書簡を持って教室へと戻る。手に持つ書簡が、今は重い重い鉛のように思えて仕方がない。『鬼道も白打も普通でしかない私が何故』という気持ちがついて回る。“名誉”だとわかってはいるけれど――。
「重いなぁ……」
期待が、未来が重い。出来るわけがないと思っているのに、それを許してくれない周りからの圧が重い。だが、逃げ出すことも出来ないのだ。他から声がかからない限りは、このまま内定が来た隊へと入隊することになるだろうから。
憂鬱な気持ちを抱えたまま歩いていく道は、色褪せてしまって薄暗い。思わずついた溜め息は、すぐに風に乗って飛んで行ってしまうくらいに軽くて、『私の悩みなんてその程度だ』と言われているようだ。
「仕方がない、か……」
言葉に出してしまえば、認めざるを得ない。ぐるぐると回っていた思いを吐き出したからか、ようやく飲み込むことが出来た。
――ひとまず、やるしかないな。
入隊まで、あと一年もない。少しでもましになれるように、頑張るしかないのだ。
「ひとまず、白打の練習からやってみよう」
向かうは自主練習で使っている校舎裏。のしかかる重さを振り払うように、力いっぱい駆け出した。