本編【全16話】
おなまえ
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天海くんととばっちり
※天海視点
「そっかー、天海くんには妹さんがいるんだね」
「はい。まぁ…こんなダメ兄貴が世界を回ったところで、本当に会えるのかも分かんないっすけどね」
中庭で偶然出会ったみょうじさんと話している内に、気がつけば俺は話す予定ではなかった自分の身の上話をしていた。
これまで挨拶程度しか話したことがなかったが、初めてしっかりと会話してみて気がついたことがある。
彼女にはどこまでも毒気がない。
人に悪感情を持つことなんてあるのだろうかと疑問に思うほど。
教会で神様に罪を告白する人って、こんな気持ちなんすかね。
話を聞いてもらっただけなのに、少しだけ心が軽くなった気がしてそんなことを考えた。
「そんなことないよ、きっと大丈夫だよ。だって天海くんの妹さんなんだもん!」
「そう、すかね…」
「うーん…もしかしたら、妹さんたちも天海くんやお互いを探してあちこち旅してるのかもしれないよ?…あ、でもそうしたら入れ違いになっちゃう……そうだ、天海くん今度は地球を反対回りしたらいいんじゃないかな!?」
「ふ、あはは!反対回りって、地球は単純な丸い一本道じゃないんすから」
本当に、俺には考えもしなかった可能性の話だ。
みょうじさんにそう言われると、もしかすると本当にそうなのかもしれないと思えてくる。
俺が旅したそれぞれの地で、入れ違いに行動していたかもしれない妹たちのことを想像して笑ってしまった。
「む…確かに。このルートが地球の回り方って誰かが決めてくれたら反対にもしやすいのにねー」
「はは、決めるのに膨大な時間がかかりそうな話っすね」
話していると気分が和らいで、自分のペースに人を巻き込むけれどそれが全く不快ではなくて。
不思議な人だ。こんな人がこの先、俺の旅路にいてくれたら何があっても楽しめそうな気がする。
さほど親しかった訳でもない彼女に対し、今までになかった感情を自覚した時。
不意に風が吹いて、彼女の頭に小さな葉が落ちてきた。
「ここって、風吹くんだねー」
「そうっすね。あ、みょうじさん…ちょっとじっとしてて下さい」
「うん?」
不思議そうに俺を見つめたままじっとするみょうじさん。
やましいことをする訳では無いが、少しだけ手を伸ばすことに躊躇する。
いやいや、頭に付いた葉っぱを取るだけなんだから。
自分にそう言い聞かせてそっと彼女に手を伸ばした。
「…っわ!」
突然みょうじさんが驚いた声を上げて、躓いた時のように身体が前に飛び出した。
俺も驚いて伸ばしていた手を引っ込める。
よく見れば彼女の腹部には誰かの腕が回されていて、どうやらその人物が後ろからみょうじさんに突撃してきたらしい。
「あーびっくりした!んー…これはきっとー、王馬くんでしょ!ほらねー」
「にしし、バレちゃったかー!おマヌケなみょうじちゃんには絶対分かんないと思ったのになー」
抱きつかれた体勢のままみょうじさんは後ろを振り返り、突撃してきた王馬くんに笑顔を向ける。
「王馬くん、急にそんなことしたら危ないっすよ」
「たはー!怒られちった!みょうじちゃんごめんね!許してくれるー?」
「うん、ちょっとびっくりしただけで何ともないから大丈夫だよ。天海くんもありがとう」
全く離れる様子のない王馬くんに、少しだけ苛立ちを覚える。
まぁ、当事者のみょうじさんが何も言わないのに俺が怒るのも変な話なんすけどね。
「みょうじちゃん、オレみょうじちゃんの作ったお菓子が食べたくなっちゃったんだよねー。ね、オレも一緒に手伝うから何か作ってよー」
「王馬くんも手伝ってくれるの?もちろんいいよー。一緒に作るときっと楽しいしー」
なんとなく分かっていたことではあったが、そういえばこの2人は仲が良かったんだなと思いその様子を眺めている。
ふと王馬くんからの視線を感じてそちらに目をやると、みょうじさんには見えないように俺に対してニヤリと口角を上げて挑発してきていた。
なるほど、王馬くんわざとなんすね…。
「あ、天海くんも良かったら一緒に…」
「みょうじちゃんは先に準備してて!天海ちゃんの勧誘はオレに任せてよ!」
「そう?じゃあ先に行ってるね。また後でねー」
俺に口を挟む隙を与えない王馬くんに促され、みょうじさんはそのまま手を振って校舎の方へ歩いていく。
ああ、これは。宣戦布告でもされるんだろうか。
「天海ちゃん」
王馬くんの表情はいつもの胡散臭い笑顔だが、瞳の奥に普段とは違う鋭い光が灯っているように思う。
そういうことか、と察した俺は手を上げて降参のポーズをとった。
「そういえば…俺はこの後行きたいところがあったんで、みょうじさんのお誘いは断っといてもらっていいっすかね」
「へぇ、物分かりがいいんだね」
「はは、なんの事かよく分からないっす」
「にしし、まぁいいけど。んじゃ天海ちゃん、またねー!」
あんなにややこしい人に狙われて、みょうじさんも苦労人だ。
きっと本人にそんな自覚は無いだろうけど。
あんな顔されて、これ以上野暮な真似するほど俺は空気の読めないやつじゃないんすよ。
心の中でそう呟いて、みょうじさんの後を追う彼の後ろ姿を見送った。
※天海視点
「そっかー、天海くんには妹さんがいるんだね」
「はい。まぁ…こんなダメ兄貴が世界を回ったところで、本当に会えるのかも分かんないっすけどね」
中庭で偶然出会ったみょうじさんと話している内に、気がつけば俺は話す予定ではなかった自分の身の上話をしていた。
これまで挨拶程度しか話したことがなかったが、初めてしっかりと会話してみて気がついたことがある。
彼女にはどこまでも毒気がない。
人に悪感情を持つことなんてあるのだろうかと疑問に思うほど。
教会で神様に罪を告白する人って、こんな気持ちなんすかね。
話を聞いてもらっただけなのに、少しだけ心が軽くなった気がしてそんなことを考えた。
「そんなことないよ、きっと大丈夫だよ。だって天海くんの妹さんなんだもん!」
「そう、すかね…」
「うーん…もしかしたら、妹さんたちも天海くんやお互いを探してあちこち旅してるのかもしれないよ?…あ、でもそうしたら入れ違いになっちゃう……そうだ、天海くん今度は地球を反対回りしたらいいんじゃないかな!?」
「ふ、あはは!反対回りって、地球は単純な丸い一本道じゃないんすから」
本当に、俺には考えもしなかった可能性の話だ。
みょうじさんにそう言われると、もしかすると本当にそうなのかもしれないと思えてくる。
俺が旅したそれぞれの地で、入れ違いに行動していたかもしれない妹たちのことを想像して笑ってしまった。
「む…確かに。このルートが地球の回り方って誰かが決めてくれたら反対にもしやすいのにねー」
「はは、決めるのに膨大な時間がかかりそうな話っすね」
話していると気分が和らいで、自分のペースに人を巻き込むけれどそれが全く不快ではなくて。
不思議な人だ。こんな人がこの先、俺の旅路にいてくれたら何があっても楽しめそうな気がする。
さほど親しかった訳でもない彼女に対し、今までになかった感情を自覚した時。
不意に風が吹いて、彼女の頭に小さな葉が落ちてきた。
「ここって、風吹くんだねー」
「そうっすね。あ、みょうじさん…ちょっとじっとしてて下さい」
「うん?」
不思議そうに俺を見つめたままじっとするみょうじさん。
やましいことをする訳では無いが、少しだけ手を伸ばすことに躊躇する。
いやいや、頭に付いた葉っぱを取るだけなんだから。
自分にそう言い聞かせてそっと彼女に手を伸ばした。
「…っわ!」
突然みょうじさんが驚いた声を上げて、躓いた時のように身体が前に飛び出した。
俺も驚いて伸ばしていた手を引っ込める。
よく見れば彼女の腹部には誰かの腕が回されていて、どうやらその人物が後ろからみょうじさんに突撃してきたらしい。
「あーびっくりした!んー…これはきっとー、王馬くんでしょ!ほらねー」
「にしし、バレちゃったかー!おマヌケなみょうじちゃんには絶対分かんないと思ったのになー」
抱きつかれた体勢のままみょうじさんは後ろを振り返り、突撃してきた王馬くんに笑顔を向ける。
「王馬くん、急にそんなことしたら危ないっすよ」
「たはー!怒られちった!みょうじちゃんごめんね!許してくれるー?」
「うん、ちょっとびっくりしただけで何ともないから大丈夫だよ。天海くんもありがとう」
全く離れる様子のない王馬くんに、少しだけ苛立ちを覚える。
まぁ、当事者のみょうじさんが何も言わないのに俺が怒るのも変な話なんすけどね。
「みょうじちゃん、オレみょうじちゃんの作ったお菓子が食べたくなっちゃったんだよねー。ね、オレも一緒に手伝うから何か作ってよー」
「王馬くんも手伝ってくれるの?もちろんいいよー。一緒に作るときっと楽しいしー」
なんとなく分かっていたことではあったが、そういえばこの2人は仲が良かったんだなと思いその様子を眺めている。
ふと王馬くんからの視線を感じてそちらに目をやると、みょうじさんには見えないように俺に対してニヤリと口角を上げて挑発してきていた。
なるほど、王馬くんわざとなんすね…。
「あ、天海くんも良かったら一緒に…」
「みょうじちゃんは先に準備してて!天海ちゃんの勧誘はオレに任せてよ!」
「そう?じゃあ先に行ってるね。また後でねー」
俺に口を挟む隙を与えない王馬くんに促され、みょうじさんはそのまま手を振って校舎の方へ歩いていく。
ああ、これは。宣戦布告でもされるんだろうか。
「天海ちゃん」
王馬くんの表情はいつもの胡散臭い笑顔だが、瞳の奥に普段とは違う鋭い光が灯っているように思う。
そういうことか、と察した俺は手を上げて降参のポーズをとった。
「そういえば…俺はこの後行きたいところがあったんで、みょうじさんのお誘いは断っといてもらっていいっすかね」
「へぇ、物分かりがいいんだね」
「はは、なんの事かよく分からないっす」
「にしし、まぁいいけど。んじゃ天海ちゃん、またねー!」
あんなにややこしい人に狙われて、みょうじさんも苦労人だ。
きっと本人にそんな自覚は無いだろうけど。
あんな顔されて、これ以上野暮な真似するほど俺は空気の読めないやつじゃないんすよ。
心の中でそう呟いて、みょうじさんの後を追う彼の後ろ姿を見送った。