10日目
おなまえ
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「おはよー!」
「お、おはよう…」
最終日の朝。
食堂へ向かおうと自室の扉を開くと、待ってましたと言わんばかりの勢いで王馬くんに挨拶をされた。
そのまま彼に手を引かれて食堂へと向かう。
前にもあったなぁ、こんなこと。
そのまま一緒に食事をとり、当たり前のように自由時間へと入っていく。
今更特に行きたいところも無いからと、ぶらぶらと中庭を歩いていた。
「今日でやっと終わりかー。ホント、始まった時はどうなることかと思ったけど…意外とみんな揃って卒業できそうだったね」
「そうだね…。恋愛関係だけじゃなくて、まさか友情を深めた相手でもOKだったとは…」
昨日の夕食時、茶柱さんからこんな話を聞いた。
自分は夢野さんと卒業するのだと。
2人ってそういう関係だったの!?と驚いていると、茶柱さんはきょとんとした顔をしていて…。
そこから赤松さんや最原くんから、実は恋人でなくとも友達同士での卒業も可能なのだとモノクマに確認したことがあるという話を聞いた。
しかも、別に2人組ではなく3人以上の友達グループでの卒業もできるのだとか。
最後はモノクマの判断基準によるところはあるそうだが、こんなことなら初日に慌てて王馬くんとの契約を結ぶ意味はなかったのかもしれない。
なんて、今となっては本心からそう思っているわけではないけれど。
「にしし、まぁそうでもしないと確実に1人は余っちゃうしねー」
「え、もしかして知ってたの?」
「どうだろうね。でもさー、わざわざそんなこと確認するより、確実に卒業できる手を打っといた方が早いじゃん」
「まぁ…それもそうか」
昨夜、就寝前に自室でこれまでの事を振り返っていた。
王馬くんから一緒に卒業するための契約を持ちかけられたこと。
ゾンビ映画に驚いたところを死ぬほど笑われたこと。
変な味のキャラメルに文句をつけたせいでおやつを作らされたこと。
入間さんの発明品によって、私が王馬くんの組織入りを希望する証拠映像を撮られたこと。
他にも体育館で王馬くんの号泣を爆音で聞かされたり、カジノで遊んだり…と、思い返せば遊んでいたと言うより遊ばれていた思い出の方が多い。
それでも、結局最終日まで来た私の総評としては王馬くん風に言うならつまらなくない日々だったと思う。
楽しくてあっという間だった!とはとても言えないが、決して忘れられない…忘れたくない思い出が出来た。
「それで、一晩待ってあげたわけだけど…整理はついた?色々と」
「そ、それはその…昨日の話の続きってこと、でしょうか…?」
「それ以外に何かある?それとも何、もう1回言ってほしいわけ?」
「ご、ごめんなさい!…あ、いや今のはそういう意味のごめんではなくて、ちょっと分かってたのに確認してごめんなさいって意味で…!」
「はいはい分かってるよ。にしし、最終日になってもみょうじちゃんは騒がしいなぁ」
そういうところが好きなんだけど、と言いながら王馬くんは余裕の微笑みを浮かべる。
どうしてこういう時はこんなに素直に…いや、もしかしたら全部私を騙すための嘘だったという可能性も…?
ちらりと王馬くんに視線を向けると、「言っとくけど、今回は嘘ついてないからね」と釘を刺すように言われてしまった。
相変わらず私の思考回路は彼に筒抜けのようだ。
「…で、どうなの?」
「えっと……」
実際のところ、一晩ごときで気持ちの整理なんてつけられなかった。
寝不足覚悟で布団の中で考え込んでいたところ、いつの間にか眠ってしまっていて時間切れになった…なんて、そんな理由ではない。…いや、少しはあるかもしれないけど。
私は王馬くんが好き、かもしれない。
それがどんな種類の好きなのか、それくらいは経験値不足の私にだって分かる。
友人への感情と彼への感情はあまりにも違ったから。
そこまで考えて最後に残った問題は、「かもしれない」が払拭しきれないことだった。
非日常な展開、いつもと違う環境、初めて会う人達の中の王馬くんという特殊な人物。
あまりにも普通とかけ離れた状況で冷静な判断が下せるほど、私はできた人間じゃなかった。
好きかもしれない、なんて曖昧な返答をしていいものだろうか。
変に気を持たせて、やっぱり違いました!なんて言われたらどんなに強固なメンタルの持ち主でも無傷では済まないだろう。
…王馬くん、メンタル強いのかな?強そうだけど。
そんな具合に断線しつつある思考回路を元に戻そうと首を振る。
王馬くんは待ちくたびれたのか、どこから出したのかいつの間にかガムを食べ始めていた。
これは待ってくれているということ?
彼の行動を好意的に解釈した私は、これ幸いと思考を続けた。
…が、やはり一人で考え込んでも堂々巡りに陥るだけで一向に納得のいく答えにはたどり着けない。
「…そんなに悩むんだ?」
王馬くんが私の眉間のシワを指さして、やや呆れ顔でそう言った。
ハッとして眉を定位置に戻し、申し訳なさや焦りから思わず「ごめん…」と声が漏れ出る。
「別に謝られるようなことはされてないじゃん。みょうじちゃん、変なとこで真面目だよねー」
王馬くんは本当に気にしていないようで、いつものように笑っていた。
そして、ふと何かを思いついたように私に向き直る。
「一緒に考えてあげよっか」
「えぇ!?いや、それ意味分かんなすぎるでしょ」
「だって、みょうじちゃん1人で考えてもどうせ結論出ないじゃん」
「うぐ…それは否定しきれない…」
「ほら、どこで何につまずいてるのか教えてみなよ」
こういう時は妙に優しい声で話すんだなぁ。
思っていただけのつもりがいつの間にか口から出ていたようで、「割といつも優しいでしょ」と抗議の声が聞こえてきた。
決してそんなことはない、と心の中で反論してから、私は意を決してたどり着いた問題点を彼に伝えてみることにした。
「その、どんなに考えても“かもしれない”が拭えなくて…。今、あんまり普通な状況じゃないし冷静な判断ができかねると言いますか…」
なんとなく「好きかも」と伝えるのが悔しいような気がして、つい濁した言い方をしてしまった。
王馬くんは私をじっと見つめて「それはどっちの意味で?」とごく自然な疑問をぶつけてくる。
いや、そりゃそうなりますよね…!と内心思いつつ、その答えを告げようとした。
が、告げようとした途端唇が震え出す。
さっきまで普通に会話していたはずが、話し方を忘れてしまったみたいに言葉が発せない。
急速に喉が渇いて、不思議なくらい手から汗が滲み出してくる。
心臓だってこんなにうるさい音がするんだって今初めて知った。
ドがつくほどの緊張ってこういうことなのかもしれない。
どうしようと思うほどどうしていいか分からなくなって、私はぱくぱくと口を動かすことしか出来なかった。
王馬くんはそんな私を見て小さく笑ったあと、何かを思いついたように噛んでいたガムを膨らませ始める。
なんだろうとどんどん大きくなる風船を眺め、それがちょうど彼の顔位の大きさになったその時。
“パァン!!”
「うるさっ!?」
鼓膜を突き破るんじゃないかと思うくらいとんでもない破裂音が響いて、私は耳を塞ぎながら反射的にそう叫んでいた。
…あ、声出た。ってそうじゃなくて。
「あはは!みょうじちゃんビビりすぎ!」
「いやいや、あんなの誰だってビビるから!」
「でも声出たじゃん。良かったね!」
面白い顔だった、と付け加えて笑う王馬くん。
確かに声は出たけど!と言いながら、何故か私まで笑えてきてしまってまともに文句もつけられない。
少しの間笑い合って、笑い声が収まってきた頃に王馬くんが「話せそう?」と声をかけてきた。
なんだろう、ちょっとだけ分かった気がする。やっぱり私は…。
「好き…かもしれない。王馬くんのこと。………なんか悔しいけど」
「えー、なんで悔しいのー?」
「だ、だって王馬くんだよ!?あの王馬くんなんだよ!?」
「にしし…真っ向から失礼な言葉だけど、告白の返事としてはなかなかつまらなくないね!」
つまらなくない、というのはどうやら王馬くんにとって褒め言葉らしい。
性格も思考も好みも、何もかも分かりにくい人だ。
「にしし…ま、みょうじちゃんがなんて答えたとしても結論は変わらなかったかもしれないけどね!」
意味ありげに笑う王馬くんがこれまた意味深なことを言う。
私の答えに関係なく、結論が同じ?
そんなことってあるだろうか。
もしも私が王馬くんのことが好き……かもと思わなかったとしたら、考えられる結論なんて今とは全然違うものになるような気がする。
意味がわからず首を捻っていると、ニヤニヤした顔の王馬くんが懐から何かを取り出した。
「これなーんだ?」
「えっ、ビデオカメラ…?………あああっ!」
「嘘でしょ、忘れてたの…?みょうじちゃんの今後の人生を揺るがすかもしれない証拠映像だっていうのにさ!」
「ま、まさか私の回答次第ではそれを使って揺すろうと…!?」
「さぁ、どうだっただろうね?…少なくともこの世界線では必要なくなっちゃったから、これはみょうじちゃんにあげるね」
王馬くんがビデオカメラを私に差し出す。
一体別の世界線ではこれをどう使われる予定だったんだろうか。
そう思いながらカメラを操作してみると、不思議なことに中にはなんのデータも入っていなかった。
「…あれ、これ何も入ってないよ?」
「だってみょうじちゃんに見せてあげた後すぐ消したもん」
「はい!?」
なんと、私に証拠映像として見せたあの後すぐにデータは消去されていたらしい。
なんだ、良かった……と思いかけたが、その後に地獄の追いかけっこをした事を思い出す。
「…あの、もしかしてなんですけど」
「うん?」
「その後の追いかけっこって全くもって無意味だった…なんてことあります…?」
「…あー……うん、楽しかったよね!」
いつになく爽やかな笑顔を浮かべた王馬くんがそう言った。
その回答の意味はつまり、あれは無意味だったと言うことなんだろう。
なんだか最初から最後まで王馬くんに振り回されっぱなしだ。
あぁ、ふつふつと沸き上がるこの感情はなんだろう。
必死に王馬くんを追いかけた私も、映像を盾に未来の部下扱いされた私も、全部無意味だったのかぁ。
「あれ、みょうじちゃんどうしたの?」
「…お」
「お?」
「王馬くんのバカヤロー!!」
最後くらいは一発お見舞いしてやったってバチは当たらないだろう。
しかし彼は私の攻撃をひらりとかわし、いつものように余裕の表情を浮かべながら校舎へ向かって駆け出した。
その背中を追って、才囚学園における私と王馬くんの最後の追いかけっこが始まったのだった。
「お、おはよう…」
最終日の朝。
食堂へ向かおうと自室の扉を開くと、待ってましたと言わんばかりの勢いで王馬くんに挨拶をされた。
そのまま彼に手を引かれて食堂へと向かう。
前にもあったなぁ、こんなこと。
そのまま一緒に食事をとり、当たり前のように自由時間へと入っていく。
今更特に行きたいところも無いからと、ぶらぶらと中庭を歩いていた。
「今日でやっと終わりかー。ホント、始まった時はどうなることかと思ったけど…意外とみんな揃って卒業できそうだったね」
「そうだね…。恋愛関係だけじゃなくて、まさか友情を深めた相手でもOKだったとは…」
昨日の夕食時、茶柱さんからこんな話を聞いた。
自分は夢野さんと卒業するのだと。
2人ってそういう関係だったの!?と驚いていると、茶柱さんはきょとんとした顔をしていて…。
そこから赤松さんや最原くんから、実は恋人でなくとも友達同士での卒業も可能なのだとモノクマに確認したことがあるという話を聞いた。
しかも、別に2人組ではなく3人以上の友達グループでの卒業もできるのだとか。
最後はモノクマの判断基準によるところはあるそうだが、こんなことなら初日に慌てて王馬くんとの契約を結ぶ意味はなかったのかもしれない。
なんて、今となっては本心からそう思っているわけではないけれど。
「にしし、まぁそうでもしないと確実に1人は余っちゃうしねー」
「え、もしかして知ってたの?」
「どうだろうね。でもさー、わざわざそんなこと確認するより、確実に卒業できる手を打っといた方が早いじゃん」
「まぁ…それもそうか」
昨夜、就寝前に自室でこれまでの事を振り返っていた。
王馬くんから一緒に卒業するための契約を持ちかけられたこと。
ゾンビ映画に驚いたところを死ぬほど笑われたこと。
変な味のキャラメルに文句をつけたせいでおやつを作らされたこと。
入間さんの発明品によって、私が王馬くんの組織入りを希望する証拠映像を撮られたこと。
他にも体育館で王馬くんの号泣を爆音で聞かされたり、カジノで遊んだり…と、思い返せば遊んでいたと言うより遊ばれていた思い出の方が多い。
それでも、結局最終日まで来た私の総評としては王馬くん風に言うならつまらなくない日々だったと思う。
楽しくてあっという間だった!とはとても言えないが、決して忘れられない…忘れたくない思い出が出来た。
「それで、一晩待ってあげたわけだけど…整理はついた?色々と」
「そ、それはその…昨日の話の続きってこと、でしょうか…?」
「それ以外に何かある?それとも何、もう1回言ってほしいわけ?」
「ご、ごめんなさい!…あ、いや今のはそういう意味のごめんではなくて、ちょっと分かってたのに確認してごめんなさいって意味で…!」
「はいはい分かってるよ。にしし、最終日になってもみょうじちゃんは騒がしいなぁ」
そういうところが好きなんだけど、と言いながら王馬くんは余裕の微笑みを浮かべる。
どうしてこういう時はこんなに素直に…いや、もしかしたら全部私を騙すための嘘だったという可能性も…?
ちらりと王馬くんに視線を向けると、「言っとくけど、今回は嘘ついてないからね」と釘を刺すように言われてしまった。
相変わらず私の思考回路は彼に筒抜けのようだ。
「…で、どうなの?」
「えっと……」
実際のところ、一晩ごときで気持ちの整理なんてつけられなかった。
寝不足覚悟で布団の中で考え込んでいたところ、いつの間にか眠ってしまっていて時間切れになった…なんて、そんな理由ではない。…いや、少しはあるかもしれないけど。
私は王馬くんが好き、かもしれない。
それがどんな種類の好きなのか、それくらいは経験値不足の私にだって分かる。
友人への感情と彼への感情はあまりにも違ったから。
そこまで考えて最後に残った問題は、「かもしれない」が払拭しきれないことだった。
非日常な展開、いつもと違う環境、初めて会う人達の中の王馬くんという特殊な人物。
あまりにも普通とかけ離れた状況で冷静な判断が下せるほど、私はできた人間じゃなかった。
好きかもしれない、なんて曖昧な返答をしていいものだろうか。
変に気を持たせて、やっぱり違いました!なんて言われたらどんなに強固なメンタルの持ち主でも無傷では済まないだろう。
…王馬くん、メンタル強いのかな?強そうだけど。
そんな具合に断線しつつある思考回路を元に戻そうと首を振る。
王馬くんは待ちくたびれたのか、どこから出したのかいつの間にかガムを食べ始めていた。
これは待ってくれているということ?
彼の行動を好意的に解釈した私は、これ幸いと思考を続けた。
…が、やはり一人で考え込んでも堂々巡りに陥るだけで一向に納得のいく答えにはたどり着けない。
「…そんなに悩むんだ?」
王馬くんが私の眉間のシワを指さして、やや呆れ顔でそう言った。
ハッとして眉を定位置に戻し、申し訳なさや焦りから思わず「ごめん…」と声が漏れ出る。
「別に謝られるようなことはされてないじゃん。みょうじちゃん、変なとこで真面目だよねー」
王馬くんは本当に気にしていないようで、いつものように笑っていた。
そして、ふと何かを思いついたように私に向き直る。
「一緒に考えてあげよっか」
「えぇ!?いや、それ意味分かんなすぎるでしょ」
「だって、みょうじちゃん1人で考えてもどうせ結論出ないじゃん」
「うぐ…それは否定しきれない…」
「ほら、どこで何につまずいてるのか教えてみなよ」
こういう時は妙に優しい声で話すんだなぁ。
思っていただけのつもりがいつの間にか口から出ていたようで、「割といつも優しいでしょ」と抗議の声が聞こえてきた。
決してそんなことはない、と心の中で反論してから、私は意を決してたどり着いた問題点を彼に伝えてみることにした。
「その、どんなに考えても“かもしれない”が拭えなくて…。今、あんまり普通な状況じゃないし冷静な判断ができかねると言いますか…」
なんとなく「好きかも」と伝えるのが悔しいような気がして、つい濁した言い方をしてしまった。
王馬くんは私をじっと見つめて「それはどっちの意味で?」とごく自然な疑問をぶつけてくる。
いや、そりゃそうなりますよね…!と内心思いつつ、その答えを告げようとした。
が、告げようとした途端唇が震え出す。
さっきまで普通に会話していたはずが、話し方を忘れてしまったみたいに言葉が発せない。
急速に喉が渇いて、不思議なくらい手から汗が滲み出してくる。
心臓だってこんなにうるさい音がするんだって今初めて知った。
ドがつくほどの緊張ってこういうことなのかもしれない。
どうしようと思うほどどうしていいか分からなくなって、私はぱくぱくと口を動かすことしか出来なかった。
王馬くんはそんな私を見て小さく笑ったあと、何かを思いついたように噛んでいたガムを膨らませ始める。
なんだろうとどんどん大きくなる風船を眺め、それがちょうど彼の顔位の大きさになったその時。
“パァン!!”
「うるさっ!?」
鼓膜を突き破るんじゃないかと思うくらいとんでもない破裂音が響いて、私は耳を塞ぎながら反射的にそう叫んでいた。
…あ、声出た。ってそうじゃなくて。
「あはは!みょうじちゃんビビりすぎ!」
「いやいや、あんなの誰だってビビるから!」
「でも声出たじゃん。良かったね!」
面白い顔だった、と付け加えて笑う王馬くん。
確かに声は出たけど!と言いながら、何故か私まで笑えてきてしまってまともに文句もつけられない。
少しの間笑い合って、笑い声が収まってきた頃に王馬くんが「話せそう?」と声をかけてきた。
なんだろう、ちょっとだけ分かった気がする。やっぱり私は…。
「好き…かもしれない。王馬くんのこと。………なんか悔しいけど」
「えー、なんで悔しいのー?」
「だ、だって王馬くんだよ!?あの王馬くんなんだよ!?」
「にしし…真っ向から失礼な言葉だけど、告白の返事としてはなかなかつまらなくないね!」
つまらなくない、というのはどうやら王馬くんにとって褒め言葉らしい。
性格も思考も好みも、何もかも分かりにくい人だ。
「にしし…ま、みょうじちゃんがなんて答えたとしても結論は変わらなかったかもしれないけどね!」
意味ありげに笑う王馬くんがこれまた意味深なことを言う。
私の答えに関係なく、結論が同じ?
そんなことってあるだろうか。
もしも私が王馬くんのことが好き……かもと思わなかったとしたら、考えられる結論なんて今とは全然違うものになるような気がする。
意味がわからず首を捻っていると、ニヤニヤした顔の王馬くんが懐から何かを取り出した。
「これなーんだ?」
「えっ、ビデオカメラ…?………あああっ!」
「嘘でしょ、忘れてたの…?みょうじちゃんの今後の人生を揺るがすかもしれない証拠映像だっていうのにさ!」
「ま、まさか私の回答次第ではそれを使って揺すろうと…!?」
「さぁ、どうだっただろうね?…少なくともこの世界線では必要なくなっちゃったから、これはみょうじちゃんにあげるね」
王馬くんがビデオカメラを私に差し出す。
一体別の世界線ではこれをどう使われる予定だったんだろうか。
そう思いながらカメラを操作してみると、不思議なことに中にはなんのデータも入っていなかった。
「…あれ、これ何も入ってないよ?」
「だってみょうじちゃんに見せてあげた後すぐ消したもん」
「はい!?」
なんと、私に証拠映像として見せたあの後すぐにデータは消去されていたらしい。
なんだ、良かった……と思いかけたが、その後に地獄の追いかけっこをした事を思い出す。
「…あの、もしかしてなんですけど」
「うん?」
「その後の追いかけっこって全くもって無意味だった…なんてことあります…?」
「…あー……うん、楽しかったよね!」
いつになく爽やかな笑顔を浮かべた王馬くんがそう言った。
その回答の意味はつまり、あれは無意味だったと言うことなんだろう。
なんだか最初から最後まで王馬くんに振り回されっぱなしだ。
あぁ、ふつふつと沸き上がるこの感情はなんだろう。
必死に王馬くんを追いかけた私も、映像を盾に未来の部下扱いされた私も、全部無意味だったのかぁ。
「あれ、みょうじちゃんどうしたの?」
「…お」
「お?」
「王馬くんのバカヤロー!!」
最後くらいは一発お見舞いしてやったってバチは当たらないだろう。
しかし彼は私の攻撃をひらりとかわし、いつものように余裕の表情を浮かべながら校舎へ向かって駆け出した。
その背中を追って、才囚学園における私と王馬くんの最後の追いかけっこが始まったのだった。
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