7日目
おなまえ
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昨日の気だるさはどこへやら、すっかり全快した私は食堂で東条さんに看病してくれたことへのお礼を伝えていた。
「いいのよ、当然のことをしたまでだもの。何かあればまたいつでも頼ってちょうだい」
そう言って穏やかに微笑む東条さんは、本当にできた人だと思う。
「いつでも頼って」なんてなかなかさらっと言える台詞ではないが、彼女が言うととんでもない説得力というか…本当にどんなことでもなんとかなりそうな安心感がある。
きっと私が何年かけても彼女のようにはなれないだろうなと思った。
その後続々と集まってきた面々にも声をかけられ、自分が思っていた以上に皆から心配されていたことを知る。
少しの感動を覚えつつ、改めて看病してくれた東条さんと、一応少しは王馬くんにも感謝の気持ちでいっぱいになった。
不本意ながら世話になったことは事実。
王馬くんにも全快の報告とお礼を伝えようと食堂を見回すが、見る限りその姿はない。
「…あれ?東条さん、今日王馬くんは?」
「彼ならもう朝食を終えて出ていったわよ」
「えっ、もう!?」
てっきり風邪が移ってしまったのではないかと思ったが、そんなベタな展開にはならなかったようだ。
とはいえ、もしかすると体調が優れずすぐに自室に引っ込んだだけの可能性もある。
そうなるとなんだか自分のせいのようだし、後から酷い目にあったと私も酷い目に合わされるかもしれない。
だったら今看病という手段で酷い目に合わせたことを帳消しにした方がいい。うん、きっとそうだ。
何もなければないで身の安全を確認できるし。
そう、つまりこれは自分のため。
決してそれ以外の意図なんかない。
ごちゃごちゃとそのような事を考えながら、朝食を食べ終えた私は三歩進んでは二歩下がる勢いで王馬くんの個室へ向かった。
自分なりにたっぷり時間をかけて歩いたつもりだったが、そもそも食堂から寄宿舎までの距離が近いため体感ではあっという間に着いてしまった。
第一声はどんなものなら自然だろうか?と考えていた答えすらまだ見つかっていないというのに。
インターホンに指をかけては離し、を繰り返すこと数回。
私のうじうじムーブは勢いよく開いた扉によって突如中断させられた。
「わっ!?何、誰!?」
「何言ってんの?オレの部屋の前なんだからオレが出てくるに決まってるじゃん」
やれやれといった様子で姿を現した王馬くんは、なんというか至っていつも通りだった。
体調不良ではなさそうだと安心しつつ、驚きで飛び上がったままになっていた姿勢を元に戻す。
「そ、そうだよね。うん、その通りだわ」
至極当然の言葉に対し、肯定することしか出来ない。
この後、どんな言葉を続けたら自然に切り出せるだろう。
用件は決まっているはずなのに、昨日ぶりの王馬くんとの対面に何故か緊張して脳内はパニック状態だった。
「で、何か用?」
「えっと…その……いやぁ、元気かなぁと思って」
苦し紛れに出てきた答えに、心の中で「なんだそれ」と呟く。
何かを言って誤魔化さないとと思うのに、思考を巡らせても適切な言葉が浮かばない。
このままではいつものように彼のペースに乗せられてしまう…その前にさっさと用件を伝えてこの場を去らなくては。
「元気じゃないように見える?」
「あ、あはは…元気だよね。いやほんと何よりだわ」
「変なみょうじちゃん。…あっ、いつも変だったね!」
「王馬くんにだけは言われたくないよ…」
「何か言った?」
「いいえ、何でも!…あー、えっと…昨日は、その、ありがとうございました」
「にしし、どういたしまして!あ、もしかして用事ってそのことだったの?案外律儀なとこあるんだねー、見かけによらず!」
「そ、そうかしらねー?わかんないわー」
落ち着けなまえ。今日はお礼を言いに来たんだからイライラしてはだめよ。
自分にそう言い聞かせつつ深呼吸を2回。
よし、目的達成。退散だ。適当なことを言って切り上げよう。
そう思ったのだけれど、先に声を上げたのは私ではなく王馬くんの方だった。
「そうだ、これから予定があるんだった!みょうじちゃんの相手してあげられなくてごめんね!…っと、今日は午後も無理っぽいから先に言っとくね!じゃ!」
「え、あ、はい…」
妙に早口な王馬くんはわざとらしく焦ったような素振りを見せつつ個室の扉を閉めてしまった。
その勢いに圧倒されていた私は、ワンテンポ遅れて彼の言葉を飲み込む。
今日は午後も予定がある…ということは、私は丸一日フリー…!?
7日目にして初めての出来事に心が弾んだ。
今日は何をして過ごそうか…と考えを巡らせつつ校舎の方へと歩いていた。
「みょうじさん、いいところに!」
あてもなく、けれども足取り軽く歩く私を呼び止めたのは茶柱さんだった。
なんだろう、面倒なことになりそうな予感がするのは気のせいだろうか。
「とにかくついて来てください!」
「えっ、ちょ、待っ…!?」
何も言わないうちから彼女は私の腕を掴んで走り出す。
さすが運動部と言うべきか、私の脚力ではとてもじゃないがついていけない速度だった。
それでもなかなかの強さで掴まれた腕は私の身体から切り離されるわけはなく、半強制的に足を動かされ続ける。
少し前に生贄云々言っていたことを思い出して身震いしていると、茶柱さんの足がぴたりと止まった。
たどり着いた先は食堂で、入り口の前に立った彼女は私に素早く向き直り、拝んでいるかのような体勢をとる。
「お願いします!」
「えーと…何を?」
「とにかく、お願いします!!」
「よく分からないし怖いよ!?」
ちっとも前に進まない押し問答を続けていると、不意に食堂の扉が開かれる。
「あ、みょうじ……って、連れてきたならさっさと入ればいいのに」
何やってんの?とでも言いたげな顔をして中から出てきたのは春川さんだった。
口ぶりからして、茶柱さんが私を連れてきた理由も知っているように思える。
「や、あの、なんで私は…」
「もうみんな待ってるけど」
「みんな?えっ、待ってるって何??」
「…茶柱」
「こ、これから説明するところだったんですよ!」
春川さんがギロっと茶柱さんを睨…見つめてから、慌てふためく私へと向き直る。
話によれば、春川さんを含む数人にお菓子の作り方を教えて欲しいとのことだった。
えぇ…面倒くさい…と少しだけ思ったが、ついさっき春川さんの鋭い眼光を見たばかりでそんなことを言える勇気があるはずもなく。
内心は渋々、表向きには快くそのお願いを聞き入れることになった。
*****
「そうそう。そのままダマがなくなるまで混ぜてね」
「な、なかなか腕にくるんだね…!」
「最原よ、ここが男の見せどころじゃ」
「にゃははー、終一がんばれー」
「夢野さん、アンジーさん、キミたちも手を動かしてください!」
「そうだよ。キーボくんの言う通り…って早っ!」
「キーボさんはミキサーいらずですね!」
「おお、ではウチの分はキーボミキサーにおまかせじゃ」
「なんですか!ロボット差別ですか!」
「差別とは違うんじゃないの」
春川さん、茶柱さんの他に4人。
アンジーさん、夢野さんと最原くん、キーボくんを混じえてお菓子作り教室が始まった。
てっきり女の子ばかりだと思っていたから意外なメンバーだ。
騒がしくしつつも順当に作業が終わり、焼き上がり待ちの時間でちょっとしたティータイムが始まる。
「みょうじさん、今日はありがとう」
「うん、どういたしまして。色々と突然でびっくりしたけどね」
最原くんは素直にお礼が言えるいい人だなぁ。
いや…良く考えれば王馬くんと入間さん以外は基本みんなそうかも。
なんだかそう思うと、あの二人ってひねくれてるという意味では大変お似合いなのではないだろうか。
……あれ、今なんかちょっとだけモヤっとしたような…。
「キーボは菓子など作っても自分で食べられないだろうに、どういう風の吹き回しだったんじゃ?」
「べ、別にロボットがお菓子作りを学んではいけない決まりなんてないでしょう!……確かにボク自身は食べられませんけど」
キーボくんはロボットなのに何故かもじもじとし始める。
そういえばこの会に集まってるメンバーはどのように集まった人達なんだろうか。
なんとなくだけど、赤松さんなんてこういうイベント事は好きそうな気がするし。
「あの、聞いてなかったけどみんなはどうして急にお菓子作りを…?」
この後聞いたところによれば、みんなそれぞれ渡したい相手がいるらしい。
見えないところで色々と進んでいるものだなぁと物思いに耽っていると、オーブンから焼成完了を告げる音が鳴る。
トッピングやらラッピングやらの方法をレクチャーしつつ、私も自分が渡すためのものをちゃっかりと用意していた。
東条さんと、王馬くんに。
一応ね、お礼だもの。なんだかそんな要求を受けていたような気もするし。
これには深い意味なんてないんだから。
「いいのよ、当然のことをしたまでだもの。何かあればまたいつでも頼ってちょうだい」
そう言って穏やかに微笑む東条さんは、本当にできた人だと思う。
「いつでも頼って」なんてなかなかさらっと言える台詞ではないが、彼女が言うととんでもない説得力というか…本当にどんなことでもなんとかなりそうな安心感がある。
きっと私が何年かけても彼女のようにはなれないだろうなと思った。
その後続々と集まってきた面々にも声をかけられ、自分が思っていた以上に皆から心配されていたことを知る。
少しの感動を覚えつつ、改めて看病してくれた東条さんと、一応少しは王馬くんにも感謝の気持ちでいっぱいになった。
不本意ながら世話になったことは事実。
王馬くんにも全快の報告とお礼を伝えようと食堂を見回すが、見る限りその姿はない。
「…あれ?東条さん、今日王馬くんは?」
「彼ならもう朝食を終えて出ていったわよ」
「えっ、もう!?」
てっきり風邪が移ってしまったのではないかと思ったが、そんなベタな展開にはならなかったようだ。
とはいえ、もしかすると体調が優れずすぐに自室に引っ込んだだけの可能性もある。
そうなるとなんだか自分のせいのようだし、後から酷い目にあったと私も酷い目に合わされるかもしれない。
だったら今看病という手段で酷い目に合わせたことを帳消しにした方がいい。うん、きっとそうだ。
何もなければないで身の安全を確認できるし。
そう、つまりこれは自分のため。
決してそれ以外の意図なんかない。
ごちゃごちゃとそのような事を考えながら、朝食を食べ終えた私は三歩進んでは二歩下がる勢いで王馬くんの個室へ向かった。
自分なりにたっぷり時間をかけて歩いたつもりだったが、そもそも食堂から寄宿舎までの距離が近いため体感ではあっという間に着いてしまった。
第一声はどんなものなら自然だろうか?と考えていた答えすらまだ見つかっていないというのに。
インターホンに指をかけては離し、を繰り返すこと数回。
私のうじうじムーブは勢いよく開いた扉によって突如中断させられた。
「わっ!?何、誰!?」
「何言ってんの?オレの部屋の前なんだからオレが出てくるに決まってるじゃん」
やれやれといった様子で姿を現した王馬くんは、なんというか至っていつも通りだった。
体調不良ではなさそうだと安心しつつ、驚きで飛び上がったままになっていた姿勢を元に戻す。
「そ、そうだよね。うん、その通りだわ」
至極当然の言葉に対し、肯定することしか出来ない。
この後、どんな言葉を続けたら自然に切り出せるだろう。
用件は決まっているはずなのに、昨日ぶりの王馬くんとの対面に何故か緊張して脳内はパニック状態だった。
「で、何か用?」
「えっと…その……いやぁ、元気かなぁと思って」
苦し紛れに出てきた答えに、心の中で「なんだそれ」と呟く。
何かを言って誤魔化さないとと思うのに、思考を巡らせても適切な言葉が浮かばない。
このままではいつものように彼のペースに乗せられてしまう…その前にさっさと用件を伝えてこの場を去らなくては。
「元気じゃないように見える?」
「あ、あはは…元気だよね。いやほんと何よりだわ」
「変なみょうじちゃん。…あっ、いつも変だったね!」
「王馬くんにだけは言われたくないよ…」
「何か言った?」
「いいえ、何でも!…あー、えっと…昨日は、その、ありがとうございました」
「にしし、どういたしまして!あ、もしかして用事ってそのことだったの?案外律儀なとこあるんだねー、見かけによらず!」
「そ、そうかしらねー?わかんないわー」
落ち着けなまえ。今日はお礼を言いに来たんだからイライラしてはだめよ。
自分にそう言い聞かせつつ深呼吸を2回。
よし、目的達成。退散だ。適当なことを言って切り上げよう。
そう思ったのだけれど、先に声を上げたのは私ではなく王馬くんの方だった。
「そうだ、これから予定があるんだった!みょうじちゃんの相手してあげられなくてごめんね!…っと、今日は午後も無理っぽいから先に言っとくね!じゃ!」
「え、あ、はい…」
妙に早口な王馬くんはわざとらしく焦ったような素振りを見せつつ個室の扉を閉めてしまった。
その勢いに圧倒されていた私は、ワンテンポ遅れて彼の言葉を飲み込む。
今日は午後も予定がある…ということは、私は丸一日フリー…!?
7日目にして初めての出来事に心が弾んだ。
今日は何をして過ごそうか…と考えを巡らせつつ校舎の方へと歩いていた。
「みょうじさん、いいところに!」
あてもなく、けれども足取り軽く歩く私を呼び止めたのは茶柱さんだった。
なんだろう、面倒なことになりそうな予感がするのは気のせいだろうか。
「とにかくついて来てください!」
「えっ、ちょ、待っ…!?」
何も言わないうちから彼女は私の腕を掴んで走り出す。
さすが運動部と言うべきか、私の脚力ではとてもじゃないがついていけない速度だった。
それでもなかなかの強さで掴まれた腕は私の身体から切り離されるわけはなく、半強制的に足を動かされ続ける。
少し前に生贄云々言っていたことを思い出して身震いしていると、茶柱さんの足がぴたりと止まった。
たどり着いた先は食堂で、入り口の前に立った彼女は私に素早く向き直り、拝んでいるかのような体勢をとる。
「お願いします!」
「えーと…何を?」
「とにかく、お願いします!!」
「よく分からないし怖いよ!?」
ちっとも前に進まない押し問答を続けていると、不意に食堂の扉が開かれる。
「あ、みょうじ……って、連れてきたならさっさと入ればいいのに」
何やってんの?とでも言いたげな顔をして中から出てきたのは春川さんだった。
口ぶりからして、茶柱さんが私を連れてきた理由も知っているように思える。
「や、あの、なんで私は…」
「もうみんな待ってるけど」
「みんな?えっ、待ってるって何??」
「…茶柱」
「こ、これから説明するところだったんですよ!」
春川さんがギロっと茶柱さんを睨…見つめてから、慌てふためく私へと向き直る。
話によれば、春川さんを含む数人にお菓子の作り方を教えて欲しいとのことだった。
えぇ…面倒くさい…と少しだけ思ったが、ついさっき春川さんの鋭い眼光を見たばかりでそんなことを言える勇気があるはずもなく。
内心は渋々、表向きには快くそのお願いを聞き入れることになった。
*****
「そうそう。そのままダマがなくなるまで混ぜてね」
「な、なかなか腕にくるんだね…!」
「最原よ、ここが男の見せどころじゃ」
「にゃははー、終一がんばれー」
「夢野さん、アンジーさん、キミたちも手を動かしてください!」
「そうだよ。キーボくんの言う通り…って早っ!」
「キーボさんはミキサーいらずですね!」
「おお、ではウチの分はキーボミキサーにおまかせじゃ」
「なんですか!ロボット差別ですか!」
「差別とは違うんじゃないの」
春川さん、茶柱さんの他に4人。
アンジーさん、夢野さんと最原くん、キーボくんを混じえてお菓子作り教室が始まった。
てっきり女の子ばかりだと思っていたから意外なメンバーだ。
騒がしくしつつも順当に作業が終わり、焼き上がり待ちの時間でちょっとしたティータイムが始まる。
「みょうじさん、今日はありがとう」
「うん、どういたしまして。色々と突然でびっくりしたけどね」
最原くんは素直にお礼が言えるいい人だなぁ。
いや…良く考えれば王馬くんと入間さん以外は基本みんなそうかも。
なんだかそう思うと、あの二人ってひねくれてるという意味では大変お似合いなのではないだろうか。
……あれ、今なんかちょっとだけモヤっとしたような…。
「キーボは菓子など作っても自分で食べられないだろうに、どういう風の吹き回しだったんじゃ?」
「べ、別にロボットがお菓子作りを学んではいけない決まりなんてないでしょう!……確かにボク自身は食べられませんけど」
キーボくんはロボットなのに何故かもじもじとし始める。
そういえばこの会に集まってるメンバーはどのように集まった人達なんだろうか。
なんとなくだけど、赤松さんなんてこういうイベント事は好きそうな気がするし。
「あの、聞いてなかったけどみんなはどうして急にお菓子作りを…?」
この後聞いたところによれば、みんなそれぞれ渡したい相手がいるらしい。
見えないところで色々と進んでいるものだなぁと物思いに耽っていると、オーブンから焼成完了を告げる音が鳴る。
トッピングやらラッピングやらの方法をレクチャーしつつ、私も自分が渡すためのものをちゃっかりと用意していた。
東条さんと、王馬くんに。
一応ね、お礼だもの。なんだかそんな要求を受けていたような気もするし。
これには深い意味なんてないんだから。
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