8日目
おなまえ
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昼食を食べ終え、私は言われた通り中庭へと足を運んだ。
既に到着していた王馬くんに促されるまま、彼の腰かけるベンチの隣に座る。
隣同士だと顔を合わせなくていいから楽かも…なんて、午前中のモヤモヤを未だに引きずっていた私はそんなことを考えていた。
「明日は…午前中でいいか、いいよね?」
「うん、分かった」
「じゃあよろしくー。…あ、そうだ。昨日お菓子、置いてったのってみょうじちゃんだよね?ありがとねー。なかなか悪くなかったよ」
「あ…うん、そう。良かった」
「でもさー、せっかくなら手渡ししてくれたら良かったのに。入間ちゃんに見つかって、なんでオレにだけー!?ってうるさかったんだよ」
「…そう、なんだ。でも、行った時王馬くんいなかったし」
「そっかー。ま、オレも色々と暇じゃないからねー」
個室のドアに掛けたものを、どうして入間さんと一緒に発見することになるんだろう。
もしかして、王馬くんの部屋で一緒に過ごそうとしたところだったとか?
別に、わたしには関係ないことだからいいんだけど…というよりとやかく言う筋合いなんてないんだけど。
なんだか胸の中のモヤモヤがどんどん大きくなっていく。
それは私の表情にも浮かんでいたようで、どうかした?と聞かれて慌てて首を振る。
どうかしたか、なんて私にもよく分からない。
王馬くんはといえば午前中に引き続き大変機嫌がよろしいようで、鼻歌交じりに足をプラプラと揺らしていた。
「王馬くんは調子良さそうだね。何かいい事でもあったの?」
「んー?まぁね。でもみょうじちゃんには教えてあげなーい」
何それ、私じゃなかったら教えるってこと?例えば…入間さんだったりしたら。
って、あー…違う違う、何考えてるの私。
今日はずっと思考回路がおかしいよ。こんなのいつもの王馬くんの軽口じゃないの。
「みょうじちゃんは調子悪そうだね。なんかあった?あ、今度こそ生理?」
「違います!…別になんでもないよ。あとそれセクハラになりますからね」
「たはー!オレって部下にはパワハラはしてもセクハラはしないっていうのが信条だったのになー、嘘だけど」
ペラペラと軽口を吐き続ける王馬くんを見ていると、なんだかうじうじと悩んでいる自分が馬鹿らしくなってきた。
…って、そもそもなんで悩んでるんだっけ。
「うんうん、悩める部下のメンタルケアも出来る上司の仕事の内だよね」
「はっ!?いや、悩んでなんかない…っていうか私王馬くんの部下じゃないから!」
「あぁ、ごめんごめん。未来の部下だったね」
「未来も部下じゃない!絶対!」
「はいはい。みょうじちゃんがどう言おうが、オレの中ではもう決定事項だからさ。今のうちに好きに吠えてなよ」
こちらに向かって手をひらひらと振ってくる王馬くんに少しの苛立ちは芽生えたが、先程まで胸の辺りにあったモヤモヤはいつの間にか消えていた。
これなら晩御飯は美味しく食べられそう…なんて、能天気なことも考えられるくらいになっている。
「…で?みょうじちゃんは一体何をうじうじモヤモヤ悩んでたの?」
心の中でも読まれたのかと反射的にギクリと肩が跳ねてしまったが、いらぬ誤解しか生みそうにないようなことをペラペラと話すわけにはいかない。
そもそも私自身何にどう悩んでいるのかしっかりと言語化出来ているわけでもない。
ほらほらと言わんばかりに私の目を覗き込む王馬くんをしっかりと見据えて、なんとか誤魔化さなければという思いで声を発した。
「な、悩んでないって!ほら私って見るからに悩みとかなさそうでしょ?だってバカだもん!」
「あは、確かにそうだね!みょうじちゃんみたいな能天気バカは悩みとは対極の存在だもんね!」
「だっ、誰が能天気バカよ!私にだって悩みの一つや二つあるわ!年頃の乙女舐めんな!」
「へぇ、やっぱり悩みあるんだ」
しまったと思ったがもう遅い。
自分の馬鹿さ加減を恨んだが、王馬くんの絶対に吐かせてやると言わんばかりの表情を見て後悔している場合ではないと悟る。
何か適当な悩みでもでっちあげて切り抜けられないだろうか。
「ちょ、ちょっと太ったかなー…みたいな?」
「あのさぁ、いくらなんでも雑な嘘つきすぎじゃない?そんなのオレじゃなくてもバレると思うよ」
「う…」
私は嘘をつくのが苦手だ。
やったことはないけど、恐らく演技も苦手だ。
だから当然と言えば当然だが、その場しのぎの適当な誤魔化しなんて王馬くん相手に出来るはずがなかった。
「ほら、言うだけ言ってみなよ!聞くだけ聞いてあげるからさ」
別にそんなことを頼んだ覚えはないが、王馬くんはどうやら私から悩みを聞き出すまで諦めるつもりはないらしい。
悩みの原因、なんでだか分からないけどあなたなんですけど。
なんてことは言えず、言葉に詰まっている内にまた胸の内にはモヤモヤが再来していた。
「…べ、別に王馬くんには関係ないじゃん…私が何に悩んでようが勝手だし」
「へー、そういうこと言っちゃうんだ?せっかく人が心配して聞いてるのにさ。そういう可愛げないとこ、もうちょっとなんとかした方がいいんじゃない?」
「なっ…そ、それこそ余計なお世話だよ!王馬くんに可愛くないと思われてもどうだっていいし!」
売り言葉に買い言葉とはこういうことなのか、ついカッとなってトゲのある言い方をして自己嫌悪に陥る。
自分の口から吐き出されたトゲトゲした言葉の針が、私自身に深く突き刺さったような気がして余計に苦しくなった。
「は?ねぇ、なに怒ってんの?」
「怒ってない。本当になんでもないから!」
「朝からずーっと変な態度とっておいて、いざ突っ込まれたらなんでもないってなんだよそれ。確かにみょうじちゃんが何に悩んでいようが勝手だけどさ、それならもっと気づかれないようにやってくれない?」
「気にしてくれなんて言ってないし。わ、私のことなんて放っておけばいいじゃん…!」
「はぁ…いい加減にしろよ。何で機嫌悪いのかなんて知らないけど、詳しく話す気もないなら普通にしてろって言ってんの。…こんなとこで言い合いして、誰かに見られて卒業できないなんてことになったら元も子もないよ」
口を開けば攻撃的なことばかり。
引っ込みがつかなくなったのか自分でも制御が出来なくて、戸惑いながらも自分の言葉と王馬くんから発せられる言葉のどちらもが心のあちこちに刺さっていく。
「…卒業なんて、私とじゃなくてもできるでしょ。入間さんとか」
「入間ちゃん…?ねぇ、なんでそこで入間ちゃんの名前が出てくるわけ?」
ハッとして王馬くんの顔を見れば、彼の顔にはただただ困惑の色が浮かんでいた。
何言ってるんだろう、私。
「う、え…あの、な、なんでもない!ごめんなさい!!」
いてもたってもいられず、そう叫んだ私はその場からダッシュで逃げ出した。
怖くて後ろを振り返ることは出来ないが、自分以外の足音が聞こえてこないから彼が追ってきていないことは分かる。
そのまま寄宿舎の自室へ駆け込み、鍵を閉めた扉。背にしてへなへなとその場に座り込んだ。
どうしよう、変なことばかり言って。
絶対に怒ってるよね?呆れてるよね?
それになんであんな…入間さんのことなんて口走った?
私はどうしてこんなに、王馬くんが入間さんと一緒にいたことを気にしているの?
*****
みょうじが走り去った後の中庭で、王馬は1人取り残されたままその場を動けずにいた。
一拍置いてようやく事態を飲み込めてきた王馬は、脱力したように身体を後ろに倒して空を仰ぐ。
「………あー、もう!…なんだよあいつ。人の気も知らないで」
既に到着していた王馬くんに促されるまま、彼の腰かけるベンチの隣に座る。
隣同士だと顔を合わせなくていいから楽かも…なんて、午前中のモヤモヤを未だに引きずっていた私はそんなことを考えていた。
「明日は…午前中でいいか、いいよね?」
「うん、分かった」
「じゃあよろしくー。…あ、そうだ。昨日お菓子、置いてったのってみょうじちゃんだよね?ありがとねー。なかなか悪くなかったよ」
「あ…うん、そう。良かった」
「でもさー、せっかくなら手渡ししてくれたら良かったのに。入間ちゃんに見つかって、なんでオレにだけー!?ってうるさかったんだよ」
「…そう、なんだ。でも、行った時王馬くんいなかったし」
「そっかー。ま、オレも色々と暇じゃないからねー」
個室のドアに掛けたものを、どうして入間さんと一緒に発見することになるんだろう。
もしかして、王馬くんの部屋で一緒に過ごそうとしたところだったとか?
別に、わたしには関係ないことだからいいんだけど…というよりとやかく言う筋合いなんてないんだけど。
なんだか胸の中のモヤモヤがどんどん大きくなっていく。
それは私の表情にも浮かんでいたようで、どうかした?と聞かれて慌てて首を振る。
どうかしたか、なんて私にもよく分からない。
王馬くんはといえば午前中に引き続き大変機嫌がよろしいようで、鼻歌交じりに足をプラプラと揺らしていた。
「王馬くんは調子良さそうだね。何かいい事でもあったの?」
「んー?まぁね。でもみょうじちゃんには教えてあげなーい」
何それ、私じゃなかったら教えるってこと?例えば…入間さんだったりしたら。
って、あー…違う違う、何考えてるの私。
今日はずっと思考回路がおかしいよ。こんなのいつもの王馬くんの軽口じゃないの。
「みょうじちゃんは調子悪そうだね。なんかあった?あ、今度こそ生理?」
「違います!…別になんでもないよ。あとそれセクハラになりますからね」
「たはー!オレって部下にはパワハラはしてもセクハラはしないっていうのが信条だったのになー、嘘だけど」
ペラペラと軽口を吐き続ける王馬くんを見ていると、なんだかうじうじと悩んでいる自分が馬鹿らしくなってきた。
…って、そもそもなんで悩んでるんだっけ。
「うんうん、悩める部下のメンタルケアも出来る上司の仕事の内だよね」
「はっ!?いや、悩んでなんかない…っていうか私王馬くんの部下じゃないから!」
「あぁ、ごめんごめん。未来の部下だったね」
「未来も部下じゃない!絶対!」
「はいはい。みょうじちゃんがどう言おうが、オレの中ではもう決定事項だからさ。今のうちに好きに吠えてなよ」
こちらに向かって手をひらひらと振ってくる王馬くんに少しの苛立ちは芽生えたが、先程まで胸の辺りにあったモヤモヤはいつの間にか消えていた。
これなら晩御飯は美味しく食べられそう…なんて、能天気なことも考えられるくらいになっている。
「…で?みょうじちゃんは一体何をうじうじモヤモヤ悩んでたの?」
心の中でも読まれたのかと反射的にギクリと肩が跳ねてしまったが、いらぬ誤解しか生みそうにないようなことをペラペラと話すわけにはいかない。
そもそも私自身何にどう悩んでいるのかしっかりと言語化出来ているわけでもない。
ほらほらと言わんばかりに私の目を覗き込む王馬くんをしっかりと見据えて、なんとか誤魔化さなければという思いで声を発した。
「な、悩んでないって!ほら私って見るからに悩みとかなさそうでしょ?だってバカだもん!」
「あは、確かにそうだね!みょうじちゃんみたいな能天気バカは悩みとは対極の存在だもんね!」
「だっ、誰が能天気バカよ!私にだって悩みの一つや二つあるわ!年頃の乙女舐めんな!」
「へぇ、やっぱり悩みあるんだ」
しまったと思ったがもう遅い。
自分の馬鹿さ加減を恨んだが、王馬くんの絶対に吐かせてやると言わんばかりの表情を見て後悔している場合ではないと悟る。
何か適当な悩みでもでっちあげて切り抜けられないだろうか。
「ちょ、ちょっと太ったかなー…みたいな?」
「あのさぁ、いくらなんでも雑な嘘つきすぎじゃない?そんなのオレじゃなくてもバレると思うよ」
「う…」
私は嘘をつくのが苦手だ。
やったことはないけど、恐らく演技も苦手だ。
だから当然と言えば当然だが、その場しのぎの適当な誤魔化しなんて王馬くん相手に出来るはずがなかった。
「ほら、言うだけ言ってみなよ!聞くだけ聞いてあげるからさ」
別にそんなことを頼んだ覚えはないが、王馬くんはどうやら私から悩みを聞き出すまで諦めるつもりはないらしい。
悩みの原因、なんでだか分からないけどあなたなんですけど。
なんてことは言えず、言葉に詰まっている内にまた胸の内にはモヤモヤが再来していた。
「…べ、別に王馬くんには関係ないじゃん…私が何に悩んでようが勝手だし」
「へー、そういうこと言っちゃうんだ?せっかく人が心配して聞いてるのにさ。そういう可愛げないとこ、もうちょっとなんとかした方がいいんじゃない?」
「なっ…そ、それこそ余計なお世話だよ!王馬くんに可愛くないと思われてもどうだっていいし!」
売り言葉に買い言葉とはこういうことなのか、ついカッとなってトゲのある言い方をして自己嫌悪に陥る。
自分の口から吐き出されたトゲトゲした言葉の針が、私自身に深く突き刺さったような気がして余計に苦しくなった。
「は?ねぇ、なに怒ってんの?」
「怒ってない。本当になんでもないから!」
「朝からずーっと変な態度とっておいて、いざ突っ込まれたらなんでもないってなんだよそれ。確かにみょうじちゃんが何に悩んでいようが勝手だけどさ、それならもっと気づかれないようにやってくれない?」
「気にしてくれなんて言ってないし。わ、私のことなんて放っておけばいいじゃん…!」
「はぁ…いい加減にしろよ。何で機嫌悪いのかなんて知らないけど、詳しく話す気もないなら普通にしてろって言ってんの。…こんなとこで言い合いして、誰かに見られて卒業できないなんてことになったら元も子もないよ」
口を開けば攻撃的なことばかり。
引っ込みがつかなくなったのか自分でも制御が出来なくて、戸惑いながらも自分の言葉と王馬くんから発せられる言葉のどちらもが心のあちこちに刺さっていく。
「…卒業なんて、私とじゃなくてもできるでしょ。入間さんとか」
「入間ちゃん…?ねぇ、なんでそこで入間ちゃんの名前が出てくるわけ?」
ハッとして王馬くんの顔を見れば、彼の顔にはただただ困惑の色が浮かんでいた。
何言ってるんだろう、私。
「う、え…あの、な、なんでもない!ごめんなさい!!」
いてもたってもいられず、そう叫んだ私はその場からダッシュで逃げ出した。
怖くて後ろを振り返ることは出来ないが、自分以外の足音が聞こえてこないから彼が追ってきていないことは分かる。
そのまま寄宿舎の自室へ駆け込み、鍵を閉めた扉。背にしてへなへなとその場に座り込んだ。
どうしよう、変なことばかり言って。
絶対に怒ってるよね?呆れてるよね?
それになんであんな…入間さんのことなんて口走った?
私はどうしてこんなに、王馬くんが入間さんと一緒にいたことを気にしているの?
*****
みょうじが走り去った後の中庭で、王馬は1人取り残されたままその場を動けずにいた。
一拍置いてようやく事態を飲み込めてきた王馬は、脱力したように身体を後ろに倒して空を仰ぐ。
「………あー、もう!…なんだよあいつ。人の気も知らないで」
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