本命チョコ
おなまえ
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放課後の教室で1人、渡せなかったチョコレートの包みを開く。
可愛い包装紙は破ってしまえばただの紙切れで、その中にあるこれまた可愛いハート型のそれを見て、大きなため息をついた。
「本命は貰わない主義なんだよね」
頭の中でリフレインするのは、少し前に聞いたばかりの王馬くんの言葉。
今年こそはと張り切って準備したチョコを手に彼を探していた私の耳に、その言葉は突然聞こえてきた。
声のする方へ視線を向ければ、中庭で女の子からの贈り物を突き返す王馬くんの姿が見える。
それを廊下から見て、聞いてしまった私は思わずその場にへたりこんだ。
単純に力が抜けてしまったこともあるけれど、何よりも自分が準備したあからさまな本命チョコを彼に見られたくなかったから。
そうして彼らの気配が消えた頃にそろそろと動き出し、教室まで逃げ帰って今に至る。
「何が今年こそは、だよ…」
ハートの粒をひとつ手に取り、頬張る。
いつもは幸せな気分になるはずのその甘さが、なんだか妙に憎らしく感じた。
「…義理チョコだよって言えば受け取ってもらえたのかな」
「んー、それは無理があるんじゃない?」
「えっ?」
見るからに義理っぽくないし。
独り言になるはずだった呟きに、そんな返事があった。
驚いて扉に視線をやると、そこには今一番会いたくない人物が立っている。
「お、王馬くん…」
「みょうじちゃん、一緒に帰ろうと思って待ってたのに全然出てこないんだもん。探し疲れたー」
気まずさで目を逸らした私を気にもとめず、王馬くんは向かいの席にどっかりと座り込む。
「で…一人教室でチョコなんか食べてさー、何があったの?フラれちゃった?」
彼はいつもと同じように、ニコニコと笑顔でデリカシーのない言葉を吐く。
今日ばかりは堪えるなぁと思いつつも、本当のことを言う勇気もない私は何でもない振りをして口を開いた。
「そんなとこだよ。悪い?」
「へー、そうなんだ」
「うん…そうだよ」
「でもおかしいなー。オレ、みょうじちゃんのことフッた記憶ないんだけどなー」
驚いて顔を上げると、彼は笑顔を浮かべながちぎれた包装紙の一部を指さす。
そこには私の字で『王馬くんへ』と書かれていて、言い逃れのできない状況に頭が真っ白になった。
「それ、くれないの?」
「そ、それは…」
中身は欠けてるし、包装だって破ってしまった。
それに何より、これは私にとって本命チョコ…だし。
そんなことがぐるぐると頭を巡る。
「オレにくれる予定だったんでしょ?」
「そう、だけど」
「だったらいいじゃん」
「……だって、本命なんだもん」
本命は受け取れないって言ってたから。
私がそう言うと、王馬くんは「は?」と気の抜けた声を出した。
少しの沈黙が流れ、何かを考えた様子だった彼が再び声を発する。
「何それ、どこで聞いたの」
「中庭だけど…」
答えるやいなや、彼は盛大なため息をついて机に突っ伏した。
何がどうなっているのか分からず困惑していると、むくりと起き上がった王馬くんが呆れたような顔で話し始める。
「あのさぁ、それ途中から聞いてたでしょ」
「えっ…え?」
「オレこう言ったんだけど」
不機嫌な表情を浮かべた彼が、じわじわと前のめりになって距離を縮めてくる。
「『好きな子以外の』本命は受け取らない主義って」
「ん、えっと…?」
そうだったとして、何が言いたいんだろう。
結局、片思いの人間からの本命チョコは受け取ってもらえない…ということに違いはないはず。
よく分からず首を傾げると、王馬くんは「あー!」と項垂れながら頭をガシガシと搔き毟った。
「だからさー!…もう、なんで分かんないかなぁ」
「ご、ごめん…?」
「はぁ、もういい。とりあえずそれちょうだい」
「や、でもこれは本命、だよ…?」
「だーかーらー!それでいいって言ってんの!」
かして、と言って強引に奪われたチョコレートが、王馬くんの口に放り込まれる。
好きな子以外の本命チョコは、受け取らない主義の王馬くん。
私のチョコは本命チョコだけど、それでも良い…ということは…。
少しずつ理解し始めると共に、じわじわと頬が熱くなっていく。
「やっと分かった?」
「は、はい…」
両手で頬を押さえる私を見て、彼はチョコを頬張りながら、ふんっと鼻を鳴らした。
可愛い包装紙は破ってしまえばただの紙切れで、その中にあるこれまた可愛いハート型のそれを見て、大きなため息をついた。
「本命は貰わない主義なんだよね」
頭の中でリフレインするのは、少し前に聞いたばかりの王馬くんの言葉。
今年こそはと張り切って準備したチョコを手に彼を探していた私の耳に、その言葉は突然聞こえてきた。
声のする方へ視線を向ければ、中庭で女の子からの贈り物を突き返す王馬くんの姿が見える。
それを廊下から見て、聞いてしまった私は思わずその場にへたりこんだ。
単純に力が抜けてしまったこともあるけれど、何よりも自分が準備したあからさまな本命チョコを彼に見られたくなかったから。
そうして彼らの気配が消えた頃にそろそろと動き出し、教室まで逃げ帰って今に至る。
「何が今年こそは、だよ…」
ハートの粒をひとつ手に取り、頬張る。
いつもは幸せな気分になるはずのその甘さが、なんだか妙に憎らしく感じた。
「…義理チョコだよって言えば受け取ってもらえたのかな」
「んー、それは無理があるんじゃない?」
「えっ?」
見るからに義理っぽくないし。
独り言になるはずだった呟きに、そんな返事があった。
驚いて扉に視線をやると、そこには今一番会いたくない人物が立っている。
「お、王馬くん…」
「みょうじちゃん、一緒に帰ろうと思って待ってたのに全然出てこないんだもん。探し疲れたー」
気まずさで目を逸らした私を気にもとめず、王馬くんは向かいの席にどっかりと座り込む。
「で…一人教室でチョコなんか食べてさー、何があったの?フラれちゃった?」
彼はいつもと同じように、ニコニコと笑顔でデリカシーのない言葉を吐く。
今日ばかりは堪えるなぁと思いつつも、本当のことを言う勇気もない私は何でもない振りをして口を開いた。
「そんなとこだよ。悪い?」
「へー、そうなんだ」
「うん…そうだよ」
「でもおかしいなー。オレ、みょうじちゃんのことフッた記憶ないんだけどなー」
驚いて顔を上げると、彼は笑顔を浮かべながちぎれた包装紙の一部を指さす。
そこには私の字で『王馬くんへ』と書かれていて、言い逃れのできない状況に頭が真っ白になった。
「それ、くれないの?」
「そ、それは…」
中身は欠けてるし、包装だって破ってしまった。
それに何より、これは私にとって本命チョコ…だし。
そんなことがぐるぐると頭を巡る。
「オレにくれる予定だったんでしょ?」
「そう、だけど」
「だったらいいじゃん」
「……だって、本命なんだもん」
本命は受け取れないって言ってたから。
私がそう言うと、王馬くんは「は?」と気の抜けた声を出した。
少しの沈黙が流れ、何かを考えた様子だった彼が再び声を発する。
「何それ、どこで聞いたの」
「中庭だけど…」
答えるやいなや、彼は盛大なため息をついて机に突っ伏した。
何がどうなっているのか分からず困惑していると、むくりと起き上がった王馬くんが呆れたような顔で話し始める。
「あのさぁ、それ途中から聞いてたでしょ」
「えっ…え?」
「オレこう言ったんだけど」
不機嫌な表情を浮かべた彼が、じわじわと前のめりになって距離を縮めてくる。
「『好きな子以外の』本命は受け取らない主義って」
「ん、えっと…?」
そうだったとして、何が言いたいんだろう。
結局、片思いの人間からの本命チョコは受け取ってもらえない…ということに違いはないはず。
よく分からず首を傾げると、王馬くんは「あー!」と項垂れながら頭をガシガシと搔き毟った。
「だからさー!…もう、なんで分かんないかなぁ」
「ご、ごめん…?」
「はぁ、もういい。とりあえずそれちょうだい」
「や、でもこれは本命、だよ…?」
「だーかーらー!それでいいって言ってんの!」
かして、と言って強引に奪われたチョコレートが、王馬くんの口に放り込まれる。
好きな子以外の本命チョコは、受け取らない主義の王馬くん。
私のチョコは本命チョコだけど、それでも良い…ということは…。
少しずつ理解し始めると共に、じわじわと頬が熱くなっていく。
「やっと分かった?」
「は、はい…」
両手で頬を押さえる私を見て、彼はチョコを頬張りながら、ふんっと鼻を鳴らした。
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