第1章「ガチンコベイ誕生!!」
バルトに呼び出されたドラム、デルタ、シズクの3人は、BCソルの宿舎から離れた森の奥にある小さなスタジアムに向かった。そこにはもうバルトがいて、バルトは3人が着いたのを確認すると、手に握っている蒼いベイを見せた。
なんとそのベイは今までにないベイで、名前は「スラッシュヴァルキリー」。
この新しいベイを制作するにあたって、先日まで彼がニューヨークにいる彼女と電話や手紙のやり取りをしていたのを思い出す。
バルトはそのベイを「ガチンコベイ」と呼んだ。真ん中にあるガチンコチップと呼ばれる小さなチップを取り外すと、銀色の重たいメタルで作られたウエイトが埋め込まれていた。どうやらガチンコベイのレイヤーはレイヤーとウエイトとガチンコチップの3層で作られているようだ。
ドラム達は蒼く光り輝くベイに魅せられ、まじまじと眺めていた。
「レイヤーにウエイトが入っているから、重心が――」
「うおおっ!重心が低くなってんのかー!!」
ドラムはバルトからベイを奪い取るとそのベイを眺め、デルタとシズクにまるで自分で作ったかのように見せびらかす。
「デルタ、シズク、見ろよこれ!すっげーだろ!ちょーかっけーなー!!」
「……ドラム、返しなさい。」
「あっ……」
ドラムはハッと気づくと謝りながらバルトにベイを返した。
そして、バルトは試運転も兼ねてドラムにバトルを申し込んだ。ドラムはバルトに指名され、ブルブルと足の先から震えると、途端に顔を真っ赤にし、誰もが怖がる所謂「コワ顔」をしながらバルトに近寄り、それを了承した。ドラムは緊張すると表情を強ばらせる癖がある。
(新しいベイの最初のバトル……ドラムを指名か。)
「あらデルタ、戦いたかったのかしら?」
「別に。客観的に見ることで得られるものもある。」
「素直じゃないですわぁ。」
バルトとドラムはお互いにランチャーを構え、体勢を整え準備万端。デルタもスタジアムに立ち、この勝負の審判を務める。
「レディ……セット!」
「「3!2!1!ゴーー……シューート!!」」
スラッシュヴァルキリーのディスクにあるウイングが開き、パワードライバーのバウンド軸がゆったりと地面に接着し、そのままスタジアムを駆け回る。
バルトの掛け声と同時にヴァルキリーは黄金に光り輝く姿へと変貌した。スピードが先程よりも加速し、止まることを知らない。
ドラム達はそんな光のベイ、「ゴールドターボ」に魅せられ、その目を輝かせた。
そうしている間にドラムのベイは軽々しくバーストさせられ、ヴァルキリーの勝利となったが、バトルに負ける敗北よりも、ヴァルキリーの輝きに対する気持ちの方が大きく、言葉を詰まらせる。
(ヴァルキリーが、金色に光って走っている……!オレもこんなベイが欲しい……光のベイ
――ゴールドターボ!!)
***
数ヶ月経ったある日のこと。ドラムとシズクはBCソルではなく、スペインの空港にいた。ドラムはベンチでベイのクリーニングをしながら両親とビデオ通話を始め、シズクは搭乗の手続きをしに向かっていた。
ドラム達がこれから向かうのは日本のブレイド町。そこでベイクラブのトレーナーをしているドラムの叔父(父親の兄弟)の元で武者修行するという事だ。
ドラムの両親は冒険家で毎日世界中を旅している。彼の成長を信頼してはいるものの、どこか心配な両親は彼と1番仲の良いシズクに頼むと快く了承してくれた。
「南極は寒い……うう、こっちは寒いけど、父ちゃんも母ちゃんも元気だぞ。」
「くぅ〜!かっこいいぜ!」
「そうか、かっこいいか!いいかドラム。冒険こそ男のロマンだ。」
「ゼッテェ強い!ガチンコベイだもんな!」
「ああ、そっちか…」
お互いの話が噛み合っていないのか、ドラムが親の話を聞いていないのか、ドラムが作り上げた「ガチンコベイ」を眺めながら、ドラムの父親は困ったような顔でドラムを見る。
「ドラム、時間ですわ。荷物を預けてくださいまし。」
「あっ、シズク〜!大丈夫だったか?誰かにぶつかったとかないか?」
ドラムは彼女の存在に気づくとむぎゅ、と左から抱きついてえへ、えへへと嬉しそうに頬をゆるめる。
「シズクちゃん、ドラムの事よろしく頼むわね。」
「ドラム1人じゃあ心配ですもの、私 がいればドラムも不慣れな日本も安心でしょうし。」
ドラムはその間にカチャカチャ、とベイを組み立てて、シズクに見せびらかすように彼の愛機「エースドラゴン」を彼女の頬に刺さるくらい近づけた。
ぐにゅ、と押し付けられてイラッときたシズクはドラムの頭をペチン、と叩き無理矢理引き剥がすと、髪の毛を整えてドラムの両親に再び顔を向けた。
「叔父さんには連絡してあるから」
「希望を胸に、羽ばたけよ!!」
「どこまでだってドラゴンと一緒に羽ばたくぜ!」
そう言って二人は日本へと旅立った。
日本のブレイド町に着くと、そこではベイフェスティバルが開催されており、町中ベイブレード一色。パレードや屋台が来場者の気分を高め、興奮させている。
やはりここでのメインは司会者のいるメインモニター前だろう。ドラムとシズクは人混みにまみれながらも握られた手を離さず進むと、そこのメインモニターから、BCソルの先輩ブレーダーでありレジェンド・オブ・レジェンド、蒼井バルトの姿が見えた。
「あっ、バルト先輩だ!せんぱーーい!!」
【日本のみんな!ベイブレード楽しんでるかー?】
「着いたばっかだからまだやってなーい!」
【オレもベイカーニバルには行くからな、待ってろよー!】
「待てねぇよ〜!今すぐバトルしてぇー!」
「大人しくしなさい!」
【楽しく、アツく、最高に燃える全力バトルしようぜ!行くぜ、みんな!!】
バルトの合図に合わせ、モニターを見ている全員が「3、2、1、ゴーシュート!」と掛け声をかけるとバルトも観客の皆も拳を突き出しさらに盛り上がりを見せた。ドラムもその1人で、自身とシズクのスーツケースを持つとそのままシズクを置いていく形でどこかへ行ってしまった。
「あっ、待ちなさい!ドラム!!ドラムってばーっ!!」
目があまり見えないシズクは人にぶつかっては謝り、ぶつかっては謝り、ドラムを追いかけるがもう既に見えなくなり知らない場所で1人迷子になってしまった。
(ま、まずいですわ……こんな所で迷子になってしまうとは……)
「お前、迷子だべ?」
赤茶色の髪色に草葉が良く似合う服装をした少年はオロオロと辺りを見渡しているシズクに声をかけた。
一方、ドラムはベイブレードの対戦コーナー。そこの一角で、小さな少年達はベイブレードをしていて、大柄の男の子が少し小柄な男の子のベイを奪い取っていた。
もーらい、と大柄な男の子が掲げた緑色に光るベイを見つけたドラムはシュバッとそのベイを取るとまじまじとそれを見つめた。どうやら緑色のベイはガチンコベイらしく、大柄な少年はドラムから奪い返すと、ドラムを睨みつけた。
「なぁ、オレとバトルしようぜ!」
「返してよぉ〜っ!それボクの兄ちゃんの!」
小柄な少年が大柄の少年にしがみつき、必死にそのベイを取り返そうとするが、どうやらこの子達はどちらかが勝ったらベイを貰う約束をしていたらしい。とはいえ、小柄な方の少年はそんな事約束した覚えはない。
ドラムは目の前で二人の揉め合いを放っておけないのか、横から口を挟んだ
「そっ…そういうの、良くないと思うぞ!」
「おめぇは引っ込んでろ!!」
大柄な男の子に怒鳴り散らされ、ドラムはブルブルと震え始めると、だんだん緊張して顔を真っ赤にしいつもの怖い顔になり、耳に響くような大声でこんなのベイブレードじゃない、と怒鳴り返す。
「ベイは……楽しくゥ!アツくゥ!最高に燃えるゥ〜ッ!ガチ全力バトルなんだからヨォ!!」
「それ、バルトが言ってたやつ……。」
ズン、ズンと迫りよるコワ顔に大柄な男の子とその取り巻きみたいな子達は怯え逃げてしまった。その時、ポロリと奪われたベイが少年のところに返ってきた。少年がドラムにお礼を言うが、ドラムは近寄った時の体勢のまま動かない。ぽんぽん、と肩を叩くとコワ顔のまま少年の方を向いた。
「コワッッ!!」
「あっ、ごめん。オレ、緊張すっとコワ顔になっちゃうんだ。」
「顔、近い……。」
「コラーーー!!!!」
すると遠くから誰かが走ってきた。その後ろからドラムにとっては見慣れた少女――シズクの姿もあった。
「アイツらの仲間か……!!」
「返せ、ベイ!!」
「返す訳ないだろ!」
「返せ!!」
「返さねぇ!」
「返せ!!」
「返さねぇ!」
「違う、違うよ兄ちゃん。」
「全く……ドラム、まずは人の話を聞きなさい」
シズクはドラムから無理矢理剥がしてペチンと彼の額にデコピンをかますと「あでっ」と叩かれた部分を押さえた。「兄ちゃん」と呼ばれていた少年も、小さな少年の方に顔を向けると取り返されているガチンコベイを見せた。
小さな少年の話を聞くと、そうか。と一言言い、そのガチンコベイを返してもらった。
「ごめん、ボクアシュラでバトルしたかったんだ。」
「“タカネ”にはまだ使えないって言ったべ?」
「うん……。」
「へぇ、そのガチンコベイ、お前のだったのか!なあ、バトルしようぜ!」
「ああ?オラの相手になんのか?」
「兄ちゃんはこの辺じゃあ最強のブレーダーだよ!」
「へへっ、オレも結構強いよ!」
「そうかしら。」
少年はドラムの瞳に宿る闘志を見た。どうやら本気でバトルに挑もうとしているのか、少年はそれを了承した。
「そういや、オメェの探していたヤツ、見つかって良かったべ。」
「ええ、貴方も探している弟さんを見つけられて良かったですわ。感謝いたします。」
お互いスタジアムの端に立ち、タカネはその真ん中に立った。シズクも端の方でスーツケースに身を預けてバトルを観戦していた。そしていつの間にか、スタジアム外にも人は集まっており、皆この試合の結末を見守っている。
「オラ、草葉アマネだ!」
「オレは虹龍ドラム!そしてコイツはオレの相棒、「エースドラゴン」!」
白く光り輝くそのベイは、ベースはエース、ウエイトは斬、ガチンコチップはドラゴンの3層構造で作られた4枚刃のアタックタイプベイ。もちろん、あの蒼井バルトに影響を強く受け、ドラムが自力で作成した最高の相棒。
一方アマネが見せた緑色のベイ、名は「ブシンアシュラ」と言う。アマネはどこからか取り出したぐるぐるの丸メガネを付けると自身のベイを説明した。ベースはブシン、ウエイトは天、ガチンコチップはアシュラの12枚刃のディフェンスタイプベイ。ディスクはハリケーン。多くの刃で敵をいなしていく。そしてドライバーはキープドライバーで、半球型のラバー軸となっている。
アマネはメガネを取ると、続いて左腕に巻きついているハチマキを頭にみにつけた。アマネのベイアシュラにちなんで3つの顔を持つ、という事だろう。
「メガネの次はハチマキか!おもしれー!」
「負けて泣くなよ。」
「イッエェーイ!ブレイド町のスーパーブレーダー、草葉アマネVS 虹龍ドラム!!どんなバトルになるのか、超楽しみだーー!!!」
タカネは懐からスマホを取り付けた自撮り棒を出して、自身のベイチューブを開き、配信を始めた。ノリノリで実況を始める彼にドラムは終始ワクワクしていたが、ファーストバトルの掛け声でドラムはバトルに目線を戻した。ランチャーにベイをセットし、万全の体制。アマネもセットして準備完了。
「やってんなぁ、アマネの相手は誰だ?」
見知らぬ中年の男性は可愛らしいベイの形をした綿あめを持ちながら、スタジアムにいるアマネを見た。
「レディ……セット! 」
「「3、2、1!ゴーー……シュート!!」」
2つのベイが勢いよく放たれ、ドラゴンは外を、アシュラは早速センターを取りに行く。アマネとアシュラのいつもの勝ちパターンだ。
すぐさまドラゴンはアシュラにファーストアタックを仕掛ける。しかし、アシュラの連携12枚刃がドラゴンの攻撃を完璧にいなし、弾き返していく。
「こっからだぜ、ドラゴンシュート!!」
ドラゴンのチャージドライバーが傾き、勢い付けてアシュラに連続攻撃を仕掛ける。強い打撃がアシュラをはじき飛ばし、よろけたものの、すぐに体勢を整えセンターへ戻る。
「うおおお!ドラゴーン!!」
ドラムとの強い共鳴でドラゴンが青と黄色に強く燃え盛り、その中からドラゴンのアバターが現れた。
「私を最高のベイに出来るのは――ドラム、お前だ!!」
(っ!今のは……!!)
ドラムとドラゴンが共鳴をさらに強めて、ドラゴンのスピードが上がっていく。「D」の形に旋回したドラゴンは一気にアシュラを攻め、そのまま場外へ飛ばした!運がいいことにバーストはせず、そのまま地面へ落ちたので、ドラムのオーバーフィニッシュで1ポイント先取。
「きっまり〜!!」
「やりましたわ、ドラム!」
「ああ!!」
白く光り輝き、未だにスタジアムを駆けるドラゴンを見つめ、ドラムはニカッと笑った。
なんとそのベイは今までにないベイで、名前は「スラッシュヴァルキリー」。
この新しいベイを制作するにあたって、先日まで彼がニューヨークにいる彼女と電話や手紙のやり取りをしていたのを思い出す。
バルトはそのベイを「ガチンコベイ」と呼んだ。真ん中にあるガチンコチップと呼ばれる小さなチップを取り外すと、銀色の重たいメタルで作られたウエイトが埋め込まれていた。どうやらガチンコベイのレイヤーはレイヤーとウエイトとガチンコチップの3層で作られているようだ。
ドラム達は蒼く光り輝くベイに魅せられ、まじまじと眺めていた。
「レイヤーにウエイトが入っているから、重心が――」
「うおおっ!重心が低くなってんのかー!!」
ドラムはバルトからベイを奪い取るとそのベイを眺め、デルタとシズクにまるで自分で作ったかのように見せびらかす。
「デルタ、シズク、見ろよこれ!すっげーだろ!ちょーかっけーなー!!」
「……ドラム、返しなさい。」
「あっ……」
ドラムはハッと気づくと謝りながらバルトにベイを返した。
そして、バルトは試運転も兼ねてドラムにバトルを申し込んだ。ドラムはバルトに指名され、ブルブルと足の先から震えると、途端に顔を真っ赤にし、誰もが怖がる所謂「コワ顔」をしながらバルトに近寄り、それを了承した。ドラムは緊張すると表情を強ばらせる癖がある。
(新しいベイの最初のバトル……ドラムを指名か。)
「あらデルタ、戦いたかったのかしら?」
「別に。客観的に見ることで得られるものもある。」
「素直じゃないですわぁ。」
バルトとドラムはお互いにランチャーを構え、体勢を整え準備万端。デルタもスタジアムに立ち、この勝負の審判を務める。
「レディ……セット!」
「「3!2!1!ゴーー……シューート!!」」
スラッシュヴァルキリーのディスクにあるウイングが開き、パワードライバーのバウンド軸がゆったりと地面に接着し、そのままスタジアムを駆け回る。
バルトの掛け声と同時にヴァルキリーは黄金に光り輝く姿へと変貌した。スピードが先程よりも加速し、止まることを知らない。
ドラム達はそんな光のベイ、「ゴールドターボ」に魅せられ、その目を輝かせた。
そうしている間にドラムのベイは軽々しくバーストさせられ、ヴァルキリーの勝利となったが、バトルに負ける敗北よりも、ヴァルキリーの輝きに対する気持ちの方が大きく、言葉を詰まらせる。
(ヴァルキリーが、金色に光って走っている……!オレもこんなベイが欲しい……光のベイ
――ゴールドターボ!!)
***
数ヶ月経ったある日のこと。ドラムとシズクはBCソルではなく、スペインの空港にいた。ドラムはベンチでベイのクリーニングをしながら両親とビデオ通話を始め、シズクは搭乗の手続きをしに向かっていた。
ドラム達がこれから向かうのは日本のブレイド町。そこでベイクラブのトレーナーをしているドラムの叔父(父親の兄弟)の元で武者修行するという事だ。
ドラムの両親は冒険家で毎日世界中を旅している。彼の成長を信頼してはいるものの、どこか心配な両親は彼と1番仲の良いシズクに頼むと快く了承してくれた。
「南極は寒い……うう、こっちは寒いけど、父ちゃんも母ちゃんも元気だぞ。」
「くぅ〜!かっこいいぜ!」
「そうか、かっこいいか!いいかドラム。冒険こそ男のロマンだ。」
「ゼッテェ強い!ガチンコベイだもんな!」
「ああ、そっちか…」
お互いの話が噛み合っていないのか、ドラムが親の話を聞いていないのか、ドラムが作り上げた「ガチンコベイ」を眺めながら、ドラムの父親は困ったような顔でドラムを見る。
「ドラム、時間ですわ。荷物を預けてくださいまし。」
「あっ、シズク〜!大丈夫だったか?誰かにぶつかったとかないか?」
ドラムは彼女の存在に気づくとむぎゅ、と左から抱きついてえへ、えへへと嬉しそうに頬をゆるめる。
「シズクちゃん、ドラムの事よろしく頼むわね。」
「ドラム1人じゃあ心配ですもの、
ドラムはその間にカチャカチャ、とベイを組み立てて、シズクに見せびらかすように彼の愛機「エースドラゴン」を彼女の頬に刺さるくらい近づけた。
ぐにゅ、と押し付けられてイラッときたシズクはドラムの頭をペチン、と叩き無理矢理引き剥がすと、髪の毛を整えてドラムの両親に再び顔を向けた。
「叔父さんには連絡してあるから」
「希望を胸に、羽ばたけよ!!」
「どこまでだってドラゴンと一緒に羽ばたくぜ!」
そう言って二人は日本へと旅立った。
日本のブレイド町に着くと、そこではベイフェスティバルが開催されており、町中ベイブレード一色。パレードや屋台が来場者の気分を高め、興奮させている。
やはりここでのメインは司会者のいるメインモニター前だろう。ドラムとシズクは人混みにまみれながらも握られた手を離さず進むと、そこのメインモニターから、BCソルの先輩ブレーダーでありレジェンド・オブ・レジェンド、蒼井バルトの姿が見えた。
「あっ、バルト先輩だ!せんぱーーい!!」
【日本のみんな!ベイブレード楽しんでるかー?】
「着いたばっかだからまだやってなーい!」
【オレもベイカーニバルには行くからな、待ってろよー!】
「待てねぇよ〜!今すぐバトルしてぇー!」
「大人しくしなさい!」
【楽しく、アツく、最高に燃える全力バトルしようぜ!行くぜ、みんな!!】
バルトの合図に合わせ、モニターを見ている全員が「3、2、1、ゴーシュート!」と掛け声をかけるとバルトも観客の皆も拳を突き出しさらに盛り上がりを見せた。ドラムもその1人で、自身とシズクのスーツケースを持つとそのままシズクを置いていく形でどこかへ行ってしまった。
「あっ、待ちなさい!ドラム!!ドラムってばーっ!!」
目があまり見えないシズクは人にぶつかっては謝り、ぶつかっては謝り、ドラムを追いかけるがもう既に見えなくなり知らない場所で1人迷子になってしまった。
(ま、まずいですわ……こんな所で迷子になってしまうとは……)
「お前、迷子だべ?」
赤茶色の髪色に草葉が良く似合う服装をした少年はオロオロと辺りを見渡しているシズクに声をかけた。
一方、ドラムはベイブレードの対戦コーナー。そこの一角で、小さな少年達はベイブレードをしていて、大柄の男の子が少し小柄な男の子のベイを奪い取っていた。
もーらい、と大柄な男の子が掲げた緑色に光るベイを見つけたドラムはシュバッとそのベイを取るとまじまじとそれを見つめた。どうやら緑色のベイはガチンコベイらしく、大柄な少年はドラムから奪い返すと、ドラムを睨みつけた。
「なぁ、オレとバトルしようぜ!」
「返してよぉ〜っ!それボクの兄ちゃんの!」
小柄な少年が大柄の少年にしがみつき、必死にそのベイを取り返そうとするが、どうやらこの子達はどちらかが勝ったらベイを貰う約束をしていたらしい。とはいえ、小柄な方の少年はそんな事約束した覚えはない。
ドラムは目の前で二人の揉め合いを放っておけないのか、横から口を挟んだ
「そっ…そういうの、良くないと思うぞ!」
「おめぇは引っ込んでろ!!」
大柄な男の子に怒鳴り散らされ、ドラムはブルブルと震え始めると、だんだん緊張して顔を真っ赤にしいつもの怖い顔になり、耳に響くような大声でこんなのベイブレードじゃない、と怒鳴り返す。
「ベイは……楽しくゥ!アツくゥ!最高に燃えるゥ〜ッ!ガチ全力バトルなんだからヨォ!!」
「それ、バルトが言ってたやつ……。」
ズン、ズンと迫りよるコワ顔に大柄な男の子とその取り巻きみたいな子達は怯え逃げてしまった。その時、ポロリと奪われたベイが少年のところに返ってきた。少年がドラムにお礼を言うが、ドラムは近寄った時の体勢のまま動かない。ぽんぽん、と肩を叩くとコワ顔のまま少年の方を向いた。
「コワッッ!!」
「あっ、ごめん。オレ、緊張すっとコワ顔になっちゃうんだ。」
「顔、近い……。」
「コラーーー!!!!」
すると遠くから誰かが走ってきた。その後ろからドラムにとっては見慣れた少女――シズクの姿もあった。
「アイツらの仲間か……!!」
「返せ、ベイ!!」
「返す訳ないだろ!」
「返せ!!」
「返さねぇ!」
「返せ!!」
「返さねぇ!」
「違う、違うよ兄ちゃん。」
「全く……ドラム、まずは人の話を聞きなさい」
シズクはドラムから無理矢理剥がしてペチンと彼の額にデコピンをかますと「あでっ」と叩かれた部分を押さえた。「兄ちゃん」と呼ばれていた少年も、小さな少年の方に顔を向けると取り返されているガチンコベイを見せた。
小さな少年の話を聞くと、そうか。と一言言い、そのガチンコベイを返してもらった。
「ごめん、ボクアシュラでバトルしたかったんだ。」
「“タカネ”にはまだ使えないって言ったべ?」
「うん……。」
「へぇ、そのガチンコベイ、お前のだったのか!なあ、バトルしようぜ!」
「ああ?オラの相手になんのか?」
「兄ちゃんはこの辺じゃあ最強のブレーダーだよ!」
「へへっ、オレも結構強いよ!」
「そうかしら。」
少年はドラムの瞳に宿る闘志を見た。どうやら本気でバトルに挑もうとしているのか、少年はそれを了承した。
「そういや、オメェの探していたヤツ、見つかって良かったべ。」
「ええ、貴方も探している弟さんを見つけられて良かったですわ。感謝いたします。」
お互いスタジアムの端に立ち、タカネはその真ん中に立った。シズクも端の方でスーツケースに身を預けてバトルを観戦していた。そしていつの間にか、スタジアム外にも人は集まっており、皆この試合の結末を見守っている。
「オラ、草葉アマネだ!」
「オレは虹龍ドラム!そしてコイツはオレの相棒、「エースドラゴン」!」
白く光り輝くそのベイは、ベースはエース、ウエイトは斬、ガチンコチップはドラゴンの3層構造で作られた4枚刃のアタックタイプベイ。もちろん、あの蒼井バルトに影響を強く受け、ドラムが自力で作成した最高の相棒。
一方アマネが見せた緑色のベイ、名は「ブシンアシュラ」と言う。アマネはどこからか取り出したぐるぐるの丸メガネを付けると自身のベイを説明した。ベースはブシン、ウエイトは天、ガチンコチップはアシュラの12枚刃のディフェンスタイプベイ。ディスクはハリケーン。多くの刃で敵をいなしていく。そしてドライバーはキープドライバーで、半球型のラバー軸となっている。
アマネはメガネを取ると、続いて左腕に巻きついているハチマキを頭にみにつけた。アマネのベイアシュラにちなんで3つの顔を持つ、という事だろう。
「メガネの次はハチマキか!おもしれー!」
「負けて泣くなよ。」
「イッエェーイ!ブレイド町のスーパーブレーダー、草葉アマネ
タカネは懐からスマホを取り付けた自撮り棒を出して、自身のベイチューブを開き、配信を始めた。ノリノリで実況を始める彼にドラムは終始ワクワクしていたが、ファーストバトルの掛け声でドラムはバトルに目線を戻した。ランチャーにベイをセットし、万全の体制。アマネもセットして準備完了。
「やってんなぁ、アマネの相手は誰だ?」
見知らぬ中年の男性は可愛らしいベイの形をした綿あめを持ちながら、スタジアムにいるアマネを見た。
「レディ……セット! 」
「「3、2、1!ゴーー……シュート!!」」
2つのベイが勢いよく放たれ、ドラゴンは外を、アシュラは早速センターを取りに行く。アマネとアシュラのいつもの勝ちパターンだ。
すぐさまドラゴンはアシュラにファーストアタックを仕掛ける。しかし、アシュラの連携12枚刃がドラゴンの攻撃を完璧にいなし、弾き返していく。
「こっからだぜ、ドラゴンシュート!!」
ドラゴンのチャージドライバーが傾き、勢い付けてアシュラに連続攻撃を仕掛ける。強い打撃がアシュラをはじき飛ばし、よろけたものの、すぐに体勢を整えセンターへ戻る。
「うおおお!ドラゴーン!!」
ドラムとの強い共鳴でドラゴンが青と黄色に強く燃え盛り、その中からドラゴンのアバターが現れた。
「私を最高のベイに出来るのは――ドラム、お前だ!!」
(っ!今のは……!!)
ドラムとドラゴンが共鳴をさらに強めて、ドラゴンのスピードが上がっていく。「D」の形に旋回したドラゴンは一気にアシュラを攻め、そのまま場外へ飛ばした!運がいいことにバーストはせず、そのまま地面へ落ちたので、ドラムのオーバーフィニッシュで1ポイント先取。
「きっまり〜!!」
「やりましたわ、ドラム!」
「ああ!!」
白く光り輝き、未だにスタジアムを駆けるドラゴンを見つめ、ドラムはニカッと笑った。
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