筆談
おなまえ
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同じクラスの王馬小吉くんという男の子に、人生で初めての恋をした。
高校生になったからといって、少女漫画で見たような恋愛絡みの浮ついた話なんて自分には縁がないだろう、と。そんな風に思っていたのに。
「みょうじちゃん、教科書忘れちゃったから見せてー」
窓際の席に座る王馬くんは、そう言ってガタガタと机を寄せてくることが度々あった。
教科書くらい見せても減るものではないし、困った時はお互い様と言うし、それ自体は全然問題ではない。
けれど、こうして席をくっつけて授業を受けた時、彼の行動によって授業に集中できなくなることには少々困っていた。
『見て、キー坊の頭。ちょうちょとまってる!』
『数学つまんなーい。絵しりとりしよ?』
『みょうじちゃんのお弁当予想!卵焼きは絶対入ってるよね』
ノートの隅にこそこそと何かを書いては、ちょいちょいと肩をつついて書かれた文字を私に見せる。
真面目に授業を受けなさいと窘めたり、一緒になってくすくすと笑ってしまったり、私の反応はその時によって色々だけれど。
机を寄せて授業を受ける度、こんな調子で彼のノートを介したコミュニケーションが始まるのだ。
授業どころではない…とまではいかないが、多少なりとも意識はしてしまう。
教室の中なのに、ノート上でのこのやり取りを知っているのは私たち二人だけ…なんて。
その中身は他愛もない雑談ばかりだったが、ある時私は、その行為にささやかな特別感のようなものを感じていることを自覚してしまった。
それに気がついてしまえばあっという間に思いは膨らんで、そうして私は、いとも簡単に恋に落ちたのだ。
『ひっつき虫ついてた』
今日も今日とて、ノートの隅にメッセージを書いて寄こした王馬くんは、自分の制服の袖についたひっつき虫を見せながら笑っている。
『ちゃんと授業受けないと』
突き放すような文字を書きつつも、想像より大きなひっつき虫のついた服を見て思わず笑ってしまう。
本当は、こんなやり取りがもっと長く続けばいいと思っている。
それでも、そう思っていることを悟られたくなくて、書いたばかりの文字が彼に見えるようにそっとノートを動かす。
王馬くんはチラリとそちらを見たあと、私の顔へ改めて視線を移してから、べっと舌を出して目を逸らした。
きっと、『つまんない』とか、そういうことを思っているんだろうな。
不満気な顔で頬杖をつきながら、渋々といった様子でノートに何かを書き始める。
私はと言えば、いつになく真面目に言うことを聞くんだなと、驚いたような、少し残念なような複雑な心持ちだった。
『みょうじちゃん、知ってた?』
真面目に授業を受け始めたと思ったのも束の間、ノートに書いていたのは先生が黒板に綴った文字ではなかったらしい。
4つに折られたルーズリーフが、そっと目の前に置かれる。
なんだろうと横を見れば、早く開けと急かすように顎をくいくいと動かす王馬くんが、相変わらずつまらなそうに頬杖をついていた。
そうして恐る恐る開いた、2つ折りの状態になった紙に書かれていたのが先の文章だ。
何をだろう?雑学披露大会でもするのかな?
少しの緊張感が解れた矢先、更に開いた紙に書かれた言葉に私の肩が小さく揺れる。
『ウソつくときのクセ。絶対オレの目見ない』
『分かりやすすぎー』
バッと勢いよく隣を向くと、王馬くんは口元を手で抑えてくすくすと笑っていた。
そうやって笑いを抑えながら、小さくちぎったルーズリーフの一部をまた私の目の前に置いた。
『かわいいね?』
多分、私の顔は自分で見たことがないくらい赤く熱を持っていると思う。
手で触れなくても、頭が熱で犯されていくのが分かった。
「ぅ…、え…?」
“キーンコーンカーンコーン”
半ばパニックになりながら発された小さな呻き声は、大きなチャイムの音に掻き消される。
王馬くんはガタガタと音を立てながら机の位置を戻す直前に、こっそりと私の耳元に口を寄せた。
「これは筆談じゃなくて、直接言ってあげる」
書きかけだったルーズリーフの切れ端をくしゃりと握りつぶしながら、企みを滲ませたような悪戯っぽい笑顔でそう言った。
直接言うって、何を…!?
聞いてみたいような、少し怖いような。
色んな気持ちが入り交じったドキドキを胸に、私はコクコクと頷いていた。
高校生になったからといって、少女漫画で見たような恋愛絡みの浮ついた話なんて自分には縁がないだろう、と。そんな風に思っていたのに。
「みょうじちゃん、教科書忘れちゃったから見せてー」
窓際の席に座る王馬くんは、そう言ってガタガタと机を寄せてくることが度々あった。
教科書くらい見せても減るものではないし、困った時はお互い様と言うし、それ自体は全然問題ではない。
けれど、こうして席をくっつけて授業を受けた時、彼の行動によって授業に集中できなくなることには少々困っていた。
『見て、キー坊の頭。ちょうちょとまってる!』
『数学つまんなーい。絵しりとりしよ?』
『みょうじちゃんのお弁当予想!卵焼きは絶対入ってるよね』
ノートの隅にこそこそと何かを書いては、ちょいちょいと肩をつついて書かれた文字を私に見せる。
真面目に授業を受けなさいと窘めたり、一緒になってくすくすと笑ってしまったり、私の反応はその時によって色々だけれど。
机を寄せて授業を受ける度、こんな調子で彼のノートを介したコミュニケーションが始まるのだ。
授業どころではない…とまではいかないが、多少なりとも意識はしてしまう。
教室の中なのに、ノート上でのこのやり取りを知っているのは私たち二人だけ…なんて。
その中身は他愛もない雑談ばかりだったが、ある時私は、その行為にささやかな特別感のようなものを感じていることを自覚してしまった。
それに気がついてしまえばあっという間に思いは膨らんで、そうして私は、いとも簡単に恋に落ちたのだ。
『ひっつき虫ついてた』
今日も今日とて、ノートの隅にメッセージを書いて寄こした王馬くんは、自分の制服の袖についたひっつき虫を見せながら笑っている。
『ちゃんと授業受けないと』
突き放すような文字を書きつつも、想像より大きなひっつき虫のついた服を見て思わず笑ってしまう。
本当は、こんなやり取りがもっと長く続けばいいと思っている。
それでも、そう思っていることを悟られたくなくて、書いたばかりの文字が彼に見えるようにそっとノートを動かす。
王馬くんはチラリとそちらを見たあと、私の顔へ改めて視線を移してから、べっと舌を出して目を逸らした。
きっと、『つまんない』とか、そういうことを思っているんだろうな。
不満気な顔で頬杖をつきながら、渋々といった様子でノートに何かを書き始める。
私はと言えば、いつになく真面目に言うことを聞くんだなと、驚いたような、少し残念なような複雑な心持ちだった。
『みょうじちゃん、知ってた?』
真面目に授業を受け始めたと思ったのも束の間、ノートに書いていたのは先生が黒板に綴った文字ではなかったらしい。
4つに折られたルーズリーフが、そっと目の前に置かれる。
なんだろうと横を見れば、早く開けと急かすように顎をくいくいと動かす王馬くんが、相変わらずつまらなそうに頬杖をついていた。
そうして恐る恐る開いた、2つ折りの状態になった紙に書かれていたのが先の文章だ。
何をだろう?雑学披露大会でもするのかな?
少しの緊張感が解れた矢先、更に開いた紙に書かれた言葉に私の肩が小さく揺れる。
『ウソつくときのクセ。絶対オレの目見ない』
『分かりやすすぎー』
バッと勢いよく隣を向くと、王馬くんは口元を手で抑えてくすくすと笑っていた。
そうやって笑いを抑えながら、小さくちぎったルーズリーフの一部をまた私の目の前に置いた。
『かわいいね?』
多分、私の顔は自分で見たことがないくらい赤く熱を持っていると思う。
手で触れなくても、頭が熱で犯されていくのが分かった。
「ぅ…、え…?」
“キーンコーンカーンコーン”
半ばパニックになりながら発された小さな呻き声は、大きなチャイムの音に掻き消される。
王馬くんはガタガタと音を立てながら机の位置を戻す直前に、こっそりと私の耳元に口を寄せた。
「これは筆談じゃなくて、直接言ってあげる」
書きかけだったルーズリーフの切れ端をくしゃりと握りつぶしながら、企みを滲ませたような悪戯っぽい笑顔でそう言った。
直接言うって、何を…!?
聞いてみたいような、少し怖いような。
色んな気持ちが入り交じったドキドキを胸に、私はコクコクと頷いていた。
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