ヒプノシスマイク
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スマホからピロンと通知を知らせる音。手に取り、内容を見てみれば、幼馴染から『飯』とだけ書かれたメッセージ。
「おや、左馬刻ですか?」
「はい。晩ご飯がいるみたいで……」
メッセージに気付いたらしく、声をかけてくれたのは同僚の入間さん。内容を伝えれば、同情のこもった視線が送られる。
「あなたも大変ですね……。あいつを待たせるとうるさいでしょうし、もう仕事は終わりでしょう。先に出てもらって構いませんよ」
「助かります……!お疲れ様でした」
「はい、お疲れ様でした」
入間さんに見送られながら警察署を出る。帰り道、スーパーに寄って食材を見る。前に彼の家を訪れたのは、確か三日前だった。
「外食ばっかりだったか、わからないもんなぁ……」
――一度、左馬刻の家に寄るべきだったかな……。
冷蔵庫の中に何があるか、確認してくれば良かったと後悔。外食も多いけれど、彼は自分でも作ったりしているだろうから。悩んだ末、玉子や玉葱などの多岐で使えそうな食材を選んで買っていく。
到着すれば、キーケースに入っている合鍵で中に入らせてもらう。メッセージが来ていたけれど、部屋は真っ暗。
――まだ帰ってきてないのか。
買ってきた食材を冷蔵庫に入れ、先にお風呂を沸かす。手を洗い、晩ご飯に使う食材を切り出していれば、閉めた玄関の鍵がガチャリと音を立てた。
「……瑠奈、もう来てんのか」
「おかえり、左馬刻」
「おう」
家の主は言葉少なく、リビングのソファに腰掛けて煙草に火を付ける。まだ少し気が立っているように感じるのは、おそらく先程まで仕事をしていたのだろう。服も汚れている。
「洗濯物、後で回すから入れといてよ。お風呂もすぐ沸くだろうから入っちゃって」
「おう……。しっかりした幼馴染だこって……」
少し離れたところで、煙草の煙がくゆる。疲れているのはわかっているのだが、このままの状態なら当分はソファから動かないだろう。お風呂の前に、ご飯が先に出来そうだ。
「左馬刻、お風呂後にするの?」
「……いや、入る」
「当分動かなくなるでしょ。……ほら、二本目」
『入る』と言う割に、手に持ったのは二本目の煙草。無意識だったのだろう。言われてハッとしては、少し不貞腐れた状態で煙草を戻して箱を机に投げ置く。
「左馬刻。物投げちゃ駄目だよ」
「チッ。うるせぇな!」
「つんけんしないの。駄目なものは駄目なんだから」
じっと見ていれば、舌打ちをして足音を鳴らしながらお風呂場へ。ついつい小言を言ってしまう私もいけないと思ってはいるけれど、昔の癖でつい言ってしまう。そして左馬刻も、いつからだったかは覚えていないけれど、反抗期のような態度も変わらない。それが彼の精一杯の表現だと思っているから気にしてはいないが。
「思春期の子供を持った気分なんだよなぁ……」
そう一人呟いて、ご飯作りを再開した。
「……おい、上がったぞ」
「早かったね。もうちょっとで出来るけど……」
タオルを肩にかけ、左馬刻が声をかけてくれる。まだ髪が濡れていて、水も滴るなんとやら。良い匂いがしているのだろうか、左馬刻が手元を覗き込む。
「美味そうだな。……瑠奈の分もあんのか」
「私も晩ご飯まだなんだ。一緒に食べよ」
「おう」
直接、左馬刻から言葉にされることはないけれど、『一緒に食べよう』と言えば少し嬉しそうにする。色々とあった彼のことだ。口にはしにくいのかもしれない。
「……最近、忙しいのか」
「それなりだよ。入間さんと一緒に回る機会が増えてね」
私の言葉に、左馬刻がピクリと反応する。何かあったかと思うけれど、少し考えた後、真剣な表情で私の肩に手を置く。
「……銃兎と回んなら、気ぃ付けろ」
「入間さん、頼れる人だから大丈夫だと思うけど……」
「いいから気ぃ付けろ。いいな?」
入間さんは悪い人ではないし、怖い人でもない。むしろ、巡査部長という肩書まである人だ。安心出来ると思うけれど、同じチームである左馬刻がそこまで言うのなら、私の知らない何かがあるのかもしれない。
「わかった」
「おう」
承諾の意を示せば、満足そうにしている。安堵――のようにも見えるかもしれない。
昔を思えば、左馬刻も私も成長した。昔は、私が『気を付けるんだよ』と言う立場だったというのに。
「……昔は『お姉ちゃん』って呼んで、可愛かったのにね」
「いつの話してやがる。今はこんだけでかくなったんだ。瑠奈も抱えこめんだろ」
後ろから抱き締める形でくっついてくる。お風呂上がりだからだろうか。いつもより体温が高い。
「……」
「……何だ」
じっと左馬刻を見ていれば、少し戸惑ったようだった。けれど、彼を見ていて付くのは溜め息。
「そういうのは、『好きな人にしなさい』ってずっと言ってるでしょ。左馬刻、言葉遣いは別として……ちゃんとカッコ良いんだから相手作らないと勿体ないよ」
「……溜め息付きたいのはこっちなんだわ。毎度毎度……」
「何?」
「……何でもねぇよ。くそ……」
不機嫌そうにしながらも離れることはなく、反対に回された腕に力が籠もる。それと同時に、ポタポタと落ちてきた水滴と鍋が沸騰する音。
――もう出来るな……。
力が籠もった左馬刻の腕を軽く叩きながら、離れるよう促す。
「ほら、離れて先に髪乾かして。抱き付かれてたらご飯作れないから!」
「……み、か……せよ」
「ん?何、左馬刻」
小さく呟かれた言葉を聞き取れず、聞返しながら左馬刻を見上げれば少し顔を赤くした。
「っだから……俺様の髪乾かせっつってんだろうがよ!」
まさか、こんな台詞が聞けるとは。滅多にない彼からの要求だ。口角がじわりと上がっていくのを感じる。
「いいよ。あっち座ってて。すぐ行くから」
「……一緒に行く」
肩口に顔を埋めながら言う左馬刻。いつもは反抗期のようで、甘えたくてもこちらから言葉にしてようやく甘えてくれるのに。今日は珍しい日らしい。
「あー……わかった!ほら、行こ」
「おう」
鍋の火を止めて、ソファまでそのままの状態で歩いていく。歩きにくいだろうに、左馬刻は微笑みを浮かべているものだから。
「満足そうだね」
「……そうか」
返事は一言でも、聞こえてくる声は優しい。私を見つめる瞳だってそうだ。
「お腹、すいたね」
「後で手伝ってやるから乾かせ」
「はいはい」
鳴りそうなお腹の音にふとそう呟けば、どうやら後で手伝ってくれるらしい。
――左馬刻が、嬉しそうだからそれで良いか。
ようやく離れた左馬刻の表情は、ここ最近見た中で一番穏やかに笑っていた。