ハイキュー
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少し伸びたスウェットに着替えて、自分の部屋のベッドに寝転がる。重い身体が布団に沈んでいく。ふぅと息を吐けば、もう一つ深く沈む感覚。
――身体、重い……。
そう思っていれば、コンコンと部屋の扉が鳴る。
「具合どう?」
「あぁ、赤葦。んー……風邪っぽい」
「風邪だろうね。熱もあるし、咳もしてるし。ほら、温かくして」
部屋に入って来たのは赤葦だ。ベッドの横に座り、掛け布団をかけ直してくれた。
「ありがとう。……あと、まさか赤葦が送ってくれるとは思わなくて」
「宮坂が体調悪いって聞いてびっくりして」
「でも、そのせいで赤葦を早退させちゃった。宮城に来てせっかくの練習試合だったのに」
今日、赤葦が烏野にいたのは練習試合で梟谷が来ていたからだ。私も試合を見に行っていて、体育館にいた。
試合が終わり、それぞれの学校で練習が始まった頃。体調が悪くなって、清水さんに声をかけられた。『体調が悪い』と伝え、少し休ませて貰うことにしたけれど、気付けば赤葦が近くにいたのだ。
「ほら、宮坂さん。帰ろう」
そうして、着替え終わった赤葦が私の手を取って、家まで送ってくれた。
「いいよ。一人で帰らせるのも心配だったし」
「……そっか。ありがとう」
「どういたしまして」
ふわりと微笑む赤葦は、穏やかで優しい。口調だって、声だってそうだ。今、風邪を引いて心細いというのもあるかもしれないけれど、近くにいてくれる安心感があった。
「瑠奈、お見舞い……赤葦さん」
「月島」
「蛍、ごめんね。ありがとう」
軽くノックがあって開いた扉。そこにいたのは蛍だった。赤葦がいたことに少し驚いていたけれど、お見舞いに来てくれたようだ。とはいえ、本来なら蛍もまだこの時間は練習中だったはずだ。そう思うと『蛍も早退させちゃったんだ』と申し訳なくなる。
「……具合どう?」
「風邪だと思う」
「病院は?」
「まだ行ってない」
「そう。時間的にも受付してくれるだろうし、病院行くよ。薬、貰わないとデショ」
淡々と状況を把握していくのは、流石というかなんというか。時間を見れば、近くの診療所で午後診の受付が始まっている時間だった。確かに、薬は貰わないとと思っていたから――。
「そうだね、そうする」
「僕も付いていくから」
「え!?駄目だよ」
「一人で何かあったらそっちのが駄目だから」
どうやら、病院には蛍が付き添ってくれるらしい。蛍の表情から、譲る気はなさそうだ。申し訳ないと思う反面、有り難さが嬉しく心配が少しくすぐったい。
「わかった。ありがとう、蛍。よろしくお願いします」
「いつものことデショ。じゃ、僕は玄関で待ってるから。早く用意しなよ」
赤葦をちらりと見て、蛍は部屋を出た。準備しないといけないなと、のそのそとベッドから身体を起こす。
「赤葦もありがとう。ここまで来てくれて」
「全然。宮坂さんが心配だったから、来たほうが安心する」
真顔で言ってのける赤葦。『心配だから』とは言われたけれど、まさか、『来たほうが安心』だと言われるなんて思っていなくて。思わず、面食らってしまった。
「……そうさらっと言っちゃうのがすごいよね」
「宮坂さん相手だからかな」
「……どういうこと」
「そうだな……」
何か考え込んだかと思えば、すっと近付く赤葦の顔。思考が遅れていたのもある。唇に感じた柔らかさと、聞こえたリップ音に今起こったことに気付く。
「こういうこと、かな」
「なっ……え……赤葦っ!?」
「早く、俺にうつして治れば良いのに。なんてね」
確かに今、熱はある。更に熱が上がって、身体が発火するんじゃないかと思う程、熱さが増している。冗談交じりで不敵に笑う赤葦に、キュンと胸が鳴りそうで苦しい。
「それじゃ、俺は帰るね。お大事に」
パタンと扉が閉まる音が部屋に鳴り響く。取り残された私は、先程の光景を思い出しては熱さと戦うのに必死だ。
「……まさかすぎる」
まだ引かない熱に、どんな顔をして部屋を出ていけば良いのかわからない。もう少し、蛍を待たせてしまいそうだ。
「病人襲うってどういうことですかー」
「あぁ、聞こえた?」
玄関で靴を履く赤葦さんに、カマをかけた言葉。それに対して、あっけらかんと言い放つ赤葦さんは、何処かすっきりとしている。その表情からだろうか、小さく悔しさが燻っている。
「瑠奈の焦った声大きいから。……どういうことですか」
「そういうことだよ。いくら幼馴染みでも、譲る気はないんだ」
「……僕が一番瑠奈をわかってます。赤葦さん相手でも、負ける気ありませんから」
そう伝えれば、赤葦さんは嬉しそうにしている。何故なのかはわからない。でも、僕だって悔しさを抱えながらも、同じ表情をしている気がした。
「ライバルだね」
「そーですね。残念ながら」
「ライバルでも、俺の中では良い後輩なんだけどね、月島は」
「……ありがとうございます。僕も良い先輩だと思ってます」
――そうだ。良い先輩だと思うから、僕は……。
何かがストンと落ちてきて、納得した。どうして僕が、赤葦さんがライバルなのに嬉しく思ってしまうのか。
「良かった。それじゃ、瑠奈をよろしくね」
「よろしくされます。……差、引き離しちゃいますから」
「また縮めるからいいよ。じゃあね」
「はーい。……本当に強敵すぎでしょ、あの人」
強敵な人に間違いない。性格にしても、何にしても。更には良い先輩だということ知っている。だからこそ『僕が選ばれたい』と思うし、もし選ばれなかったとしても、自分の好きな人を大事にしてくれると確信がある。
「お待たせ」
「……瑠奈、顔赤いね」
「えっ!?そう……?」
部屋から出てきた瑠奈は、顔が赤かった。おそらく、熱のせいだけじゃない。赤葦さんの行動でだと想像はつく。そして、その行動でそんな表情をしているのは、やっぱり面白くない。
「うん。……熱でも上がった?」
瑠奈に近付いて、額同士をくっつけてみる。好きな人の顔が至近距離にある上に、額から伝わる体温が熱くてぐらぐらする。溶け出しそうだ。
「熱……は上がってない!近いよ、蛍……!」
「……おでこ同士で熱計るなんて、昔よくやったデショ」
「そ、うだけど……」
話をはぐらかしていれば、瑠奈は赤い顔でふいと視線を逸らす。その反応が嬉しくて、空っぽだった心の器が満たされていくようだ。
「まぁ、真っ赤なのが見れたから良いや。……さ、行くよ」
姿勢を戻す間際、軽く唇で触れた瑠奈の額。僕の体温と混ざって近くなったように思うそこは、なんとも心地よくて。
「蛍!?い、ま……おでこにさ……」
「ほら、早く」
問いかけに答えるでもなく急かせば、少し不満そうにしながら歩く。
瑠奈は僕のしたことに気付いている。でも、僕は答えない。答えないからこそ、そのまま悶々と僕のことを考えてくれるだろうから。
――赤葦さんを上書き出来れば、それで良い。
そんな風に思いながら、追い付いた瑠奈の横を歩いた。
「二人ともなんなの……」
そんなことを瑠奈が顔を赤く染めたまま、呟いているなど知らずに。