D.Gray-man
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「アレン。これから百数えるから、絶対に目を開けないで」
僕の頬に手を添えながらそう言ったのは、共に任務に来ていたエクソシストの彼女。恋仲でもある彼女にそんなことを言われて、舞い上がらない男はいないんじゃないだろうか。
「わ、わかりました!」
緊張からか、声が上擦ってしまった。なんともカッコ悪い。瞼を閉じ、暗闇の中で彼女の数字を数える声を聞く。アルトに近い、落ち着いた声色が僕はとても好きだった。
「十、十一、十二……」
少しずつ増えていく数に、僕の期待も高まる。僕を“モヤシ”と呼ぶ失礼な人もいるけれど、これでも年頃の男だ。恋人の近くにいたいし、触れていたい。だけど彼女は真面目だから、『任務中だ』とキスや手を繫ぐことすら許してくれない。
「四十、四十一、四十二……」
でも、僕は彼女の近くにいられるならそれで良い。そう思うくらいに、彼女のことが好きだ。だから、今回の任務はコムイさんにとても感謝していた。こうして、彼女といられるのだから。
「六十、六十一、六十二……」
彼女に思いを馳せていれば、もう数も後半に差し掛かっている。ここで、ふと違和感を覚えた。
きっと、彼女は先程のように数を数えているつもりだろう。けれど、任務が被らなかったとき以外は、共にいた僕が聞き分けられないはずがない。気付いてしまったのだ。彼女の声が、震え出していることに。
「どうしたんですか?大丈夫ですか……?」
「七十、は……アレン」
『七十八』と数えようとした彼女は、僕を呼んだ。返事が言葉となる前に、聞こえたか細い声。
「逃げて」
彼女の名前を呼ぶ声が、銃声で打ち消された。開けた瞼。開けた世界で見えた光景は、彼女の後ろで此方側へ銃を向け、ニヤリと笑う人型のアクマの姿。銃から立ち込めている硝煙に、銃撃したのだとわかる。僕には、あいつの弾は当たっていない。そこに気付いてしまえば、答えは一つだ。
恐る恐る顔を上げれば、にこりと苦しそうに笑う彼女に、黒いペンタクルが浮かんでくる。あいつが撃ったのは、彼女だった。
「駄目だ……駄目だ……っ!!」
ふらりと倒れた彼女を腕に抱き締める。次々に浮かぶペンタクルを止める術が僕にはない。
――クロウリーさんがいれば……!!
そう考えても、ここにいるのは僕と彼女だけだ。アクマは満足したのか、くるりと背を向けて去っていく。猫のように軽く、そして優雅な足取りで。
それを、僕は追うこともしなかった。エクソシストとしては失格かもしれない。けれど、愛する人がいなくなるというのに、側を離れられる訳がない。
「僕は、あなたを――」
「ア、レン……だいすき……」
彼女の頬に添えていた手に重ねられた、小さく可愛らしい彼女の手。教団にいる時だけ、握れたその手さえも黒く染まり、彼女の身体がぼろぼろと崩れ落ちた。
「どうして…………こんな……」
主を失くした服をぎゅっと抱き締める。すると、コツンと音を立てて何かが転げ落ちた。拾い上げれば、真新しいシルバーのリング。
『大好きなあなたがこの世界を生き延びられますように』
リングに彫られた文字は、間違いなく僕に宛てられたもの。そして、近くに落ちているチェーンは、彼女がよく使っていたネックレスのものだ。そういえば、彼女のチェーンは僕でも長さが十分なのかを気にしていた。リングと合わせて、ネックレスにするつもりだったのだろうか。今となっては、わからないけれど――。
「僕は、あなたを愛して……そして、あなたと生きて幸せになりたかったです……」
本当にこの世界は残酷だ。彼女の何もかもを奪って、骨すら残してくれないだなんて。