ツイステッドワンダーランド
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キュッキュッとバスケットシューズが鳴る音、ドリブルでボールが跳ねる音が響く体育館。そこに幾人も集まって、歓声が飛んでいく。その合間を縫って響かせるように鳴り響いたホイッスルに、バタバタと中央に集まる選手達。
試合の日。相手はロイヤルソードアカデミー。ナイトレイブンカレッジにとって、負けるわけにはいかない相手だ。無論、今回の試合だって勝つ為に意気込んでいた――はずだった。
「あー……だりぃ……」
聞こえたその言葉に、ひんやりとした汗が選手達の背中を流れていく。それが相手であるロイヤルソードアカデミーならば良いだろう。こちらを畏怖してくれているのだ。勝利に一歩近付くというもの。だが、残念ながら冷や汗を流したのは、身内であるナイトレイブンカレッジ。
「フロイド先輩。今日機嫌悪くないですか?」
「……いつもの気紛れだろう」
こそこそと話すのは、こんな時にレギュラーになってしまったエースとジャミル。
――気紛れな先輩がいるんだ。何が起こるかわからない。
少し青褪めているエースをちらりと見遣ってから、ジャミルは『諦めろ』と彼の肩を叩いた。バッと振り返った可愛い後輩の何か言いたそうな視線は、申し訳ないがスルーして。
対して、そんな話をされている当の本人は、ぼうっと前を見つめている。朝から双子に振り回されたわけでもなく、嫌なことや腹が立つことがあったわけでもない。ただただ気分が乗らない。それだけだ。
――こんなの頑張ったって意味ねぇし、気分じゃねぇ……。
そこまで思い、視線を前方から外した先で目を見開き、ニヤリと笑う。『先程までの気分の沈みようは何だったのか』と思う程に、気分が高揚する。
「……面白くなってきたぁ」
「え⁉何が⁉」
「……あぁ、そういうことか」
思わず聞こえた声に反応したエースに、フロイドの視線の先を確認して納得したジャミル。エースの横でジャミルが小さく指を差せば、つられたように視線をやる。
「瑠奈……⁉見に来るって言ってなかったのに!」
人を掻き分けて、前の方にやってきたのはオンボロ寮の監督生である瑠奈だった。ぱちりと合った視線。知っている人を見つけて嬉しかったのか、にこやかに手を振っている。このコート内に漂う、何とも言えない雰囲気との温度差が激しい。
「ふーん……そうなんだぁ……」
手を振っている瑠奈を見て、ぽそりと呟いた言葉は色もなく、温度もない。温度に関しては、マイナスを叩き出しそうだ。血の気が引いている身内を誰が気遣うでもなく、そして無情にも時は待ってくれない。
「それでは、試合開始!」
審判の掛け声で始まった試合。先程まで、『吹雪くのではないか』というような状態だったというのに、統率など取れるわけもなく――。
「さぁ!力を合わせて勝利しよう!」
更に、相手はロイヤルソードアカデミー。チームとして強い学校な上に、汗までキラキラと輝いているようだ。そんな彼等を見て、観客からは黄色い歓声が飛んでいく。『誰がカッコいい』 『頑張って』など、内容は様々。それを、彼等は余裕の笑顔で対応しているのだ。
『何とも腹立たしい』
男子生徒としては羨ましい限りの歓声の内容に、ナイトレイブンカレッジの生徒達は歯を食いしばる。そして、怒りのボルテージは上がっていく。
その間にも、ボールがネットを潜る音が聞こえ、ロイヤルソードアカデミー側の点数の表示が捲られる。『わぁっ』と湧いた歓声に、拍手で讃える人もいた。その中に、なんと瑠奈もいたのだ。そんな瑠奈を、間が悪く見てしまった人もいた。
「……カニちゃん。次、ボール俺に回してくんね?」
「はい……」
目が据わっているように見える彼へ、何か反論が出来ようか。スローインのボールをフロイドへ回し、彼への邪魔が無かったことに、エースが安堵の息を付いたのも束の間。先程まで、ゆっくりとしていたのが嘘のようだ。驚くようなスピードで相手のゴールまで行ったと思えば、大きな音を響かせてダンクを決めた。
瞬く間の出来事に、しんとする体育館。ゴールネットを潜ったボールの跳ねる音だけが鳴っている。その中を、ずんずんと歩いていくのはフロイドだ。ピタリと止まったのは、瑠奈の前。瑠奈は、おずおずとフロイドを見上げる。
「ねぇ、小エビちゃん。今日は俺を見に来たわけじゃないの?」
「えっと、今日はエースが出るってさっき聞いて……」
「ふーん……。じゃあ、あいつらに拍手したり、歓声上げたのは?」
「それは、ただスゴいなって思った――」
フロイドの行動に、違う意味で歓声が上がる。するりと頬に手を滑らせ、言葉を遮るようにキスをしたのだから。一瞬のこと。けれど、周りの目を奪うには十分な時間だ。軽いリップ音を立てて少し離れれば、目を白黒させた瑠奈。見ていれば、ようやく理解したのか、じわりじわりとエビのように赤くなる。それを見て、込み上げるのは優越感。
「いーい?瑠奈。俺だけを見てて」
「は……はい……」
返ってきた言葉に、フロイドは意地の悪い笑みを浮かべながら、先程の柔らかさを思い出して舌なめずりをする。コートに戻る頃には上機嫌だった。
「はぁ……。満足か?」
「まーね」
「フロイド、いけるか」
「良いよぉ。今は機嫌良いし、やったげる」
その後の快進撃は見事なものだったが、前半の点数差が広く一歩及ばなかった。だが――。
「小エビちゃんとちゅーしたし、別に良いかなぁ」
チームの空気をマイナスにした張本人は、試合前より機嫌良く体育館を出て行った。先に出てしまった、オンボロ寮の瑠奈を追って。
「小エビちゃーん!一緒に帰ろ!」