マギ
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「…主様。お怪我は、ございませんか?」
「ん?へーきへーき!むしろ、ぶっ潰しちゃってスッキリしたかなぁ」
「それは…良かったです」
主である紅覇様の無事を確認し、一息つく。主様がマグノシュタットに向かうと聞いて、麗々様達と主様の護衛についていた。けれど、先程出た賊に対して、結局は主様のみに戦わせてしまうというこの体たらく。申し訳なく思うと共に、目の前の主が喜んでいる様を見れば、良かったと思ったりもしていて。
「…坊や。君も、主様に救われた一人だ。感謝するが良い」
「う、うん!どうもありがとう!!」
「別にいいってぇー。で、コイツは?」
あぁ、主様は先程の話を聞いてらっしゃらなかったらしい。それを聞いてか、直ぐ様仁々様達が説明をしてくださっているので、ひとまず私は坊やと話してみようと思う。
「坊や、君はマグノシュタットに向かうと聞いた。何が目的で向かう」
「僕は…学びたいんだ。魔法を!おねいさんは、どうして向かうんだい?」
「私は、主様の従者であり、此度は主様の命だからだ。それ以外に目的など無い」
そう、私は主様が向かうべきところへ向かう。主様の命に従い、ただ付き従うのみなのだ。それが従者である、私の役目。それをただ言っただけなのに、目の前の坊やは不可思議だと言わんばかりの表情をしている。
「おねいさん自身が、やりたい事は無いのかい?」
「…何が言いたい」
「おねいさん自身が出来ること、きっとたくさんあると思うんだけどな」
坊やは何を言っているのか。私が出来ること?そんな事は微少でしかなく、本当に些細な事だけだ。幼い頃に主様に助けられてから、私の世界は主様のみでしか無いというのに。主様に降りかかる火の粉を払い、忠誠を尽くし、主様の為に死ねれば本望だ。そう思っている私に、自分の為に何を成せると?いや、何も成せはしない。
「…私にあるのは、忠義と恩。それだけだ。我が身の為に出来ることなど、ありはしない」
「……そんな事、無いんだけどな」
「何を根拠に言っているのかは知らんが、君は私を買い被っている」
少し悲しげな表情をした坊やが気にかかる。だが、事実を言ったまでのこと。気にすることはない。
「もう、行くようだな。…さぁ、行くぞ」
それに私達は初対面なんだ。なのに、坊やは何故私に…。意味がわからない。気にすることはないと何度言い聞かせようと、頭を過る先程の言葉と表情を振り払い、私は主様の元へ駆ける。後からついてくる坊やに、目をくれることもせずに。
あれから、私と坊やの間に会話はない。いや、坊やはチラチラと此方を見てくる。が、私が話す気がない。私は今、馬車に凭れながら、服の汚れを取ってもらっている主様を見ている。従者である以上、そういったことも仕事の一つだが、私には回ってくることがない。……いや、本心を言えば、私もやりたいとは思う。けれど、何分こう言う繊細な仕事は出来ないのだ。何事も感覚でやってしまうから、だろうが。だから、仕方なくこうして見ているのだが…。
と思えば、純々様が叩かれた。そして、何故そこに他の二人も乗ってしまうのか…。“叩かれて良い”とあの三人は言うけれど、私は御免被りたい。従者であり、戦いに出るものとはいえ、痛いのは嫌だ。遠慮したい。
めちゃくちゃにしてだの何だのと話が飛び交う中、何だか居づらくなってしまって、馬車から降りる。歩いていくのも運動になるし、これも良いだろう。
「おねいさん!」
「…君も逃げてきたのか」
少し歩き出せば、隣には坊やが来ていて。やはり、あの中では居辛かったか、と思う。
「おねいさんは従者なのに、あのおねいさん達とは違うんだね」
「接し方が違うだけだ。従者の皆が、主様を慕う気持ちは同じ。何も違うことはない」
「あっ!おねいさん、笑ったね!!笑った方が美人さんだよ!」
「笑ってなど…いない」
確かによく思案することもあってか、“難しい顔をしている”とは言われる。ただ、幼い頃のことがあってか、表情に出すことが苦手なだけなのだが。
「良いじゃん。僕以外の前でも笑えるようになったのは、表情に変化が出てきたって事じゃない?」
「あ、主様!外にいては、またお召し物に…」
「いいのー!僕だって外歩きたいしぃ」
馬車から降りてきたらしい主様。お召し物が汚れるのでは、と思ったのだが、主様は口を尖らせて私の横に並ぶ。加えて手を繋いでくるものだから、その様子が微笑ましくて仕方ない。普段、自分の表情なんてわからないのに、主様に対する事だけ少し口元が緩むのがわかる。
「仕方、ありませんね…。少しだけ、歩いて行きましょうか」
「そうしよう!…ていうかお前、アラジンだったよねぇ?」
「うん!僕はアラジンさ」
「馬車乗る前にも思ってたんだけどー。何でお前は、瑠奈を独り占めにしてるのかなぁ…?」
くるりと坊やの方を向いた主様。主様が、私と坊やの間にいるので、此方からはどんな表情かはわからないが…。坊やの何とも言えない顔を見る限り、あまり良い表情ではないのだろう。
「主様。年下を…虐めるような事は、なさらないでくださいな」
「だってコイツが…っ!」
「私が…主様を大切に思う気持ちに、嘘偽りございません。これから先も、お側でお仕えするという言葉も…。それだけでは、足りませんか?」
“仮にも18歳なのだから”という嗜める気持ちと、“大切だから、これくらいの我が儘も仕方ない”という気持ちが混ざる。下を向いて聞いている主様に、少し言い過ぎてしまっただろうか、と不安になってしまう。
「…足りな、くはないけどっ!どうせなら、もっと一緒に居たいじゃん!!」
主様から言われた言葉に、大口を開けていたのも束の間。嬉しさやら恥ずかしさやらで、言葉の意味を理解した頃には、私の顔に熱が集まっていた。
「それは…嬉しく、思います」
「でしょ?…それに、マグノシュタットにいる間は、瑠奈は魔法を学びに行っちゃうしぃ?まぁ、決めたことなら仕方ないんだけど」
そっぽを向かれる主様を見れば、“あぁ、拗ねてらっしゃるのだな”と…。マグノシュタットで学ぶと申し上げたときから、もしかしたら拗ねていたのかもしれない。けれど、今の今まで表に出されなかったと言うことは、私の意見を尊重してくださった、ということだ。有難い事である。
「申し訳ありません…。少しでも、主様の役に…立ちたくて。…我が儘を、お許しください」
「……もーっ!そんなの言われたら、許すしか無いじゃん!!…気を付けて行ってくるんだよ。辛くなったら、学ぶの止めて、僕の元へ戻ってきても良いんだからね」
私に抱きついて来られた主様は、相当心配してくださっていたのだろうか。少し背伸びをしながら、幼子に言い聞かす様に頭を撫でながら話してくださる。こんなにも心配して頂いて、ただの一従者だというのに私は果報者だな。
それにしても、私は主様に言っていなかっただろうか。ふと思い浮かんだことを早々に伝えることにする。
「…主様。マグノシュタットに着いても…就寝時は主様の隣の部屋で、休むことになっておりますが」
「……そうなの?」
「はい、私は主様の従者ですから。…ご迷惑でなければ、就寝前に主様の元へ参ろうと思います。お許し、頂けますでしょうか」
そう言えば、呆気に取られたようで。暫し固まっておられたが、直ぐに我に返った。
「許す。というより、瑠奈もおんなじ部屋で良いじゃん!僕と分ける理由無いよ!?」
「主と従者でしょう。分ける理由は、十二分ですよ」
「そんなの、僕達は幼馴染みみたいなものでしょ!それにここ、煌じゃないし!いくら主と従者でも、僕達の間にそんな遠慮した考えいらない!
だから、分ける必要なし!!僕が認めないー!!」
ふんとそっぽを向いた主様。さて、困った。こうなってしまっては、主様は聞いてくれないだろう。“主と従者”という点で、遠慮程ではないが、少しばかり控えようと思っていたのは事実だ。けれど、主様は言ってくださった。“僕達の間にそんな遠慮した考えいらない”と…。
「…主様には、敵いませんね。いつも、私の思いを…覆してしまわれるのですから」
「僕が何なのぉ?」
「いいえ。…では、僭越ながら同じ部屋で、休ませて頂きます」
そう伝えれば、主様の表情はみるみる華やいで、本当に花が咲いたように笑われるものだから。このお顔を見るためならば、少しばかりお言葉に甘えるのも良いのかもしれないと思える。
「うん!じゃ、僕からモガメットに言って、変えてもらうね。瑠奈は、気にしなくていいからぁ」
「…ありがとう、ございます。よろしくお願いします」
主様から言って頂くなど、従者としては良くないのだろうけれど。“私の為に”と仰ってくださる主様に嬉しく思うし、楽しそうに微笑む姿を見れば、ここは甘えておこうと思う。
「…あー、早くマグノシュタットに着かないかな。暇になってきたしぃ」
「まだ、幾日かはかかりますから…。ご迷惑でなければ、時たま、今日のように少し歩きましょうか」
「本当!?それなら、もう少しかかってもいいかなぁ。瑠奈と歩く方が楽しそうだしぃ?」
にぃっと笑う主様に、心が高鳴る。…何だろうか、この気持ちは。いや、ただ主様のお気遣いが嬉しいだけだ。貴方は、本当に私を喜ばせるのが上手な方だから。きっとそう、それだけだ。
「そう言って…頂けると、嬉しく思います。修行も、たまには…しましょうか」
「いいね!もうずっと馬車だと鈍りそうー…」
「そう、ですね。…では、主様のなさりたい時に…やりましょう」
私の世界を作ってくれた、大切な方だから。これからも共にいて、貴方の願いを叶えたい。それが、私に出来る最善で忠義。少しどぎまぎしてしまうのは、先程の違和感が心地悪いだけなのだ。そんな風に言い聞かせて、見ないふりで進んだ。
マグノシュタットまで、もう少し。
(あれ?僕がおねいさんとお話してたはずなんだけどなぁ…)(坊や、どうかしたか?)(あ、うん。あのね…)(瑠奈!ほら、早く行くよー)(主様、引っ張られては…)(……あれぇ?)
おまけ
面白くない。何がって、僕の隣にいないで子供と話してる瑠奈が。お前は、僕の隣にいればいいのに。何でそんなやつを気にかけるわけ?マグノシュタットに行ったら離れちゃうの、瑠奈だってわかってるよねぇ?だから僕は、早く瑠奈とゆっくりしたくて、山賊も直ぐに倒したのに…。
煌ではずっと隣に居たからかな。隣に瑠奈がいないだけで、違和感…っていうか、とにかく内心穏やかじゃない。
馬車に乗ってからも、遠目に僕を見つめるだけ。確かに今純々達にやらせていることは、瑠奈の苦手な事だし、しないのはわかるけど。話くらい、したって良いんじゃない?そんな気持ちを抱きながら、冷静を装って純々、麗々、仁々にされるがまま状態。
途中、瑠奈が馬車の外に行ったと思えば、子供も馬車の外に行った。…何であいつ、瑠奈を追いかけて行くんだよ。
「紅覇様。気になるのでしたら、追いかけられては…」
「……言われなくてもそうするしぃ」
気を遣って言ってくれたということはわかってる。とはいえ、不満がほぼ最高潮だった僕はそう言うしか出来なくて。とはいえ、言われるまでもないことだ。ずっと気にかかってたんだし…。
そうして馬車の外に出れば、瑠奈と子供がいた。だけど、見て吃驚したよ。瑠奈が、笑ってるんだから。僕だけが見ていた顔を、他の奴に見せた。やっと、僕以外にも感情を出せるようになったのかと思う反面、遣る瀬無い気持ちも積もる。いや、遣る瀬無いというか、僕以外に笑顔を見せた事がとてつもなく悔しくて。瑠奈を、取られた気がして…。
気が付けば、瑠奈と子供の間に入っていた。見せつけるように、手を繋いで子供を見る。多分、子供…アラジンに見せた顔は怖かったんじゃない?だって、アラジンが真っ青になってたしぃ…。だけど、瑠奈はアラジンを庇おうとするから、本当に面白くない。瑠奈は、僕の従者で、幼馴染みで、大事な人…だと思う。僕の事だけ考えて、僕と一緒にこの先も生きれば良いのに。だけど、そんな独占したい感情を向けても、瑠奈は風のようにすり抜ける。そんな瑠奈にいつも虚しくなるけど、それでも僕を包んでくれるのだって瑠奈だから。
…風だとしても、いつかちゃんと捕まえないと。そんな事を思いながら、瑠奈と繋いだ手を、確かめるように少し強く握った。
この後、瑠奈に喜ばされるなんて、思っても見なかったけど。
まぁ、良いかな…なんてねぇ。
END