体調不良と恋の病
おなまえ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「はぁ…私、ただの足でまといですよね…」
なまえはスタジオ側のベンチで1人落ち込んでいた。
少しでも早く役に立てる自分になりたくて、連日仕事から帰った後も勉強に専念し、ろくに眠っていなかった気がする。
その結果、今日事務所を出発する時に倒れてしまったのだった。
幸い少し眠れば回復したけれど、自己管理ができていない時点で社会人失格だ…となまえは自責の念に駆られていた。
「あー!」
廊下の先、スタジオ入口から収録が終わったのであろう百の声が聞こえ、顔を上げた。
慌てて立ち上がると、いつの間にやら近くに来ていた百にガシッと肩を掴まれ座らされる。
「も、百さ…」
「なまえちゃん何しに来たの!体調は?熱は?今日は1日お休みって言ったでしょ!!」
「う…」
珍しく怒った顔をする百に、なまえはそれ以上何も言えずに俯く。
「みょうじさん、体調悪いんですか?」
そこへ、今日の共演者だった天がやってきた。
「そうなんだよ、仕事熱心でちゃんと眠ってなかったみたいでさ!…っと、オレちょっと仕事の話が残ってるんだった……。なまえちゃんはそこでゆっくりして待ってて、帰りは送るから!じゃ、天お疲れさま!」
嵐のように去っていく百に、ふぅと天が息をついた。
「なるほど。自己管理がなってない結果だね」
「…おっしゃる通りです」
「別に、頑張ることは悪い事だとは思わないけど」
「ですが、結果的に皆さんにご迷惑をおかけしてしまったので…」
座ったまま深いため息をついたなまえ。
ふと顔を上げると、先程までいたはずの天の姿がなかった。
呆れてどこかへ行っちゃったのかな…。
恐らくそういうわけではないと思うが、マイナス思考が加速している今は何に対してもこの調子だ。
将来的には一人前のマネージャーになりたいと思っていたけれど、補佐役の今ですらこの有様でやっていけるのだろうか。
なまえの止まらないネガティブは、もはや未来のことへも飛躍しはじめていた。
「落ち込みすぎ。そんな調子だと百さん余計に心配するんじゃない?」
そんな声とともに隣に腰掛けてきたのは、姿が見えなくなったと思っていた天だった。
言葉は少しきついけれど、戻ってきたということは多少なりとも心配してくれているのだろうか。
「あげる。ついでに買ってきた」
「…ありがとうございます」
差し出されたお茶のペットボトルをおずおずと受け取ると、天がなまえの隣に腰掛けた。
カシュ。
缶を開ける音がして、隣にいる天がそのまま缶コーヒーに口をつける。
なんとなく気まずい気分になりながら、でも受け取ったものに手をつけないのも返って失礼な気がしてペットボトルの蓋を開けてお茶を口に含む。
ごくんと飲み込めば、乾燥していた喉が潤って気分も少しだけ落ち着いた。
「体調、大丈夫なの?」
「はい、少し眠ったら大分…ひゃっ!?」
なまえの額に天の手のひらが触れる。
驚きのあまり言葉の途中で情けない悲鳴が上がった。
距離が近づいたことによる恥ずかしさでなまえの頬はみるみるうちに赤くなってしまった。
「まだ熱はありそうだけど。帰ったら今度こそちゃんと休んだ方がいいね」
「は、はい…」
「…元気に笑ってる方が、キミらしくてボクは好きだよ」
「はい………って、え?」
「じゃ、ボクはこれで。お大事に」
ポカンとしているなまえをよそに、天はふっと笑ってその場を立ち去った。
今何を言われたんだろう、と脳内でつい数分前の出来事を繰り返し再生する。
元気に笑ってる私が、私らしくて好き…?
きっとただの励ましの言葉なのだろうが、自意識過剰と分かっていても他の意味が含まれているんじゃないかと期待をしてしまう。
でも、アイドルモードではない天がそんなリップサービスなんてしてくるものだろうか。
なまえがぽーっとしながら天の去っていった方向を見つめていると、反対側から百が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「なまえちゃーん!ごめんねー!お待たせ……あれ、顔赤いけど大丈夫?も、もしかして悪化した!?」
「へっ?あ、いや、これはそういうわけじゃ…!」
「こんな所で喋ってる場合じゃない!ほら、早く帰って休まないと!」
「も、百さん違うんです、体調はもう大丈夫で…」
「そんな真っ赤な顔で大丈夫なんて言っても信用ないからね!オレもユキもいーっぱい心配してたんだよ?だから素直についてきなさい!」
「…はい、すみません。ありがとうございます」
赤くなっているのは九条さんのせいなんです。
などと言い出せる雰囲気ではなく、そもそもなまえ自身そんな説明をする勇気を持ち合わせていなかった。
次に顔を合わせた時はどんな顔をすればいいか分からなくなりそう…。
まるで母親かのごとく世話を焼く百に連れられながら、なまえは頭の隅の方でぼんやりとそんな事を考えていた。
1/1ページ