9日目
おなまえ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大変気まずいことになってしまった。
私は多分王馬くんに謝らなければいけない立場だ。
何度考え直しても、昨日の私は我ながら意味不明で…それはもうやっかいな奴だった。
こんな時に限って午前中に約束をしてしまうなんて。
あの時に戻れるなら断固として午後に…いや、でも午後にしたところで気まずさは変わらないか。
とにかく顔を合わせる勇気がなく、朝食の時間もいつもより早く行って早く食べて早く出てきたわけだ。
自由時間まで心の準備を…と、そういうつもりであちこちをフラフラ歩いてみたものの結局準備など整うはずもなく。
用もないのに校舎の2階までやってきて、きっと既に午前の自由時間がスタートしているにも関わらず誰にも会わないような場所を探し始めてしまっている。
「多分、もう時間過ぎてるよね…。あぁ、どうしよう」
「あれ、みょうじさん。こんなところでどうしたの?」
「ひぃっ!…あ、ゴン太くんか…あはは、えっと…ちょっとブラブラと散歩してたんだ。ゴン太くんこそどうしたの?」
「ゴン太は…もうすぐここでの生活も終わりだから、研究教室の虫さんたちにご飯をあげてたんだ」
ゴン太くんの研究教室…正直に言うと虫が苦手な私は足を踏み入れたことはないが、結構な数の虫が飼育されているらしい。
彼は腕に葉っぱの破片やらゼリーの空き容器やら色々なものを抱えており、そのエサやりの残骸の量からも相当数の虫がいることは事実なのだろうと思う。
「虫さん達のお家はここだから、一緒に連れて帰ることはできないんだって」
「そっか…」
「せっかくお友達になったのに少し寂しいけど、紳士は別れ際まで笑顔を絶やさないものだって教わったんだ!だから、ちゃんと守るよ」
「ふふ、ゴン太くんならきっと大丈夫だね」
立ち話もなんだし、とそのままゴン太くんと食堂でお茶でもしようかということになった。
現在進行形で約束をすっぽかし中の王馬くんのことが気がかりではあったけれど、忘れていることにして見ないふりをした。
*****
「ここでみんなと生活するのもあと1日なんだね」
「そうだねぇ。始まった時は10日間なんて長すぎると思ってたけど、ここまで来たらあっという間だったような………あー、でもやっぱり私には長かったかも?」
「あはは。…結局、恋愛?ってゴン太にはよく分からないままだったよ」
恋愛観察バラエティ。
そういえばここでの生活はそう題されて始まったものだ。
確かに、ゴン太くんは恋愛というよりは友情を育んできたんだろうな…という印象を受ける。
そもそも初めて会った同世代のメンバー間で「今から自由に恋愛してください!」なんて言われて、次の瞬間から惚れた腫れたの大騒ぎとなる思春期はなかなかいないだろう。
気恥しさとか戸惑いとか、そういう感情が先に来る人が多いと思うし。
「恋愛かぁ…私にもよく分かんないや」
「みょうじさんも?突然、好きな人を作れって言われてもよく分からないよね」
「好きな人…ねぇ」
なぜだか王馬くんの顔が浮かんできて、慌ててそれをかき消すように頭を抱えた。
いや、それは違うから!
これは…その、ほら。
今まさに約束を破っている真っ最中で…その罪悪感から王馬くんという存在が私の中で強調されてるだけで。
決して特別な感情とかそういうのではない!絶対!
「大丈夫…?」
「だっ大丈夫!私も好きな人いない!うん、絶対いない!だって絶対ありえないもん!うん、そう、ないない!」
「そ、そうなんだ…?」
つい熱が入って畳み掛けるようにそう言うと、ゴン太くんは少し困惑した様子で頷いてくれた。
困らせてごめんねゴン太くん、今のはほとんど自分に言ったようなものかもしれない。
心の中で彼への懺悔をしていると、突如私の頭のてっぺんを誰かに鷲掴みされて飛び上がった。
頭から押さえつけられているせいで実際は少しビクッと動いただけなのだが、心臓は一気にバクバクと音を立て始めている。
私を掴む手の主を確かめる間もなく、背後から今一番聞きたくなかった人の声が聞こえてきた。
「へ~~~?なんだか面白そうな話してるね、オレも混ぜてよ!」
「あ、王馬くん!いいよ、今みょうじさんと恋愛についての話を…」
「わ、わー!ゴン太くん、今その話はちょうど終わったところだよね!ね!?」
「え?うーん、そうだったかな…」
「えー?オレもその話聞きたいなぁ。ねぇゴン太、どんな話してたのか詳しく教えてくれるよね?」
王馬くんはそう言いながらも、私を逃がすまいと出入口への退路を断つように扉に近い側の私の隣の席へ腰掛ける。
ど、ど、どうしよう。
これまでの人生でかつてないほど冷や汗を量産しているかもしれない。
「あれ、王馬くんなんだかボロボロだけど…大丈夫?」
「大丈夫だよ!どっかの誰かさんがオレとの約束すっぽかしてくれちゃってさー、あちこち探し回ってたらこんなボロボロになっちゃったってだけ!」
「えぇっ、そんな…ひどいよ…!」
「ホント酷いよねー。どんなつもりでどこで何してるのかは知らないけど。…ね、みょうじちゃん?」
「あ、あ…えっと……」
「約束は守らないといけないって知ってるよ!王馬くん、大変だったんだね。みょうじさんもそう思うよね?」
「…はい、めちゃくちゃ酷いと思います…」
ごめんなさい。その約束をすっぽかした酷い人は私です。
ゴン太くんのただただ純粋に王馬くんを心配する様子を見て心が痛む。
いや、まぁ本当に…今回の件は1から10まで私が悪いとしか言いようがないんだけど…。
こっそりと王馬くんの方へ視線を移せば、いつもの胡散臭い笑顔を浮かべながらゴン太くんと談笑する姿が見えた。
これは怒ってる…んだろうか。普段通りに見えるけど、普通に考えたら怒るところだよね。
そうは思いつつも謝る勇気がなく、気まずさから私はそっと王馬くんから視線を逸らした。
「へー、ゴン太もみょうじちゃんも好きな子いないんだぁ」
「うん!そうだよね、みょうじさん」
「へっ!?…あ、はい、そうです!いません絶対に」
「そっかー。ゴン太はともかくみょうじちゃんはそんなことなさそうだったのにね?」
「えっ…」
ど、どういう意味だろう。
まさか私の悩みの内容を知って…?なんて、そんなわけないか。
「王馬くんはどう?好きな人、いるの?」
「いないよ。…嘘だけど!ホントはね、すっごく好きな子がいるんだ。まぁもちろんこれも嘘なんだけどね!」
「え?え?いる…いない、嘘?ご、ゴン太…よく分からなくなっちゃったよ…」
王馬くんの嘘に翻弄されたゴン太くんの頭から、たくさんのはてなマークが見えた気がする。
「にしし、悪の総統の恋愛事情なんて簡単に教えるわけないじゃーん!ま、でもそうだね…みょうじちゃんがホントのこと教えてくれるならオレも考えなくもないけど?」
「ええっ、みょうじさんの話も嘘だったの?ゴン太には難しいよ…!」
「う、嘘じゃない!ゴン太くん、私は嘘ついてない!」
「ホントかな~?」
「ほ、本当だよ!私がそんな嘘つく理由ないし…」
王馬くんの冷たい視線が私を射抜く。
冷や汗が止まらず、もう首の辺りなんてびしょびしょだ。
だけど彼の視線から逃れる術もなく、私はなるべく目が会わないように努めることしか出来ない。
「…」
「王馬くん、どうかしたの?」
「なんでもないよー!…あ、もうすぐ自由時間も終わりだね」
「あ、本当だね!ゴン太、研究教室に少し用が残ってるからそろそろ行くね。王馬くん、みょうじさん、またね」
「ご、ゴン太くん…!」
「行ってらっしゃーい!」
ゴン太くんは元気に手を振りながら席を立ち、扉の方へと歩いていってしまう。
あぁ、私のことも連れて行って欲しい…なんて現実逃避をしてみるが当然それが叶うはずもない。
彼が出ていき、扉が閉まりきった時。
ダンッ
王馬くんが力強くテーブルに拳を叩きつけ、作り笑いを貼り付けた不気味な表情で私を見つめた。
「で?昨日といい今日といい…どういうつもりなのかちゃんと教えてくれる?」
「…ごめんなさい……」
蚊の鳴くような声でそう答えるのが精一杯だった。
王馬くんは呆れたようにため息をつき、作り笑いをやめて無表情に私を睨む。
「謝罪なんて求めてないよ。どういうつもりだったのかって理由を聞いてるんだけど」
「それは…その…えっと…」
ひぃぃ、怖いぃい!なんて叫びながら逃げ出したいところだったが、じっと監視するように睨まれている状況でそんなことをする勇気はない。
それに理由と聞かれても、私にも自分自身の行動が不可解すぎて困っているくらいだ。
どう答えればいい?どうする、私?
色々と頭の中を巡らせた結果、私はもう正直に全て話すしかないと腹を括った。
「ほ、本当にごめんなさい…実は、私にも自分の行動がよく分からないところがあるんだけど…」
気まずくてつい約束をすっぽかしてしまったこと。
私とは卒業のために過ごしているだけで、本当は一緒にいて楽しくもなんともないんだろうなぁ…なんて考えたこと。
入間さんといる方が楽しいんじゃないかと思ってモヤモヤしてしまったこと。
まるで王馬くんのことを好きみたいな悩みだなぁ…と考えたことだけは言えなかったが、王馬くんは私の話を黙って聞いて、聞き終わった後はこれまた大きなため息をつきながらテーブルに突っ伏してしまった。
「あの…王馬くん…?」
「…みょうじちゃんってさぁ、ホントにバカだよね」
「うっ…今回ばかりは否定できない…」
「まぁ、嘘つかずにちゃんと答えてくれたみたいだから一応許してあげるよ」
「ありがとうございます…!」
ちょうど私がぺこぺこと頭を下げているところに、昼食をとりに来た人達が入ってきた。
茶柱さんのどうしたのかという絶叫が響き、最原くんには苦笑いをされて、赤松さんは何故だかニヤニヤと私と王馬くんのことを交互に見ていた。
そんな中、春川さんがボソッと言った「ししおどし…?」という言葉を私は聞き逃さなかった。
ものすごく無理やりだけど私はししおどしの物真似を披露していたということにして、その後も何度かやらされたせいですっかり肩や首が痛くなってしまった。
そのままみんなでご飯を食べ、それぞれの自室へ一旦戻る。
別れ際、王馬くんに「午後にしっかり埋め合わせしてくれるんだよね?」と言われたので、今度こそちゃんと自由時間を過ごそうと心に誓った。
私は多分王馬くんに謝らなければいけない立場だ。
何度考え直しても、昨日の私は我ながら意味不明で…それはもうやっかいな奴だった。
こんな時に限って午前中に約束をしてしまうなんて。
あの時に戻れるなら断固として午後に…いや、でも午後にしたところで気まずさは変わらないか。
とにかく顔を合わせる勇気がなく、朝食の時間もいつもより早く行って早く食べて早く出てきたわけだ。
自由時間まで心の準備を…と、そういうつもりであちこちをフラフラ歩いてみたものの結局準備など整うはずもなく。
用もないのに校舎の2階までやってきて、きっと既に午前の自由時間がスタートしているにも関わらず誰にも会わないような場所を探し始めてしまっている。
「多分、もう時間過ぎてるよね…。あぁ、どうしよう」
「あれ、みょうじさん。こんなところでどうしたの?」
「ひぃっ!…あ、ゴン太くんか…あはは、えっと…ちょっとブラブラと散歩してたんだ。ゴン太くんこそどうしたの?」
「ゴン太は…もうすぐここでの生活も終わりだから、研究教室の虫さんたちにご飯をあげてたんだ」
ゴン太くんの研究教室…正直に言うと虫が苦手な私は足を踏み入れたことはないが、結構な数の虫が飼育されているらしい。
彼は腕に葉っぱの破片やらゼリーの空き容器やら色々なものを抱えており、そのエサやりの残骸の量からも相当数の虫がいることは事実なのだろうと思う。
「虫さん達のお家はここだから、一緒に連れて帰ることはできないんだって」
「そっか…」
「せっかくお友達になったのに少し寂しいけど、紳士は別れ際まで笑顔を絶やさないものだって教わったんだ!だから、ちゃんと守るよ」
「ふふ、ゴン太くんならきっと大丈夫だね」
立ち話もなんだし、とそのままゴン太くんと食堂でお茶でもしようかということになった。
現在進行形で約束をすっぽかし中の王馬くんのことが気がかりではあったけれど、忘れていることにして見ないふりをした。
*****
「ここでみんなと生活するのもあと1日なんだね」
「そうだねぇ。始まった時は10日間なんて長すぎると思ってたけど、ここまで来たらあっという間だったような………あー、でもやっぱり私には長かったかも?」
「あはは。…結局、恋愛?ってゴン太にはよく分からないままだったよ」
恋愛観察バラエティ。
そういえばここでの生活はそう題されて始まったものだ。
確かに、ゴン太くんは恋愛というよりは友情を育んできたんだろうな…という印象を受ける。
そもそも初めて会った同世代のメンバー間で「今から自由に恋愛してください!」なんて言われて、次の瞬間から惚れた腫れたの大騒ぎとなる思春期はなかなかいないだろう。
気恥しさとか戸惑いとか、そういう感情が先に来る人が多いと思うし。
「恋愛かぁ…私にもよく分かんないや」
「みょうじさんも?突然、好きな人を作れって言われてもよく分からないよね」
「好きな人…ねぇ」
なぜだか王馬くんの顔が浮かんできて、慌ててそれをかき消すように頭を抱えた。
いや、それは違うから!
これは…その、ほら。
今まさに約束を破っている真っ最中で…その罪悪感から王馬くんという存在が私の中で強調されてるだけで。
決して特別な感情とかそういうのではない!絶対!
「大丈夫…?」
「だっ大丈夫!私も好きな人いない!うん、絶対いない!だって絶対ありえないもん!うん、そう、ないない!」
「そ、そうなんだ…?」
つい熱が入って畳み掛けるようにそう言うと、ゴン太くんは少し困惑した様子で頷いてくれた。
困らせてごめんねゴン太くん、今のはほとんど自分に言ったようなものかもしれない。
心の中で彼への懺悔をしていると、突如私の頭のてっぺんを誰かに鷲掴みされて飛び上がった。
頭から押さえつけられているせいで実際は少しビクッと動いただけなのだが、心臓は一気にバクバクと音を立て始めている。
私を掴む手の主を確かめる間もなく、背後から今一番聞きたくなかった人の声が聞こえてきた。
「へ~~~?なんだか面白そうな話してるね、オレも混ぜてよ!」
「あ、王馬くん!いいよ、今みょうじさんと恋愛についての話を…」
「わ、わー!ゴン太くん、今その話はちょうど終わったところだよね!ね!?」
「え?うーん、そうだったかな…」
「えー?オレもその話聞きたいなぁ。ねぇゴン太、どんな話してたのか詳しく教えてくれるよね?」
王馬くんはそう言いながらも、私を逃がすまいと出入口への退路を断つように扉に近い側の私の隣の席へ腰掛ける。
ど、ど、どうしよう。
これまでの人生でかつてないほど冷や汗を量産しているかもしれない。
「あれ、王馬くんなんだかボロボロだけど…大丈夫?」
「大丈夫だよ!どっかの誰かさんがオレとの約束すっぽかしてくれちゃってさー、あちこち探し回ってたらこんなボロボロになっちゃったってだけ!」
「えぇっ、そんな…ひどいよ…!」
「ホント酷いよねー。どんなつもりでどこで何してるのかは知らないけど。…ね、みょうじちゃん?」
「あ、あ…えっと……」
「約束は守らないといけないって知ってるよ!王馬くん、大変だったんだね。みょうじさんもそう思うよね?」
「…はい、めちゃくちゃ酷いと思います…」
ごめんなさい。その約束をすっぽかした酷い人は私です。
ゴン太くんのただただ純粋に王馬くんを心配する様子を見て心が痛む。
いや、まぁ本当に…今回の件は1から10まで私が悪いとしか言いようがないんだけど…。
こっそりと王馬くんの方へ視線を移せば、いつもの胡散臭い笑顔を浮かべながらゴン太くんと談笑する姿が見えた。
これは怒ってる…んだろうか。普段通りに見えるけど、普通に考えたら怒るところだよね。
そうは思いつつも謝る勇気がなく、気まずさから私はそっと王馬くんから視線を逸らした。
「へー、ゴン太もみょうじちゃんも好きな子いないんだぁ」
「うん!そうだよね、みょうじさん」
「へっ!?…あ、はい、そうです!いません絶対に」
「そっかー。ゴン太はともかくみょうじちゃんはそんなことなさそうだったのにね?」
「えっ…」
ど、どういう意味だろう。
まさか私の悩みの内容を知って…?なんて、そんなわけないか。
「王馬くんはどう?好きな人、いるの?」
「いないよ。…嘘だけど!ホントはね、すっごく好きな子がいるんだ。まぁもちろんこれも嘘なんだけどね!」
「え?え?いる…いない、嘘?ご、ゴン太…よく分からなくなっちゃったよ…」
王馬くんの嘘に翻弄されたゴン太くんの頭から、たくさんのはてなマークが見えた気がする。
「にしし、悪の総統の恋愛事情なんて簡単に教えるわけないじゃーん!ま、でもそうだね…みょうじちゃんがホントのこと教えてくれるならオレも考えなくもないけど?」
「ええっ、みょうじさんの話も嘘だったの?ゴン太には難しいよ…!」
「う、嘘じゃない!ゴン太くん、私は嘘ついてない!」
「ホントかな~?」
「ほ、本当だよ!私がそんな嘘つく理由ないし…」
王馬くんの冷たい視線が私を射抜く。
冷や汗が止まらず、もう首の辺りなんてびしょびしょだ。
だけど彼の視線から逃れる術もなく、私はなるべく目が会わないように努めることしか出来ない。
「…」
「王馬くん、どうかしたの?」
「なんでもないよー!…あ、もうすぐ自由時間も終わりだね」
「あ、本当だね!ゴン太、研究教室に少し用が残ってるからそろそろ行くね。王馬くん、みょうじさん、またね」
「ご、ゴン太くん…!」
「行ってらっしゃーい!」
ゴン太くんは元気に手を振りながら席を立ち、扉の方へと歩いていってしまう。
あぁ、私のことも連れて行って欲しい…なんて現実逃避をしてみるが当然それが叶うはずもない。
彼が出ていき、扉が閉まりきった時。
ダンッ
王馬くんが力強くテーブルに拳を叩きつけ、作り笑いを貼り付けた不気味な表情で私を見つめた。
「で?昨日といい今日といい…どういうつもりなのかちゃんと教えてくれる?」
「…ごめんなさい……」
蚊の鳴くような声でそう答えるのが精一杯だった。
王馬くんは呆れたようにため息をつき、作り笑いをやめて無表情に私を睨む。
「謝罪なんて求めてないよ。どういうつもりだったのかって理由を聞いてるんだけど」
「それは…その…えっと…」
ひぃぃ、怖いぃい!なんて叫びながら逃げ出したいところだったが、じっと監視するように睨まれている状況でそんなことをする勇気はない。
それに理由と聞かれても、私にも自分自身の行動が不可解すぎて困っているくらいだ。
どう答えればいい?どうする、私?
色々と頭の中を巡らせた結果、私はもう正直に全て話すしかないと腹を括った。
「ほ、本当にごめんなさい…実は、私にも自分の行動がよく分からないところがあるんだけど…」
気まずくてつい約束をすっぽかしてしまったこと。
私とは卒業のために過ごしているだけで、本当は一緒にいて楽しくもなんともないんだろうなぁ…なんて考えたこと。
入間さんといる方が楽しいんじゃないかと思ってモヤモヤしてしまったこと。
まるで王馬くんのことを好きみたいな悩みだなぁ…と考えたことだけは言えなかったが、王馬くんは私の話を黙って聞いて、聞き終わった後はこれまた大きなため息をつきながらテーブルに突っ伏してしまった。
「あの…王馬くん…?」
「…みょうじちゃんってさぁ、ホントにバカだよね」
「うっ…今回ばかりは否定できない…」
「まぁ、嘘つかずにちゃんと答えてくれたみたいだから一応許してあげるよ」
「ありがとうございます…!」
ちょうど私がぺこぺこと頭を下げているところに、昼食をとりに来た人達が入ってきた。
茶柱さんのどうしたのかという絶叫が響き、最原くんには苦笑いをされて、赤松さんは何故だかニヤニヤと私と王馬くんのことを交互に見ていた。
そんな中、春川さんがボソッと言った「ししおどし…?」という言葉を私は聞き逃さなかった。
ものすごく無理やりだけど私はししおどしの物真似を披露していたということにして、その後も何度かやらされたせいですっかり肩や首が痛くなってしまった。
そのままみんなでご飯を食べ、それぞれの自室へ一旦戻る。
別れ際、王馬くんに「午後にしっかり埋め合わせしてくれるんだよね?」と言われたので、今度こそちゃんと自由時間を過ごそうと心に誓った。
1/2ページ