D.Gray-man
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一目惚れ、だったのかもしれない。教団の門戸を叩いた彼を初めて見た時、素敵な子だと思った。門番に『アウト』だと叫ばれ、神田に攻撃されていたけれど、光を反射して輝かせるような白い髪に少し線の細そうな彼。リナリーに連れられ、きょろきょろと辺りを見回している様は可愛らしく思った。
――歳下、なのかな……。
何処か幼さが残ったような彼を見ながら、そのようなことを考える。同じエクソシスト。きっと話す機会もあるだろう。その時は、ただただ彼の背中を見送るだけだった。
「とても美味しかったです!」
「アラん、良かったわ!」
お昼のピークが過ぎた頃。のんびりとやって来た食堂で、ジェリーさんと話す彼を見かけた。大量の食器を机の上に積み上げながら、彼はとても幸せそうな顔で笑っている。それを少し遠くからチラリと見ては、何の料理にしようかと考えているフリ。聞き耳を立てるなど良くないことであるとわかってはいるけれど、彼のことを少しでも多く知りたかった。
「それにしても、本当に作り甲斐があるわー!こんなに注文されることなんてないもの」
「あはは……いっぱい食べちゃうんですよね」
「良いわねぇ。特に好きなものはあるの?」
「そうですね……大体のものは好きですけど、みたらし団子が好きです」
聞いた内容に、ジェリーさんへ感謝している自分がいた。
――ありがとう、ジェリーさん!そういう事が知りたかったの……!!
聞きたいことは聞けたと、そのまま話している二人に近寄っていく。彼は私に気付き、『それではまた』とジェリーさんに声をかけて去って行ってしまった。私にも会釈してくれたけれど、せっかくならば話してみたかった――なんて。
「アラ、瑠奈。メニューは決まったかしらん?」
「はい。この定食と……あと、みたらし団子をください」
彼が言っていた“好きなもの”を食べてみたかった。そして、いつか作れるようになって、彼に渡すことが出来たなら。
――その前に仲良くなるところから、だけど。
今はまだ、挨拶だってしたことがない。同じエクソシストで顔は知ってる人。おそらく、そんな認識だろう。だから、まずは話しかけるところから。
「はい、お待ちどうさま。頑張りなさいよ」
「……ありがとうございます」
受け取った料理を手に、空いている席へ向かう。先程のジェリーさんの言葉は、任務に対しての応援だとわかっている。けれど、つい今し方考えていた内容に応援してもらったように感じた。
「頑張らなきゃ」
こんな情勢で恋愛なんて、と言われるかもしれない。それでも戦いに身を置いて、いつ死ぬかもわからないからこそ、この気持ちは大切にしたいのだ。
それが、彼にどう受け取られることになったとしても。
「瑠奈さん、おはようございます!」
「おはよう、アレンくん。これから任務?」
「はい。リナリーと一緒に」
「そう。あ、またこれ作ったの。良かったらどうぞ」
「わぁ、ありがとうございます!」
あの日から少しして挨拶する機会を得た私は、見かければ彼に話しかけるようにした。ちょっとした雑談。他愛のない話。それが積み重なって、彼のことを一つ、また一つと知っていく。そして、それとなく好きな食べ物の話題に触れた。
『食べものは好きだけれど、みたらし団子は名前が上がるほど』
さも初めて聞いたかのように、私は聞いていた。彼がよく食べるのは食堂でも見ていたし、きっとお腹は空くだろうから。そうして、時々みたらし団子もメニューに入れながら、今のように手作りを作っては彼に渡す。
「今回はクッキーですか?」
「そうなの。気に入ってくれると良いんだけど」
「えぇ⁉瑠奈さんの料理、いつも美味しいですし、気に入らないわけありませんよ!」
「それなら良かった。少しでもお腹の足しにしてね」
「本当に助かります……!!」
よく食べる彼に、今回渡したのはクッキーだ。受け取りやすいかと、『任務の時の足しに』という理由で渡している。とても有り難そうに彼は私にお礼を言ってくれる。だが、彼にそう言ってもらえるほどのことを、私はしているわけではない。
「アレンくーん!出発するわよー!!」
「はーい!それじゃあ、ありがとうございます。頂きますね」
「うん、気を付けてね。行ってらっしゃい」
「行ってきます!」
笑顔で手を振り、駆けていく。リナリーと並び、歩いていく姿にチクリと胸を刺されたように感じる。
――とても、お似合いに見えるのよ……。
最初に案内していたこともあってか、教団にいる人達の中で『彼と仲が良い人』を上げるならば、間違いなく彼女の名前も上がると思う。頼りになる、強くて可愛くて優しい子。私も教団に来てからというもの、どれだけリナリーに助けられたかわからない。
――もしかしたら、アレンくんはリナリーに惹かれているのかも……。
そう不安になることだってある。だとしても、食べることが好きな彼に私は、偶然を装ってお菓子や料理を懲りずに贈るのだ。きっと、彼はこれを善意だと思っているだろうけれど――。
「下心しかない贈り物なんて、悪意と同じなのにね……」
私の贈る下心が、彼の中に“善意”として積み重なっていく。彼も、とても優しい人だから。隠された悪意に気付かず、積み重なった“善意”に絆されてくれたなら。
「いつか、私を見てくれるかしら……」
今はまだ言葉に出来ない。けれど、こんな方法でも振り向いて欲しい。ただ、それだけ。
「アレンくん、嬉しそうね」
「えぇ。そうですね」
隣を歩くリナリーは、微笑ましそうに僕を見る。そんなにも嬉しそうな顔をしていたのかと、恥ずかしくはなるけれど。
「僕の為に作ってくれているので」
先程受け取ったクッキーは、紛れもなく僕だけに作られたもの。彼女が偶然のように見せかけて、僕に食べ物を渡してくれることを知っていた。気付いたのは、何回か受け取った後だったが。
「どうやって、お返ししましょうか……」
そして、僕を見つめる彼女の瞳は奥深くで熱く燃えている。それに気付いたのは、贈り物を貰い始めたのと同じ頃だった。少し寂しそうに伏せられる瞼も、平然を装いながら照れている姿も、どれもいつしか僕が目で追っていたもの。
『僕の気持ちがお返しになる』とは思えど、まだもう少し彼女の頑張る姿を見ていたい、なんて。
――瑠奈さんに知られたら、怒られるかもしれないな。
とはいえ、このまま眺めていて、彼女が他に行ってしまっても僕としては困るわけで。もう少しすれば、きちんと彼女にたくさん『好きだ』と伝えるから。
「今だけは、許してくれますかね……」
口に入れたクッキーはサクリと音を立て、甘くて何処か優しい味がした。