才囚学園パンツ消失事件
おなまえ
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クローゼットから全てのパンツが消えた。
寝る前まで身につけていたものも含めた全てが。
そんなことある?と思ったけど、この生活に慣れてしまうとありえなくもないのかな…なんて感想を抱くようにもなる。
腑に落ちないことだらけだけど、そこはもう無理にでも納得したとして…実際問題これからどうしようか。
それなりに仲良くなったとはいえ、他の女の子に下着を貸して!とはさすがに言えないし。
倉庫に行けば何かしらあるかな?
制服のスカートの丈が心もとないが、とにかく倉庫まで行けさえすれば何とかなると信じたい。
今はまだ朝のアナウンス前だし、誰かに出会う可能性も低いはず。
いつもより風通しのいい下半身に気を遣いながら私は寄宿舎を出た。
「…よし、誰もいない」
「だってまだ朝も早いからね!」
「うんうん、これなら誰にも会わずに倉庫まで…って、誰!?」
知らぬ間に背後にいた何者かと会話をしてしまい、ハッとなって振り返る。
立っていたのは今このタイミングでは特に会いたくなかった人物…王馬くんだった。
変に興味を持たれる前に何とか切り抜けないと、と考えてなんとか普段通りを装う。
「びっくりした…王馬くんかぁ。えっと…食堂行くところかな?珍しいね、こんな早い時間に」
「まぁねー、いつもより早く目が覚めただけだけど。…で、みょうじちゃんはコソコソと何してんの?」
「なんでもないよ。ちょっと倉庫に寄ってから食堂に行こうかなって思っただけ」
「ふーん、探し物?暇だし手伝ってあげるよ!じゃ、行くよー」
「えっ?や、大丈夫だから!ちょっと、待っ…!」
どういう風の吹き回しなのか、やたらとノリノリで手伝いを申し出た王馬くんは私の手を引いて歩き始めた。
小柄なくせに歩く速度は意外と早くて、スカートの裾が揺れる度にヒヤヒヤしながら必死に足を動かす。
倉庫に着いたらなんて言えばいいんだろう、まさか正直に下着の代わりを探してます…なんて言えないし。
運動がしたいからジャージとして使えるものを探してる、とかどうだろう。
そんなことを考えているうちにあっという間に倉庫の前まで到着していて、王馬くんに促されるまま私はその中に入った。
「で、みょうじちゃんは何を探したかったの?」
「体操服…とか、ジャージ…みたいな…そういうの」
「あー、まぁみょうじちゃんって……アレだもんね、もっと運動した方がいいよね」
王馬くんの視線が私の頭からつま先へとゆっくり動かされる。
いつもより装備の防御力が低いせいか、ただそれだけのことにも尋常ではない居心地の悪さを感じる。
本来のその視線に含まれる意図とは違った意味で冷や汗をかきそうだった。
「アレって何!?ぼかすくらいならハッキリ言ってよ!余計に傷つくよ!」
「にしし…冗談だって!じゃあオレはあっちを探してくるねー!」
なんとか普段通りを装いリアクションを返せば、それに満足したのか王馬くんはさっさと倉庫の奥の方へと姿を消した。
とりあえずの危機を脱した気がしてほっと胸を撫で下ろす。
…と、そんな場合ではなかった。
王馬くんが居ないうちに本来の探し物を見つけてしまわないと。
ひとまず彼が向かった先とは反対方向の棚を探す。
が、見当たらない。
近いところで言えば水着ならあった。
最終手段としてはありかもしれないが、かなり攻めたデザインのものが多くて積極的に手を出したいとは思えない。
もしかして、目当てのものは王馬くんが探しに行った方向にあるんだろうか…。
そう思いながらふと棚の上を見れば、何が入っているのか分からないダンボールが積み上がっているのを発見した。
近くにあった脚立を持ってきて、一段目に足をかけてからハッとして振り返る。
王馬くんがすぐ近くまでやって来ていたのが目に入り、高いところまで登っていなくて良かったと心から思った。
「こっちには無かったよー!あれ、その上に何か見つけた?」
「う、うん。何が入ってるか分からないから見に行こうかと…」
「そっかー、じゃあ脚立押さえといてあげるからさっさと登れば?」
「えぇっ!?あーえっと、その…大丈夫!ここからは私ひとりでも平気だから!ご協力どうもありがとう!」
咄嗟にスカートの裾に手が伸びる。
王馬くんが下にいると分かっていながら登れるわけがない。
仮にこの布の下にいつも通りパンツがあったとしても嫌なのに、今の状況なら尚更だ。
「にしし、何~?オレがみょうじちゃんのパンツ覗き見るんじゃないかって心配?やだなぁ、全然興味の無いものをわざわざ覗くわけないじゃん!」
「そ、そんなのわかんないじゃない!実は今のが王馬くんの嘘で、本当は女の子のパンツが見たくて仕方がないと思ってる可能性が捨てきれない限り私は一人で探します!」
「なるほど、みょうじちゃんも言うようになったね!…でもさ、みょうじちゃんが見られたくないのってホントにパンツだけなのかなー?」
思わずギクリと肩が跳ねた。
しまったと思ったけれど王馬くんはそんな些細な仕草を見逃してくれるような人ではなくて、「へぇ」と呟き口元を一層楽しげに歪めて私の逃げ道を奪うように距離を詰めてくる。
「嘘をついちゃうような悪い子にコレはあげられないなぁ」
王馬くんはそう言って、指でつまみ上げた何かを私の目の前に見せつけるように差し出す。
ピンク色の薄い布地に、控えめなレースと小さなリボンが付いた…それは…どこかで見た覚えがあるような…。
「あああ!私のパンツ!?」
「あはは!やっぱりねー。あっちのダンボールにいっぱい入ってたよ?」
ひらひらと揺れるパンツが私のものだと自白してしまい、更にはそれを王馬くんに見られている状況に耐えきれず奪い返そうと手を伸ばす。
もう少しで届くというところでひらりと動く方向を変えられ、またそちらに手を伸ばせば逃げられ…ということを何度か繰り返した。
「ちょっと!返してよ!」
「えー、それが人にものを頼む態度?っていうかさ、ここにあれだけ大量のパンツがあったってことはもしかしてみょうじちゃん今ノーパンだったりして!」
「ち、ちちち違うから!ちゃんと履いてるもん!」
「ホントかなー?ねぇ、証拠見せてよ」
「はい…?」
何を言い出すんだこの男は。
信じられないという視線を送っても全く意に介さず、むしろ何かおかしいところでも?と言わんばかりににっこりと笑顔を返された。
「見せるわけないでしょ、変態」
「どんなパンツ履いてるのかはもうバッチリ分かってるんだから同じじゃない?あ、そうだ!証拠見せてくれたらコレ返してあげるよ」
「ぐ…」
そしてまたチラチラと目の前で左右に揺らされる私のパンツ。
可哀想に、今助けてあげるからね…。
と思いつつも実際のところ打開策は何も思い浮かんでいなかった。
「ほらほら、早くしないとオレの気が変わってこのパンツを寄宿舎の入口に磔の刑にしちゃうかもしれないよ?みょうじちゃんがそれでもいいなら別にそのまま何もしなくていいけどね!」
絶対に嫌だ。いいわけがない。
だけど履いてないことがバレた時のことを思うとそっちの方が怖い気もする。
「それとも、自分で捲るのが恥ずかしい?だったら手伝ってあげようか?」
王馬くんがパンツを持っていない方の手で私のスカートの裾を摘む。
まさかそんなことまでするとは思っておらず、抵抗するのが遅れてしまった。
じわじわと裾をつまみあげられ、降参とばかりに私は口を開いた。
「だ、だめ!あの…私、今…履いてないから……」
「何を?」
「ぱ、パンツを…」
「ふーん、さっきは履いてるって言ったのに?」
「嘘でした。ごめんなさい」
「…ぶっ」
小さく頭を下げると、王馬くんは摘んでいたスカートを離してお腹を抱えて笑い始めた。
「あっははは!馬鹿だなー、そんなの最初から分かってたに決まってるじゃん!焦って顔真っ赤にしちゃってさー、結構いい反応するね!」
「へ…?気づいてたの…?」
「そうだよ!みょうじちゃんってばずっとモジモジしてて変だなーと思ってたら、倉庫に大量のパンツが箱詰めされてるんだもん。しかもそれがみょうじちゃんのだったらさすがに怪しむよね」
「あぁ、もういっそ殺して…!」
自分の行動がバレていたことだったりパンツを見られたことだったり、色々といたたまれなくなって両手で顔を隠し俯いた。
王馬くんは依然として笑いが止まらないようで、今もなおケラケラと笑う声が聞こえる。
「あー笑った笑った。じゃあこれはもう返すね」
「え…あ、ありがと…?」
「入ってた箱はあっち。それじゃ、オレは他のみんなの気を逸らしてきてあげるからその間にちゃっちゃと運びなよ」
ポンとパンツを手渡されたかと思えば、何故かよしよしと私の頭を撫でてから王馬くんはあっさりと倉庫から出て行った。
気を逸らすってなんだろう…。
そう思っていると、恐らく食堂に行ったのであろう彼が大騒ぎしている声が聞こえてきた。
『みんな大変だよ!何が大変かは見てくれたらすぐに分かるからとにかくオレについてきて!』
その言葉の後、みんなのざわめきとバタバタと忙しなく遠ざかっていく足音。
どこへ行ったのかは分からないけど、今なら誰にも会わずに個室に行けるかも。
私の下着が詰め込まれた箱を持ち上げ、歩き出す。
あの時…頭を撫でてくれた時の王馬くん…なんだかいつもと違う顔してたような。
それになんだかんだで今も助けてくれてるし。
初めて触れた彼の優しさと、見たことも無いくらい優しく微笑む表情が頭に浮かんで消えない。
未だに冷めない顔の熱は、ただ驚きとか疲れとかそういうもののせいだ。そうに違いない。
自分自身にそう言い聞かせながら、私は大きな箱を抱えて個室を目指した。
後日、私以外のメンバーも続々と下着が消失する事件が相次ぎ、事の発端が入間さんの発明品であることが判明した。
本当にはた迷惑な話だと思う。
だけど、あの出来事以来少しだけ王馬くんとの距離が近づいて、それが少しだけ嬉しいと思っているからか…私は入間さんを責めることはできなかった。
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