本編【全16話】
おなまえ
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真宮寺くんととばっちり
※真宮寺視点
※セリフ以外は基本普通の口調です
少し調べものをしようと思って僕の研究教室へ来てみれば、珍しくそこには先客がいた。
みょうじさん…そういえば彼女とはあまり話したことがなかったように思う。
真剣に書物に目を通している彼女を物珍しい気持ちで眺めていると、僕の視線に気がついたのか慌てて読んでいたものをしまって僕の近くにやって来た。
「真宮寺くん、勝手にお邪魔しててごめんね!」
「ククク…構わないヨ。元々ここは誰でも入ることの出来る部屋だからネ。貴重な品々も、きちんと資料として丁重に扱ってくれれば僕としても異論はないヨ」
「ふふ、良かった」
「それにしても珍しいネ。とても真剣に何かを読んでいたようだけど、何か興味を惹かれるものがあったのかな?」
「うん、昔の文献にお菓子って出てくるのかなーって気になって。今と同じようなものはないかもしれないけど、甘いものを食べて幸せな気持ちになるのって今も昔も変わってなかったらいいなと思ったんだー」
想像していたよりもしっかりとした考えがあったことに僕は少し驚く。
てっきり彼女は物事を深く考えないタイプの人間だと思っていたから。
毎日のように王馬君の分かりやすい嘘に騙されているのを知っていたものだから余計に。
先入観で人物像を決めつけてしまうなんて、僕もまだまだだったようだネ。
「ククク…正直意外だったヨ。でも…そうだネ、甘味…広い意味で捉えるなら食物は人の生活とは切っても切り離せない重要なものだヨ。そんな食物に嗜好品としての一面を持たせたものが、みょうじさんの思う“お菓子”と呼ばれるものだネ」
「うんうん!」
「人間は生命維持に必要のない娯楽を嗜むことを好む生き物だヨ。そんな娯楽と食物が組み合わさった甘味は、その時代を生きた人達の背景を知るための重要な要素の一つだネ。知ってるかい?縄文時代には既にクッキーに似たものが人の手で作られていた…なんて話もあるんだヨ」
「へぇー!そんな昔からあったんだね!」
目を輝かせながら前のめりに僕の話を聞くみょうじさんに、その後も様々な時代、場所に伝わる甘味の逸話や伝承を説き聞かせた。
あまりにも真剣に聞いてくれるものだから、ついつい時間を忘れて話し込んでしまった。
「…おっと、もうこんな時間だったんだネ。つい熱が入って授業のようになってしまったヨ」
「ううん、そんなことないよー。真宮寺くんのお話すごく面白くて聴き入っちゃった。とっても勉強になったよー、ありがとう!」
屈託のない笑顔でそういった彼女に、ふとこんな人が姉さんの友達になってくれたら…と僕は思った。
彼女ならきっとすぐに打ち解けてくれることだろう。
「真宮寺くん、どうかした?」
「いや…なんでもないヨ。ただ少し姉さんの事を思い出していてネ」
「お姉さんがいるんだねー。うーん、真宮寺くんのお姉さんならきっとすごい美人さんなんだろうなー」
「ククク…そうだネ。身内贔屓を差し引いても僕の姉さんはとても綺麗な人だと思うヨ。…ただ、姉さんは病弱でネ。あまり外に出られない人だったんだ」
「それは…気の毒だね…」
「キミのような人が姉さんと友達だったら、いい話相手になってくれそうな気がするヨ」
「私が?ふふ、真宮寺くんがいいなら私もお姉さんとお友達になってみたいなー」
やっぱりみょうじさんは優しい人だネ。
会ったことの無い姉さんのために心を痛めて、力になってくれようとしている…。
ああ、素晴らしいね。
ククク…と口から笑みがこぼれるのを抑えられない。
「もちろん僕は大歓迎だヨ。ほら、姉さんも喜んでる…きっとすぐに会えるヨ」
「すぐ…?それってどういう…」
不思議そうに僕を見つめているみょうじさんに、僕はそっと手を伸ばす。
あと少しというところだった。
突然けたたましい音を立てて教室の扉が開かれる。
僕は騒々しいのは嫌いなんだ。
邪魔が入ったことに興醒めしながら、僕は音のした方へと視線を移す。
「はぁ…はぁ…」
「あれ、王馬くんどうしたの?そんなに息を切らして…」
「ククク…突然爆音がするものだから何事かと思ったヨ」
王馬君は息を切らして、いつものようなおどけた顔を作る事もなく無表情でじっと僕を見据えている。
これは…珍しいものが見れたネ、実に興味深いヨ。
「……ごめんごめん、ちょーっと力加減が馬鹿になっちゃっただけだよ!それよりさー、オレずっとみょうじちゃんのこと探してたんだよ?今日はゴン太とオレと3人で虫さんのドキュメンタリーを見るって約束したの忘れたの…?」
「そ、そうだったかな!?ごめんね、私すっかり…」
「なーんてね、嘘だよー!そんな約束はしてないし、そもそもオレは虫さんのドキュメンタリーに全く興味が無いよ!」
「もー、また騙されちゃったよー」
「にしし、みょうじちゃんはほんとお馬鹿さんだなー」
王馬君は一瞬の硬直の後、いつものような調子でみょうじさんをからかい始めた。
僕はすっかりその光景に興味が移り、2人の様子…というよりは王馬君をじっと観察する。
「ホントはね、そろそろ食事の時間だから呼びに来ただけだよ!今日は東条ちゃんが本格的なフレンチフルコースを作ってくれるんだって!ほらみょうじちゃん、早く行こうよー」
「わぁ、そうなんだ!それは楽しみだね」
みょうじさんのすぐ側までやってきた王馬君は、彼女の手を取りブラブラと催促するように左右に揺らす。
彼女は彼のまるで駄々っ子のような要望にも苛立ちひとつ見せず、本当に楽しんでいるような笑顔を浮かべていた。
「真宮寺くんも行こうよ、東条さんのフルコースなんだって!」
「ククク…それは楽しみだネ。だけど、僕はここで探しものがあるからそれを済ませた後で行くことにするヨ」
「そっかー。うん、それじゃあまた後でね!今日は色んな話を聞かせてくれてありがとう!」
王馬君に手を引かれながら、みょうじさんは僕に別れの挨拶を告げた。
先に彼女が教室から出たあと、扉を閉めようとした王馬君の動きがピタリと止まる。
僕がそちらへ顔を向けると、閉まりかけた扉の隙間からまたあの時の無表情で僕を見つめる王馬君の姿が見えた。
ククク…今日は逃がしてしまったけど、次はこうはいかないヨ。
そうだよね、姉さん。
そうね、是清。
※真宮寺視点
※セリフ以外は基本普通の口調です
少し調べものをしようと思って僕の研究教室へ来てみれば、珍しくそこには先客がいた。
みょうじさん…そういえば彼女とはあまり話したことがなかったように思う。
真剣に書物に目を通している彼女を物珍しい気持ちで眺めていると、僕の視線に気がついたのか慌てて読んでいたものをしまって僕の近くにやって来た。
「真宮寺くん、勝手にお邪魔しててごめんね!」
「ククク…構わないヨ。元々ここは誰でも入ることの出来る部屋だからネ。貴重な品々も、きちんと資料として丁重に扱ってくれれば僕としても異論はないヨ」
「ふふ、良かった」
「それにしても珍しいネ。とても真剣に何かを読んでいたようだけど、何か興味を惹かれるものがあったのかな?」
「うん、昔の文献にお菓子って出てくるのかなーって気になって。今と同じようなものはないかもしれないけど、甘いものを食べて幸せな気持ちになるのって今も昔も変わってなかったらいいなと思ったんだー」
想像していたよりもしっかりとした考えがあったことに僕は少し驚く。
てっきり彼女は物事を深く考えないタイプの人間だと思っていたから。
毎日のように王馬君の分かりやすい嘘に騙されているのを知っていたものだから余計に。
先入観で人物像を決めつけてしまうなんて、僕もまだまだだったようだネ。
「ククク…正直意外だったヨ。でも…そうだネ、甘味…広い意味で捉えるなら食物は人の生活とは切っても切り離せない重要なものだヨ。そんな食物に嗜好品としての一面を持たせたものが、みょうじさんの思う“お菓子”と呼ばれるものだネ」
「うんうん!」
「人間は生命維持に必要のない娯楽を嗜むことを好む生き物だヨ。そんな娯楽と食物が組み合わさった甘味は、その時代を生きた人達の背景を知るための重要な要素の一つだネ。知ってるかい?縄文時代には既にクッキーに似たものが人の手で作られていた…なんて話もあるんだヨ」
「へぇー!そんな昔からあったんだね!」
目を輝かせながら前のめりに僕の話を聞くみょうじさんに、その後も様々な時代、場所に伝わる甘味の逸話や伝承を説き聞かせた。
あまりにも真剣に聞いてくれるものだから、ついつい時間を忘れて話し込んでしまった。
「…おっと、もうこんな時間だったんだネ。つい熱が入って授業のようになってしまったヨ」
「ううん、そんなことないよー。真宮寺くんのお話すごく面白くて聴き入っちゃった。とっても勉強になったよー、ありがとう!」
屈託のない笑顔でそういった彼女に、ふとこんな人が姉さんの友達になってくれたら…と僕は思った。
彼女ならきっとすぐに打ち解けてくれることだろう。
「真宮寺くん、どうかした?」
「いや…なんでもないヨ。ただ少し姉さんの事を思い出していてネ」
「お姉さんがいるんだねー。うーん、真宮寺くんのお姉さんならきっとすごい美人さんなんだろうなー」
「ククク…そうだネ。身内贔屓を差し引いても僕の姉さんはとても綺麗な人だと思うヨ。…ただ、姉さんは病弱でネ。あまり外に出られない人だったんだ」
「それは…気の毒だね…」
「キミのような人が姉さんと友達だったら、いい話相手になってくれそうな気がするヨ」
「私が?ふふ、真宮寺くんがいいなら私もお姉さんとお友達になってみたいなー」
やっぱりみょうじさんは優しい人だネ。
会ったことの無い姉さんのために心を痛めて、力になってくれようとしている…。
ああ、素晴らしいね。
ククク…と口から笑みがこぼれるのを抑えられない。
「もちろん僕は大歓迎だヨ。ほら、姉さんも喜んでる…きっとすぐに会えるヨ」
「すぐ…?それってどういう…」
不思議そうに僕を見つめているみょうじさんに、僕はそっと手を伸ばす。
あと少しというところだった。
突然けたたましい音を立てて教室の扉が開かれる。
僕は騒々しいのは嫌いなんだ。
邪魔が入ったことに興醒めしながら、僕は音のした方へと視線を移す。
「はぁ…はぁ…」
「あれ、王馬くんどうしたの?そんなに息を切らして…」
「ククク…突然爆音がするものだから何事かと思ったヨ」
王馬君は息を切らして、いつものようなおどけた顔を作る事もなく無表情でじっと僕を見据えている。
これは…珍しいものが見れたネ、実に興味深いヨ。
「……ごめんごめん、ちょーっと力加減が馬鹿になっちゃっただけだよ!それよりさー、オレずっとみょうじちゃんのこと探してたんだよ?今日はゴン太とオレと3人で虫さんのドキュメンタリーを見るって約束したの忘れたの…?」
「そ、そうだったかな!?ごめんね、私すっかり…」
「なーんてね、嘘だよー!そんな約束はしてないし、そもそもオレは虫さんのドキュメンタリーに全く興味が無いよ!」
「もー、また騙されちゃったよー」
「にしし、みょうじちゃんはほんとお馬鹿さんだなー」
王馬君は一瞬の硬直の後、いつものような調子でみょうじさんをからかい始めた。
僕はすっかりその光景に興味が移り、2人の様子…というよりは王馬君をじっと観察する。
「ホントはね、そろそろ食事の時間だから呼びに来ただけだよ!今日は東条ちゃんが本格的なフレンチフルコースを作ってくれるんだって!ほらみょうじちゃん、早く行こうよー」
「わぁ、そうなんだ!それは楽しみだね」
みょうじさんのすぐ側までやってきた王馬君は、彼女の手を取りブラブラと催促するように左右に揺らす。
彼女は彼のまるで駄々っ子のような要望にも苛立ちひとつ見せず、本当に楽しんでいるような笑顔を浮かべていた。
「真宮寺くんも行こうよ、東条さんのフルコースなんだって!」
「ククク…それは楽しみだネ。だけど、僕はここで探しものがあるからそれを済ませた後で行くことにするヨ」
「そっかー。うん、それじゃあまた後でね!今日は色んな話を聞かせてくれてありがとう!」
王馬君に手を引かれながら、みょうじさんは僕に別れの挨拶を告げた。
先に彼女が教室から出たあと、扉を閉めようとした王馬君の動きがピタリと止まる。
僕がそちらへ顔を向けると、閉まりかけた扉の隙間からまたあの時の無表情で僕を見つめる王馬君の姿が見えた。
ククク…今日は逃がしてしまったけど、次はこうはいかないヨ。
そうだよね、姉さん。
そうね、是清。