第1章 これがスパーキングベイだ!
「3、2、1――ゴーシュート!!」
――ベイブレード。それは、少年達の夢が詰まった「バトル専用ゴマ」である。
君のベイが、世界を回す!
君の思いを、スパーク、スパーク、スパーキング!
――限界突破!!
***
とある海辺のレストラン。外でオーナーが鼻歌交じりに掃除をしていると、家の中から女性が「ヒカル、ヒュウガ!」と起している声が響く。そしてフライパンの背面同士をパン、と、鳴らすと、青色のトサカのような髪型をした少年が慌てた様子で目覚める。
どうやら、ここは少年の家のようで、起こしていたのは少年の母親のようだ。
青髪の少年――「朝日ヒカル」は本日、出かける用事があり、早起きする予定だったが、うっかり寝過ごしそうになっていたらしい。そこで先程の出来事だ。母親は鼻を鳴らし部屋から出ていってしまった。
ヒカルは隣のベッドで寝ている赤色のタケノコ頭の少年――「朝日ヒュウガ」の掛け布団を剥がすと、頭が出ているはずのところから両足がニョキっと姿を現した。彼は寝相が悪く、オマケに寝起きも悪い。反対側から顔をモゾモゾと出し、寝ぼけた顔でヒカルを見るとそのまま2度寝に入ってしまった。
その間にしっかり寝巻きから私服に着替え終わったヒカルは「置いてくからな」と言い放つが、聞く耳持たないどころか寝言なのか、ヒュウガは「朝はチョコアイス…」と零し布団の中へ。
「……っっ!!ぜっっったい置いてく!!!」
――とは言ったものの、彼らは年子の兄弟。弟のヒュウガの事をなんだかんだ放っておけないヒカルは、ヒュウガを寝巻きのまま背中におぶり、そのまま出かける。彼の手提げにはヒュウガの服一式とお昼のお弁当が入っている。
弟を背負い、坂を降り、浜辺を走るが、ヒュウガの全体重かかった重みに負けてしまう前に、前後に大きく揺さぶり、ヒュウガを起こした。
「んぁ?おはよぉ……。」
ヒカルはヒュウガを下ろすと乱雑に手提げをヒュウガに投げると、着替えをするように促した。
ここでようやく目が覚めたヒュウガは本日の予定を思い出しそそくさと着替えを始める。
ある程度着替え終わると着替えが入っていたカバンをヒカルが持ち上げそのまま走っていく。
「あっ、待ってよヒカル〜っ!」
2人が着いた先は「GTアリーナ」。どうやらここで大きなイベントがあるということで、ヒカルとヒュウガは今日という日を楽しみにしていた。実況の穴見が一声かけると観客は歓声を上げて会場は最高ヒート。そんな時にようやく到着したヒカルとヒュウガは息を切らしながら友達である「チャック」、「ライカ」、「グン」の3人が居る所へ向かった。
「遅いっぺ!」
「ギリギリよ、2人とも。」
「ヒーローはいつも遅れてやってくる!」
かっこよく彼のお得意の決めポーズを決めて、ニカッと笑顔でチャック達を見る。3人は呆れつつもヒュウガを見ると、ライカがヒュウガの異変に気づき、それを指摘した。ヒュウガのパーカーが前後ろ逆だったのだ。
彼も自分の身なりがおかしい事に気づくと慌ててそれを直し、二ッと笑って見せた。
ここで、穴見のアナウンスが会場全体を響かせた。
彼は、「ステージに注目」と視線を集め、言われた通りその先を見ると、ステージに姿を現したのは、「レジェンド・オブ・レジェンド」と呼ばれているレジェンドブレーダー「蒼井バルト」だ!
光り輝くライトに照らされ、バルトはステージ中央に走っていく。知る人ぞ知る、全ブレーダーのあこがれであり、光でもあるバルトの登場に観客は更に盛り上がる。
「みんなー!今日は俺達のスーパーバトルから、ベイブレードに“革命”が起きるぜーっ!!」
バルトが右手を高く突き上げると観客は一気にヒートアップ。ベイブレード界に革命が起きるとなると、どんな革命か皆気になるところである。
それは、遅刻ギリギリでやってきた朝日兄弟も気になっているところであり、特に目を輝かせていたのはヒュウガだった。
「革命だーっ!」
「お前革命って分かってんのか?」
「ん?……なんだっけ?」
「どんな限界も突破して、スッゲー事を起こすって事さ!」
「んっ!限界突破か!革命、革命だーっ!!」
そんな会話をしていると、続いて東ステージから出てきたのは「クミチョー」のあだ名で知られるレジェンドブレーダー、「黄山乱太郎」の登場だ。大きな扇子を振ってカッカッカッ!と高らかに笑う。観客は彼の名を呼びながら、クミチョーの扇子を振る姿を真似する。
続いて西ステージからは「反逆のアウトロー」と呼ばれているレジェンドブレーダー「シスコ・カーライル」の登場だ。彼は女性からこファンが多く、黄色い声がシスコの登場で一気に湧く。
最後に登場したのは、バルトが登場したステージから。「猛炎の天使」と呼ばれているNY ブルズのオーナーであり、レジェンドブレーダーでもある「紅フィニ」の登場だ。彼女の登場に今度は男性の声が湧き始める。シスコの時とは反対で彼女は男性からの人気を多く得ていて、双子の弟もレジェンドブレーダーということで、さらに人気がある。
4人がスタジアムに集まり、穴見からフィニへバトンパスを受けると、フィニが淡々と話し始めた。
「私達が本日見せるベイバトルは、今までの常識を覆す新しいベイ…その名も「スパーキングベイ」だ。」
「「スパーキングベイ!?」」
「レイヤーに新パーツとして“シャーシ”を取り入れている。低重心に剛性が高くなり、より白熱したベイバトルが見られる。しかし…今回はこれだけでは無い……。その先は、バトルが始まってから。」
フィニはそう告げてランチャーを構えると、他の3人も同じようにランチャーを構え、審判も4人の様子を見て、合図をだす。
確かに、画面に映し出された4人のベイは今までとは違うものだった。それぞれのタイプに合わせ、ブレーダーに合わせたベイがどんな戦い方をするのか、観客はそれを今か今かと見ている。
「行くぜ、相棒!」
「悪いがあっさり決めるぜ!」
「へっ、まとめて叩き潰してやる。」
「叩き潰せるかな。」
「レディ……セット!!」
「「「「3、2、1……ゴーー……シューーート!!!!」」」」
4人が勢いよくストリングを引くと、ランチャーから火花がバチバチと飛び出た。
ブレーダーが強い力でストリングを引くことによって火花が飛び散り、バトルに白熱をもたらしてくれる。
確かにフィニの言った通り今までの常識を覆すようなシステム、ベイバトルだ。その衝撃により声を出す者もいれば、あまりにも衝撃的すぎて声が出ない者もいた。
スタジアムに目線を向けると、バルトの愛機、アタックタイプの「ブレイブヴァルキリー」が大きな軌道を描いていく。その間にクミチョーの愛機、スタミナタイプの「グライドナグナルク」とシスコの愛機、ディフェンスタイプの「カースサタン」がセンターの取り合いで真ん中へ向かう。重たく、激しく2機がぶつかり、そこの隙をついてフィニの愛機、バランスタイプの「リーブラプロメテウス」が真ん中へ向かうが、ギリギリのところで2機は離れ、プロメテウスはそのまま素通り。そして通り過ぎたところに再びラグナルクとサタンは真ん中でぶつかり合う。
「せっかく相手してやってんだ!少しは持ち堪えろよ!」
「スタミナ勝負で負ける訳にはいかねぇんだよ!」
と、ここでヴァルキリーが軌道を一気に真ん中へ切り替えて向かっていく。
「ラッシュシュート!」
「させるか!アッパーシュート!!」
プロメテウスも軌道を真ん中に変えて4機が一気に真ん中で火花散る戦いを行われ、観客はわぁあっと、声を上げる。
4機が一斉にぶつかったことにより、4機とも弾かれたが、いち早く行動を起こしたのはサタンだ。
ユニバースドライバーの軸を傾けさせ、見事なドリフトをかましてヴァルキリーに衝突。
続いてクミチョーのラグナルクがメタルで作られたウイングの遠心力を使い、大きな竜巻を起こす。竜巻がヴァルキリーに当たり、一瞬だけバランスを崩すが、何とか持ちこたえ、ヴァルキリーの3枚刃がサタンに当たる。
「いい攻撃だ。しかしこれは耐えられるかな?!」
プロメテウスも参戦し4機が再び真ん中でぶつかり合う。
もはや異次元に近い戦いに観客は声を出すのを辞め、ただ呆然とその光景を見ていた。それは、湧き上がる歓声より、見入ってしまっている方が先に出ているからである。
バルト達のバトルが終わったあと、ヒカル達はスタジアムの外で地べたに座りながら、先程までの試合の余韻に浸っていた。
バルト達の戦いは彼らにいい刺激を与えたようで、新たな目標として「あんなバトルがしたい」と気持ちを身体全体で表現するヒュウガを横目に、ヒカルはタブレットとにらめっこ。ヒカルの隣に座っていたグンがヒカルのタブレットを覗くと、ヒカルはバルト達のスパーキングベイのデータを見ていた。
「それってスパーキングベイのデータですか?」
「あぁ……よし、分かった。作るぞ、俺のスパーキングベイ!」
そう言って目を輝かせるヒカル。ヒュウガも
ヒカルにつられ目を輝かせた。
グンの隣にいるチャックが「出来るわけない」と、否定的な発言をするが、彼らにはお構い無し。1度決めた目標は曲げない。作れると言ったら作れる。絶対作る、と宣言した目線の先には、その目標を作るきっかけを作ってくれたあのレジェンド達の姿が。
――そう、バルトとフィニの姿である。
幼い頃から関わりの深い2人はプライベートでも、会える暇が出来たら連絡を取っているほど親密な関係である。そして、wbba.の公認の関係を公表しており、この2人の関係を知らない者はいないだろう。
2人はフィニが持っているタブレットを皆からなにか会話しているようだ。
「久しぶりのバトル、楽しかった。」
「最近はずーっとスパーキングベイの開発と調整ばっかやってたもんな〜」
「ああ。それに、最近の皆の実力も知れた。お前はシュートをする時足に力が少し抜けていた。」
「ランニングだな!」
「その通りだ。」
「よぉーし!この後特訓だ!」
2人がそんな会話をしていると、後ろから少年の声が2人、自分たちに声をかけてきた。それはヒカルとヒュウガの兄弟である。2人はバルト達の前で止まると、途端にヒュウガがニッコニコ笑顔で「俺、限界突破する!」とパッと聞いてもよく分からない言葉を発した。案の定、バルトの返事は言っていることがよく分からない返事だった。
「蒼井バルト!紅フィニ!スパーキングベイが出来たら――」
「バトルしてくれ!」
「俺と!」
「「バトルー!」」
「……お前ら、面白ぇな!」
「バルトちゃん…」
フィニが呆れた顔で声をかけるが、彼女もブレーダー。彼らの言っていることも、バルトの言っていることも理解してしまう。
バルトは「出来たらいつでも来い!」とニカッと笑って見せた。
「しかし、お前達だけでスパーキングベイが作れるのか…?」
「作れる!」
「……そうか。では、この資料をやろう。タブレットを出せ。」
ヒカルは持っているタブレットをフィニに出すと、なにかいじっている様子で、しばらくするとヒカルにタブレットを返した。
「何をしたんだ?」
「設計図データと各タイプの基本的特徴図だ。これを見て、スパーキングベイ作るといい。」
***
ヒカル達は自分達が所属するベイクラブ「ボンバーズ」に帰ると、早速作業室でスパーキングベイの制作に取り掛かった。ヒカルがパソコンでフィニの設計図を元に、本日戦ったバルト達のベイの各パーツを見ている。後ろでヒュウガがワクワクと身体を揺らしながら、同じようにパソコンを見ていた。
「メタルシャーシ…これによってベイのタイプと特性が決まる…。」
「シャーシにどんなパーツを組み込むかだ…。」
パソコンとにらめっこをし、少しずつ、自分達のベイを作っていく。ヒカルはもう既にシャーシを作り始めており、製造台で作られていく様子をドキドキしつつ、見ている。
その間にヒュウガも制作開始。ヒカルに比べて、ヒュウガはかなり苦戦している様子で、キーボードをカタカタと動かしては「うぅ…」と畝りを上げて、しまいには集中が切れてしまったのかその場で寝始めてしまった。
「集中しすぎだっぺ…」
「寝ちゃいましたね…」
「無理か…」
その間にもシャーシの原型が出来上がったヒカルは早速最終調整と細かい切削加工を施す。ヒカルの中で段々と完成図が出来上がっていく。そして、彼のベイに宿る想いも。
それはヒカルだけでは無い。先程まで寝ていたヒュウガにも。太陽のように燃え盛る限界突破出来る強いベイが頭の中でふと出てきた。途端、ヒュウガは起き上がり頭の中で出てきたベイの構想をデータ上に打ち込む。
翌日、ドライバーとシャーシを完成させた2人は続いてリングとスパーキングチップを作成する。それぞれ作っているベイは違えど、向いている方向は同じ。
ベイの切削加工を終わらせ、塗装をし、出来上がったパーツ全て組み立てると、どちらも太陽神の異名を持つ、まさに2人らしい太陽のようなベイ。ヒカルの「キングヘリオス」とヒュウガの「スーパーハイペリオン」が完成した。
5人は早速、スパーキングベイの初バトルを始める。ライカが審判となり、2つのスタジアムの間で合図を出すと、他の4人はシュート体制に入る。
「「「「3、2、1……ゴーシュート!!」」」」
ヒカルとヒュウガの新調したスパーキングストリングベイランチャーから火花は出ていないものの、低重心で、重たい衝撃がスタジアムを響かせ、自由に動き回る。そしてグンとチャックのベイを一瞬にしてバーストさせ、シュートした勢いのままヘリオスとハイペリオンは場外へ。そしてお互いのベイがぶつかり合い反発し、2人はそれぞれ飛んでいった方向にいき、ベイを掴む。
「どうだ!」
「すごいっぺ!」「すごいです!」
「やったね!」
2人がベイに話しかけると2機はそれに返事するかのように輝いていた。
――2人の限界突破な物語は、まだ始まったばかりである。
――ベイブレード。それは、少年達の夢が詰まった「バトル専用ゴマ」である。
君のベイが、世界を回す!
君の思いを、スパーク、スパーク、スパーキング!
――限界突破!!
***
とある海辺のレストラン。外でオーナーが鼻歌交じりに掃除をしていると、家の中から女性が「ヒカル、ヒュウガ!」と起している声が響く。そしてフライパンの背面同士をパン、と、鳴らすと、青色のトサカのような髪型をした少年が慌てた様子で目覚める。
どうやら、ここは少年の家のようで、起こしていたのは少年の母親のようだ。
青髪の少年――「朝日ヒカル」は本日、出かける用事があり、早起きする予定だったが、うっかり寝過ごしそうになっていたらしい。そこで先程の出来事だ。母親は鼻を鳴らし部屋から出ていってしまった。
ヒカルは隣のベッドで寝ている赤色のタケノコ頭の少年――「朝日ヒュウガ」の掛け布団を剥がすと、頭が出ているはずのところから両足がニョキっと姿を現した。彼は寝相が悪く、オマケに寝起きも悪い。反対側から顔をモゾモゾと出し、寝ぼけた顔でヒカルを見るとそのまま2度寝に入ってしまった。
その間にしっかり寝巻きから私服に着替え終わったヒカルは「置いてくからな」と言い放つが、聞く耳持たないどころか寝言なのか、ヒュウガは「朝はチョコアイス…」と零し布団の中へ。
「……っっ!!ぜっっったい置いてく!!!」
――とは言ったものの、彼らは年子の兄弟。弟のヒュウガの事をなんだかんだ放っておけないヒカルは、ヒュウガを寝巻きのまま背中におぶり、そのまま出かける。彼の手提げにはヒュウガの服一式とお昼のお弁当が入っている。
弟を背負い、坂を降り、浜辺を走るが、ヒュウガの全体重かかった重みに負けてしまう前に、前後に大きく揺さぶり、ヒュウガを起こした。
「んぁ?おはよぉ……。」
ヒカルはヒュウガを下ろすと乱雑に手提げをヒュウガに投げると、着替えをするように促した。
ここでようやく目が覚めたヒュウガは本日の予定を思い出しそそくさと着替えを始める。
ある程度着替え終わると着替えが入っていたカバンをヒカルが持ち上げそのまま走っていく。
「あっ、待ってよヒカル〜っ!」
2人が着いた先は「GTアリーナ」。どうやらここで大きなイベントがあるということで、ヒカルとヒュウガは今日という日を楽しみにしていた。実況の穴見が一声かけると観客は歓声を上げて会場は最高ヒート。そんな時にようやく到着したヒカルとヒュウガは息を切らしながら友達である「チャック」、「ライカ」、「グン」の3人が居る所へ向かった。
「遅いっぺ!」
「ギリギリよ、2人とも。」
「ヒーローはいつも遅れてやってくる!」
かっこよく彼のお得意の決めポーズを決めて、ニカッと笑顔でチャック達を見る。3人は呆れつつもヒュウガを見ると、ライカがヒュウガの異変に気づき、それを指摘した。ヒュウガのパーカーが前後ろ逆だったのだ。
彼も自分の身なりがおかしい事に気づくと慌ててそれを直し、二ッと笑って見せた。
ここで、穴見のアナウンスが会場全体を響かせた。
彼は、「ステージに注目」と視線を集め、言われた通りその先を見ると、ステージに姿を現したのは、「レジェンド・オブ・レジェンド」と呼ばれているレジェンドブレーダー「蒼井バルト」だ!
光り輝くライトに照らされ、バルトはステージ中央に走っていく。知る人ぞ知る、全ブレーダーのあこがれであり、光でもあるバルトの登場に観客は更に盛り上がる。
「みんなー!今日は俺達のスーパーバトルから、ベイブレードに“革命”が起きるぜーっ!!」
バルトが右手を高く突き上げると観客は一気にヒートアップ。ベイブレード界に革命が起きるとなると、どんな革命か皆気になるところである。
それは、遅刻ギリギリでやってきた朝日兄弟も気になっているところであり、特に目を輝かせていたのはヒュウガだった。
「革命だーっ!」
「お前革命って分かってんのか?」
「ん?……なんだっけ?」
「どんな限界も突破して、スッゲー事を起こすって事さ!」
「んっ!限界突破か!革命、革命だーっ!!」
そんな会話をしていると、続いて東ステージから出てきたのは「クミチョー」のあだ名で知られるレジェンドブレーダー、「黄山乱太郎」の登場だ。大きな扇子を振ってカッカッカッ!と高らかに笑う。観客は彼の名を呼びながら、クミチョーの扇子を振る姿を真似する。
続いて西ステージからは「反逆のアウトロー」と呼ばれているレジェンドブレーダー「シスコ・カーライル」の登場だ。彼は女性からこファンが多く、黄色い声がシスコの登場で一気に湧く。
最後に登場したのは、バルトが登場したステージから。「猛炎の天使」と呼ばれている
4人がスタジアムに集まり、穴見からフィニへバトンパスを受けると、フィニが淡々と話し始めた。
「私達が本日見せるベイバトルは、今までの常識を覆す新しいベイ…その名も「スパーキングベイ」だ。」
「「スパーキングベイ!?」」
「レイヤーに新パーツとして“シャーシ”を取り入れている。低重心に剛性が高くなり、より白熱したベイバトルが見られる。しかし…今回はこれだけでは無い……。その先は、バトルが始まってから。」
フィニはそう告げてランチャーを構えると、他の3人も同じようにランチャーを構え、審判も4人の様子を見て、合図をだす。
確かに、画面に映し出された4人のベイは今までとは違うものだった。それぞれのタイプに合わせ、ブレーダーに合わせたベイがどんな戦い方をするのか、観客はそれを今か今かと見ている。
「行くぜ、相棒!」
「悪いがあっさり決めるぜ!」
「へっ、まとめて叩き潰してやる。」
「叩き潰せるかな。」
「レディ……セット!!」
「「「「3、2、1……ゴーー……シューーート!!!!」」」」
4人が勢いよくストリングを引くと、ランチャーから火花がバチバチと飛び出た。
ブレーダーが強い力でストリングを引くことによって火花が飛び散り、バトルに白熱をもたらしてくれる。
確かにフィニの言った通り今までの常識を覆すようなシステム、ベイバトルだ。その衝撃により声を出す者もいれば、あまりにも衝撃的すぎて声が出ない者もいた。
スタジアムに目線を向けると、バルトの愛機、アタックタイプの「ブレイブヴァルキリー」が大きな軌道を描いていく。その間にクミチョーの愛機、スタミナタイプの「グライドナグナルク」とシスコの愛機、ディフェンスタイプの「カースサタン」がセンターの取り合いで真ん中へ向かう。重たく、激しく2機がぶつかり、そこの隙をついてフィニの愛機、バランスタイプの「リーブラプロメテウス」が真ん中へ向かうが、ギリギリのところで2機は離れ、プロメテウスはそのまま素通り。そして通り過ぎたところに再びラグナルクとサタンは真ん中でぶつかり合う。
「せっかく相手してやってんだ!少しは持ち堪えろよ!」
「スタミナ勝負で負ける訳にはいかねぇんだよ!」
と、ここでヴァルキリーが軌道を一気に真ん中へ切り替えて向かっていく。
「ラッシュシュート!」
「させるか!アッパーシュート!!」
プロメテウスも軌道を真ん中に変えて4機が一気に真ん中で火花散る戦いを行われ、観客はわぁあっと、声を上げる。
4機が一斉にぶつかったことにより、4機とも弾かれたが、いち早く行動を起こしたのはサタンだ。
ユニバースドライバーの軸を傾けさせ、見事なドリフトをかましてヴァルキリーに衝突。
続いてクミチョーのラグナルクがメタルで作られたウイングの遠心力を使い、大きな竜巻を起こす。竜巻がヴァルキリーに当たり、一瞬だけバランスを崩すが、何とか持ちこたえ、ヴァルキリーの3枚刃がサタンに当たる。
「いい攻撃だ。しかしこれは耐えられるかな?!」
プロメテウスも参戦し4機が再び真ん中でぶつかり合う。
もはや異次元に近い戦いに観客は声を出すのを辞め、ただ呆然とその光景を見ていた。それは、湧き上がる歓声より、見入ってしまっている方が先に出ているからである。
バルト達のバトルが終わったあと、ヒカル達はスタジアムの外で地べたに座りながら、先程までの試合の余韻に浸っていた。
バルト達の戦いは彼らにいい刺激を与えたようで、新たな目標として「あんなバトルがしたい」と気持ちを身体全体で表現するヒュウガを横目に、ヒカルはタブレットとにらめっこ。ヒカルの隣に座っていたグンがヒカルのタブレットを覗くと、ヒカルはバルト達のスパーキングベイのデータを見ていた。
「それってスパーキングベイのデータですか?」
「あぁ……よし、分かった。作るぞ、俺のスパーキングベイ!」
そう言って目を輝かせるヒカル。ヒュウガも
ヒカルにつられ目を輝かせた。
グンの隣にいるチャックが「出来るわけない」と、否定的な発言をするが、彼らにはお構い無し。1度決めた目標は曲げない。作れると言ったら作れる。絶対作る、と宣言した目線の先には、その目標を作るきっかけを作ってくれたあのレジェンド達の姿が。
――そう、バルトとフィニの姿である。
幼い頃から関わりの深い2人はプライベートでも、会える暇が出来たら連絡を取っているほど親密な関係である。そして、wbba.の公認の関係を公表しており、この2人の関係を知らない者はいないだろう。
2人はフィニが持っているタブレットを皆からなにか会話しているようだ。
「久しぶりのバトル、楽しかった。」
「最近はずーっとスパーキングベイの開発と調整ばっかやってたもんな〜」
「ああ。それに、最近の皆の実力も知れた。お前はシュートをする時足に力が少し抜けていた。」
「ランニングだな!」
「その通りだ。」
「よぉーし!この後特訓だ!」
2人がそんな会話をしていると、後ろから少年の声が2人、自分たちに声をかけてきた。それはヒカルとヒュウガの兄弟である。2人はバルト達の前で止まると、途端にヒュウガがニッコニコ笑顔で「俺、限界突破する!」とパッと聞いてもよく分からない言葉を発した。案の定、バルトの返事は言っていることがよく分からない返事だった。
「蒼井バルト!紅フィニ!スパーキングベイが出来たら――」
「バトルしてくれ!」
「俺と!」
「「バトルー!」」
「……お前ら、面白ぇな!」
「バルトちゃん…」
フィニが呆れた顔で声をかけるが、彼女もブレーダー。彼らの言っていることも、バルトの言っていることも理解してしまう。
バルトは「出来たらいつでも来い!」とニカッと笑って見せた。
「しかし、お前達だけでスパーキングベイが作れるのか…?」
「作れる!」
「……そうか。では、この資料をやろう。タブレットを出せ。」
ヒカルは持っているタブレットをフィニに出すと、なにかいじっている様子で、しばらくするとヒカルにタブレットを返した。
「何をしたんだ?」
「設計図データと各タイプの基本的特徴図だ。これを見て、スパーキングベイ作るといい。」
***
ヒカル達は自分達が所属するベイクラブ「ボンバーズ」に帰ると、早速作業室でスパーキングベイの制作に取り掛かった。ヒカルがパソコンでフィニの設計図を元に、本日戦ったバルト達のベイの各パーツを見ている。後ろでヒュウガがワクワクと身体を揺らしながら、同じようにパソコンを見ていた。
「メタルシャーシ…これによってベイのタイプと特性が決まる…。」
「シャーシにどんなパーツを組み込むかだ…。」
パソコンとにらめっこをし、少しずつ、自分達のベイを作っていく。ヒカルはもう既にシャーシを作り始めており、製造台で作られていく様子をドキドキしつつ、見ている。
その間にヒュウガも制作開始。ヒカルに比べて、ヒュウガはかなり苦戦している様子で、キーボードをカタカタと動かしては「うぅ…」と畝りを上げて、しまいには集中が切れてしまったのかその場で寝始めてしまった。
「集中しすぎだっぺ…」
「寝ちゃいましたね…」
「無理か…」
その間にもシャーシの原型が出来上がったヒカルは早速最終調整と細かい切削加工を施す。ヒカルの中で段々と完成図が出来上がっていく。そして、彼のベイに宿る想いも。
それはヒカルだけでは無い。先程まで寝ていたヒュウガにも。太陽のように燃え盛る限界突破出来る強いベイが頭の中でふと出てきた。途端、ヒュウガは起き上がり頭の中で出てきたベイの構想をデータ上に打ち込む。
翌日、ドライバーとシャーシを完成させた2人は続いてリングとスパーキングチップを作成する。それぞれ作っているベイは違えど、向いている方向は同じ。
ベイの切削加工を終わらせ、塗装をし、出来上がったパーツ全て組み立てると、どちらも太陽神の異名を持つ、まさに2人らしい太陽のようなベイ。ヒカルの「キングヘリオス」とヒュウガの「スーパーハイペリオン」が完成した。
5人は早速、スパーキングベイの初バトルを始める。ライカが審判となり、2つのスタジアムの間で合図を出すと、他の4人はシュート体制に入る。
「「「「3、2、1……ゴーシュート!!」」」」
ヒカルとヒュウガの新調したスパーキングストリングベイランチャーから火花は出ていないものの、低重心で、重たい衝撃がスタジアムを響かせ、自由に動き回る。そしてグンとチャックのベイを一瞬にしてバーストさせ、シュートした勢いのままヘリオスとハイペリオンは場外へ。そしてお互いのベイがぶつかり合い反発し、2人はそれぞれ飛んでいった方向にいき、ベイを掴む。
「どうだ!」
「すごいっぺ!」「すごいです!」
「やったね!」
2人がベイに話しかけると2機はそれに返事するかのように輝いていた。
――2人の限界突破な物語は、まだ始まったばかりである。
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