6日目
おなまえ
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なんだか変な夢を見た気がする。
そのせいなのか妙に寝覚めが悪い。
睡眠不足になるほど寝ていないわけでもないのに頭が重くて、思うように起き上がることができない。
今何時なんだろう。
とにかく一旦起きなければと、なんとか気合を入れて身体を起こす。
時刻はすでに8時半を回ったところだった。
まずい、食堂行かないとご飯食べそびれる…。
よろよろと立ち上がって着替えをして、身体の異変を強く感じながら個室の扉を開ける。
たったそれだけの動作にめまいがして、ぐらぐらと揺れる視界が徐々にフェードアウトしていった。
*****
「ん…?」
気がつくと私はベッドの中にいた。
額には湿ったタオルが乗せられていて、誰か親切な人が助けてくれたんだろうと思う。
少し身体を起こそうと動いてみるが、まだ頭の奥がぼーっとして鈍い痛みすら感じる。
「あ、起きたんだ。大丈夫ー?」
「…うそぉ!?」
洗面所からひょっこり顔を出したのは王馬くんで、その手には濡らされたタオルが握られている。
それはつまり、意識を失った私を助けたのは彼だとそういうことなのだろうか。
予想もしない相手の出現で熱に浮かされた私の脳が仕事を放棄し、思ったことがそのまま口から出てきてしまっていた。
「嘘ってなんだよ!ひっどいなー、せっかく助けてあげたのに」
「ごめん、つい…予想外だったもので。ありがとう」
「…まぁいいよ。部下の面倒見るのも上司の務めだし?」
「部下じゃないけどね」
「にしし、今はね」
「…そうですか」
本当は「今だけじゃなくて未来永劫だわ」くらい言ってやりたかったけど、王馬くんがいつになく穏やかに笑っていたから、なんとなくそれ以上は何も言えなかった。
「あ、お腹すいてる?東条ちゃんがお粥作ってくれたよ。…冷めてるかもしれないけど」
「うん、食べる」
「よし、じゃあ口開けて」
「えっ」
「はい、あーん!」
そんな掛け声とともにお粥を掬った蓮華を差し出され、どうしたものかと固まった。
でも冷静に考えてそんなことをしたいわけが無いので、自分で食べると宣言して蓮華を奪い取る。
王馬くんも特に本気だったわけではないらしく、あっさりと器ごと一式を渡してくれた。
「ん、美味しい」
「お昼も作って持ってくるって言ってたよ」
「そうなんだ…なんか、申し訳ないな」
「忙しそうに動いてる東条ちゃん、すっごくイキイキしてたけどね」
「ふふ、そうなんだ」
「東条ちゃんらしいよね。で、どう?ちょっとは楽になった?」
「あー、そうかも。王馬くんと東条さんのおかげだよ」
「にしし、それじゃあお礼はお菓子でよろしく」
「う、面倒くさいけど…仕方ないなぁ」
話し相手があの王馬くんだとは思えないほど穏やかに会話が進む。
こうも普段と違うのは、一応は私の体調でも気遣ってくれているからなんだろうか。
意外と優しいところもあるんだな、と若干感覚が麻痺しているだけのような気もするがそう思った。
食欲はないながらもお粥を無事完食すると、それを確認した王馬くんがテキパキとお皿を下げて代わりに薬と水を渡してくる。
何から何まで意外なこと続きだが、ありがたいことに変わりないため素直に渡された薬を飲んだ。
「はい、あとは薬飲んでゆっくりおねんねしてなよ」
茶化すような言い方をしつつ、優しい手つきで私の身体に布団をかけ直してくれる。
冷静に考えれば男子にこんなことをされるのは看病と言えどどうなのかとも思うが、何故か余計な警戒心のようなものは芽生えない。
熱のせいで危機管理能力が鈍っているんだろうか。
「……オレの顔、何か付いてる?」
「えっいや、別に」
「じゃあなんでそんなじーっと見てたの?あっ…もしかして、オレの優しさに触れて惚れ直しちゃった?」
「これまでに惚れる要素なんかなかったから安心していいよ」
王馬くんは全くそう思っていなさそうな笑顔を浮かべて「残念」と言った。
個室に備え付けのソファに座り、本を読んでいる。
「…ねぇ、王馬くん」
「んー?」
「なんで…その、私の看病なんか」
平たく言えばどういう風の吹き回しなのかと聞きたいのだが、上手い言い方が見つけられない。
それでも彼は私の言いたいことを察したように小さく笑って口を開く。
「あは、言ったじゃん。部下の面倒見るのも上司の務めって」
「だから、私はまだ王馬くんの部下じゃ…」
「にしし、そうだね。"まだ"部下じゃないね」
「む…揚げ足取りだ」
「なんのことかよく分かんなーい!ほら、病人はさっさと寝た寝た」
普段ならこの人の前で眠るなんて愚行は絶対にできないけれど、今日に関しては妙な安心感があって素直に目を閉じることが出来た。
王馬くんがペラペラと紙をめくる音を聞きながら眠りにつこうとしていると、不意にすぐそこにいる彼の知らない表情が瞼の裏に映る。
余りにも近すぎる距離で微笑む王馬くんの顔。
そんな距離感で話をしたことなんかないはずなのに、妙にリアルに思い浮かんだそれに戸惑った。
一体いつの記憶なんだ。
思い出そうとしても何も分からないが、考えれば考えるほどうるさいくらいに心臓がドクドクと脈打つ。
少しだけ顔を上げて王馬くんの顔を見てみると、視線に気づいたらしい彼がこちらを向いた。
「…どうしたの?」
「な、なんでもない!」
どんだけ視線に敏感なんだよ、と焦りながら布団に潜り込む。
自分の鼓動の音を聴きながら、ドキドキしてるのはただ戸惑ってるだけだからと誰かに向かって言い訳をした。
覚えのない記憶のワンシーンと、いつになく優しくしてもらった今の状況。
ほら、こんなによく分からないことが立て続けに起これば誰だって戸惑うじゃないか。
だからこれはそういうドキドキじゃない。
ちょっと優しくしてもらったくらいで絆されてるわけではない、断じて違う。
ぎゅっと目をつぶり頭の中でそう繰り返し呟いている内、私はいつの間にか眠ってしまっていた。
そのせいなのか妙に寝覚めが悪い。
睡眠不足になるほど寝ていないわけでもないのに頭が重くて、思うように起き上がることができない。
今何時なんだろう。
とにかく一旦起きなければと、なんとか気合を入れて身体を起こす。
時刻はすでに8時半を回ったところだった。
まずい、食堂行かないとご飯食べそびれる…。
よろよろと立ち上がって着替えをして、身体の異変を強く感じながら個室の扉を開ける。
たったそれだけの動作にめまいがして、ぐらぐらと揺れる視界が徐々にフェードアウトしていった。
*****
「ん…?」
気がつくと私はベッドの中にいた。
額には湿ったタオルが乗せられていて、誰か親切な人が助けてくれたんだろうと思う。
少し身体を起こそうと動いてみるが、まだ頭の奥がぼーっとして鈍い痛みすら感じる。
「あ、起きたんだ。大丈夫ー?」
「…うそぉ!?」
洗面所からひょっこり顔を出したのは王馬くんで、その手には濡らされたタオルが握られている。
それはつまり、意識を失った私を助けたのは彼だとそういうことなのだろうか。
予想もしない相手の出現で熱に浮かされた私の脳が仕事を放棄し、思ったことがそのまま口から出てきてしまっていた。
「嘘ってなんだよ!ひっどいなー、せっかく助けてあげたのに」
「ごめん、つい…予想外だったもので。ありがとう」
「…まぁいいよ。部下の面倒見るのも上司の務めだし?」
「部下じゃないけどね」
「にしし、今はね」
「…そうですか」
本当は「今だけじゃなくて未来永劫だわ」くらい言ってやりたかったけど、王馬くんがいつになく穏やかに笑っていたから、なんとなくそれ以上は何も言えなかった。
「あ、お腹すいてる?東条ちゃんがお粥作ってくれたよ。…冷めてるかもしれないけど」
「うん、食べる」
「よし、じゃあ口開けて」
「えっ」
「はい、あーん!」
そんな掛け声とともにお粥を掬った蓮華を差し出され、どうしたものかと固まった。
でも冷静に考えてそんなことをしたいわけが無いので、自分で食べると宣言して蓮華を奪い取る。
王馬くんも特に本気だったわけではないらしく、あっさりと器ごと一式を渡してくれた。
「ん、美味しい」
「お昼も作って持ってくるって言ってたよ」
「そうなんだ…なんか、申し訳ないな」
「忙しそうに動いてる東条ちゃん、すっごくイキイキしてたけどね」
「ふふ、そうなんだ」
「東条ちゃんらしいよね。で、どう?ちょっとは楽になった?」
「あー、そうかも。王馬くんと東条さんのおかげだよ」
「にしし、それじゃあお礼はお菓子でよろしく」
「う、面倒くさいけど…仕方ないなぁ」
話し相手があの王馬くんだとは思えないほど穏やかに会話が進む。
こうも普段と違うのは、一応は私の体調でも気遣ってくれているからなんだろうか。
意外と優しいところもあるんだな、と若干感覚が麻痺しているだけのような気もするがそう思った。
食欲はないながらもお粥を無事完食すると、それを確認した王馬くんがテキパキとお皿を下げて代わりに薬と水を渡してくる。
何から何まで意外なこと続きだが、ありがたいことに変わりないため素直に渡された薬を飲んだ。
「はい、あとは薬飲んでゆっくりおねんねしてなよ」
茶化すような言い方をしつつ、優しい手つきで私の身体に布団をかけ直してくれる。
冷静に考えれば男子にこんなことをされるのは看病と言えどどうなのかとも思うが、何故か余計な警戒心のようなものは芽生えない。
熱のせいで危機管理能力が鈍っているんだろうか。
「……オレの顔、何か付いてる?」
「えっいや、別に」
「じゃあなんでそんなじーっと見てたの?あっ…もしかして、オレの優しさに触れて惚れ直しちゃった?」
「これまでに惚れる要素なんかなかったから安心していいよ」
王馬くんは全くそう思っていなさそうな笑顔を浮かべて「残念」と言った。
個室に備え付けのソファに座り、本を読んでいる。
「…ねぇ、王馬くん」
「んー?」
「なんで…その、私の看病なんか」
平たく言えばどういう風の吹き回しなのかと聞きたいのだが、上手い言い方が見つけられない。
それでも彼は私の言いたいことを察したように小さく笑って口を開く。
「あは、言ったじゃん。部下の面倒見るのも上司の務めって」
「だから、私はまだ王馬くんの部下じゃ…」
「にしし、そうだね。"まだ"部下じゃないね」
「む…揚げ足取りだ」
「なんのことかよく分かんなーい!ほら、病人はさっさと寝た寝た」
普段ならこの人の前で眠るなんて愚行は絶対にできないけれど、今日に関しては妙な安心感があって素直に目を閉じることが出来た。
王馬くんがペラペラと紙をめくる音を聞きながら眠りにつこうとしていると、不意にすぐそこにいる彼の知らない表情が瞼の裏に映る。
余りにも近すぎる距離で微笑む王馬くんの顔。
そんな距離感で話をしたことなんかないはずなのに、妙にリアルに思い浮かんだそれに戸惑った。
一体いつの記憶なんだ。
思い出そうとしても何も分からないが、考えれば考えるほどうるさいくらいに心臓がドクドクと脈打つ。
少しだけ顔を上げて王馬くんの顔を見てみると、視線に気づいたらしい彼がこちらを向いた。
「…どうしたの?」
「な、なんでもない!」
どんだけ視線に敏感なんだよ、と焦りながら布団に潜り込む。
自分の鼓動の音を聴きながら、ドキドキしてるのはただ戸惑ってるだけだからと誰かに向かって言い訳をした。
覚えのない記憶のワンシーンと、いつになく優しくしてもらった今の状況。
ほら、こんなによく分からないことが立て続けに起これば誰だって戸惑うじゃないか。
だからこれはそういうドキドキじゃない。
ちょっと優しくしてもらったくらいで絆されてるわけではない、断じて違う。
ぎゅっと目をつぶり頭の中でそう繰り返し呟いている内、私はいつの間にか眠ってしまっていた。
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