ばいばい※
おなまえ
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いつもみたいに嘘だって言って欲しかった。
入間さんが殺された学級裁判で、ゴン太くんがクロだという真相を最原くんが解き明かした。
ゴン太くんがそんなことをするなんて信じられない、そんな気持ちもあったけど…。
「こんな…コロシアイゲームが楽しいなんて、そんなの嘘だよね」
脳裏に浮かぶのはあの時の王馬くんの恐ろしい形相。
確かに今までもおかしなことを言って困らせたり、嘘で惑わしてきたり…純粋な良い人とは言えなかったけど。
だったら…私の作ったお菓子を食べてくれた時の、あの嬉しそうな笑顔も全部嘘だったの?
『へー!これ全部みょうじちゃんが作ったの?食べてもいい?あ、毒とか入ってないよね?』
『そんなの入ってないよ!毒なんて作れないし…。手作りが気にならないなら、良かったら食べてくれると嬉しいな』
『にしし、嘘嘘!毒が入ってるなんて疑ったことないよ。じゃあまずはこのクッキーからもらっちゃお!……んっ!みょうじちゃん、これめちゃウマだよ~さすがは超高校級って感じ!』
『お口に合ったみたいで良かったよ。どれでも好きな物食べてね』
『んん~~どれもこれも最高だね!はいっみょうじちゃんもあーん』
『ええっ?じ、自分で食べられるよ…』
『いいからいいからほら!オレのか弱い腕がプルプルしてきちゃう前に食べなよ!』
『じゃ、じゃあ……あむっ』
『にしし、美味しいよね!』
『うん、美味しい…えへへ』
思い出すのはまだ誰も殺されていなかった頃、王馬くんと過ごした時間。
食堂近くの私の研究教室で気を紛らわすためにお菓子を作っていると、出来上がる頃に決まって王馬くんがやってきて…味見と称してたくさん食べてくれたっけ。
赤松さんと天海くんがいなくなって、その後東条さんと星くんがいなくなって……少しずつ人が減っていくごとに、私も自然とお菓子を作ることがなくなっていって…。
そういえば、最後に作ったのはいつだったかな。
思い出に駆られるまま、気がつけば私は研究教室にやって来てクッキーを作っていた。
そんなに昔のことではないはずなのに、生地を混ぜる感触がすごく久しぶりに思える。
さすがに、こんな状況じゃ私の作ったものなんて誰も食べてくれないよね。
寂しいけれど、今は誰でも手の届くところに毒薬だってある。
私がみんなの立場なら、申し訳ないけど口にするのは躊躇うだろう。
仕方の無いこと。少しずつ自分で消費しよう。
王馬くんがつまみ食いに来ていた時の癖で、少し多めに出来てしまうかもしれない。
そんなことを考えていると、自然と目からは涙が零れ落ちていた。
部屋中に甘くて香ばしい匂いが漂う。
もうすぐ出来上がりだ。
少しはいい気分転換になったかもしれない。
落ち着いてきた気持ちを自覚しながら、オーブンを眺めていた。
“ガチャ”
突然教室の扉が開き、私は慌てて振り返る。
「だ、誰……?あっ…」
入口に立っていたのは、王馬くんだった。
「あは、随分久しぶりだね。…ここでみょうじちゃんと会うの」
「そ、そうだね。私もここへ来たのは久しぶりな気がするよ」
「今日は何作ってるの?」
そっと近づいてくる王馬くんに、私は少しだけ身構える。
だけど、彼の表情はとても穏やかに見えて、それが余計に私を困惑させていた。
「クッキーだよ。……あの、王馬くんはなんでここに…」
「んー?いい匂いがしたから、久しぶりにみょうじちゃんのお菓子が食べられないかなーって期待して来ただけだよ」
「そ、そう…もうすぐ焼き上がるから、少し待っててね…」
顔を合わせるのが気まずくて、私はオーブンの方へ向き直る。
あまりにもいつも通りすぎる王馬くんの対応は、返って何を考えているのか分からなくて怖くなった。
「みょうじちゃん」
「えっと…何かな?」
「ダメだよ。そんなに簡単に他人に背中を見せたら」
ハッとして王馬くんの方に体を向き直す。
まさか、私を殺しに来たのか。
そんな疑いの気持ちを持って。
「にしし、大丈夫だよ。オレはみょうじちゃんを殺したりしないからさ」
「私は別に…そんなこと…」
「考えたでしょ?オレ、他人の嘘って嫌いだからすぐ分かるって前言ったよね」
「…ごめんなさい。少しだけ考えた」
「ま、いいけどね。ところでほら、クッキーそろそろ焼けた?オレ小腹が空いてるんだよね」
「あ、うん。そうだね、用意するよ…」
知らぬ間に焼きあがっていたクッキーをオーブンから取り出し、お皿に盛り付ける。
一体王馬くんは何を考えているんだろう。
「はい、どうぞ」
「わーい、ありがとみょうじちゃん!」
何を話して良いか分からず、クッキーを食べつつ王馬くんの様子を伺う。
美味しそうに食べてくれる姿に、反射的に少しだけ頬がほころんだ。
「みょうじちゃん、あのさ」
「どうしたの?」
「………これ、美味しいよ。ありがとね」
何か言葉を飲み込んだような仕草をした後、そう言ってにししと王馬くんが笑う。
何か…何か彼には考えがあってあんなことをしたんじゃないか。そんな希望的観測が脳内を巡る。
でも、事実として入間さんとゴン太くんは死んでしまっている。そんな大きすぎる代償に釣り合う理由など、私には思いつかなかった。
それ以降お互いに何も言わないまま、時間だけが過ぎていく。
「さて、そろそろ行くよ。……ばいばい、みょうじちゃん。キミといる時間は案外つまらなくなかったよ」
「お、王馬くん!」
「んー?どうかした?」
「あの…えっと、またね!」
「……にしし、ばいばい!」
まるで今生の別れかのような一言に気が急いて、またね、なんてありきたりな言葉を口にしていた。
それに対して王馬くんからの返事は、つまりノーという意味なのだろう。
王馬くんが出ていった扉を見つめながら、私はまたいつの間にか涙を零していた。
「何で…抱えてること何も言ってくれないの…」
*****
「そんなの、今更言えるわけないだろ」
みょうじの独り言を扉の外で聞いていた王馬は、ポツリとそう呟いてその場を立ち去った。
悪の総統としての表情を作りながら、ゆっくりと。
「絶対、コロシアイなんて止めてやる。ゲームに勝つのはオレなんだ」
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