ヤキモチと壁ドン
おなまえ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ねぇ」
「は、はい何でしょう…」
私は何故か、恋人にすごい剣幕で壁ドンされています。
*****
「いらっしゃいませー。ちゃんと掃除もしましたので安心して下さいね!」
「うん、ありがとう。お邪魔します」
今日は2人揃ってオフの日。
こんなの一体何ヶ月ぶりだろう。
嬉しくてつい口元が緩みっぱなしになるのを抑えることも忘れて、ただ家まで遊びに来てくれた恋人の九条さんを出迎える。
九条さんは大人気アイドルグループのセンターで、ステージの上じゃなくてもキラキラ輝いていて…なんというか本当に綺麗な人だ。
「ふふ、なんだかいつもよりニヤニヤしてるね」
「え、えへへー…すみません、久しぶりに九条さんと2人きりだと思うと嬉しくって」
「ボクも嬉しいよ。すごく会いたかった」
先に部屋の奥へ進んでいた九条さんが、私に向かって両腕を広げて待っている。
たまらずそこへ飛び込むと、抱きとめられるようにすっぽりと彼の腕の中に収まった。
大好きな九条さんの匂いがして、ちゃんとそばに居ることを実感する。
「あ、そうだ!百さんがこの間のロケ地でお土産買ってきてくれたんですよ。良かったら一緒に食べませんか?」
「そう、なら頂こうかな」
いそいそとお茶の準備をして、頂きもののシュークリームをお皿に取り出す。
準備が出来てテーブルに運ぼうとしたタイミングで九条さんがやって来て、ボクが運ぶよ、と颯爽と私からトレイを持ち去った。
こういうのなんて言うんだろう、スパダリ?ってやつなのかな。
ちょっとした気遣いにきゅんとしながら、美味しいおやつを頬張り世間話をしていた。
「そういえば、しばらく会えなかった間になまえはかなり髪が伸びたね」
「あ…ここ最近忙しくて切りに行けてなくて」
「ふふ、いいんじゃない。その位の長さもよく似合ってて可愛いよ」
「そ、そうですかね。えへへ」
久しぶりにかけられる甘い言葉に照れてしまい、簡単に顔が熱くなる。
いつも会う度に久しぶりだからなのか、毎回付き合いたてかのような新鮮味を感じていた。
「髪といえば、この前陸くんにも同じこと…」
「陸、くん?」
「へ?はい…陸くんです。どうかしましたか、九条さ…」
「へぇ…陸くん、九条さん…ねぇ」
九条さんの表情は前髪に隠れてよく見えないけれど、どうやらとても怒っているらしい。
何かしてしまっただろうかと額に冷や汗が滲む。
少しの沈黙の後、九条さんはじりじりとこちらに近寄ってきた。
なぜだか身の危険を感じた私は、反射的に後ずさる。
しかしそんな私たちの静かな攻防戦は、私の背中が壁に行き着いたことであっけなく終了した。
ドン
wow、これが「ジャパニーズ 壁ドン」デスか!
なんて海外のテレビショッピングの出演者のようなセリフを頭の中で呟く。
いわゆる現実逃避というやつだが、体の方は全然逃避出来ていないので全く意味が無い。
「ねぇ」
「は、はい何でしょう…」
九条さんの顔がゆらりと持ち上がり、目が合う。
ただでさえ端正な顔立ちゆえ、怒った時の剣幕がとてつもない。それに目力も半端じゃないため、蛇に睨まれた蛙がごとく固まってしまった。
「なんで陸のことは『陸くん』なのに、ボクの事はいつまで経っても『九条さん』なの」
「ぅ…え?」
まるで拗ねた子供のような話し方で、考えもしなかったことを言われたために情けない声が出てしまった。
もしかして九条さん、ヤキモチなんですか?
そんなのってちょっと可愛すぎて反則だと思います…。
「く、九条さ」
「天、でしょ?」
「天………さん」
「さんもいらない」
「で、ではせめて天くんでなんとか…!」
「…まぁ、それならいいか」
いじけたような顔をする九条さん、改め天くん。
あまり見た事のなかった彼の一面に胸の高鳴りが止まらない。
「て、天くん」
「なに?」
「あの、好きです」
「ふふ、どうしたの急に。そんなの知ってるよ」
「でも…なんとなく、言いたくなって」
「そっか。ならもっといっぱい言って?」
「好き」
「うん」
「大好き」
「ふふ、ボクも大好き」
ずっと近くにあった天くんの綺麗な顔が更にぐっと寄せられ、そっと目を閉じる。
唇に柔らかいものが触れて、そこから伝わってくる熱の心地良さにうっとりしてしまう。
「ん…天、くん」
「なぁに、なまえ」
「も、もっと…して欲しいです」
「ふふ、次は敬語を辞められたらしてあげるよ」
「そ、そんな…!」
その後何度か挑戦したけれど、敬語は徐々にやめていくということで何とか許してもらうことが出来た。
一歩前進のご褒美と称して、優しいキスと一緒に。
1/1ページ