スタンドマイヒーローズ
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俺には一つ下の妹がいる。小さい頃からずっと可愛がっている大事な妹。
「おにいちゃん!あのね、きょう おともだちができたの!あきちゃんとけーちゃん!」
「よかったね!なかよくするんだよ」
「うん!」
小さい頃は、こうして『今日あったこと』を何でも話してくれることが兄として嬉しくて、『良かった』 『すごい』と褒める親の真似をしていた。普段話してくれる時も、その時の光景を思い出してだろうか。目をキラキラと輝かせて話してくれたけれど、特に“あきちゃん”と“けーちゃん”と仲良くなったこの日は、相当嬉しかったのだろう。『興奮冷めやらぬ』といった様子で、ずっと二人の事を話していた。幼心に『そんなに好きな友達が出来たのか』と思ったのを覚えている。
その日からというもの、二人の話を聞かない日は滅多にない。ほぼ毎日、『あきちゃんと遊んだ』だとか『けーちゃんとこんな話をした』だとか、そのような話を聞いている。“あきちゃん”と“けーちゃん”。会ったことはないけれど、妹から話を聞いてよく知っている。妹の仲の良い友達。そんな認識だった。
そして、そんな二人に関する話は、幼稚舎から初等部、中等部と歳を重ねても話題が絶えることはなかった。
「今日は慶ちゃん達と一緒に勉強したの。二人共教えてくれるから、課題もすごく捗った!」
「へぇ。二人は勉強が出来るんだね」
「すごいよね!あ、亜貴ちゃんは縫い物も上手なんだよ」
学年が上がるにつれ、話す内容は変わっていったけれど、楽しそうに話す妹の話題の中心に、この二人がいるのはいつでも変わらない。それに、こんなに長い付き合いになっても、この二人の悪口や愚痴を聞いたことは今までなかったし、『本当に仲が良いんだな』と思って安心した。
それでも中等部の頃。一度だけ、俺に話してきた事があった。
「亜貴ちゃんと慶ちゃんね、本当にすごく仲が良いんだ。時々二人だけの世界みたいで……良いなぁって思っちゃって……」
「瑠奈……」
「おかしいよね!二人とも、私の大事な友達なのに」
そう言って笑った顔が、どこか寂しそうだったのを今でも覚えている。この時、未だ会ったことがない“亜貴ちゃん”と“慶ちゃん”とやらに不満が募った。“シスコン”だと言われるかもしれないけど、『大事な妹にこんな思いをさせて』と少なからず憤りを感じたのは嘘ではない。けれど、話してきたのは本当にその一度だけ。それ以降は、いつもと変わらない妹の楽しそうに話す姿を見ていた。
「瑠奈、あれから何もない?」
「何もないよ。毎日すごく楽しい」
満面の笑みで返されれば、それ以上何も言えはしない。一言、『そうか、良かった』と伝えれば、どこか満足そうにしていた。
そして中等部のいつからだっただろうか。妹の話す内容が偏ってきた。それまでは同じくらいの頻度で聞いていた二人の話が、“慶ちゃん”よりも“亜貴ちゃん”の話が多くなってきたのだ。初めはただ、その日にあった出来事が“亜貴ちゃん”に関わるものが続いたのだと思っていた。けれど一週間が経ち、その間の話を思い出すが、やはり覚えている内容は“慶ちゃん”よりも“亜貴ちゃん”の話題が多い。
――亜貴ちゃんの方が、よく一緒にいるのかな……。
そんなことを思ったりしていた。けれど、高等部に妹が進学してきた頃、色々と考えを改めることになる。
「あ!お兄ちゃん!」
「瑠奈、進学おめでとう。制服もよく似合ってるね」
「嬉しい!ありがとう」
「……ところで、後ろの二人は誰?」
いつものような笑顔で聞けた俺は、流石だったと思う。高等部に進学した瑠奈と会った俺は、中等部から変わった制服に新鮮さを覚えながら、瑠奈と一緒にいる男二人に目が行った。目が合えば、会釈をする瑠奈と同じくらいの身長の子と、ふいとそっぽを向いた二人より少しだけ背が高い子。そういえば、二人とも幼稚舎の時に見たような気がする。
「あ、そっか!お兄ちゃん初めて会うよね?亜貴ちゃんと慶ちゃん!二人とも、私のお兄ちゃんの羽鳥だよ」
「……はじめまして。神楽亜貴です」
「はじめまして、槙慶太です」
「はじめまして……だね。いつも話を聞いているから、そんな感じはしないけど……。大谷羽鳥です」
人見知りなのか先程合った以降あまり視線が合わない、青混じりの髪色に癖っ毛の神楽と、こちらを真っ直ぐ見据えながら、好青年で落ち着いた子らしい槙。瑠奈から聞いていた情報は多いけれど――。
「……瑠奈、この二人がずっと話してた亜貴ちゃんと慶ちゃんでいいんだよね?」
「うん。そうだよ」
「……女友達じゃなくて?」
「二人とも男の子!」
「……制服見たらわかるでしょ」
「亜貴!すいません」
俺がずっと女友達だと思っていた“亜貴ちゃん”と“慶ちゃん”は、実は男友達で。ここ三人は、幼稚舎から長い付き合いの幼馴染で。そして、気付きたくなかったけれど、最近の瑠奈が話す内容の頻度を考えれば、おそらく“神楽亜貴”が好きなのだろう。
――……妹の恋愛話なんて、まだ先だと思ってたのに。
「瑠奈は大事な妹なんだ。二人とも、よろしくね」
「はい」
「……はい」
俺から見た第一印象としては、あまり良くはない。けれど、今目の前で見ていてもわかるほどに、二人と一緒にいる瑠奈はとても楽しそうにしていて。瑠奈が仲良くしている以上、これから嫌でも関わるだろうと思ったから、これだけは言っておきたかったのだ。
その時はそこで解散し、帰り道は瑠奈と帰ることになった。高等部から帰る初の帰り道。初等部や中等部でも一緒だったことはあるけれど、こうして節目に横に立てば、一歳しか違わないというのにどこか感慨深く感じてしまう。
「ただいまー」
「ただいま。瑠奈、晩御飯どうする?」
「んー……何か美味しいやつ」
「大きな括りだね。まぁ……何か考えるよ」
「楽しみ!お兄ちゃんの料理好きなんだ!」
「ありがとう」
お腹が空いただろうと声をかければ、そんな返答。瑠奈はこうして、俺が作る料理を『好きだ』と言ってくれる。それが嬉しくて、つい料理を作っては食べさせてしまうのだけど。
靴を脱ぎ、先に廊下を歩いていく瑠奈を見て、ふと口をついて出た言葉。
「……そういえば、瑠奈は神楽の事が好きなんだね」
「えっ⁉な、何で……⁉」
半分冗談、半分本気。どんな返事が返ってくるのか、気になったからでもあるけれど、言葉よりも反応だ。林檎のように真っ赤になった瑠奈を見て少し残念に思う。『やっぱり思った通りだったか』と。
「瑠奈が最近話す内容、神楽ばかりだったでしょ?頻度を考えたらわかるよ」
「……無意識だった」
「それにしても、なかなかクセのある人が好きなんだね」
「ねぇ、お兄ちゃんがそれ言う?」
「ん?何か問題でもあるかな?」
「……ないよ」
そう言いながらも、楽しそうな瑠奈を見ていると、とても微笑ましく感じた。そして、それからというものの、瑠奈の恋愛相談を聞くことになる。妹が幸せになってくれるのなら、その為に力になろうと思っていたから、俺としては大歓迎だったのだけど。
そして相談を聞いている内に、学校でも瑠奈と行動する機会が少しばかり増えていた。それに伴って、神楽や槙と接することも自然と増える。
「あれ?また神楽は根詰めてるの?」
「お兄ちゃん。亜貴ちゃんってば、言っても聞いてくれないんだよ」
「黙ってて。集中してるから」
「亜貴。程々にしないと、また倒れるぞ」
「う……ごめん……」
「慶ちゃんの言うことばっかり聞く!」
こんな光景が日常になりつつあるほど、俺も二人に馴染みつつある。二人を知っていく内に、彼等がとても面白い子達だと知った。特に神楽はいじりがいがあって反応も良い。毒は吐くけど、真面目で負けず嫌い、大事にしている人間には優しい。瑠奈も――大事にされてる一人だと、見ていてわかった。
「もう、足元気を付けて」
「ありがとう、亜貴ちゃん」
「……うん」
そんな二人のやり取りを見ていたこともあるけど、微笑ましくも焦れったい。
――本当、早く進展すれば良いのに……。
そう思ってもなかなか事は運ばなくて、気付けば高等部を卒業し、大学部に進学していた。進学しても、相変わらず瑠奈と神楽の仲は良いけれど、“付き合う”ということはない。ただ――。
「ねぇ、大谷さん。どう?今度一緒に食事でも……」
「いえ、私は……わっ!」
「悪いけど、この子と今度出掛けるのは僕だから」
「亜貴ちゃん……」
「ほら、行くよ。瑠奈」
そうして瑠奈の手を引いて去っていく。瑠奈達が大学部に入ってからというもの、それまでも時たま見え隠れしていた、神楽の嫉妬や独占欲がより垣間見えるようになった。
『瑠奈を他の男に取られたくないなら素直になればいい』
『瑠奈だって同じ気持ちなんだから』
そう思うのは、『両思いだろう』と知っている第三者だからであって、本人達からすれば不安なのだろうけれど。特に神楽は意地を張って素直になれないから、不安は人一倍なのかもしれない。
――本当に、いつになったらくっつくのか……。
見ているこちらがやきもきしながら過ごしていた、そんなある日の事だった。珍しく瑠奈がノックも無しに部屋へ入ってきて、いきなり飛び付いてきた。驚きながら受け止めれば、震えている肩と鼻をすする音が聞こえて、瑠奈が泣いているのだとわかった。『まずは状況を理解しなければ』と、優しく背中を撫でながら問う。
「瑠奈、どうしたの?何があったの?」
「お兄ちゃん……。亜貴ちゃんにね、婚約者が出来たって……」
「婚約者……?」
有り得ない。瑠奈に関係する事で、嫉妬と独占欲を垣間見せるような男が、この子以外にそんな子を作るだなんて思えなかった。
「……まだ学生だし、神楽もプロポーズしたってわけじゃないよね?」
「うん……違うと思う……」
「相手は?知ってるの?」
「……メグちゃん、なんだって」
“メグちゃん”。瑠奈がそう呼ぶのは、従姉妹の恵流だ。
――恵流が婚約者?どういうこと……?
訳がわからないまま、瑠奈が話す言葉をただただ聞いている。
「メグちゃん可愛いし、モデルさんだし……亜貴ちゃんとも仲が良いし……」
「確かに恵流は神楽と仲良いけど、それは瑠奈だって――」
「私、諦めた方が良いのかな……」
何年も神楽を思い続けていた瑠奈。
――この子の幸せをずっと願っているのに、どうしてこんな……。
そうは思えども、腕の中で泣く瑠奈に対してしてあげられることが、今側にいることだけだなんて。瑠奈の思いを知っているからこそ、ポツリと呟かれた言葉に俺は何も言えず、抱き締めてやることしか出来なかった。