5日目
おなまえ
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5日目:午前
「うわっ!?え、なに?なんで?」
「みょうじちゃんおはよー!」
「お、おはよう…?」
食堂に行くため扉を開けると、何故か目の前に王馬くんが立っていた。
そんな所に誰かいるなんて予想もしていなかったから、もう肩が跳ね上がるくらいびっくりした。
そっと扉を閉めようとしたけど王馬くんに阻まれて、食堂に行こうと言いつつ何故か手を引かれて歩き出す。
初っ端にかなり驚いたせいで心臓がバクバクしていて、手を握られていることに緊張するどころじゃなかった。
それ以降口からは「え?」と「なに?」と「なんで?」しか発せなくなったみたいに、ただその3つの単語だけを馬鹿みたいに繰り返す。
王馬くんは王馬くんで「いいからいいから」とこれまたワンパターンな返答しかくれなかった。
「それじゃ、いただきまーす!」
「いただきます…?」
あれよあれよという間に食堂に着き、王馬くんは東条さんに「和食2つね!」なんて私の分まで勝手に指定しつつ向かい合わせになるように席に座った。
王馬くんはただ普通に食事を取り始め、何がなんだか分からないながらもお腹は空いてきたので私もそれにならう。
どうして自由時間でもないのにこの人と一緒にいるんだろうかと思うと辟易したが、東条さんの作った和朝食がとても美味しかったので食は進んだ。
今日は一体どんなろくでもないことを思いついたのだろうとちらりと王馬くんに視線を向けると、お味噌汁を啜っていた彼と目が合ってしまった。
「どうしたの?そんなにオレのこと気になる?」
「え、いや…気になるっていうか、今日は何を企んでいるのかなぁと…」
「別に何も企んでないよ!たまには一緒にご飯食べるのも悪くないかなーと思って」
ついでに自由時間の予約と言って懐から取り出したデートチケットを差し出された。
予約ってなんだよと思うが、どの道断ったところで1日1回は一緒にいないといけない話になっているからと自分に言い聞かせて渋々それを受け取る。
「今日は何して遊ぼっかなー。ねぇ、みょうじちゃんは何したい?」
「私?うーん…穏やかな遊びならなんでもいいけど」
「えー、そんなのつまんないよー」
「ババ抜きとか」
「罰ゲーム付きならいいよ」
「勝ち負けが生れる遊びって平和じゃないよね!そうだ、また映画でも見る?」
「オレが選んでいいんだったらそれでもいいよ!」
「うん、やっぱり映画はやめよっか。2回目だもん」
ぐだぐだと会話を続けるうち、自然と王馬くんと何かをして遊ぶ流れが生まれかかっていることに気がつく。
だから、まともに相手をする必要なんかないんだってば。
昨日春川さんに貰ったアドバイスを忘れてしまうところだった。
とりあえず過ごす場所は一度も行っていないからという理由で体育館に決まった。
その後はもう黙々とひとりの世界に浸ってやるんだ、と固く心に誓いつつ朝食を食べ終えた。
*****
「やっほー!」
だだっ広い体育館に王馬くんの声が響く。
思ったより響いたことが面白かったのか、完全に声が止む前に「わー!」や「おーい!」と続けて大声を出している。
なんだか王馬くんが2、3人いて騒いでいるみたいに思えてきてやかましかった。
「さてと、何する?ドッジボールでもする?日頃のみょうじちゃんへの鬱憤を健全な形で晴らせる上に、未来の部下への教育的指導もできそうだしね!」
「……やらないよ」
色々とツッコミどころが満載な提案だったが、明らかにツッコミ待ちだろうという気がして全てをスルーし拒否の姿勢を貫く。
「…なーんか機嫌悪いね?オレなんかしたっけ?」
むしろ今まで何もしていないとでも思っていたのかと喉元まで出かかった。
私の表情を伺うように顔を覗き込まれ、これ以上何も悟らせまいと視線を逸らす。
「みょうじちゃーん?もー、どうしちゃったのさ?お腹でも痛い?だから拾ったものは食べちゃだめだって言ったのに」
私はあんたの犬か何かか。
他にも子どもをあやすようにしてみたり、威圧的に迫ってみたり、王馬くんは手を替え品を替え色々な方法で私から何か情報を引き出そうとする。
ずっと表情を出すことを我慢していると、段々としょうもないことでも面白く感じてきてしまって口元が緩みかけた。
「あれ、もしかして笑ってない?」
「……スン」
「真顔アピール?でもそれ口に出して言うものじゃないよ」
「………」
「ねー、なんで無視するの?」
「………」
「ねぇってば」
「………」
「ふーん、まだ続ける気なんだね」
一呼吸置いて王馬くんががっくりと肩を落とした。
あれ、もしかして落ち込んだ?
ちょっとやりすぎただろうか…いや、でももしかしたらこれもいつもの嘘かもしれない。
「はぁ…酷いよ…オレはこんなにもみょうじちゃんのことが好きなのに…」
…え?
それはどういう趣旨の冗談なんだと思い顔を上げると、王馬くんは落ち込んだ表情のまま大きく息を吸っているのが見えた。
「うわああああああああああああんっ!無視するなんて酷いよぉぉぉぉぉおおおっ!」
耳をつんざくような泣き声に咄嗟に耳を塞ぐが、そんなことくらいでは意味をなさないほどうるさかった。
しかも体育館の音響が彼のやかましい声を増長させて、とんでもない不協和音を私の耳にダイレクトにお届けしてくる。
こんなことを続けられたら敵わないし、ちょっとやり過ぎたのかもしれないと反省した私は王馬くんに声をかけることにした。
「す、ストップ!ごめんってば、もう無視しないから泣き止んで!」
「うん、いいよ!」
「は…?」
コロッといつもの笑顔を浮かべる王馬くんに度肝を抜かれた。
いやいや、さっきまで涙と鼻水でぐずぐずになってたじゃない。なんでそんなあっさり元に戻れるの?
ポカンとしている私を他所に、彼は「嘘泣きに決まってるじゃん」と悪びれる様子もなく言い放った。
「はぁ…ちょっとだけ反省したのに損した気分…」
「にしし、未来の上司を無視しといて反省しないなんて、なかなかいい度胸してるね!」
「未来の上司って…。私、そもそも王馬くんの組織に入るつもりなんて」
「あーあー聞こえなーい!それにもう言質取ったもんね!ちなみに逃げても無駄だよ?みょうじちゃんのこと調べ尽くして居場所を突き止めるくらいのこと、オレには当たり前のように出来ちゃうんだからさ」
「ひぇっ…総統の本気のストーカーこわっ…。もう、私なんか入れたって役に立たないからやめときなよ…」
「あは、それはそうかもね。力無さそうだし頭も良くないし、色仕掛けなんて芸当もできないもんね」
「そこまで全否定されるとは予想外だわ」
「でもさー、こういうのって役に立つかどうかが全てじゃないんだよ!」
「…どういう意味?」
「さぁね、それはその内分かるようになるんじゃない?」
ケチ、と言ってみても笑い飛ばして流されてしまった。
どうやら今は教えて貰えないらしい。
その内も何も、私は組織に入るつもりは全くないのだがそこは分かって貰えないのだろうか。
このまま卒業してしまえば本当に私の居場所を探し出して、その組織の部下とやらを引き連れてやって来そうな気がする。
そんなことになってしまったら大変なので、なんとか卒業までに私を組織入りさせるのは諦めてもらわなければ。
実はこれもいつもの嘘でした、という展開を期待しながら今後の身の振り方を思案していた。
「うわっ!?え、なに?なんで?」
「みょうじちゃんおはよー!」
「お、おはよう…?」
食堂に行くため扉を開けると、何故か目の前に王馬くんが立っていた。
そんな所に誰かいるなんて予想もしていなかったから、もう肩が跳ね上がるくらいびっくりした。
そっと扉を閉めようとしたけど王馬くんに阻まれて、食堂に行こうと言いつつ何故か手を引かれて歩き出す。
初っ端にかなり驚いたせいで心臓がバクバクしていて、手を握られていることに緊張するどころじゃなかった。
それ以降口からは「え?」と「なに?」と「なんで?」しか発せなくなったみたいに、ただその3つの単語だけを馬鹿みたいに繰り返す。
王馬くんは王馬くんで「いいからいいから」とこれまたワンパターンな返答しかくれなかった。
「それじゃ、いただきまーす!」
「いただきます…?」
あれよあれよという間に食堂に着き、王馬くんは東条さんに「和食2つね!」なんて私の分まで勝手に指定しつつ向かい合わせになるように席に座った。
王馬くんはただ普通に食事を取り始め、何がなんだか分からないながらもお腹は空いてきたので私もそれにならう。
どうして自由時間でもないのにこの人と一緒にいるんだろうかと思うと辟易したが、東条さんの作った和朝食がとても美味しかったので食は進んだ。
今日は一体どんなろくでもないことを思いついたのだろうとちらりと王馬くんに視線を向けると、お味噌汁を啜っていた彼と目が合ってしまった。
「どうしたの?そんなにオレのこと気になる?」
「え、いや…気になるっていうか、今日は何を企んでいるのかなぁと…」
「別に何も企んでないよ!たまには一緒にご飯食べるのも悪くないかなーと思って」
ついでに自由時間の予約と言って懐から取り出したデートチケットを差し出された。
予約ってなんだよと思うが、どの道断ったところで1日1回は一緒にいないといけない話になっているからと自分に言い聞かせて渋々それを受け取る。
「今日は何して遊ぼっかなー。ねぇ、みょうじちゃんは何したい?」
「私?うーん…穏やかな遊びならなんでもいいけど」
「えー、そんなのつまんないよー」
「ババ抜きとか」
「罰ゲーム付きならいいよ」
「勝ち負けが生れる遊びって平和じゃないよね!そうだ、また映画でも見る?」
「オレが選んでいいんだったらそれでもいいよ!」
「うん、やっぱり映画はやめよっか。2回目だもん」
ぐだぐだと会話を続けるうち、自然と王馬くんと何かをして遊ぶ流れが生まれかかっていることに気がつく。
だから、まともに相手をする必要なんかないんだってば。
昨日春川さんに貰ったアドバイスを忘れてしまうところだった。
とりあえず過ごす場所は一度も行っていないからという理由で体育館に決まった。
その後はもう黙々とひとりの世界に浸ってやるんだ、と固く心に誓いつつ朝食を食べ終えた。
*****
「やっほー!」
だだっ広い体育館に王馬くんの声が響く。
思ったより響いたことが面白かったのか、完全に声が止む前に「わー!」や「おーい!」と続けて大声を出している。
なんだか王馬くんが2、3人いて騒いでいるみたいに思えてきてやかましかった。
「さてと、何する?ドッジボールでもする?日頃のみょうじちゃんへの鬱憤を健全な形で晴らせる上に、未来の部下への教育的指導もできそうだしね!」
「……やらないよ」
色々とツッコミどころが満載な提案だったが、明らかにツッコミ待ちだろうという気がして全てをスルーし拒否の姿勢を貫く。
「…なーんか機嫌悪いね?オレなんかしたっけ?」
むしろ今まで何もしていないとでも思っていたのかと喉元まで出かかった。
私の表情を伺うように顔を覗き込まれ、これ以上何も悟らせまいと視線を逸らす。
「みょうじちゃーん?もー、どうしちゃったのさ?お腹でも痛い?だから拾ったものは食べちゃだめだって言ったのに」
私はあんたの犬か何かか。
他にも子どもをあやすようにしてみたり、威圧的に迫ってみたり、王馬くんは手を替え品を替え色々な方法で私から何か情報を引き出そうとする。
ずっと表情を出すことを我慢していると、段々としょうもないことでも面白く感じてきてしまって口元が緩みかけた。
「あれ、もしかして笑ってない?」
「……スン」
「真顔アピール?でもそれ口に出して言うものじゃないよ」
「………」
「ねー、なんで無視するの?」
「………」
「ねぇってば」
「………」
「ふーん、まだ続ける気なんだね」
一呼吸置いて王馬くんががっくりと肩を落とした。
あれ、もしかして落ち込んだ?
ちょっとやりすぎただろうか…いや、でももしかしたらこれもいつもの嘘かもしれない。
「はぁ…酷いよ…オレはこんなにもみょうじちゃんのことが好きなのに…」
…え?
それはどういう趣旨の冗談なんだと思い顔を上げると、王馬くんは落ち込んだ表情のまま大きく息を吸っているのが見えた。
「うわああああああああああああんっ!無視するなんて酷いよぉぉぉぉぉおおおっ!」
耳をつんざくような泣き声に咄嗟に耳を塞ぐが、そんなことくらいでは意味をなさないほどうるさかった。
しかも体育館の音響が彼のやかましい声を増長させて、とんでもない不協和音を私の耳にダイレクトにお届けしてくる。
こんなことを続けられたら敵わないし、ちょっとやり過ぎたのかもしれないと反省した私は王馬くんに声をかけることにした。
「す、ストップ!ごめんってば、もう無視しないから泣き止んで!」
「うん、いいよ!」
「は…?」
コロッといつもの笑顔を浮かべる王馬くんに度肝を抜かれた。
いやいや、さっきまで涙と鼻水でぐずぐずになってたじゃない。なんでそんなあっさり元に戻れるの?
ポカンとしている私を他所に、彼は「嘘泣きに決まってるじゃん」と悪びれる様子もなく言い放った。
「はぁ…ちょっとだけ反省したのに損した気分…」
「にしし、未来の上司を無視しといて反省しないなんて、なかなかいい度胸してるね!」
「未来の上司って…。私、そもそも王馬くんの組織に入るつもりなんて」
「あーあー聞こえなーい!それにもう言質取ったもんね!ちなみに逃げても無駄だよ?みょうじちゃんのこと調べ尽くして居場所を突き止めるくらいのこと、オレには当たり前のように出来ちゃうんだからさ」
「ひぇっ…総統の本気のストーカーこわっ…。もう、私なんか入れたって役に立たないからやめときなよ…」
「あは、それはそうかもね。力無さそうだし頭も良くないし、色仕掛けなんて芸当もできないもんね」
「そこまで全否定されるとは予想外だわ」
「でもさー、こういうのって役に立つかどうかが全てじゃないんだよ!」
「…どういう意味?」
「さぁね、それはその内分かるようになるんじゃない?」
ケチ、と言ってみても笑い飛ばして流されてしまった。
どうやら今は教えて貰えないらしい。
その内も何も、私は組織に入るつもりは全くないのだがそこは分かって貰えないのだろうか。
このまま卒業してしまえば本当に私の居場所を探し出して、その組織の部下とやらを引き連れてやって来そうな気がする。
そんなことになってしまったら大変なので、なんとか卒業までに私を組織入りさせるのは諦めてもらわなければ。
実はこれもいつもの嘘でした、という展開を期待しながら今後の身の振り方を思案していた。
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