第1章 これがスパーキングベイだ!

 ヒカルとヒュウガは早速ボンバーズから飛び出し、バルト達のいるGTアリーナのトレセンへ向かった。そこでは、クミチョーやシスコ、そしてバルトがトレーニングをしていた。ベンチプレスをするクミチョーに、ランニングマシンで走り込みの特訓をしているバルト、ケーブルマシンで上半身を鍛えているシスコ。そんな3人を見て、タブレット片手に記録をしているフィニ。
 ヒカルとヒュウガは「バルト、来たぜ!」と言って彼らの動きを止めた。
「オレとバトルしろー!」
「ああ、お前らか!」
「アイツら知ってんのか?」
「昨日バルトちゃんと歩いていた時に話しかけてきた子達だ。あの設計図は役に立ったかな。」
「もちろん!俺、朝日ヒカル!」
「朝日ヒュウガだ!」
 フィニが渡した設計図を元にしっかりとスパーキングベイを仕上げて来た2人は、バルト達にそのベイを見せた。太陽のように輝くハイペリオンとヘリオス。
 まじまじとそのベイをバルトが見つめていると、上からシスコの手が入り、ヒカル達のベイをとる。そして、シスコもそれを見ると、しっかりシャーシが入っていて、低重心のスパーキングベイということを確認する。
 シスコの横でクミチョーも2機を奪い取り見ていると、ヒカルが怒った様子でクミチョーからそれを取り上げた。
「人のベイを勝手に取るな、黄山。」
「わりぃわりぃ。おめぇら、クラブはどこだ?」
「……ボンバーズだ。」
「何、ボンバーズ…」
 途端、チャック達がヒカル達の前に飛び込んできて、ドヤ顔をかます。確かにこの辺りでは強い部類に入るクラブで、その強さの中心はヒカルとヒュウガだ。しかし、3人がドヤ顔を決めているのがどこか不服そうだったようで、2人は首をかしげ、ジト目で彼らを見た。
 クミチョーはなにか彼らのクラブを知っているようだったが、シスコもバルトも特に気にしなかった。
「よし、バトルしようぜ!な、フィニ!」
「やらない。」
「だァっ!!なんでだよぉ〜!」
「フィニ!俺達とバトルだ!」
「やってやれよフィニ」
「私はそういった形でバトルはしない……。」
「でもお前がやるって言わなきゃ帰らねぇかもしれねぇぜ?」
「……駄々をこねられても困るな……。わかった、やろう。」
 バルトとフィニはポケットから愛機を出して2人に見せる。昨日見たブレイブヴァルキリーとリーブラプロメテウスだ。
 タイプもヒカルとヒュウガと同じバランスとアタックタイプ。タイプが同じでも戦ってきた年数や戦略、強さも段違い。ヒカルは息を飲みつつ、バルト達と共にスタジアムがある場所へ向かった。




***

「へへっ…革命革命!」
「ヴァルキリーは右回転のアタックタイプ。プロメテウスは両回転のバランスタイプ。俺達と同じタイプだ。」
「おう!」
「作戦はあるのか?」
「ない!」
「そうか……ないか……………はぁ!?」
 あまりにもストレートな返事に一瞬便乗したヒカルだが、後にヒュウガの言ったことに理解し、驚きが隠せない様子。
 ヒュウガはどうやら作戦がどうとか知略的な人物ではなく、感覚やその時その時思いついたことをやっていく直感タイプなのだ。知略派のヒカルとは正反対で、真っ直ぐ。その上、あのレジェンドと戦える事で「作戦」よりも「レジェンドと戦える」の方が意識が向いているのかもしれない。
 ヒカル達があーだこーだと言い合いをしているとスタジアムの間にクミチョーが立ち、無理矢理二人の会話を遮った。
「クミチョー様が審判をやる!いいな?」
「もちろん!」
「あぁ、構わない。」
「お、おう!」
「んじゃ、まずはベイチェックだ!」

 ヒカルとヒュウガはバルトとフィニにヘリオスとハイペリオンを。バルトとフィニはヒカルとヒュウガにヴァルキリーとプロメテウスを渡した。
 スーパーハイペリオンは、大きなアッパー刃で敵を空中に高く上げて、連打刃で切り裂いていく。それに加え、形はまるで太陽のようでどこか温かく感じる。
 ブレイブヴァルキリーは、特徴的な3枚刃のアタックタイプ。ラバー刃で相手をしっかり捉え、更に壁に激突することでバウンドする、まさにバルトらしい戦い方をするベイだ。
 キングヘリオスは逆立ったようなアッパー形状の5枚刃で攻撃と防御を両立させた左回転のバランスタイプ。慎重でしっかり考えるヒカルにピッタリなベイだ。
 リーブラプロメテウスは、リバーシブルリングで大きなラバー刃がついている。上下左右にある刃でアタック、防御を完璧にこなしている。また、ダブルシャーシはフリー回転と固定刃の両方を使いこなしており、これはリングがアタックか防御かによって変わってくる。
「うぉ〜っ!興奮するっぺ!ライカ、このバトルベイチューブで配信しようぜ!」
「いいねぇ〜!」
「良いのかなぁ…」
「いいのいいの!」
「オッケイ」
 ライカがカメラを構えた瞬間、目の前に知らぬ男の目が映り、思わずライカは悲鳴をあげながらカメラを落としかけた。どうやらここに実況の穴見がやってきたようで、バルト達の戦いを実況するようだ。
「オッケェーイ!ボーイズアンドガァールズ!レジェンドブレーダーの蒼井バルトと紅フィニに挑む新人ブレーダーの挑戦、スペシャルマッチだー!!さぁ、その新人ブレーダーは〜ッ!!……と、えー……」
 それもそのはず、まだ名を馳せてないド新人の名前など、穴見が覚えている訳もなく。チャックが朝日兄弟の名前を、ライカがベイの名前を穴見に教えると、穴見は焦った様子で「です!」と付け足し試合開始を促す。
「ファーストバトル!」
「スーパー全力で行く!」
「来い!」
「絶対勝つ!!」
「負けはしない。」
 ヒカルから青白い太陽から発せられるオーラのようなものを感じたフィニはふと、ヒカルを見た。しかしすぐにそのオーラは消えてしまい、フィニは気のせいかと意識をスタジアムに戻した。
「レディ……セット!」
「「「「3、2、1……ゴーーシュートッ!!」」」」
 バルトとフィニはいつも通りスパーキングシュートを決めてそれぞれスタジアムの中へ愛機を放ち落とす。ヒュウガも勢いよく引くが、火花は出ていなかったが、ヒカルはまだ2回目のシュートだと言うのに綺麗なスパーキングシュートを決め、重たくヘリオスを落とす。
 ――フィニのあの感じは間違っていなかった。
 どこかヘリオスが自分達の動きに着いて来ている――いや、並行して動いているような気がして。フィニはヘリオスを凝視した。
「お前はハイペリオンを頼む。私はヘリオスを仕留める。」
「分かったぜ!」
 ものすごい速さでスタジアムをかけていく。ハイペリオンはヴァルキリーについて行くので精一杯である。
 バルトお得意の「ラッシュシュート」で軌道を変えてハイペリオンに当たっていく。
「避けろヒュウガ!」
「ハイペリオン…いっけー!!」
 その声も虚しく、ヴァルキリーの一撃で場外へ飛び、空中でバーストし、各パーツがパラパラと落ちていく音がした。それはヒュウガにとってはゆっくり時が進んでいるように見え、ヒカルもヒュウガが膝から崩れ落ちるのを見て思わずスタジアムから目線を逸らした。
「どこを見ている!!」
 フィニの一声で再びスタジアムに目をやったが時すでに遅し。ヘリオスもプロメテウスの勢いある攻撃によりパリンとバーストされた。
「……一撃……?」
「ブレイブヴァルキリー、リーブラプロメテウス、バーストフィニッシュ!バルトとフィニの勝ち!」
(……気のせい、だったのか…?)
 あの時のオーラと言い、勢いと言い、どこか騙されたような気分になったフィニは顎に手をやり、考え込む。
「ヒュウガ、ヒカル、またバトルしような!……ん?」
「うぐ…うう………うぅ〜っ!!もう1回だーー!!」
 ヒュウガは2人に指を指し、明らかに悔しい顔を浮かべるがきっと何回やってもバルト達には勝てないだろう。少なくとも、今の彼らは。
「ちょっと待て!もう1回はダメだ!」
「ねぇヒカル、もっかい、もっかいダメ?」
「ダメに決まってんだろ!!」
 ヒカルに叱咤され、戦いたい気持ちで身体中がいっぱいになり、顔がゆでダコになり頭からは湯気が出てしまっている。そんな姿を見てクミチョーは彼らの今後に期待を寄せていた。シスコの方はヒュウガの行動にどこか面影があるようで、ヒュウガではなく、バルトを見ていた。
 再び2人が言い争いになり、ボンバーズの面々がまたか、と呆れた様子で見ていると、クミチョーが水を差すように扇子を二人の間に突き刺し、ニカッと笑った。
「次はこのクミチョー様が相手だ!バラバラのボロボロ、“バラボロ”にしてやるぜ!」
「おい、タケノコ頭。」
 タケノコ頭とは、ヒュウガの特徴的な髪のことを指している。
「お前は俺とだ。可愛がってやるよ。」
 シスコはそう言い、首をコキコキと鳴らした。2人の実力に興味を持ったのか、クミチョーとシスコはバルト達と代わりスタジアムに立った。バルトはクミチョーと交代で審判として間に立ち、フィニはバルトの後方からその光景を見ていた。
「レディ……セット!」
「えっ、いきなり!?」
「うぇっ?!ちょっと、待って待って!」
「ほら行くぞ!」
「「「「3、2、1……ゴーーシュート!!!!」」」」




***

その後、レジェンド達にたっぷりしごかれ、ヒュウガ達はバルト達に歯が立たず、結局負け続け、敗数は何と「333」。
 浜辺に寝そべり、息を切らしながらお互い呼吸を整える。
 文字通りバラボロにされたヒュウガ達はチャック達は見たことがなかった。
 何回か負けはあっても、勝率の方が高い彼らがレジェンド相手に333敗。なんとも言えないような顔を3人は浮かべる。
「蒼井バルト……強かったな……。」
「紅フィニも、黄山乱太郎も、シスコ・カーライルも、すげぇ……。今の力じゃあ勝てねぇ。」
「うぅ、うぐ!革命、革命革命だー!!」
 2人は起き上がり光り輝く夕日を眺める。彼らの新しくそして険しい。大きな目標が新しく出来たのだ。
 お互いは顔を見合せて、夕日に向かって走り出す。それは、大きな夕日がレジェンド達に勝つという目標に思えた。
 ――チャック達には、ヒュウガ達がそれがとてもかっこよく、美しく見えた。
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