第1章 これがスパーキングベイだ!

 今日も激しく強くなる為、ヒカルとヒュウガは猛特訓中。どちらが勝っても負けても「もう1回だ!」と言ってバトルを続ける。
 周りが呆れつつ終了を促そうとしても、断固拒否。
「ライカ、2人の勝敗はどうなってる?」
「えっと……ヒカルが225勝、220勝」
「へぇ……良いじゃねぇか。ほぼ五分ごぶか。」
「いーや!5つも負けてる!!」
 それを含めてほぼ五分ごぶと言うのだが。
 ヒュウガとヒカルが情熱を燃やし、バトルしようとランチャーを持った時、扉からバルトとフィニが現れた。
「よぉ!」
「今日私達が来たのはヒカルとヒュウガ、お前達をスペインに連れて行きたいとバルトちゃんから相談があってな。」
「すぺいんってどこ?」
「あーっと……スペインはスペインにある!」
 クミチョーはスペインの地理的場所を覚えていないのか口篭り、何とか誤魔化す。
「パエリア、生ハム、チュロスでしょ?あとそれから……」
「BCソル!」
「大正解!」
 ルカがどこから出てきたか分からない紙吹雪を飛ばし、ぱっぱら〜と自作のよく分からない即興で考えたであろう歌を口ずさむ。
 そう、バルトが連れていきたい理由はそのBCソルに在籍しているとあるブレーダーと会わせたいらしい。
 その男は「化け物」と呼ばれるほど強大なブレーダー。
「私もオーナーに用事が会るから同行しよう。旅費は全てwbba.が負担する。何も心配するな。」

 ヒカル達は家に帰り、荷物を用意した後、GTアリーナに集合し、wbba.が手配してくれた飛行機がある空港まで移動し、バルト達は飛行機に乗った。
 しばらくしてシートベルトを取ると、先程話して居た「化け物」について詳細を聞く。
 その怪物の名前は――「フリー・デラホーヤ」。
 かつて無敗世界1位を貫いていた孤高の天才。群れる事はせず、森の中で練習していることが多い彼はBCソル内で見かけることはほとんどない。
 スペインまではまだ時間がある為、一同睡眠を取ることにした。それぞれ椅子を倒し寝に入る。
 ヒュウガも寝に入り、物凄い速さで夢の中へ……。
 そこでのヒュウガは現実と同じ飛行機の中で、スペイン料理を堪能していた。パエリアにスパゲティ、チュロスに生ハムとスペインづくし。
 ヒュウガはナイフとフォークを持ち、食べ始めようとすると、パエリアが山のように盛り上がり、そこから目と口のようなものが浮き出る。
 明らかに弱そうな表情をした何かにヒュウガはちょん、とつつくと突然パエリアがヒュウガの顔面にかかり、そのまま襲ってきた!
 ……現実では実はクミチョーの学ランがヒュウガの顔にかかっていただけで、ヒュウガは無意識にそれを取ると、まだ夢の中で襲われているのか、クミチョーの顔を力強く押す。そこでクミチョーも目覚めて、どかそうとするが、思いの外強い力でなかなかどけれない。
「まーたねぼけてるよ……。」




***

 皆が目を覚まし、しばらく経つ。
 ムスッと拗ねているクミチョーの頬にヒュウガの手跡がついている。
 だが、そんなクミチョーより話題は寝る前話したフリーの話に。
「ソイツを倒せば、A級ブレーダーになれんのか?」
「フリーを倒せたら文句無しだ。」
「レジェンドフェスティバルにも出られる?」
「きっとな。」
「「やったー!やったーー!!」」
 2人は両手を上げて期待に胸を膨らませる。2人の今の実力なら、ぶつかって行く事は可能だ。しかし、勝てるかどうかは分からない。
 だが、今はそれも忘れよう。ヒカル達の喜ぶ顔を見ていたらバルトは先程まで考えていたことがどうでも良くなった。
 しばらくしてスペインの空港に着く。バルト達は手続きを済ませて外に出て、空港周辺の名所を案内しつつ、フリーのいる所へ向かう。
 初めての海外にヒカル達はワクワクが止まらない。先にどんどん走っていっては、バルト達に場所を聞いている。
 大きな川が流れ、間に橋がかかっているところに着くと、バルトは橋の向こうにある森を指さした。
 そこにフリーがいるのだと言う。
「よぉーし、フリー!今行くぞー!」
「ヒュウガ!お前道分かってないだろー!!」
 と言って兄弟は走って渡り、その先の森へ向かった。2人とも道は分からないに決まっている。
 クミチョーは呆れつつヒカル達を眺めると、
バルトが横から「さすがクミチョーの弟子」と本人は嫌味と思っていない心からの言葉にツッコミを入れる。
「俺は好きだぜ、あいつら。」
「誰かに似てるからな」
「それって誰?」
「自分で考えろ。さぁ、早く荷物を持て。行くぞ。」

 ヒュウガ達は森を走る。ただ真っ直ぐに、ずっと、ずっと。しばらくして疲れてきたのか1度止まり息を整える。周りを見ると辺り一面やはり森。しかも場所も分からず走ってきた為、出口も分からない。
「お前のせいだぞ!」
「でも、ヒカルだって道分かってな――」
 ヒュウガが言いかけた時、茂みからガサガサと何かが動く音がした。ヒュウガが肩を震わせて恐る恐る後ろを振り返る。茂みはずっとカサカサと動いて近づいてくる。
 ヒュウガはあの時見たパエリアの夢を思い出した。パエリアが自分に覆いかぶさり、襲ってくるあの夢を。
 ヒュウガは慌てて目を瞑りバタバタと手を動かすが、何も襲ってこないことに気づくとゆっくりと目を開けた。
 目の前に現れたのは子鹿で、あのお化けじゃなかったことに安堵すると、子鹿に化け物フリーの居場所を聞く。シカが答えてくれる無いと口をへの字にしていると、子鹿は進行方向を変えてヒカルとヒュウガを見る。
「教えてくれるって。」
「えっ?」
「さぁ、早く行こうぜ。」
「うっそぉ……。」
 子鹿を先頭に森を歩く。すると、遠くからガキン、ガキンとベイがぶつかる音が聞こえる。子鹿を置いていくような形で2人は夢中になって走ると、森をぬけた先に石で作られた少し崩れてはいるが、アーチ状の小さなトロス型建築が見えた。その中心には大きなスタジアムがあり、それを見つめる金髪の青年が1人。
 そう、その金髪の青年こそが化け物と呼ばれている「フリー・デラホーヤ」だ。
「フリー……。」
「「俺とバトルしろー!!」」
 2人はフリーの近くに寄り、バトルを申請。ちょうどその時、道を知っているバルト達が森の中のスタジアムに到着。ヒュウガ達はバルト達が到着したことに気づかずずっとバトルしろとフリーに言っているが、フリーは目を閉じ意識を集中させていて、ヒュウガ達の声は聞こえていない。
 しばらくし、ここぞというタイミングで目を開かせランチャーを一気に引く。
 今まで見たスパーキングベイの音よりかなり重い音が響き、風が舞う。その音と風に思わず後ずさりするヒカル達。
「なんだ……!?なんだ、このベイ……。」
「フリー!」
「……バルト。」
 フリーはバルト達の存在に気づき、一瞬目を開かせるが、バルトが自身のベイに目線を向け目を輝かせ始めると、目を細めて笑った。
 実は、フリーは数ヶ月ほど前、NYブルズに在籍している新人ブレーダーに負けたという話が噂になっていた。
 その事実は本当で、表情1つ変えずとも、フリーの闘志は熱く燃えていた。
 スペインに帰る前、フィニから新しいベイの原案を彼に渡し、スペインのベイクラフターに渡して欲しいと頼まれた。
 そのベイはフリーの力を大きく成長させ、発揮させることが出来るベイで、その名も「ミラージュファブニル」。
「渡した甲斐があったようだな。」
「うん、おかげでいいものができたよ。バルト、フィニ、黄山。やるよ。」
 ファブニルを突き出し、あんなにバトルしろと申し出ていたヒュウガ達そっちのけでフリーはバルトにバトルを申し込んだ。




***

 場所をエルサントのトレセンに移し、クミチョーとフリーのバトルが始まる。
「フリー、思いっきり吹っ飛ばしてやるぜ!」
「……やってみて。」
「ミラージュファブニル……。」
「どんなベイなんだ……?」
「フィニは知ってるんだよな?」
「ああ。フリーの力を最大限に活かせる人馬一体のベイ。あとは……見れば分かるさ。」
 お互い声を揃えてクミチョーはスパーキングシュートを綺麗に決めたが、フリーは緩く弱いシュートを放つ。
 スパーキングシュート時とは違う、跳ねるような音が響き、今にも倒れてしまいそうに揺れ動くファブニル。
「やはりその手で行くか。」
「どういうこと?」
「ファブニルは回転数の多い力を吸収するんだ。」
 ファブニルのラバー刃がその吸収の役割を果たしており、ラグナルクの回転数を次々に吸い取っていき、最初は宣言通りラグナルクが勝つと思いきや、みるみるうちに初めとは逆の立場にされてしまう。
 ラグナルクはアッパーフォースを生み出し、必殺技「グライドトルネード」を発動。大きな竜巻がスタジアムを、ファブニルを襲う!
 しかし、回転を取り戻したファブニルはもはや敵無し。そのまま牙のような刃をラグナルクにぶつけるとラグナルクはそのまま場外へ。オーバーフィニッシュでフリーの勝ち。
「俺とバトルしてくれ!」「俺とバトルしろ!」
「……バルト、やろう。フィニでもいいよ。」
「フリー!」
「なんで無視すんだよ!!」
「……なぁに?」
「お前とバトルする為に、ここまで来たんだ!」
「来たんだ!」
 フリーはじーっと彼らを見つめ、ただ一言。
「だれ?」
 どうやらフリーの視界に彼らは最初から映っていなかったようで、兄弟は肩をガックシと落とす。
「クミチョーがコーチしているブレーダーさ。面白いぜ、コイツら。」
「ふーん……面白いんだ。」
「戦えばお前もすぐに分かる。」
 兄弟はフリーに近づき、本当の本当に戦いたいのか「面白い!」などときっと本人達もよく分からない便乗を言ったりして。目を輝かせるとフリーから2対1の申し込みをされた。
 勿論、断る理由など無い。2人はそのバトルを了承し、スタジアムに立つ。
「ヒュウガ。この間のやつ、もう1回やるぞ!」
「この間の?」
「クミチョー達とのタッグでやったやつ!」
 ヒカルはそういい手を合わせ、ピターッのポーズを取る。ヒュウガはそれを見てこの間無意識に出た火花散る熱いシュートを思い出す。
 と、ヒュウガ達はお互いのベイをコツン、と合わせる。
「左回転バランスと右回転アタック……面白いのかなぁ。」
「ファーストバトル!レディ……セット!」
 兄弟はランチャーを構え、そして3人は声を揃えてベイを放った。2人はスパーキングシュートを決め、一方フリーはまたしても緩いシュートを放った。
 ヒュウガの声に応え、ハイペリオンが勢いよくファブニルと激突――しようとしたところ、ヒカルに止められる。しかし、ベイは止められずハイペリオンとファブニルは衝突し、ファブニルはどんどんスタミナを奪って自身の回転力にする。
「ああっ!」
「俺に任せろ!ヘリオス!」
 ハイペリオンの後ろからヘリオスを当て、無理矢理力で押し切ろうとするが、ハイペリオンを通じて今度はヘリオスの回転力も奪っていく。
 クミチョー達が言っていた通り、化け物のようなベイ、化け物のような戦い方。
 十分に回転力を貰ったファブニルは今度はセンターを陣取る形をとる。
 だが、2人は諦めない。大外をそれぞれ回っていき、お互いのベイがぶつかると、そのままベイが傾きはじめ、大きな火花が飛ぶ。
「これはっ…!?」
「あの時黄山が言っていたあれか!」
「「ツインストライク!!」」
 ハイペリオンとヘリオスがヒュウガ達の炎となり、太陽となり、大きな共鳴を生み出した。その溢れ出す力を目の当たりにしたフリーは、とある人物を思い出す。それはNYブルズで戦ったあの新人ブレーダーだ。
 するとフリーはいつにもまして満面の笑みを浮かべた。そして、ファブニルとの共鳴を高め、彼の名を叫ぶとベイから黄色い光が差し込み、ファブニルのアバターが現れる。
「ミラージュクロー!!!」
 2機を同時に受け止め、カウンターを決めるとそのままハイペリオンとヘリオスは吹き飛ばされてバーストされる。

 ――2人が再びフリーを見た時にはもう、彼が強大で高すぎる壁に見えた。
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