第1章 これがスパーキングベイだ!

 本日も快晴。そんな中GTアリーナでは毎日毎日強化指定ブレーダー達によるランクアップバトルを繰り広げていた。
 その日はトーナメント形式。
 ヒュウガとヒカルはあの日以来、絶好調で来る相手全てをバースト勝ちでポイントを稼いでいる。
 それはヒュウガにライバル心を燃やしているソーチョーも同様。次々にバーストさせて、戦果を挙げていく。
 最終的に3グループで勝ち残ったヒカル、ヒュウガ、ソーチョーの3人がそれぞれバルト、シスコ、クミチョーと1対1で戦う。
 ここでレジェンドに勝った者が、A級ブレーダーに昇格、レジェンドフェスティバルへの参戦権を手に入れることが出来る。
「レディ………セット!!」
 審判の合図で6人は声を揃えて一斉にスパーキングシュートを放つ――と思われたが、ヒュウガだけスパーキングシュートを失敗した。
 それぞれのスタジアムでお互いぶつかり合い、激しい風と光が舞い踊り、観客は思わず目を伏せる。
 ヴァルキリーは早々とヘリオスをバーストさせた。
 また、サタンもハイペリオンを粉砕、バーストさせ、残りはラグナルク同士の戦いを繰り広げている黄山兄弟だ。
 ぶつかり合い、お互いに回転力を失いかけると最終的に持久戦になり、フラフラとラグナルク達はその場で回る。
 そして、最終的に長く回り続けたのはソーチョーのラグナルク。ソーチョーがA級ランクのブレーダーに昇格。1人先に上へ行けたことでソーチョーは大喜び。
 そんな彼を見て、ヒカルは悔しい顔を浮かべ、ヒュウガは自身のランチャーを見つめるだけだった……。

 練習終わりの昼下がり。ヒュウガは1人、バトルトレーニングルームでシュート練習をしていた。何度も何度もランチャーを引いてもあの時でた火花が出ない。
 ヒュウガは珍しく悩みを抱えている。気分転換に外を歩いても、スパーキングシュートの事でいい気分転換とは言えない。
 しばらく考えながら歩いていると、ふと、ヒカルのシュートフォームを思い出す。
 年子の兄である彼は一足先にスパーキングシュートを決めて、さらにそれを何回も出している。
 ――ヒカルのシュートフォームを真似すれば、自分も出せるんじゃないか?
 そう思い、ヒュウガは周りに誰もいないことを確認し、ヒカルのシュートフォームを真似してみる。
「ヒカルのシュートフォームか!」
 ヒュウガの後ろからバルトが声をかける。
 真似をしていたことがバレたヒュウガは照れ隠しのように真似はしてないと言っているが、バルトはそれを「良いんだよ真似で」とヒュウガの行動を肯定した。
「俺も、最初はシュウの真似から始めたんだ。」
「ええ!マジ?」
「うんうん」
「……って、シュウって誰?」
「だァっ!!!」
 バルトは木陰にヒュウガを座らせ、隣に自分も座ると、ポケットからスマホを出し、シュウの写真をヒュウガに見せた。
 ――紅シュウ。バルトにとっては最高で最強のライバル、親友。ベイブレードを始めたのはバルトが先だが、先に強くなり、みんなの憧れの存在となったのはシュウだ。
「あっ、なんかフィニに似てる!」
「シュウはフィニの双子の弟だからな。」
「そうなのか〜っ!……なぁ、バルト。」
「ん?」
「俺……ソイツとバトルしてぇ!」
「今は無理かもな〜シュウ、日本に居ねぇし……。でも、いつかバトル出来る日が来るかも!」
「本当か〜っ!!」
「ああ!そうだヒュウガ、メッチャ大事なこと教えてやる。」
「えっ、なになに?!」
 ――もっとベイの声を聞くんだ。
 ヴァルキリーを天に掲げ、彼女に話しかけるように目を細めると、ヴァルキリーはバルトの目に応えるように光らせた。
 声を聞く、という事がよく分からないヒュウガは、首を傾げ、同じようにヴァルキリーを見るが、ヒュウガには何も聞こえなかった。
 ちゃんとベイと向き合えば、ベイの声が聞こえ、より強くなれる。
 その光景をたまたま通りかかったヒカルが遠くから見ていた。
「ベイの声、か……。」




***

バルトに言われた通り、早速ベイの声を聞こうと試みるヒュウガ。辺りを歩きながらハイペリオンを見つめ、耳元にベイを当てて何度も聞こうとするが、バルトが言っていることの真意が分からない上、ベイの声すら聞こえない。ヒュウガの頭の中がこんがらがるばかり。
 シスコが通りすがり声をかけても、ベイの声を聞くことで頭がいっぱいで、そのままシスコの横を通り過ぎた。
 フラフラと歩いていっていると、いつの間にか浜辺に来ていて、ここまで歩いてきた自覚もないヒュウガはずっと「もしもーし」やら「聞いてんの?」やらハイペリオンに話しかける。しかし、ハイペリオンからの返事はない。
 ヒュウガがぽて、ぽて、と歩いていると目の前に流木がある事に気づかず、ヒュウガはそれに足をひっかけ、バタン!と転ぶ。
 転んだ衝撃でポロリと手からハイペリオンが飛び、失くしはしなかったものの、ベイに砂が入っているかもしれない。ヒュウガは慌てて拾って息を吹きかけベイに付いた砂を取り除く。
「無事だったなー!ああ、良かった〜。おい、なんか言えよ〜!」
 ヒュウガがスリスリと頬を擦っても返事はない。
 今までそれを見ていたチャック達はヒュウガが一体何をしているのか、小首を傾げた。

 いつの間にかボンバーズに帰ってきていた所で、ようやくヒュウガは意識を外に向け始めた。
 中に入り、スタジアムをじーっと眺めていると、ふと、ここに入ってきた頃を思い出す。
 その時のヒュウガとヒカルは、海辺のレストランに引っ越してきたばかり。そしてベイバトルが好きな2人は、バトルをできる場所を探し、たまたまボンバーズに辿り着き、そこで勝手にベイバトルをしていた。
 楽しく、バトルしていたところ、シャッター音が2回鳴り、その音の方に向けると、ライカ達が居た。
 この時の彼らは初対面。朝日兄弟が自己紹介をすると、チャックが海辺にあるレストランの存在を思い出し、そこの子だと理解する。
 するとヒカル達はグイグイとライカ達に近寄り、目を輝かせた。
「俺達、このクラブに入るぜ!」
「入れてくれるよな!」
 朝日兄弟の押しの強いオーラに一瞬困惑したが、ここのクラブには人数が少なく、またコーチも居ない小規模の所だったので、3人は嬉しそうに兄弟を歓迎した。
 少人数のボンバーズを5人で盛り上げ、最高のクラブにするとあの日誓った。
 そんな思い出も今となればやや霞んで見える。ヒュウガはハイペリオンを握り直し、彼の名を呼ぶと――
「練習したいの?」
 ハイペリオンの声が聞こえた。
 ようやく、ようやく彼の声を聞くことが出来たヒュウガは今まで以上に嬉しい顔をし、自身の想いを全てハイペリオンにぶつける。
 もっと練習して
 もっと強くなって
 スゲーブレーダーと戦って
 バチバチしたい。
「知ってる。」
「知ってたか〜!!そっかー!!……えっ、え?」
「もっと強くなるんだよね!」
 ヒュウガが喜んでいたのも束の間、ハイペリオンの声だと思っていたのはライカの声で、その隣にはチャックとグンがいた。
 真実を知ったヒュウガは途端に肩をガックシと落とし落ち込む。
「ヒュウガ、あたし達ともバチバチしよっ!」
「やりましょう!」
「うんうん!」
「……っ!」
「そう言うと思ったぜぇ…」
 ドアの方に全員が向くと、そこにはwbba.のカメラマン、桜井ルカがいた。
「僕なら、君達のバトル映像を記録し、それを見て課題点と良点をアドバイスすることは出来るけど。どう?」
「いいねいいね!ルカもブレーダーだからヒュウガの特訓相手にもなるし!!」




***

 早速ヒュウガとのバトルが始まる。ライカとヒュウガがランチャーを構え、ルカは自身のカメラで撮影を始める。
「「3、2、1……ゴーーーシュート!!!」」
 お互いのベイが放たれ、縦横無尽に駆け回るものの、ライカのベイはハイペリオンにバーストされる。
「うわぁっ!!」
「よし!」
「次はオラだっぺ!」
 チャックとヒュウガのバトル。お互いベイを放ち、死闘を繰り広げ……てはいなく、ハイペリオンに秒殺された。
「やられたー!」
「次は――」
 ……と、3人がヒュウガに挑むが、全て秒殺されてしまう。
 3人がお互い慰め合い、その光景をヒュウガが微笑ましく見ていると、ルカから声をかけられる。
「撮影だけじゃあつまらないよ、僕もバトルさせてね。」
「ああ!やろうやろう!」
 お互いランチャーを構えて、声を揃えてベイを放つ。アタックタイプ同士の対決。どんな対決になるか、3人にとっては見ものだった。
「うんうん、ヒュウガは成長している。でも、決定的に足りないものがある。」
「ベイの声!だろ?」
「……なら話が早い!もっとベイの声を聞いて!ベイと共鳴するんだよ!!レヴィアタン!!!」
 ルカとレヴィアタンが強く共鳴し、ベイからレヴィアタンのアバターが現れる。
 レヴィアタンの3枚刃が思い切りハイペリオンに当たると、少し吹き飛ばされてしまったが、すぐに軌道修正し、カウンター攻撃を狙う。
「うおおお!!ハイペリオン!!!」
 ヒュウガとハイペリオンが強く共鳴し、ベイからハイペリオンのアバターが現れる。ハイペリオンはレヴィアタンにロックオンし、勢いのまま走る。
「スーパーストライク!!」
「リーパースウィング!!」
 お互いのベイが強くぶつかり、鍔迫り合いが起こると、しばらくして2機は吹き飛ばされ、お互いにバーストする。
 カランカラン、と金属音が地面に鳴り響くと、2人は息を切らし、その場に仰向けに倒れ込む。
「はぁ…はぁ……。」
「あぁ〜……つかれたぁ……」
「やっといつものヒュウガに戻ったね。」
「えっ?」
 3人はグッドサインをヒュウガに送り、ヒュウガのあのニコニコ笑顔を取り戻せたことに安堵していた。
「あんたはそうでなきゃ。」
「みんな……」
「ベイの声……聞こえるよ……」
 ルカがクタクタな顔で言うと、ヒュウガの右手に持っているハイペリオンが赤く光り始めた。

 GTアリーナに居たヒカルも、何故かフィニと一緒に居たらしく、ヘリオスが青く光っていた事に驚いていた。
「ベイの声が……お前には分かるか?」
「……あぁ、分かる、分かるよフィニ。今、俺はッ――」
 なにか言いかけた時、ヒカルの唇に人差し指をあてがった。彼女は目を細め、ヒカルに笑いかけると「言わなくていい。」と言った。
 彼女は数時間ほど前、木陰で考え事をしていたヒカルを見つけ、ずっと彼の話を聞いていた。
 あの時ヒュウガとバルトの話を聞き、ベイの声とは何なのか、ヘリオスはどんなことを言っているのか、夕日が顔を出し、彼らを強く照らしている時までフィニに相談していた。
「フィニもヘリオスの声聞こえた?」
「あぁ、しっかり、ハッキリと。」
「そうか……。なぁ、フィニ。」
「どうした?」
「……なんでもない。」
「また言いたい時が来たらいつでも相談しろ。」
「ヒカルーーー!!!」
 すると、遠くからヒュウガの声が聞こえた。後ろには息を切らし、今にも倒れそうなライカ達。
 ヒュウガは後ろを気にせず、ただヒカルだけを見てハイペリオンをつきだす。
「ハイペリオンが言ってたんだ、ヘリオスとバトルしてぇって!」
「……おう!」

 場所をアリーナ内のバトルトレーニングルームに移動し、フィニの合図で兄弟はランチャーを構える。
 フィニの誘いでバルト、クミチョー、シスコの3人も来ている。彼らはフィニから話を聞いていて、ハイペリオンの声が聞こえたヒュウガにクミチョーは小首を傾げ、バルトは嬉しそうに笑う。
(ベイの声……)
(お前も聞こえたはずだ……ヒカル。)
「レディ……セット!」
「「3、2、1……ゴーーーシュート!!!」」
 無意識なのか、ハイペリオンの声なのか。ヒュウガなフォームが変わり、赤くバチバチと光るスパーキングシュートが決まった。
 2機とも重たい音が響き、お互いの気持ちが高まり共鳴し合い、ベイからハイペリオンとヘリオスとアバターが現れ、ファーストアタック。
 ガキン、ガキン、と金属がぶつかり合い、気持ちもぶつけ合う。
【行くぞ!】
【行け!!】
 ベイの声。お互いそれぞれのベイの声を聞き取ると、その声に応えるようにさらに共鳴する。
 大きく、強くぶつかりその勢いのままバーストしたものの、2人の顔は気持ちよさそうだった。
 ヒュウガはバルトを、ヒカルはフィニを見つめ満面の笑みでこう言った。
「「聞こえた!!」」
 何が聞こえたか、教えた2人はわかっていた様子で、フィニは目を伏せ微笑み、バルトはニカッと嬉しそうに笑う。
「ハッ、へなちょこが。」
「コイツら強くなんぜ、まちげぇねぇ!」



――「ヒュウガ!」
――「ヒカル!」
―――「「もう1回だ!!」」
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