8日目
おなまえ
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今日は赤松さんの提案で、皆でプールで遊ぶことになった。
プールで泳ぐ人もいれば、ビーチボールで遊ぶ人もいて、更には私のようにプールサイドで優雅に紅茶を嗜む人間もいる。
皆でプールと言っても楽しみ方は本当にそれぞれなんだなぁと、改めて個性派集団であることを思い知らされる。
そして今のところの個性派第1位と言えば…
「アンジーさん、なにしてるの…?」
「にゃはははー。主は言いました…水辺で遊ぶ前には準備運動を忘れるなと…」
「あ、それ準備運動だったんだ」
アンジーさんだ。
彼女は先程から視界の端でくねくねと奇っ怪な動きをしておりずっと気になっていたのだが、まさか準備運動だったとは。
妙に穏やかな表情を浮かべて手足をくねらせるアンジーさんを見て、悟りを開くと身体も柔らかくなるものなのだということを学んだ。
「それにしても…みんなプロポーション良すぎない?ねぇ、夢野さん」
「な、なぜそこでウチに話を振るんじゃ」
赤松さんといい入間さんといい、身長が高くて出るところも出ている女の子が多すぎやしないか。
運動部でもない女子が大半のはずなのに…みんなの美意識が高いのか、はたまた遺伝子のイタズラか。
特に深い意味は無いが夢野さんに声をかけたところ、すごく怪訝な顔をされてしまった。
「夢野さんは愛らしさでは1番ですから!それ以外の要素はもはや不要なんです!」
「転子、それはフォローになっておるのか?」
いじけた表情の夢野さんもイイ!と茶柱さんはでれでれとした顔で夢野さんの良さを夢野さんに語り出す。
そんな茶柱さんは茶柱さんで…やっぱり運動してるからって言うのもあるんだろうけどこう、引き締まった身体してるんだよなぁ。
私は念のため持ってきていた上着のジッパーをぐっと引き上げ、今日この1枚は絶対に脱いでやるまいと固く誓った。
「ひゃーっひゃっひゃ!おいツルショタァ、オレ様の完璧なこのカラダを見て、テメーの粗末なもんおっ立ててんじゃねーだろうなぁ!?」
「あぁ…ごめんね入間ちゃん…オレ、人間以外はそういう対象として見れないんだ…。乳牛の乳房なんて見せられたところでこれっぽっちも反応しないよ…」
「だ、誰が乳牛だコラァ!」
お次は入間さんと王馬くんのとんでもないやり取りが聞こえてきた。
色んな意味でこの2人にしか出来ない会話だなこれは。
そう思うのと同時に、少しだけ胸のあたりがざわついた気がした。
…なんでだろう?
彼らの話には入りたくなる要素は皆無だし、そもそも私は私で夢野さん達と交流していたところだ。
だからそんなはずはないのに。
どうして私は、今少しだけ寂しさを感じているんだろう。
「みょうじちゃんはプール入らないの?」
「へ?…わ、わわっ!?」
ひょこっと視界の端から顔を覗かせた王馬くんに驚き、座っていた椅子から危うく転げ落ちそうになった。
「にしし、みょうじちゃんって結構鈍臭いよね」
「びっくりしただけです!鈍臭くないよ、まだピチピチのJKだもん」
くすくすと笑う王馬くんに悪態をつきながら辺りを見てみると、いつの間にか先程まで彼と話していた入間さんはいなくなっていたようだった。
「あれ、入間さんは?」
「入間ちゃん?なんで?」
「え…だって、さっきまで一緒にいたじゃん」
「忘れ物したって一旦部屋に帰ったよ。ホントそそっかしいよねー」
「ふーん…そうなんだ」
「……えー、なになに?もしかしてオレに構って貰えなくて拗ねちゃった?」
「そっ、そんなわけないでしょ。今日は入間さんが王馬くんの相手してくれるんだって安心してただけ!」
「ムキになっちゃって怪しいなぁ」
「怪しくない!」
拗ねた拗ねてないの押し問答をしながら、私の心は穏やかではなかった。
断じて拗ねてはいないのだが、ちょっとだけそれに似た感情を抱いていたのもまた事実。
けれどもそんな事実を王馬くんにだけは…というか誰にも知られたくなかった。
だってだって、それだとまるで…
まるで私、王馬くんのことが好きみたいじゃない。
「違う違う!絶対に違うから!」
「うわ、びっくりした。急に大きな声出さないでよ」
「それは普通にごめんなさい」
いやいやいや、それはない。
ないです。絶対にない。
だってよく見てみなよ、王馬くんのこと。
紫がかった暗めの髪に、クリっとした目。小柄だけどスタイルは意外と悪くな…ってそういうことじゃなくて。
というか、あれ?もしかして見た目だけは割と整ってるタイプの人?…じゃなくて。
見た目より中身でしょ、考えるべきところは。
王馬くんの絶対好きになれないところ…えーと、えーと…。
「あれぇ…パッと思いつかないなぁ…」
「みょうじちゃんさ、思考がすぐに口から漏れる癖治した方がいいんじゃない?」
「えっ、私出てた?どこから!?」
「にしし、さあね。教えてやんない」
「えぇー…そんなぁ…」
一体どこから口に出していたんだろう…。
ことの次第によっては結構マズいかもしれない。
なんとかして記憶を辿ろうと頑張ってはみるものの、口から出た意識そのものが無いのだから得られるものは何もなかった。
変な誤解されてないといいけど。
ちらりと王馬くんを見れば、何やら今日はすこぶるご機嫌なようで、なぁに?なんて言いながら小首を傾げている。
いつの間にか私の向かいにあった椅子に座り、サイドテーブルに肘をつきながら鼻歌なんて歌っちゃって…。
え、本当にどうして今日はこんなにご機嫌なの?何かいい事でもあったのかな。
もしかして昨日は丸1日私と過ごさなかったから…?なんて、我ながらそれはあまりにもぶっ飛んだ考えだと思った。
一度湧き上がって来てしまったら最後、もうそうなのかもしれないという気持ちが脳の側面にこびり付いて離れない。
今はみんなの前だから、卒業という目的のために私に話しかけて仲の良いフリをしてる、とか。
…ちょっとちょっと、私ってこんなにネガティブだったっけ?えー…でも、うーん。
もしもその予想が当たっていたとするならば、私を組織に入れるなんて話はきっと無かったことになるわけで。
そんなに嫌な相手を卒業後も近くに置きたい人なんていないよね、うん。
だったらそれに越したことはないじゃない。
むしろそうであってほしいまである。そうだよね、私?
……だめだ、自己暗示って結構難しいんだな。
なんだかちょっとだけ落ち込んでしまった気持ちを、どうすれば元通りに出来るんだろうか。
「キャー!!」
「うわぁあ!?」
「ちょっ、入間さん!?これただの水鉄砲じゃないよね!?」
「あ?…あー、間違えたかもしんねーな」
もの思いにふけっていたところに突然ただ事では無い声が聞こえてきて反射的にそちらへ視線を向ければ、そこにはヴィーナスよろしく自らの身体の要所要所をワカメで隠したゴン太くんの姿があった。
とてもじゃないが自分の目で見ているとは思えないような光景に、思わずぽかんとしてしまう。
「ゴン太…これじゃあ紳士になれないよ…!」
「ゴン太くん落ち着いて!気でワカメが浮いちゃう!はい、ひっひっふー」
「ひっひっふー」
聞けば聞くほどよく分からない会話だったが、どうやらゴン太くんの水着が溶けて無くなってしまったらしい。
そしてその原因となるのが、今最原くんが持っている水鉄砲のようなもののようだ。
更にゴン太くんの発する気?オーラ?のようなものはワカメ程度なら吹き飛ばしてしまう力があるらしい。
白銀さんが慌てて彼の心を落ち着かせようとラマーズ呼吸法を促している。…が、多分これは深呼吸と間違えたんだろうな。
「うわ!?あ、赤松さん危ない!」
最原くんが持っていたはずの水鉄砲が独りでに動き出し、今度は赤松さんにその銃口を向けている。
「い、入間さん!なんとかならないの!?」
「な、なんともなんねーよ!その…リモコン…なくしちゃったし…」
もじもじしながら投下された彼女の爆弾発言に、それまで和気あいあいとしていた場の空気が一変する。
赤松さんは射線から逃れるべくあちらこちらへ飛び回り、その際近くにいて反応の遅れたキーボくんに放たれた水が降りかかる。
「ボクの浮き輪が…」
「き、キーボ君……は、大丈夫そうっすね、浮き輪以外は…」
彼が腰に装着していた浮き輪が跡形もなく消えてしまった。
お気に入りだったのかキーボくんはしょんぼりとしているが、正直他の人に当たらなくて良かったと思う。
その後はなんとか全員プールから逃げ出して、あの水鉄砲だけを室内に閉じ込めることが出来た。
東条さんがどこからともなく【危険】と書かれたプレートを取り出し扉に掛ける。
ゴン太くんはといえば、あの騒ぎの中ワカメで簡単な水着を作るという白銀さんのファインプレーによって今はすっかり元気そうだ。
地味だからこういう時標的にならないんだよねー、と言っていたが、今日だけは誰しもがその地味さを羨ましく思っていたことだろう。
そもそも何故プールにワカメが?とは思ったが、もうこの際気にするだけ無駄だろう。だって今後私たちがこのプールへ足を踏み入れることはないのだから。
こうして各々修羅場を乗り越えたおかげでぐったりとしてしまった私たちは、挨拶もそこそこに解散することになった。
私も個室に帰ろう…と思い歩き始めたところで、後ろにいた王馬くんに声をかけられる。
「みょうじちゃん、お昼食べたら中庭集合ね」
「うん…分かった」
あぁ、今日の午後は一緒に過ごすんですね。
先程のモヤモヤの再来を感じつつ、改めて個室へ向かう。
なんだか色んな意味で疲れてしまった。
そういえば私、一応病み上がりだし。
きっとこのネガティブ思考キャンペーンもそのせいなのかもしれない。
きっと…ううん、絶対そうだ。
そうに決まってる!
たまたま近くにいた夢野さんがビクッとしてこちらを見ていたので、もしかしたら最後のところは声に出してしまっていたのかもしれない。
いい加減この癖治さないとなぁ…。
夢野さんに謝罪の言葉を伝えつつ、みんなと一緒に寄宿舎へと戻った。
プールで泳ぐ人もいれば、ビーチボールで遊ぶ人もいて、更には私のようにプールサイドで優雅に紅茶を嗜む人間もいる。
皆でプールと言っても楽しみ方は本当にそれぞれなんだなぁと、改めて個性派集団であることを思い知らされる。
そして今のところの個性派第1位と言えば…
「アンジーさん、なにしてるの…?」
「にゃはははー。主は言いました…水辺で遊ぶ前には準備運動を忘れるなと…」
「あ、それ準備運動だったんだ」
アンジーさんだ。
彼女は先程から視界の端でくねくねと奇っ怪な動きをしておりずっと気になっていたのだが、まさか準備運動だったとは。
妙に穏やかな表情を浮かべて手足をくねらせるアンジーさんを見て、悟りを開くと身体も柔らかくなるものなのだということを学んだ。
「それにしても…みんなプロポーション良すぎない?ねぇ、夢野さん」
「な、なぜそこでウチに話を振るんじゃ」
赤松さんといい入間さんといい、身長が高くて出るところも出ている女の子が多すぎやしないか。
運動部でもない女子が大半のはずなのに…みんなの美意識が高いのか、はたまた遺伝子のイタズラか。
特に深い意味は無いが夢野さんに声をかけたところ、すごく怪訝な顔をされてしまった。
「夢野さんは愛らしさでは1番ですから!それ以外の要素はもはや不要なんです!」
「転子、それはフォローになっておるのか?」
いじけた表情の夢野さんもイイ!と茶柱さんはでれでれとした顔で夢野さんの良さを夢野さんに語り出す。
そんな茶柱さんは茶柱さんで…やっぱり運動してるからって言うのもあるんだろうけどこう、引き締まった身体してるんだよなぁ。
私は念のため持ってきていた上着のジッパーをぐっと引き上げ、今日この1枚は絶対に脱いでやるまいと固く誓った。
「ひゃーっひゃっひゃ!おいツルショタァ、オレ様の完璧なこのカラダを見て、テメーの粗末なもんおっ立ててんじゃねーだろうなぁ!?」
「あぁ…ごめんね入間ちゃん…オレ、人間以外はそういう対象として見れないんだ…。乳牛の乳房なんて見せられたところでこれっぽっちも反応しないよ…」
「だ、誰が乳牛だコラァ!」
お次は入間さんと王馬くんのとんでもないやり取りが聞こえてきた。
色んな意味でこの2人にしか出来ない会話だなこれは。
そう思うのと同時に、少しだけ胸のあたりがざわついた気がした。
…なんでだろう?
彼らの話には入りたくなる要素は皆無だし、そもそも私は私で夢野さん達と交流していたところだ。
だからそんなはずはないのに。
どうして私は、今少しだけ寂しさを感じているんだろう。
「みょうじちゃんはプール入らないの?」
「へ?…わ、わわっ!?」
ひょこっと視界の端から顔を覗かせた王馬くんに驚き、座っていた椅子から危うく転げ落ちそうになった。
「にしし、みょうじちゃんって結構鈍臭いよね」
「びっくりしただけです!鈍臭くないよ、まだピチピチのJKだもん」
くすくすと笑う王馬くんに悪態をつきながら辺りを見てみると、いつの間にか先程まで彼と話していた入間さんはいなくなっていたようだった。
「あれ、入間さんは?」
「入間ちゃん?なんで?」
「え…だって、さっきまで一緒にいたじゃん」
「忘れ物したって一旦部屋に帰ったよ。ホントそそっかしいよねー」
「ふーん…そうなんだ」
「……えー、なになに?もしかしてオレに構って貰えなくて拗ねちゃった?」
「そっ、そんなわけないでしょ。今日は入間さんが王馬くんの相手してくれるんだって安心してただけ!」
「ムキになっちゃって怪しいなぁ」
「怪しくない!」
拗ねた拗ねてないの押し問答をしながら、私の心は穏やかではなかった。
断じて拗ねてはいないのだが、ちょっとだけそれに似た感情を抱いていたのもまた事実。
けれどもそんな事実を王馬くんにだけは…というか誰にも知られたくなかった。
だってだって、それだとまるで…
まるで私、王馬くんのことが好きみたいじゃない。
「違う違う!絶対に違うから!」
「うわ、びっくりした。急に大きな声出さないでよ」
「それは普通にごめんなさい」
いやいやいや、それはない。
ないです。絶対にない。
だってよく見てみなよ、王馬くんのこと。
紫がかった暗めの髪に、クリっとした目。小柄だけどスタイルは意外と悪くな…ってそういうことじゃなくて。
というか、あれ?もしかして見た目だけは割と整ってるタイプの人?…じゃなくて。
見た目より中身でしょ、考えるべきところは。
王馬くんの絶対好きになれないところ…えーと、えーと…。
「あれぇ…パッと思いつかないなぁ…」
「みょうじちゃんさ、思考がすぐに口から漏れる癖治した方がいいんじゃない?」
「えっ、私出てた?どこから!?」
「にしし、さあね。教えてやんない」
「えぇー…そんなぁ…」
一体どこから口に出していたんだろう…。
ことの次第によっては結構マズいかもしれない。
なんとかして記憶を辿ろうと頑張ってはみるものの、口から出た意識そのものが無いのだから得られるものは何もなかった。
変な誤解されてないといいけど。
ちらりと王馬くんを見れば、何やら今日はすこぶるご機嫌なようで、なぁに?なんて言いながら小首を傾げている。
いつの間にか私の向かいにあった椅子に座り、サイドテーブルに肘をつきながら鼻歌なんて歌っちゃって…。
え、本当にどうして今日はこんなにご機嫌なの?何かいい事でもあったのかな。
もしかして昨日は丸1日私と過ごさなかったから…?なんて、我ながらそれはあまりにもぶっ飛んだ考えだと思った。
一度湧き上がって来てしまったら最後、もうそうなのかもしれないという気持ちが脳の側面にこびり付いて離れない。
今はみんなの前だから、卒業という目的のために私に話しかけて仲の良いフリをしてる、とか。
…ちょっとちょっと、私ってこんなにネガティブだったっけ?えー…でも、うーん。
もしもその予想が当たっていたとするならば、私を組織に入れるなんて話はきっと無かったことになるわけで。
そんなに嫌な相手を卒業後も近くに置きたい人なんていないよね、うん。
だったらそれに越したことはないじゃない。
むしろそうであってほしいまである。そうだよね、私?
……だめだ、自己暗示って結構難しいんだな。
なんだかちょっとだけ落ち込んでしまった気持ちを、どうすれば元通りに出来るんだろうか。
「キャー!!」
「うわぁあ!?」
「ちょっ、入間さん!?これただの水鉄砲じゃないよね!?」
「あ?…あー、間違えたかもしんねーな」
もの思いにふけっていたところに突然ただ事では無い声が聞こえてきて反射的にそちらへ視線を向ければ、そこにはヴィーナスよろしく自らの身体の要所要所をワカメで隠したゴン太くんの姿があった。
とてもじゃないが自分の目で見ているとは思えないような光景に、思わずぽかんとしてしまう。
「ゴン太…これじゃあ紳士になれないよ…!」
「ゴン太くん落ち着いて!気でワカメが浮いちゃう!はい、ひっひっふー」
「ひっひっふー」
聞けば聞くほどよく分からない会話だったが、どうやらゴン太くんの水着が溶けて無くなってしまったらしい。
そしてその原因となるのが、今最原くんが持っている水鉄砲のようなもののようだ。
更にゴン太くんの発する気?オーラ?のようなものはワカメ程度なら吹き飛ばしてしまう力があるらしい。
白銀さんが慌てて彼の心を落ち着かせようとラマーズ呼吸法を促している。…が、多分これは深呼吸と間違えたんだろうな。
「うわ!?あ、赤松さん危ない!」
最原くんが持っていたはずの水鉄砲が独りでに動き出し、今度は赤松さんにその銃口を向けている。
「い、入間さん!なんとかならないの!?」
「な、なんともなんねーよ!その…リモコン…なくしちゃったし…」
もじもじしながら投下された彼女の爆弾発言に、それまで和気あいあいとしていた場の空気が一変する。
赤松さんは射線から逃れるべくあちらこちらへ飛び回り、その際近くにいて反応の遅れたキーボくんに放たれた水が降りかかる。
「ボクの浮き輪が…」
「き、キーボ君……は、大丈夫そうっすね、浮き輪以外は…」
彼が腰に装着していた浮き輪が跡形もなく消えてしまった。
お気に入りだったのかキーボくんはしょんぼりとしているが、正直他の人に当たらなくて良かったと思う。
その後はなんとか全員プールから逃げ出して、あの水鉄砲だけを室内に閉じ込めることが出来た。
東条さんがどこからともなく【危険】と書かれたプレートを取り出し扉に掛ける。
ゴン太くんはといえば、あの騒ぎの中ワカメで簡単な水着を作るという白銀さんのファインプレーによって今はすっかり元気そうだ。
地味だからこういう時標的にならないんだよねー、と言っていたが、今日だけは誰しもがその地味さを羨ましく思っていたことだろう。
そもそも何故プールにワカメが?とは思ったが、もうこの際気にするだけ無駄だろう。だって今後私たちがこのプールへ足を踏み入れることはないのだから。
こうして各々修羅場を乗り越えたおかげでぐったりとしてしまった私たちは、挨拶もそこそこに解散することになった。
私も個室に帰ろう…と思い歩き始めたところで、後ろにいた王馬くんに声をかけられる。
「みょうじちゃん、お昼食べたら中庭集合ね」
「うん…分かった」
あぁ、今日の午後は一緒に過ごすんですね。
先程のモヤモヤの再来を感じつつ、改めて個室へ向かう。
なんだか色んな意味で疲れてしまった。
そういえば私、一応病み上がりだし。
きっとこのネガティブ思考キャンペーンもそのせいなのかもしれない。
きっと…ううん、絶対そうだ。
そうに決まってる!
たまたま近くにいた夢野さんがビクッとしてこちらを見ていたので、もしかしたら最後のところは声に出してしまっていたのかもしれない。
いい加減この癖治さないとなぁ…。
夢野さんに謝罪の言葉を伝えつつ、みんなと一緒に寄宿舎へと戻った。
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