好きを自覚していない話と、自覚する話
おなまえ
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自覚する百
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彼女の存在に気がついたのは、急遽打ち合わせの予定が入り、普段あまり立ち寄らない時間帯に事務所に来た時だった。
「…ねぇおかりん、あの子は?」
「え?あぁ…先月からアルバイトで来てくれてる子ですよ。名前は確か…」
みょうじ なまえさん。
職業柄、人の顔と名前を覚えるのは割と得意。
けれど、その時聞いた名前の響きも、遠目に見えた横顔も、他の事務スタッフと話している彼女の声も、妙に鮮明に覚えていることに気が付いたのはつい最近だった。
「あ、百さんお疲れ様です」
「なまえちゃんお疲れー」
月日が経ち、アルバイトだった彼女は正式にこの事務所の事務員として働くようになった。
長く勤めていれば当然顔見知りにもなるし、今では会えば普通に世間話だってできる仲だ。
けれどもそれは、他の職員さんだって同じ。
同じようにお世話になっているし、同じ会社の人間なわけだし、仲良くなるに越したことはないと思っている。
でも、なまえちゃん…なんて、あえて下の名前で呼んだのは彼女だけだ。
今思えば、最初の頃から彼女は何か…オレの中で少し特別な存在だったのかもしれない。
ロケで遠方へ行く時なんかは事務所にお土産を持ち帰ったりするけれど、品物を選ぶ時、無意識に「なまえちゃんが好きそう」を判断基準にしていたことにだって、少し前にユキに指摘されて気が付いたばかりだ。
「みょうじさん、ちょっといいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
おかりんがなまえちゃんと何かを話している。
後ろを向いてしまったから内容までは聞こえてこないけど、多分仕事の話…なんだろうけど。
時折、彼女の髪が小刻みに揺れた。
今、おかりんに何を言われて笑ったんだろう。
…うわ、なんか今のオレちょっとキモかった?いや、でもあの2人…少し距離が近すぎる…んじゃないか?なんて…。
ぼーっとソファに座りながら2人の様子を眺めていたところ、いつからいたのかユキがすぐ側にいて、オレの顔を見てクスクスと笑っていた。
「わぁ、ユキ!?い、いつからいたの!?」
「そうね、モモより5分は早かったんじゃない?」
「ま、じか…」
全く気が付いていなかったことに心底驚いた。
…ユキはこんなにイケメンで目立つ人なのに、なんで気が付かなかったんだ?
「モモ、彼女のこと好きなの?」
「ぶっ…!?」
「あぁ、それとももう付き合ってる?それならあの過剰な特別扱いも納得が…」
「ち、ち、違う違う!なまえちゃんとは本当に何もないし…いや、そもそもオレこう見えても一応アイドルだよ!?だから、そのっ、そういうのはNGっていうか…!」
「へぇ、なまえちゃん…ね。ふふ、ねぇモモ、僕は“彼女”としか言ってないよ」
分かりやすいね。
そう言って笑うユキに、とんでもない墓穴を掘ったオレはそれ以上何も言えなくなった。
チラリとなまえちゃんへと視線を移せば、丁度おかりんとの話が終わったようで笑顔を浮かべながらこちらに手を振ってくれた。
そんな様子にドキリと心臓が跳ねて、「彼女のこと好きなの?」というユキの問いが再度頭の中に浮かんでくる。
やけに彼女のことが頭の中から離れないのも、無意識のうちに特別扱いをしてしまっていたのも、全部、全部…。
なまえちゃんが、好き、だったからなんだなぁ…。
………でも、言えるわけないよなぁ。
年下。
所属事務所の事務員。
脈があるのかないのかも不明。
なんなら恋人の有無すら知らない。
…そして、そもそも自分はアイドル。
自身の感情に気がついてしまったところで、次に見えてくるのはそう簡単には越えられそうもない大きな障壁ばかり。
頭を抱えて叫びたくなる衝動をぐっと堪えながら、オレは何でもないを装って彼女へ手を振り返した。
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彼女の存在に気がついたのは、急遽打ち合わせの予定が入り、普段あまり立ち寄らない時間帯に事務所に来た時だった。
「…ねぇおかりん、あの子は?」
「え?あぁ…先月からアルバイトで来てくれてる子ですよ。名前は確か…」
みょうじ なまえさん。
職業柄、人の顔と名前を覚えるのは割と得意。
けれど、その時聞いた名前の響きも、遠目に見えた横顔も、他の事務スタッフと話している彼女の声も、妙に鮮明に覚えていることに気が付いたのはつい最近だった。
「あ、百さんお疲れ様です」
「なまえちゃんお疲れー」
月日が経ち、アルバイトだった彼女は正式にこの事務所の事務員として働くようになった。
長く勤めていれば当然顔見知りにもなるし、今では会えば普通に世間話だってできる仲だ。
けれどもそれは、他の職員さんだって同じ。
同じようにお世話になっているし、同じ会社の人間なわけだし、仲良くなるに越したことはないと思っている。
でも、なまえちゃん…なんて、あえて下の名前で呼んだのは彼女だけだ。
今思えば、最初の頃から彼女は何か…オレの中で少し特別な存在だったのかもしれない。
ロケで遠方へ行く時なんかは事務所にお土産を持ち帰ったりするけれど、品物を選ぶ時、無意識に「なまえちゃんが好きそう」を判断基準にしていたことにだって、少し前にユキに指摘されて気が付いたばかりだ。
「みょうじさん、ちょっといいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
おかりんがなまえちゃんと何かを話している。
後ろを向いてしまったから内容までは聞こえてこないけど、多分仕事の話…なんだろうけど。
時折、彼女の髪が小刻みに揺れた。
今、おかりんに何を言われて笑ったんだろう。
…うわ、なんか今のオレちょっとキモかった?いや、でもあの2人…少し距離が近すぎる…んじゃないか?なんて…。
ぼーっとソファに座りながら2人の様子を眺めていたところ、いつからいたのかユキがすぐ側にいて、オレの顔を見てクスクスと笑っていた。
「わぁ、ユキ!?い、いつからいたの!?」
「そうね、モモより5分は早かったんじゃない?」
「ま、じか…」
全く気が付いていなかったことに心底驚いた。
…ユキはこんなにイケメンで目立つ人なのに、なんで気が付かなかったんだ?
「モモ、彼女のこと好きなの?」
「ぶっ…!?」
「あぁ、それとももう付き合ってる?それならあの過剰な特別扱いも納得が…」
「ち、ち、違う違う!なまえちゃんとは本当に何もないし…いや、そもそもオレこう見えても一応アイドルだよ!?だから、そのっ、そういうのはNGっていうか…!」
「へぇ、なまえちゃん…ね。ふふ、ねぇモモ、僕は“彼女”としか言ってないよ」
分かりやすいね。
そう言って笑うユキに、とんでもない墓穴を掘ったオレはそれ以上何も言えなくなった。
チラリとなまえちゃんへと視線を移せば、丁度おかりんとの話が終わったようで笑顔を浮かべながらこちらに手を振ってくれた。
そんな様子にドキリと心臓が跳ねて、「彼女のこと好きなの?」というユキの問いが再度頭の中に浮かんでくる。
やけに彼女のことが頭の中から離れないのも、無意識のうちに特別扱いをしてしまっていたのも、全部、全部…。
なまえちゃんが、好き、だったからなんだなぁ…。
………でも、言えるわけないよなぁ。
年下。
所属事務所の事務員。
脈があるのかないのかも不明。
なんなら恋人の有無すら知らない。
…そして、そもそも自分はアイドル。
自身の感情に気がついてしまったところで、次に見えてくるのはそう簡単には越えられそうもない大きな障壁ばかり。
頭を抱えて叫びたくなる衝動をぐっと堪えながら、オレは何でもないを装って彼女へ手を振り返した。
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