片思い推理劇場
おなまえ
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※最原視点
僕が食堂に入ってすぐ目に入った光景は、飲みかけのグラスを前に下唇を噛みながら頬杖をついているみょうじさんの姿だった。
誰がどう見ても何かがあったことは明白だが、彼女の目の前にグラスが2つ並んでいることから、まだ事が起こってからそう時間が経っていないだろうことが予想できる。
透明なグラス越しに確認できる中の飲み物の色から、なんとなく何を飲んでいたのかも特定ができた。
…となると、彼女と一緒にいた人物は……そこまで考えて僕は思考を止めた。
彼女が僕に気がついたからだ。
「最原くん、こんにちは。ふふ、どうしたの?そんなところで立ち止まって」
「あ、いや…ちょっと考え事をしてただけだよ」
「そうなんだ。…あ、そうだ。良かったら少しお話しない?」
「うん…僕で良ければ」
飲み物入れてくるね、と彼女は2つのグラスを持って立ち上がる。
僕は彼女が先程まで座っていた席の向かいに腰掛けた。
きっと、僕がここへ来る前に座っていたのは彼女の想い人だ。
椅子に残るほんの少しの温もりでさえ今の僕には耐え難い。
そう思っている…それなのに何故。
僕の身体はそこに縛り付けられているかのように動かなくなってしまう。
こうしていれば、あいつのいた痕跡を塗り潰せるんじゃないか…なんて子供じみたことを考える。
椅子に残る体温を僕のものへと変えることはできても、彼女の心の中の思い出まで上書きできるわけではないのに。
「はい、どうぞ。…ふふ、また考えごと?難しい顔してるよ」
探偵さんはなんの推理をしてるのかな?なんて、僕を和ませるためかおどけたようにみょうじさんは言った。
以前、僕が入れた時のものと同量のミルクが入ったコーヒーを添えて。
「ありがとう…いや、そんなに大したことは考えてないよ。僕は色々と考え込んでしまう性分なんだ。…ごめん」
「どうして謝るの?最原くんらしくて、私は好きだよ。そういうとこ」
好きだ、なんて言葉に深い意味はない。表面上のそのままの意味しか持っていないんだ。
そう分かっているのに、さっきまで静かだった僕の心臓はドクドクと音を立て始める。
「みょうじさんくらいだよ、そんな風に言ってくれるの」
「そう?みんな思っても言ってないだけなんじゃないかな」
その後も僕たちは、彼女の淹れてくれたコーヒーをお供に他愛ない話に花を咲かせる。
今日の朝食は何が美味しかった、とか。昨日カジノで誰かが大当たりしていた、とか。
「ところで今日は何してた?」
「僕は…茶柱さんと、夢野さんのマジックショーを見てたよ。…あぁ、マジックショーじゃなくてマジカルショーか」
「ふふ、楽しそう」
「うん、楽しかったよ。…みょうじさんは?」
「私はねぇ…」
本当は聞かなくても予想はついていた。
誰と何をしていたのかなんて。
「◾︎◾︎とさっきまでお喋りしてたんだ」
「そうだったんだ」
「…でも、喧嘩?みたいになっちゃって」
お恥ずかしい、と言いながら笑う彼女はひどく寂しげに見えた。
本当は僕じゃなくて、そいつと話していたかったのだろう。
「……最原くんはいる?好きな人」
「え?」
「あぁ…いや、ごめんね突然。私はね…いるんだ。好きな人。実は…」
その先は聞きたくない。
僕の推理が正しかったことを証明しないで欲しい。
どうか、間違いだったとそう思いたい。
99%そんなことは起こりえないと分かっているのに、それでも僕の心は彼女の言葉の続きを聞くことを躊躇っていた。
「あ…えっと、その…」
「どうかした?」
「なんとなく、分かってたよ」
僕の言葉に彼女は目を丸くする。
さすが探偵さんだね、と言いながら頬を少し赤く染めた。
「…ごめん、勝手に」
「ううん、そんなの平気だよ。私、分かりやすいタイプだって昔から言われてたし。やっぱり表に出てるのかな?あー、ちょっと恥ずかしいね」
顔をパタパタと扇ぎながら彼女は笑った。
その紅潮した頬もはにかんだ笑顔も…全ては僕が生み出したものではないのに、それでも今の彼女の表情を知っているのは間違いなく僕だけで。
優越感と劣等感が入り交じった僕の感情は忙しなく揺れ動いていた。
「…僕はその、とても…可愛らしくて素敵だと思うよ」
「あはは、ありがとう。最原くんは優しいね」
僕の内情なんて知る由もない彼女は、全てを僕の優しさだと解釈してしまう。
僕はそんなに優しい人間じゃない。
思い込みや偏見…ただの個人的な都合で誰かのことを好きにもなるし、嫌いにもなる人間だ。
だって現に、あいつとは大した接点もないのに僕は死ぬほどあいつのことを憎んでる。
キミが好意を向ける、あいつのことを。
「…最原くんもいたりするの?好きな人」
言いたくなかったら答えなくていいよ、と言いながら、躊躇いがちに再び彼女は僕に問いを投げかける。
YESかNOで答えるのは至極簡単な問いだ。
でも、それを答えるだけではきっと今の状況は何一つ変わらないだろう。
そんな事を考えながら、自分自身の諦めの悪さを恨む。
どう答えれば、少しは彼女の心に引っかかってくれるだろうか。
しばしの思考の後、僕はゆっくりと口を開く。
「…いるよ。僕の好きな人は、とても可愛らしくて素敵な人、なんだ」
僕が食堂に入ってすぐ目に入った光景は、飲みかけのグラスを前に下唇を噛みながら頬杖をついているみょうじさんの姿だった。
誰がどう見ても何かがあったことは明白だが、彼女の目の前にグラスが2つ並んでいることから、まだ事が起こってからそう時間が経っていないだろうことが予想できる。
透明なグラス越しに確認できる中の飲み物の色から、なんとなく何を飲んでいたのかも特定ができた。
…となると、彼女と一緒にいた人物は……そこまで考えて僕は思考を止めた。
彼女が僕に気がついたからだ。
「最原くん、こんにちは。ふふ、どうしたの?そんなところで立ち止まって」
「あ、いや…ちょっと考え事をしてただけだよ」
「そうなんだ。…あ、そうだ。良かったら少しお話しない?」
「うん…僕で良ければ」
飲み物入れてくるね、と彼女は2つのグラスを持って立ち上がる。
僕は彼女が先程まで座っていた席の向かいに腰掛けた。
きっと、僕がここへ来る前に座っていたのは彼女の想い人だ。
椅子に残るほんの少しの温もりでさえ今の僕には耐え難い。
そう思っている…それなのに何故。
僕の身体はそこに縛り付けられているかのように動かなくなってしまう。
こうしていれば、あいつのいた痕跡を塗り潰せるんじゃないか…なんて子供じみたことを考える。
椅子に残る体温を僕のものへと変えることはできても、彼女の心の中の思い出まで上書きできるわけではないのに。
「はい、どうぞ。…ふふ、また考えごと?難しい顔してるよ」
探偵さんはなんの推理をしてるのかな?なんて、僕を和ませるためかおどけたようにみょうじさんは言った。
以前、僕が入れた時のものと同量のミルクが入ったコーヒーを添えて。
「ありがとう…いや、そんなに大したことは考えてないよ。僕は色々と考え込んでしまう性分なんだ。…ごめん」
「どうして謝るの?最原くんらしくて、私は好きだよ。そういうとこ」
好きだ、なんて言葉に深い意味はない。表面上のそのままの意味しか持っていないんだ。
そう分かっているのに、さっきまで静かだった僕の心臓はドクドクと音を立て始める。
「みょうじさんくらいだよ、そんな風に言ってくれるの」
「そう?みんな思っても言ってないだけなんじゃないかな」
その後も僕たちは、彼女の淹れてくれたコーヒーをお供に他愛ない話に花を咲かせる。
今日の朝食は何が美味しかった、とか。昨日カジノで誰かが大当たりしていた、とか。
「ところで今日は何してた?」
「僕は…茶柱さんと、夢野さんのマジックショーを見てたよ。…あぁ、マジックショーじゃなくてマジカルショーか」
「ふふ、楽しそう」
「うん、楽しかったよ。…みょうじさんは?」
「私はねぇ…」
本当は聞かなくても予想はついていた。
誰と何をしていたのかなんて。
「◾︎◾︎とさっきまでお喋りしてたんだ」
「そうだったんだ」
「…でも、喧嘩?みたいになっちゃって」
お恥ずかしい、と言いながら笑う彼女はひどく寂しげに見えた。
本当は僕じゃなくて、そいつと話していたかったのだろう。
「……最原くんはいる?好きな人」
「え?」
「あぁ…いや、ごめんね突然。私はね…いるんだ。好きな人。実は…」
その先は聞きたくない。
僕の推理が正しかったことを証明しないで欲しい。
どうか、間違いだったとそう思いたい。
99%そんなことは起こりえないと分かっているのに、それでも僕の心は彼女の言葉の続きを聞くことを躊躇っていた。
「あ…えっと、その…」
「どうかした?」
「なんとなく、分かってたよ」
僕の言葉に彼女は目を丸くする。
さすが探偵さんだね、と言いながら頬を少し赤く染めた。
「…ごめん、勝手に」
「ううん、そんなの平気だよ。私、分かりやすいタイプだって昔から言われてたし。やっぱり表に出てるのかな?あー、ちょっと恥ずかしいね」
顔をパタパタと扇ぎながら彼女は笑った。
その紅潮した頬もはにかんだ笑顔も…全ては僕が生み出したものではないのに、それでも今の彼女の表情を知っているのは間違いなく僕だけで。
優越感と劣等感が入り交じった僕の感情は忙しなく揺れ動いていた。
「…僕はその、とても…可愛らしくて素敵だと思うよ」
「あはは、ありがとう。最原くんは優しいね」
僕の内情なんて知る由もない彼女は、全てを僕の優しさだと解釈してしまう。
僕はそんなに優しい人間じゃない。
思い込みや偏見…ただの個人的な都合で誰かのことを好きにもなるし、嫌いにもなる人間だ。
だって現に、あいつとは大した接点もないのに僕は死ぬほどあいつのことを憎んでる。
キミが好意を向ける、あいつのことを。
「…最原くんもいたりするの?好きな人」
言いたくなかったら答えなくていいよ、と言いながら、躊躇いがちに再び彼女は僕に問いを投げかける。
YESかNOで答えるのは至極簡単な問いだ。
でも、それを答えるだけではきっと今の状況は何一つ変わらないだろう。
そんな事を考えながら、自分自身の諦めの悪さを恨む。
どう答えれば、少しは彼女の心に引っかかってくれるだろうか。
しばしの思考の後、僕はゆっくりと口を開く。
「…いるよ。僕の好きな人は、とても可愛らしくて素敵な人、なんだ」
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