心の隅に※
おなまえ
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※王馬視点
「はぁ?もう別れちゃったの?」
「うっ…だって、だってぇ……うわぁぁん」
「あーもう泣かないでよ。話なら聞くから座ってて、ティッシュ持ってくる」
真夜中の突然の来客は、高校の頃クラスメイトだったみょうじちゃんだった。
卒業後も交流は続いていて、こうして急にやって来ることも時々ある。
今日は妙に落ち込んでいるものだから理由を聞いてみれば、どうやら2週間前に付き合ったばかりの彼氏と別れたらしい。
事情は知らないけど、号泣している彼女の様子から察するにこっぴどく振られてしまったんだろう。
「はい、鼻かんでー」
「うん…ありがと…」
オレの差し出したティッシュを受け取り、みょうじちゃんはずるずると鼻を鳴らす。
あーあ、顔ぐちゃぐちゃにしちゃって…。
今度は一体何をされたんだか。
彼女はとにかくどうしようもないほど男運が悪くて、おまけに見る目がない。
これまで付き合った男から酷い仕打ちを受けているのを、オレは何度も見たし聞いてきた。
見かねてそいつはやめとけと忠告したことだってある。
でもきっと相手に甘い言葉で丸め込まれてしまうのだろう、結局いつも同じことの繰り返しで最後には泣いてオレのところへやって来る。
いい加減に辟易としながらも縋り付いてくる彼女を振り解けないのは、オレはこんなにも面倒なこの女を好きになってしまったからだ。
それなのにこの子は全く気付く様子もなく、恋愛相談だなんて残酷なテーマの話を無遠慮に繰り広げる。
別に、言ってもいないことを察しろだなんて要求する気は全くないんだけどさ。
「で、何があったの?」
「う、浮気…されてたの…」
「はぁ…またかよ。見たの?」
「うん。最近全然連絡くれなくて、心配になって…家に見に行ったら……女の人が、出てきて…自分が彼女だって…」
「全く、だから言ったでしょ?あいつは絶対遊び人だって」
「うぅ…ごめんなさい…」
胸の奥がちりちりと痛んで、同時にほんの少しのイライラがオレを襲う。
なんでそんなやつのこと好きになっちゃったの?
すぐ目の前にこんなにキミのこと考えてる男がいるっていうのにさ。
よしよし、と頭を撫でるとみょうじちゃんはまたぽろぽろと涙をこぼす。
もどかしい。こんなに近くにいるのに。
本当は言ってしまいたい。
でも、みょうじちゃんがそれを知って今の関係が壊れてしまった時のことを思うとできない。
もしオレがいなかったら、彼女はどこに縋ればいいんだろう…なんてそんなことを思ってしまうから。
「もー、みょうじちゃんはホントしょうがないなぁ。次からは付き合う前にオレに相談しなよ。これでも結構、人を見る目には自信あるからさ」
「うん…そうする。ありがとう、王馬くん」
目の周りを真っ赤にしてみょうじちゃんが微笑む。
許されるなら今すぐ抱きしめて、頬に残る涙の粒を拭ってやりたい。
こんなにも好きだってことを伝えてしまいたい。
だけどオレは嘘つきだから、そんなこと考えててもみょうじちゃんの幸せを応援してる…なんてことがあっさり言えちゃうんだよね。
そうすればきっと、オレは最後の拠り所として彼女の中から消えてしまうことはないと思うから。
「王馬くんは優しいね」
「にしし…悪の総統に優しいだなんて、みょうじちゃんは変なこと言うね」
「あのね…王馬くんも、その…もし良い人がいるなら…私なんかに構わず幸せになってね」
「なーに言っちゃってんの?みょうじちゃんに心配されなくても、オレはちゃんと上手くやるから大丈夫だよー」
「ふふ、そうだね。でも…私に出来ることがあれば言ってね」
「よーし!じゃあ用が出来たらこき使ってあげるから覚悟しててよね!」
「お、お手柔らかにお願いします!」
こんなに苦しいのに、キミが笑ってくれるなら…なんて思っちゃうオレって相当末期だよね。
彼女の幸せを願う一方で、不幸になればまた慰めてもらうためにオレの所に来てくれる…とかさ、そんな歪んだ考えが浮かんじゃうことももちろんあるけど。
でもやっぱり、最後には幸せでいて欲しい。
この先どこの誰と幸せになるのか分からないけど、出来ればその幸せな心のどこか隅っこにオレのことも住まわせておいてよ。
なんてさ、もちろん…嘘だけどね。
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