魔法使いの約束
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『賢者様の魔法使いと友達になった』と嬉しそうに、同僚が言った。パレードからパーティへ出ていた私も、近くで賢者様と魔法使い達を見ていたけれど、とても華やかな雰囲気のある人達だと思った。
「良いなぁ……。羨ましい」
「良いだろ!」
だから、そんな人達と友達になれた同僚がとても羨ましかった。同僚も、自慢げに笑っていた。
「どの人と友達になったの?」
「えーと……ほら、あそこ!クロエって子だよ」
同僚が指差した方を見れば、赤髪のはにかんだ笑顔が素敵な子。周りの人達と比べると少し若い印象ではあるけれど、とても良い人そうだと思った。
「素敵な子だね」
「あぁ。刺繍もすごいんだ」
友達を誇らしげに語れるのは、素敵なことだ。
――それほど、仲良くなれたのだろうか。
微笑ましい気持ちを抱きながら、同僚と、遠くで笑うクロエさんを見守る。〈大いなる厄災〉が過ぎたものの、まだまだ暗い話題が多い中に見た幸せな光景だった。
「ルーリエ!見てくれ!このスカーフ!!」
あのパーティから数日経ったある日、同僚が見せてきたのは青い鳥が施された刺繍のスカーフだ。とても繊細で美しいそれを、感嘆しながらまじまじと見る。
「すっごく綺麗……」
「だろ⁉クロエが、友達になった記念にってくれたんだ!」
「そうなんだ!……本当に綺麗だよ。大事にしないとね」
「当たり前だろ!」
大切そうに、丁寧に折り畳むスカーフ。そして、そっと胸ポケットに仕舞った。私にも見せびらかすほど嬉しかったことがよくわかる。
――人に笑顔を与えるクロエさんと、私もいつか話してみたいな。
まだ横で、『クロエがすごい』 『クロエは良いやつだ』と話している様を、胸が温かくなる気持ちで見つめる。きっとこれからも変わらずに友情を育むのだろう。『その様子を見ていられたら』と思っていた。けれど、現実はそれを許してはくれなかった。
『魔法科学兵団の団長であるニコラス様が転落した』
そのような話を聞いたのは、城の清掃をしていたときだった。瞬く間に広がった話はあちこちで聞いたけれど、どれも少しばかり話が違う。一貫して変わらなかったのは、『ニコラス様の転落』と『それを見ていた北の魔法使い・オーエン』というところだけ。他は様々な私情が混ざり込み、どれが真実なのかわからないほどだった。
「魔法使いなんて、恐ろしい」
「早く出て行ってくれれば良いのに……」
「呪いも本当にあるんだよ!」
「陰気な奴らが多いからそうなるんだ」
ひそひそと話す人達は、ニコラス様の話を聞くまでは好意的だった。それが、手の平を返したようにこの様だ。
――魔法使い全員がそうでも無いでしょうに。
溜め息を付きたくなるけれど、ここでそんな行動をすれば針の筵になることもわかっている。耐えながら外を見れば、同僚と遠くからやってくるクロエさんが見えた。同僚は何処かそわそわとしていて、何かあったのかと気になり駆け出す。
「ちょっと!ルーリエ仕事は⁉」
「すぐ戻る!」
走ってようやくその場に着いたときには、同僚とクロエさんがそこにいて。近くにあった柱の影から様子を伺う。そこに漂うのは、和やかとは程遠い雰囲気だ。
「……これ、返すよ」
「え、何で……」
クロエさんに差し出しているのは、彼から貰ったと嬉しそうに話していたスカーフだ。
――何故そんなことを……。
そうは思えど、今は現状を見守るしか出来ない。
「魔法使いのスカーフなんて、恐ろしい魔法がかかってるかもしれないだろ?」
「俺、そんなことしないよ……」
「……騙して、呪い殺す気だろう?いらないよ」
「あっ!!」
ビリッと破れる音がして、思わず二人の方を見れば同僚は悲しそうな顔でスカーフを捨てて立ち去った。クロエさんは、地面に落ちたスカーフをゆっくり手に取る。
――二人とも辛そうな顔をしているのに、どうして……。
ちらりと同僚の方を見れば、他の人達に囲まれ、背を叩かれているのが遠くで見える。そして、それと共に貼り付けたような笑みも。『もしかして』と思うことはあるけれど、ひとまずは目の前のクロエさんだ。
「クロエさん」
「あ……君は……」
「同僚が、ごめんなさい……」
そう言えば、合っていた視線が段々と下がっていく。それはそうだろう。今し方、作ったスカーフを破られたのだ。それに対して、怒りや悲しみが無いわけがない。けれど、どうしても伝えたくて。
「彼が……ダンがスカーフを喜んでいたのは本当です」
「え……?」
「私もそのスカーフを見せてもらったんです。ダンが自慢しに来ていて、友達になったこともすごく嬉しそうで……。本当に、素敵なスカーフでした」
目を奪われるほど、見事なスカーフだった。それだけは、彼に言いたかった。
「……そんな、破られたあとに言われても、納得出来ないかもしれませんが……」
「……ううん。そう言ってくれて、ありがとう」
悲しげに、けれども少し微笑みながら。『友達だった』同僚は残念なことをしたと思う。こんな良い人を無下にしたのだから。けれど、きっと理由があっただろうから。
「良ければ、使ってください」
「ありがとう」
クロエさんにハンカチを渡し、挨拶をしてその場を去る。次に探すのは同僚の姿だ。
――おそらく、この辺りだと思うけれど……。
そう思いながら歩いていけば、隠れるように木の根元で蹲る同僚の姿を見つけた。
「どうしてあんなことをしたの?」
「……見てたのか」
声をかければ、顔も上げずにぽそりと言った。周りに人はおらず、ここなら話をしてくれるのではないかと期待して。
「だって、あんなに喜んでたのに……。クロエさんと友達になったことも、スカーフを貰ったことだって、あんなに……」
「俺だってあんなことしたくなかった!!」
出された大声に反応して、木に止まっていたらしい鳥が羽ばたいていく。鳥を見送り、どういうことなのか詳しく聞こうと彼を見遣れば、頬から零れ落ちるのは涙だ。
「俺だって……クロエもスカーフも大切にしたかった。でも、他のやつらにスカーフ持ってるのを見つかったんだ。『ニコラス様があんな目にあったのに、魔法使いの味方をするつもりか』って……。俺……俺……っ!!」
思いを吐露する彼を、涙が止めどなく流れていく姿を、誰が止められるだろうか。同調圧力のようなものに強いられて、そうせざるを得なかった同僚。
『心を強く持て』 『屈するな』
そういう人もいるかもしれないけれど、この城という小さな世界で働くには、そうもいかないということはわかっている。従わなければ、次に八分に合うのは自分だということも。
「俺、クロエに合わせる顔がないよ……」
「いつか、ちゃんと謝れる日が来るよ」
「……そうだと良いな」
魔法使いと人間。見た目はなんら変わりないのに、どうして共に過ごしていけないのか。友情を育むことだって、手を取り合うことだって出来るはずなのに。
きゅっと締め付ける胸の内を明かすことも出来ず、同僚の様子を見守るしかなかった。
後日、クロエさんからハンカチが届いた。『あの時、声をかけてくれてありがとう』という手紙と一緒に。
『こちらこそ、素敵な刺繍のハンカチをありがとうございました』
そう手紙を送ったけれど、果たして読んでもらえたのか――。
ハンカチを喜んでいる二人を見て、遠くで花が綻ぶように笑った一人の魔法使いがいたということは、誰も知らない。