5日目
おなまえ
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5日目:午後
今日は午前中にノルマを達成しているわけだから、午後はゆっくりと過ごせる。
つかの間の休息を誰と穏やかに過ごそうかと個室で考えていると、突然インターホンが鳴らされた。
誰だろう。
王馬くん以外の誰かだろうとなんの疑いもなく扉を開けると、絶対にありえないだろうと高を括っていたその彼が笑顔で立っていた。
なんだこれ、本日2度目なんですが。
そっと扉を閉めようとすると、1度目と同じくしっかりと阻まれてしまった。
「えっと…なにか御用でしょうか」
「にしし、ちょっと面白そうな話を聞いちゃってさ!これはみょうじちゃんも連れて行ってあげなきゃと思って」
「いや、いいから!そんな気遣いいらないって!」
「遠慮しなくていいよ!はい、じゃあ出発ー!」
王馬くんの言う面白そうなものなんて、絶対に良いものでは無いはずだ。
なんとか踏ん張って連行されないように頑張ってみたものの、健闘むなしく私は彼に引き摺られるようにしてカジノまで連れてこられてしまった。
「カジノ?なんで急に…」
「いいからいいから」
ずるずるとカジノに足を踏み入れさせられると、そこには入間さんと真宮寺くん、それに星くんもいた。
2人きりにならなかった事には感謝するが、それにしても星くん以外まともな人はいないのかと言いたくなる人選だ。
さっそく入間さんに絡まれ始めた王馬くんが言うには、彼女と最原くんがカジノの裏ゲームに参加しようとしている話を耳にしてやって来たそうだ。
そんなものあるのかと半信半疑だったが、高レートの取引ができて上手くやれば一攫千金コースなのだとか。
なんだか赤松さんが聞いたら喜びそうな話だ。
そんな話をしている内、真宮寺くんと星くんも2人の話を聞きつけ近くにやって来る。
嘘か本当かと議論が交わされる中、満を持して最原くんがやって来た。
「待ってたよ、最原ちゃん!」
「え?王馬くん?それに、みょうじさんに…真宮寺くんと星くんも?」
予想外に大人数が揃っていたためか、最原くんはかなり困惑した様子だった。
「カジノで一攫千金なんて悪の総統としては黙ってられないよ!」と笑う王馬くんに逃げられないようしっかりと腕を掴まれている私は「私はそんなつもりじゃないから」という意味を込めて首をブンブンと横に振った。
最原くんは苦笑いしていた。
*****
結論から言えば裏ゲーム云々はガセネタだったらしい。
そんなものはないとモノクマに一刀両断され、それならもう解散でいいかと思っていのに、気がつけば後からやって来た百田くんを交えた男子5名で記念コインを使ったスロット勝負をすることになっていた。
入間さんが何か機械に細工をしないよう見張っていろ、と言われて渋々彼女の隣で行く末を見守る。
長引いたら面倒だなぁと思っていたけれど、勝負はあっという間についた。
「な、なんで…なんでだ…!宇宙に轟くオレの勘が…どうしてだ…!!」
百田くんが床に膝を着いて項垂れる。
言うまでもないが、今回の勝負でぶっちぎりで負けたのは彼だった。
そして…。
「うっひょー!星ちゃん、凄いじゃん!」
「フン、こんなもんが上手くいったところでなんの自慢にもなりやしないがな…」
意外にも圧勝したのは星くんだった。
彼は験を担いだだけだと話すが、実際のところそれだけでそんなに大勝できるものなのだろうか。
真宮寺くんによる験担ぎの重要性の話を聞いた百田くんが再度スロットに向きあったが、結果は変わらず大敗だった。
なんとなく予想できていたような気もする。
「……………」
「も、百田くん…」
「また星ちゃんの大勝ちでしたー!残念でしたー!」
「ひゃっひゃっひゃ!ざまーねーな!竿を右曲がりにして再挑戦したらどうだ!?」
「ちょっと入間さん、右曲がりになったくらいで大して変わるわけないでしょ!」
「みょうじさん、そこじゃないでしょ…」
皆それぞれに思い思いの励まし(?)を百田くんにぶつけるが、彼は先程と同じく膝から崩れ落ちた状態のまま静かに涙を流していた。
験担ぎはあくまで験担ぎだと真宮寺くんが語る。
王馬くんがシンプルにギャンブルの才能がないことを指摘すると、百田くんは自分の勘は宇宙のためのものだから無駄使いしてないだけだと言い張った。
「だからもう2度と!ギャンブルはしねー!」
「うん、それがいいと思うよ…」
「そうだよ…宇宙にカジノはないんだからさ…」
強気に語りつつもかなり落ち込んだ様子の百田くんを、最原くんが部屋まで送り届けると申し出てくれた。
とぼとぼと歩く小さくなった背中を見て、まさかこの歳にしてギャンブルって怖いんだなと実感するとは思いもしなかった。
みんなも続々と寄宿舎に戻り始めた時、王馬くんが思い出したように私を呼び止める。
「ねぇ。記念コイン1枚余ってるけど、みょうじちゃんもやってみる?」
「えぇ…私はいいよ」
「いいじゃんいいじゃん、負けたって痛手ないでしょ?それに百田ちゃんがあれだけ負けた後だから逆に当たるかもよ?」
王馬くんにコインを握らされ、確かに痛手もないし当たれば得をするだけだからとスロットをやってみることにした。
操作方法を聞いてみると、レバーを引いてボタンを押すだけと言われたから驚きだ。
そんなに簡単な操作で大勝ちも大負けもありうるなんて、怖すぎないか?
ちゃんとしたお金が絡んでいるなら絶対にやりたくないと思った。
「え、えっと…じゃあいきます」
「うん!」
適当にレバーを引いてみる。
何がなんだかよく分からないが、カラフルな絵柄が目まぐるしく回っていてまともに見ていると目が痛くなりそうだった。
当然早すぎて目押しなんかできるわけもなく、これまた適当なタイミングでリールを止める。
「わー…すげ」
横から王馬くんが呟いた声が聞こえて、どうせ揃って無いだろうと思いつつスロットの絵柄を見る。
えーと、真ん中の列に来てるのは右から7、7、7……。
「……え、あれ?揃ってる!?」
「すごいじゃん!一発で7が揃うなんてさ!」
「あ、あはは…ほら、ビギナーズラックってやつじゃないかな」
「もう1回やってみてよ」
「え…まぁ別にいいけど」
もう一度やってみても何故か7が揃った。
その次も7、その次も…と段々怖くなって来た頃には手持ちのコインは倍どころではないほどに増えていた。
「まさかみょうじちゃんにギャンブルの才能があったとはねー」
「そんな才能いらないよ!」
「それとも百田ちゃんがボロボロに負けた分、確率が収束したってことなのかな?ま、でもどっちにしろラッキーだったね!」
「なんか…この先の運使い果たしたんじゃないかって気がしてきた…」
「にしし、明日からが楽しみだね!」
「なんか変なこと企むのはやめてよ!?絶対だよ!
約束だからね!」
「いいよ、もし破ったら針千本だね!飲むのはみょうじちゃんにお願いするけどさ!」
「私だけ一方的に損してるじゃん!」
王馬くんなら本気でやりかねないから嫌だ。
もはや約束しない方が命の危険は無いのではという気すらしてきたので、変なことは企むなとお願いをするに留めておいた。
帰り際に交換所を通り過ぎたあたりで、せっかくだから何か貰ってくれば?と促されたので景品リストを眺める。
とりあえず赤松さんが欲しがっていたヘッドホンを貰うことにした。
それでもまだまだコインは有り余っていて、どうやって使おうかと考えているとカウンターからモノクマが話しかけてくる。
「みょうじさんは王馬クンに振り回されて大変だね〜」
「本当だよ。でもそれも元をただせばこんな訳の分からない生活を強要してきたモノクマのせいなんだからね」
「おっと、手厳しいなぁ。…ところですごい数のコインだね〜、これならあの愛の鍵も手に入っちゃうね!うぷぷ」
愛の鍵…そういえばそんなものもあったなと思い出すが、同時に怪しいものだと記憶していたことも思い返されたのでそれは交換しないと拒否をする。
それなのにモノクマは「本当にいいの?」だの「女は度胸なんでしょ?」だのと挑発するようなことを言ってきて、どうやらなんとしても私にそれを交換させたいらしいことが分かった。
「もしこの鍵を使えば、ランダムで選ばれた相手の欲望を知ることができるって話はこの前したよね」
「う…うん、聞いたけど」
「その相手の欲望、夢の中では相手の世界観に合わせた行動をとるのがルールなんだ。でもね、もしそのルールを破って相手の夢を壊したら…どうなると思う?」
「どうなるの…?」
「そりゃあ決まってるじゃない。良い夢見るぞー!って気合い入れてるところに水を差されるんだから、夢を壊された相手は苦しんじゃうのさ」
上手くやれば王馬クンも大人しくなるかもしれないね?と付け足され、ごくりと生唾を飲んだ。
いや、決して苦しんで欲しいほど王馬くんが憎いわけではないんだけど。
…ちょっとくらい痛い目見たらいいのにと思っただけで。
「あれ、でもその鍵を使って見た夢は次の日には忘れちゃうんじゃ…?」
「うぷぷ、それは気合いでなんとかするところでしょ。記憶には残らなくても、全身の細胞が覚えちゃうくらい苦い経験を味わって貰いなよ!」
「そんな無茶苦茶な…」
どうしてまぁここまで勧めてくるのかと疑問になる。
どうせ夢の中の出来事とはいえ、なんとかしてモノクマもその様子を覗き見る気なんだろうと思った。
でもそんな私の思考を見透かしたように「ボクはプライバシーにうるさいクマだから、夢の中の出来事は当人同士しか分からないよ」と言った。
いや、別に見られていないからって使う気もないんだけど。
「ところでみょうじさん、その爪ボクみたいでいい色だね。ちょっとよく見せてよ」
「え…あぁ、はい」
相手がモノクマとはいえ褒められて悪い気はしなくて、素直に指を曲げた状態で手を差し出す。
モノクマのフェルト地の手がペタペタと私の手に触れる感触がくすぐったかった。
「はい、まいどありー!」
「え!?」
突然モノクマの手が離されると、私の手のひらにはハート型の飾りがついた鍵が置いてあった。
まさかこれって…と思い景品リストを見れば、そこにあるのはまさしく愛の鍵とそっくりの代物だった。
「ちょっと、こんなのいらないから!」
「もう渡しちゃったから返品不可でーす!あとは煮るなり焼くなり好きにしなよ。うぷぷ、良い夢を~」
「あ、こら待て!」
モノクマは颯爽とカウンターの奥に消えてしまい、私の手の中には愛の鍵が残された。
「随分大騒ぎしてたけどどうしたの?」
「え?あ、いや…なんでもない」
律儀に待っていたらしい王馬くんが近寄ってきて、私は咄嗟に鍵をポケットに隠した。
何を交換したの?と聞かれ、赤松さんにあげるヘッドホンだけだと答える。
慣れない嘘をついたことによって、ポケットに入れた鍵の存在感が余計に増したような気がした。
今日は午前中にノルマを達成しているわけだから、午後はゆっくりと過ごせる。
つかの間の休息を誰と穏やかに過ごそうかと個室で考えていると、突然インターホンが鳴らされた。
誰だろう。
王馬くん以外の誰かだろうとなんの疑いもなく扉を開けると、絶対にありえないだろうと高を括っていたその彼が笑顔で立っていた。
なんだこれ、本日2度目なんですが。
そっと扉を閉めようとすると、1度目と同じくしっかりと阻まれてしまった。
「えっと…なにか御用でしょうか」
「にしし、ちょっと面白そうな話を聞いちゃってさ!これはみょうじちゃんも連れて行ってあげなきゃと思って」
「いや、いいから!そんな気遣いいらないって!」
「遠慮しなくていいよ!はい、じゃあ出発ー!」
王馬くんの言う面白そうなものなんて、絶対に良いものでは無いはずだ。
なんとか踏ん張って連行されないように頑張ってみたものの、健闘むなしく私は彼に引き摺られるようにしてカジノまで連れてこられてしまった。
「カジノ?なんで急に…」
「いいからいいから」
ずるずるとカジノに足を踏み入れさせられると、そこには入間さんと真宮寺くん、それに星くんもいた。
2人きりにならなかった事には感謝するが、それにしても星くん以外まともな人はいないのかと言いたくなる人選だ。
さっそく入間さんに絡まれ始めた王馬くんが言うには、彼女と最原くんがカジノの裏ゲームに参加しようとしている話を耳にしてやって来たそうだ。
そんなものあるのかと半信半疑だったが、高レートの取引ができて上手くやれば一攫千金コースなのだとか。
なんだか赤松さんが聞いたら喜びそうな話だ。
そんな話をしている内、真宮寺くんと星くんも2人の話を聞きつけ近くにやって来る。
嘘か本当かと議論が交わされる中、満を持して最原くんがやって来た。
「待ってたよ、最原ちゃん!」
「え?王馬くん?それに、みょうじさんに…真宮寺くんと星くんも?」
予想外に大人数が揃っていたためか、最原くんはかなり困惑した様子だった。
「カジノで一攫千金なんて悪の総統としては黙ってられないよ!」と笑う王馬くんに逃げられないようしっかりと腕を掴まれている私は「私はそんなつもりじゃないから」という意味を込めて首をブンブンと横に振った。
最原くんは苦笑いしていた。
*****
結論から言えば裏ゲーム云々はガセネタだったらしい。
そんなものはないとモノクマに一刀両断され、それならもう解散でいいかと思っていのに、気がつけば後からやって来た百田くんを交えた男子5名で記念コインを使ったスロット勝負をすることになっていた。
入間さんが何か機械に細工をしないよう見張っていろ、と言われて渋々彼女の隣で行く末を見守る。
長引いたら面倒だなぁと思っていたけれど、勝負はあっという間についた。
「な、なんで…なんでだ…!宇宙に轟くオレの勘が…どうしてだ…!!」
百田くんが床に膝を着いて項垂れる。
言うまでもないが、今回の勝負でぶっちぎりで負けたのは彼だった。
そして…。
「うっひょー!星ちゃん、凄いじゃん!」
「フン、こんなもんが上手くいったところでなんの自慢にもなりやしないがな…」
意外にも圧勝したのは星くんだった。
彼は験を担いだだけだと話すが、実際のところそれだけでそんなに大勝できるものなのだろうか。
真宮寺くんによる験担ぎの重要性の話を聞いた百田くんが再度スロットに向きあったが、結果は変わらず大敗だった。
なんとなく予想できていたような気もする。
「……………」
「も、百田くん…」
「また星ちゃんの大勝ちでしたー!残念でしたー!」
「ひゃっひゃっひゃ!ざまーねーな!竿を右曲がりにして再挑戦したらどうだ!?」
「ちょっと入間さん、右曲がりになったくらいで大して変わるわけないでしょ!」
「みょうじさん、そこじゃないでしょ…」
皆それぞれに思い思いの励まし(?)を百田くんにぶつけるが、彼は先程と同じく膝から崩れ落ちた状態のまま静かに涙を流していた。
験担ぎはあくまで験担ぎだと真宮寺くんが語る。
王馬くんがシンプルにギャンブルの才能がないことを指摘すると、百田くんは自分の勘は宇宙のためのものだから無駄使いしてないだけだと言い張った。
「だからもう2度と!ギャンブルはしねー!」
「うん、それがいいと思うよ…」
「そうだよ…宇宙にカジノはないんだからさ…」
強気に語りつつもかなり落ち込んだ様子の百田くんを、最原くんが部屋まで送り届けると申し出てくれた。
とぼとぼと歩く小さくなった背中を見て、まさかこの歳にしてギャンブルって怖いんだなと実感するとは思いもしなかった。
みんなも続々と寄宿舎に戻り始めた時、王馬くんが思い出したように私を呼び止める。
「ねぇ。記念コイン1枚余ってるけど、みょうじちゃんもやってみる?」
「えぇ…私はいいよ」
「いいじゃんいいじゃん、負けたって痛手ないでしょ?それに百田ちゃんがあれだけ負けた後だから逆に当たるかもよ?」
王馬くんにコインを握らされ、確かに痛手もないし当たれば得をするだけだからとスロットをやってみることにした。
操作方法を聞いてみると、レバーを引いてボタンを押すだけと言われたから驚きだ。
そんなに簡単な操作で大勝ちも大負けもありうるなんて、怖すぎないか?
ちゃんとしたお金が絡んでいるなら絶対にやりたくないと思った。
「え、えっと…じゃあいきます」
「うん!」
適当にレバーを引いてみる。
何がなんだかよく分からないが、カラフルな絵柄が目まぐるしく回っていてまともに見ていると目が痛くなりそうだった。
当然早すぎて目押しなんかできるわけもなく、これまた適当なタイミングでリールを止める。
「わー…すげ」
横から王馬くんが呟いた声が聞こえて、どうせ揃って無いだろうと思いつつスロットの絵柄を見る。
えーと、真ん中の列に来てるのは右から7、7、7……。
「……え、あれ?揃ってる!?」
「すごいじゃん!一発で7が揃うなんてさ!」
「あ、あはは…ほら、ビギナーズラックってやつじゃないかな」
「もう1回やってみてよ」
「え…まぁ別にいいけど」
もう一度やってみても何故か7が揃った。
その次も7、その次も…と段々怖くなって来た頃には手持ちのコインは倍どころではないほどに増えていた。
「まさかみょうじちゃんにギャンブルの才能があったとはねー」
「そんな才能いらないよ!」
「それとも百田ちゃんがボロボロに負けた分、確率が収束したってことなのかな?ま、でもどっちにしろラッキーだったね!」
「なんか…この先の運使い果たしたんじゃないかって気がしてきた…」
「にしし、明日からが楽しみだね!」
「なんか変なこと企むのはやめてよ!?絶対だよ!
約束だからね!」
「いいよ、もし破ったら針千本だね!飲むのはみょうじちゃんにお願いするけどさ!」
「私だけ一方的に損してるじゃん!」
王馬くんなら本気でやりかねないから嫌だ。
もはや約束しない方が命の危険は無いのではという気すらしてきたので、変なことは企むなとお願いをするに留めておいた。
帰り際に交換所を通り過ぎたあたりで、せっかくだから何か貰ってくれば?と促されたので景品リストを眺める。
とりあえず赤松さんが欲しがっていたヘッドホンを貰うことにした。
それでもまだまだコインは有り余っていて、どうやって使おうかと考えているとカウンターからモノクマが話しかけてくる。
「みょうじさんは王馬クンに振り回されて大変だね〜」
「本当だよ。でもそれも元をただせばこんな訳の分からない生活を強要してきたモノクマのせいなんだからね」
「おっと、手厳しいなぁ。…ところですごい数のコインだね〜、これならあの愛の鍵も手に入っちゃうね!うぷぷ」
愛の鍵…そういえばそんなものもあったなと思い出すが、同時に怪しいものだと記憶していたことも思い返されたのでそれは交換しないと拒否をする。
それなのにモノクマは「本当にいいの?」だの「女は度胸なんでしょ?」だのと挑発するようなことを言ってきて、どうやらなんとしても私にそれを交換させたいらしいことが分かった。
「もしこの鍵を使えば、ランダムで選ばれた相手の欲望を知ることができるって話はこの前したよね」
「う…うん、聞いたけど」
「その相手の欲望、夢の中では相手の世界観に合わせた行動をとるのがルールなんだ。でもね、もしそのルールを破って相手の夢を壊したら…どうなると思う?」
「どうなるの…?」
「そりゃあ決まってるじゃない。良い夢見るぞー!って気合い入れてるところに水を差されるんだから、夢を壊された相手は苦しんじゃうのさ」
上手くやれば王馬クンも大人しくなるかもしれないね?と付け足され、ごくりと生唾を飲んだ。
いや、決して苦しんで欲しいほど王馬くんが憎いわけではないんだけど。
…ちょっとくらい痛い目見たらいいのにと思っただけで。
「あれ、でもその鍵を使って見た夢は次の日には忘れちゃうんじゃ…?」
「うぷぷ、それは気合いでなんとかするところでしょ。記憶には残らなくても、全身の細胞が覚えちゃうくらい苦い経験を味わって貰いなよ!」
「そんな無茶苦茶な…」
どうしてまぁここまで勧めてくるのかと疑問になる。
どうせ夢の中の出来事とはいえ、なんとかしてモノクマもその様子を覗き見る気なんだろうと思った。
でもそんな私の思考を見透かしたように「ボクはプライバシーにうるさいクマだから、夢の中の出来事は当人同士しか分からないよ」と言った。
いや、別に見られていないからって使う気もないんだけど。
「ところでみょうじさん、その爪ボクみたいでいい色だね。ちょっとよく見せてよ」
「え…あぁ、はい」
相手がモノクマとはいえ褒められて悪い気はしなくて、素直に指を曲げた状態で手を差し出す。
モノクマのフェルト地の手がペタペタと私の手に触れる感触がくすぐったかった。
「はい、まいどありー!」
「え!?」
突然モノクマの手が離されると、私の手のひらにはハート型の飾りがついた鍵が置いてあった。
まさかこれって…と思い景品リストを見れば、そこにあるのはまさしく愛の鍵とそっくりの代物だった。
「ちょっと、こんなのいらないから!」
「もう渡しちゃったから返品不可でーす!あとは煮るなり焼くなり好きにしなよ。うぷぷ、良い夢を~」
「あ、こら待て!」
モノクマは颯爽とカウンターの奥に消えてしまい、私の手の中には愛の鍵が残された。
「随分大騒ぎしてたけどどうしたの?」
「え?あ、いや…なんでもない」
律儀に待っていたらしい王馬くんが近寄ってきて、私は咄嗟に鍵をポケットに隠した。
何を交換したの?と聞かれ、赤松さんにあげるヘッドホンだけだと答える。
慣れない嘘をついたことによって、ポケットに入れた鍵の存在感が余計に増したような気がした。