4日目
おなまえ
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4日目:午前
昨日は朝早くに食堂に行こうとしたために真宮寺くんに出会ってしまった。
人を見た目で判断するのはよくないと分かっているけど、彼の纏うあの言い表せない雰囲気はどうも苦手だ。
例えるなら、邦画ホラーのじわじわと闇に飲まれていくような感じ?
あの見た目でゴン太くんみたいな性格だったら良かった……と思ったけど、それはそれでなんか違うな。
うん、やっぱり真宮寺くんはそのままでいて。どうかミステリアスなありのままのキミでいて。
朝のチャイムと同時に個室を出て食堂に向かう道すがら、その場にいない真宮寺くんにかなり失礼なことを考えていた。
だけど真宮寺くんなら心の中を読むくらいしてもおかしくない気がするから、変なことを考えるのはこの位にしておこう。
ちょうど校舎の入口に辿り着いたところで、風呂敷に包まれた棒状の大きな荷物を持った入間さんと出会う。
どうも両手がふさがってるから扉が開けられないらしい。
もしかして彼女は、自分自身に荷物を下に置いてはいけない縛りでも課しているんだろうか。それはそれは、ご苦労さまです。
「…開けようか?」
「あぁん?チッ、みょうじか…。おせーよ!早くオレ様のためにこの扉を開けやがれ!」
…なんなんだこいつ。
イラッとするなぁと思っていたら、どうやらその気持ちが表情にも出ていたらしい。
強気な態度だった入間さんはみるみるうちにしゅんと萎んで、「開けてよぉ…お願いだよぉ…」なんて弱々しくお願いをして見せた。
この人は下手に出ると調子に乗るタイプなんだ。
そう思ったので優しい言葉はかけずに黙って扉を開ける。
「これ貸しだからね。わざわざ入間さんのために開けてあげたんだよ?だからお礼をするのは当然だよね?」
「はいぃ…ありがとうございますぅ…!必ずお返しします…!」
「えっと…何してるのかな?」
扉の前でそんなやり取りをしていたものだから、後からやって来た白銀さんにどこからか分からないがやり取りの一部を見られていたらしい。
涙目でペコペコと頭を下げる入間さんと真顔の私を交互に見つめて不思議そうにしている。
「扉を開けてあげただけだよ」
「そうなんだ…。地味にそれだけとは思えない雰囲気なんだけど」
白銀さんはそう言って、ものすごい勢いで水を流されたししおどしみたいな動きをする入間さんをチラリと見た。
「入間さん、今日はもう行っていいよ。この話の続きはまた今度ね」
「は、はいっ…!失礼しますぅ!」
「ねぇ、怪しすぎるよ!?」
あまりにも入間さんが従順な態度を貫くものだからついつい悪ノリしてしまった。
白銀さんと食堂までゆっくり歩きながら事の経緯を説明すると、なんだそんなことかという反応をされた。
「入間さんだから」とこうなった理由を言えば「入間さんだもんね」と納得されて、やっぱり彼女が変なのはみんなの共通認識なんだなとホッとした。
*****
「手を上げろ!」
「う、うん…?」
朝食後に個室に戻ると、扉に『図書室で待つ』とでかでかと書かれたメモとデートチケットが磔にされていた。
もちろんこんな事をする相手の心当たりは1人しかいないので、猛烈に無視したい気持ちをぐっと堪えて図書室へ向かった。
そして正面の入口を開き、中へと一歩踏み出したのが今現在の私。
王馬くんはどこから持ってきたものなのか、メカメカしい大きな銃?みたいなものの銃口を私に向けている。
どうせ見かけだましのおもちゃだろうとは思ったものの、万が一ということもあるしとりあえず両手を顔の高さまで掲げておいた。
「よし、じゃあ撃つよ!」
「なんで!?手上げたじゃん!」
「誰も手上げたら撃たないなんて言ってないでしょ」
「そんなの屁理屈だよ!」
「大丈夫だってー、死なないから」
「そういう問題じゃないから!そもそもなんなのその銃は!?」
「入間ちゃんの発明品だよ!お願いして作ってもらったんだー」
あぁ、そういえば今日入間さんが持ってた荷物もちょうどこれくらいの大きさだったなぁ。
なんてそんなことを思い出している場合ではない。何を素直にお願い聞いてあげてるんだよ!どんな発明かは知らないけど絶対ろくなことにならないぞ!
心の中では入間さんへのデモ活動が始まっていた。
「みょうじちゃん、グッドラック!」
「それ、銃向けてる人が使う言葉じゃ…!」
王馬くんが銃の引き金を引いて、その瞬間目の前が眩しくなる。
たまらず目を閉じた私が思ったのは、まだ言い切っていなかったのに!なんて至極どうでもいいことだった。
「まぶしっ!…………あれ、でもなんともない」
「にしし、だから言ったじゃん。死なないから大丈夫だって」
視界がチカチカすること以外はどこもかしこもなんともなかった。
正直チクッとするくらいのことは覚悟していたので拍子抜けだ。
「ねぇみょうじちゃん」
「なに?」
「ちょっと肩揉んでくれる?オレ最近肩こりがひどいんだよねー」
「なんで私がそんなことしないといけないの」
当たり前だが今の言葉は本心だ。
私が王馬くんの肩を揉まないといけない理由なんかどこにもない。
それなのに私の意思とは関係なく体が勝手に動き出し、気がつけば王馬くんの肩を揉んでいた。
「え?ちょっと、これ止められないんだけど!怖いよ!」
「あーそこそこ!意外と上手なんだね」
「そう?よかったー…ってそうじゃなくて!」
「うん、ありがとー。もういいよ」
どんなに踏ん張っても揉むのを止めなかった私の手が、王馬くんの一言でピタリと止まる。
もしかしなくてもこれはさっきの銃のせいなのでは?
そう思っていると、王馬くんがくるりと振り返りいつものニヤニヤした顔で私を見ていた。
「にしし、ちゃんと効果あったね」
「な、何をしたの…?」
「大したことじゃないよ、ただ命令とかお願いに逆らえなくなっただけだからさ!」
「戻して!私を元に戻してー!」
「あは、お昼までには元に戻るから大丈夫だよ!」
「私は今戻して欲しいの!嫌な予感しかしないし」
「それは無理だよー、戻し方知らないもん」
「"もん"じゃないよ!全然可愛くないからね!」
「まぁまぁ。ほっとけば戻るんだからいいじゃん」
とりあえず座りなよと王馬くんは椅子を引っ張り出してきた。
逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、やっぱり体は勝手に動いてその椅子に座り始める。
王馬くんがデスクライトを取り出し私の顔を照らした。
さっきほどでは無いが眩しいのに変わりなく、思わず眉間に皺を寄せたが彼は全く気にする様子もなく楽しそうに笑っていた。
「さぁ観念しろー!今日という今日は知ってること全て吐いてもらうからな!」
「なんの話をしてるの!?」
「刑事ごっこだよ!一回言ってみたかったんだよねー」
「あぁそう…」
なんだ、ただのお遊びか。
割と危機的状況だと思っていたが、実際にやることはごっこ遊びなのかと思うと気が抜けた。
「答えろ、嫌いな野菜はあるか!」
「どれも特別好きではないけど嫌いでもないよ」
「なるほど、それじゃ次ね。犬派?猫派?」
「うーん、悩ましいけど猫かな」
他にも好きな教科は?とか楽しかった思い出は?とか事情聴取とはかけ離れた平和的な質問をたくさんされた。私のプロフィールでも作る気か?
別にわざわざ変な発明品を使わなくても、これくらいのことなら聞かれれば答えるのに。
「ふむふむ。じゃあ最後の質問ね」
「はーい、やっとかー」
「楽しいことは好き?」
「随分アバウトな質問だね。でもまぁ好きだよ」
「おっけー!ではこれで面接は終わりです!」
「面接…?」
刑事ごっこはどこへ行ったんだ。
そして知らぬ間に始まっていたのは一体なんの面接だったのか。
頭の中いっぱいにハテナが浮かんでいる私を他所に、王馬くんはうんうんと頷いてから私を見てニヤリと笑う。
「厳格な審査の結果…みょうじちゃんは合格だよ!オモチャ役かおやつ係かで迷ってたけど、とりあえず兼任ってことでいいかなー。それじゃ、これからよろしくね!」
「全然話が見えないんだけど…?」
「オレの組織に入れてあげるって話だよ?ほらほら入りたいよね?嬉しいよね?」
「えぇっ!?いや、私そんなこと…!」
大慌ての私に王馬くんがこそっと顔を寄せてこう囁く。
「入りたいって言え」と。しかも元気に嬉しそうになんて細かな注文までつけて。
普段だったら絶対に言うはずはないが、多分今の私は命令を拒否できないのだと思う。
まずいと思っていやいやと首を振っても口が開くのは止められず、結局私は私の意思とは裏腹に高らかに声を上げた。
「入りたいです!」
「にしし、よく言ったね!」
王馬くんは満足そうに笑いながら正面にある本棚へと近づいて行った。
この流れで急に読書なんて、気移り激しい人だな。
でも興味が他に移ってくれるのは喜ばしいことだと思い口は出さない。
しかしながら目的は読書ではなかったようで、ごそごそと何かをした後戻ってきた王馬くんの手にはビデオカメラが握られていた。
「ちゃんと証拠も残ってるから、みょうじちゃんの卒業後の進路はばっちりだね!」
「そんなの王馬くんが誘導したんだからズルじゃん!ノーカンだよ!」
「にしし、なんのことかなー?」
ビデオカメラを操作してたった今の会話が再生される。
王馬くんが私を唆したところの音声はしっかりと…残っていなかった。
「ほら、オレが誘導した証拠なんてどこにもないでしょ?」
「ぐぬぬ…」
「あは、口でそれ言う人初めて見たよ」
実力行使で映像をこの世から抹消してやる。
ビデオカメラにそっと手を伸ばすが、王馬くんがひょいっとカメラを動かして避けられる。
口で消す消さないの押し問答を繰り返しながら、お互いの手もまたカメラを巡った攻防戦を続ける。
その内に王馬くんが走って図書室から出ていったため、自然と追いかけっこが勃発した。
運動は苦手だが、どうせ追いつけないだろうと高を括ったような王馬くんの態度が私のハートに火をつけ、自分が思っていたよりも長時間走ることができた。
でも結局そもそもの運動能力の差には抗えず、自由時間が終わる頃にはすっかり彼の姿を見失ってしまったのだった。
昨日は朝早くに食堂に行こうとしたために真宮寺くんに出会ってしまった。
人を見た目で判断するのはよくないと分かっているけど、彼の纏うあの言い表せない雰囲気はどうも苦手だ。
例えるなら、邦画ホラーのじわじわと闇に飲まれていくような感じ?
あの見た目でゴン太くんみたいな性格だったら良かった……と思ったけど、それはそれでなんか違うな。
うん、やっぱり真宮寺くんはそのままでいて。どうかミステリアスなありのままのキミでいて。
朝のチャイムと同時に個室を出て食堂に向かう道すがら、その場にいない真宮寺くんにかなり失礼なことを考えていた。
だけど真宮寺くんなら心の中を読むくらいしてもおかしくない気がするから、変なことを考えるのはこの位にしておこう。
ちょうど校舎の入口に辿り着いたところで、風呂敷に包まれた棒状の大きな荷物を持った入間さんと出会う。
どうも両手がふさがってるから扉が開けられないらしい。
もしかして彼女は、自分自身に荷物を下に置いてはいけない縛りでも課しているんだろうか。それはそれは、ご苦労さまです。
「…開けようか?」
「あぁん?チッ、みょうじか…。おせーよ!早くオレ様のためにこの扉を開けやがれ!」
…なんなんだこいつ。
イラッとするなぁと思っていたら、どうやらその気持ちが表情にも出ていたらしい。
強気な態度だった入間さんはみるみるうちにしゅんと萎んで、「開けてよぉ…お願いだよぉ…」なんて弱々しくお願いをして見せた。
この人は下手に出ると調子に乗るタイプなんだ。
そう思ったので優しい言葉はかけずに黙って扉を開ける。
「これ貸しだからね。わざわざ入間さんのために開けてあげたんだよ?だからお礼をするのは当然だよね?」
「はいぃ…ありがとうございますぅ…!必ずお返しします…!」
「えっと…何してるのかな?」
扉の前でそんなやり取りをしていたものだから、後からやって来た白銀さんにどこからか分からないがやり取りの一部を見られていたらしい。
涙目でペコペコと頭を下げる入間さんと真顔の私を交互に見つめて不思議そうにしている。
「扉を開けてあげただけだよ」
「そうなんだ…。地味にそれだけとは思えない雰囲気なんだけど」
白銀さんはそう言って、ものすごい勢いで水を流されたししおどしみたいな動きをする入間さんをチラリと見た。
「入間さん、今日はもう行っていいよ。この話の続きはまた今度ね」
「は、はいっ…!失礼しますぅ!」
「ねぇ、怪しすぎるよ!?」
あまりにも入間さんが従順な態度を貫くものだからついつい悪ノリしてしまった。
白銀さんと食堂までゆっくり歩きながら事の経緯を説明すると、なんだそんなことかという反応をされた。
「入間さんだから」とこうなった理由を言えば「入間さんだもんね」と納得されて、やっぱり彼女が変なのはみんなの共通認識なんだなとホッとした。
*****
「手を上げろ!」
「う、うん…?」
朝食後に個室に戻ると、扉に『図書室で待つ』とでかでかと書かれたメモとデートチケットが磔にされていた。
もちろんこんな事をする相手の心当たりは1人しかいないので、猛烈に無視したい気持ちをぐっと堪えて図書室へ向かった。
そして正面の入口を開き、中へと一歩踏み出したのが今現在の私。
王馬くんはどこから持ってきたものなのか、メカメカしい大きな銃?みたいなものの銃口を私に向けている。
どうせ見かけだましのおもちゃだろうとは思ったものの、万が一ということもあるしとりあえず両手を顔の高さまで掲げておいた。
「よし、じゃあ撃つよ!」
「なんで!?手上げたじゃん!」
「誰も手上げたら撃たないなんて言ってないでしょ」
「そんなの屁理屈だよ!」
「大丈夫だってー、死なないから」
「そういう問題じゃないから!そもそもなんなのその銃は!?」
「入間ちゃんの発明品だよ!お願いして作ってもらったんだー」
あぁ、そういえば今日入間さんが持ってた荷物もちょうどこれくらいの大きさだったなぁ。
なんてそんなことを思い出している場合ではない。何を素直にお願い聞いてあげてるんだよ!どんな発明かは知らないけど絶対ろくなことにならないぞ!
心の中では入間さんへのデモ活動が始まっていた。
「みょうじちゃん、グッドラック!」
「それ、銃向けてる人が使う言葉じゃ…!」
王馬くんが銃の引き金を引いて、その瞬間目の前が眩しくなる。
たまらず目を閉じた私が思ったのは、まだ言い切っていなかったのに!なんて至極どうでもいいことだった。
「まぶしっ!…………あれ、でもなんともない」
「にしし、だから言ったじゃん。死なないから大丈夫だって」
視界がチカチカすること以外はどこもかしこもなんともなかった。
正直チクッとするくらいのことは覚悟していたので拍子抜けだ。
「ねぇみょうじちゃん」
「なに?」
「ちょっと肩揉んでくれる?オレ最近肩こりがひどいんだよねー」
「なんで私がそんなことしないといけないの」
当たり前だが今の言葉は本心だ。
私が王馬くんの肩を揉まないといけない理由なんかどこにもない。
それなのに私の意思とは関係なく体が勝手に動き出し、気がつけば王馬くんの肩を揉んでいた。
「え?ちょっと、これ止められないんだけど!怖いよ!」
「あーそこそこ!意外と上手なんだね」
「そう?よかったー…ってそうじゃなくて!」
「うん、ありがとー。もういいよ」
どんなに踏ん張っても揉むのを止めなかった私の手が、王馬くんの一言でピタリと止まる。
もしかしなくてもこれはさっきの銃のせいなのでは?
そう思っていると、王馬くんがくるりと振り返りいつものニヤニヤした顔で私を見ていた。
「にしし、ちゃんと効果あったね」
「な、何をしたの…?」
「大したことじゃないよ、ただ命令とかお願いに逆らえなくなっただけだからさ!」
「戻して!私を元に戻してー!」
「あは、お昼までには元に戻るから大丈夫だよ!」
「私は今戻して欲しいの!嫌な予感しかしないし」
「それは無理だよー、戻し方知らないもん」
「"もん"じゃないよ!全然可愛くないからね!」
「まぁまぁ。ほっとけば戻るんだからいいじゃん」
とりあえず座りなよと王馬くんは椅子を引っ張り出してきた。
逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、やっぱり体は勝手に動いてその椅子に座り始める。
王馬くんがデスクライトを取り出し私の顔を照らした。
さっきほどでは無いが眩しいのに変わりなく、思わず眉間に皺を寄せたが彼は全く気にする様子もなく楽しそうに笑っていた。
「さぁ観念しろー!今日という今日は知ってること全て吐いてもらうからな!」
「なんの話をしてるの!?」
「刑事ごっこだよ!一回言ってみたかったんだよねー」
「あぁそう…」
なんだ、ただのお遊びか。
割と危機的状況だと思っていたが、実際にやることはごっこ遊びなのかと思うと気が抜けた。
「答えろ、嫌いな野菜はあるか!」
「どれも特別好きではないけど嫌いでもないよ」
「なるほど、それじゃ次ね。犬派?猫派?」
「うーん、悩ましいけど猫かな」
他にも好きな教科は?とか楽しかった思い出は?とか事情聴取とはかけ離れた平和的な質問をたくさんされた。私のプロフィールでも作る気か?
別にわざわざ変な発明品を使わなくても、これくらいのことなら聞かれれば答えるのに。
「ふむふむ。じゃあ最後の質問ね」
「はーい、やっとかー」
「楽しいことは好き?」
「随分アバウトな質問だね。でもまぁ好きだよ」
「おっけー!ではこれで面接は終わりです!」
「面接…?」
刑事ごっこはどこへ行ったんだ。
そして知らぬ間に始まっていたのは一体なんの面接だったのか。
頭の中いっぱいにハテナが浮かんでいる私を他所に、王馬くんはうんうんと頷いてから私を見てニヤリと笑う。
「厳格な審査の結果…みょうじちゃんは合格だよ!オモチャ役かおやつ係かで迷ってたけど、とりあえず兼任ってことでいいかなー。それじゃ、これからよろしくね!」
「全然話が見えないんだけど…?」
「オレの組織に入れてあげるって話だよ?ほらほら入りたいよね?嬉しいよね?」
「えぇっ!?いや、私そんなこと…!」
大慌ての私に王馬くんがこそっと顔を寄せてこう囁く。
「入りたいって言え」と。しかも元気に嬉しそうになんて細かな注文までつけて。
普段だったら絶対に言うはずはないが、多分今の私は命令を拒否できないのだと思う。
まずいと思っていやいやと首を振っても口が開くのは止められず、結局私は私の意思とは裏腹に高らかに声を上げた。
「入りたいです!」
「にしし、よく言ったね!」
王馬くんは満足そうに笑いながら正面にある本棚へと近づいて行った。
この流れで急に読書なんて、気移り激しい人だな。
でも興味が他に移ってくれるのは喜ばしいことだと思い口は出さない。
しかしながら目的は読書ではなかったようで、ごそごそと何かをした後戻ってきた王馬くんの手にはビデオカメラが握られていた。
「ちゃんと証拠も残ってるから、みょうじちゃんの卒業後の進路はばっちりだね!」
「そんなの王馬くんが誘導したんだからズルじゃん!ノーカンだよ!」
「にしし、なんのことかなー?」
ビデオカメラを操作してたった今の会話が再生される。
王馬くんが私を唆したところの音声はしっかりと…残っていなかった。
「ほら、オレが誘導した証拠なんてどこにもないでしょ?」
「ぐぬぬ…」
「あは、口でそれ言う人初めて見たよ」
実力行使で映像をこの世から抹消してやる。
ビデオカメラにそっと手を伸ばすが、王馬くんがひょいっとカメラを動かして避けられる。
口で消す消さないの押し問答を繰り返しながら、お互いの手もまたカメラを巡った攻防戦を続ける。
その内に王馬くんが走って図書室から出ていったため、自然と追いかけっこが勃発した。
運動は苦手だが、どうせ追いつけないだろうと高を括ったような王馬くんの態度が私のハートに火をつけ、自分が思っていたよりも長時間走ることができた。
でも結局そもそもの運動能力の差には抗えず、自由時間が終わる頃にはすっかり彼の姿を見失ってしまったのだった。
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