不器用な柳蓮二
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「…帰ろう」
結局今日1日部活にあまり集中できなかった。いつもなら柳の小言にイラつきながらも一生懸命仕事をこなしているのに、今日は柳の小言どころか柳の顔を見ると無性にモヤモヤして全く関わらなかった。ドリンクを手渡さず置いて急いで逃げ、ラッキーなことに溜まっていた書類を整理した。部室にほぼほぼこもっていたから柳と話すことは無かったけれど、ブンちゃんや雅治はそんな不審な私の様子を何度か見に来た。
部活が終わって、更衣を済ませ鞄を持って急いで去った。いつもなら柳が送ると無理やりついてくるのだけれど今日はわざとらしく避ける私を見かねたのか追っては来なかった。
今日の私は、なんだかおかしい。
柳がモテることなんて分かりきってきた。テニス部の誰かに彼女ができた時も特になんとも思わなかった。なのに、なんで。
なんでこんなにモヤモヤするのだろう。
「名前!雅治くん来てるわよ」
1階から大きなお母さんの声が聞こえる。「あげていいよ」と返事をするとすぐに雅治は階段を上がって慣れた手つきで私の部屋のドアを開けた。雅治の表情はいつもより強ばっているように感じられる。私はなんとなく目を合わせられなくて、勉強机の椅子に座ってくるりと周り雅治に背を向けた。
「名前、今日部活の前なんかあったんか?」
「…」
「無視せんで、答えんしゃい」
椅子をくるりと回されて結局雅治と向き合わされる。雅治はいつになく優しい口調なのに、いつになく真剣な顔をしていた。まるで小さな子供に問いかけるように私に優しく声をかける。椅子に座った私に視線を合わせるように片膝をついた。
私は声をふりしぼって「答えたくない」と呟いた。思い出したくもなかったし答えたくもなかった。柳が告白された現場を思い出すと、余計に胸が苦しくなるから。
「言うまで帰らんぜよ」
「…それはずるい」
「そんなに、俺は頼りないかのう」
しょんぼりとした雅治を見て考えるより先に口が開いた。「そんなことない!言うから!」と。私は昔から雅治のしょんぼりした顔に弱い。この顔がペテンだということもよく分かっているのに、それでもいつでもまんまと引っかかってしまう。雅治はイタズラが成功した子供のように笑った。
言うと言ってしまったものは仕方ない。じんじんと痛む胸を抑えながら見た光景をありのまま話した。話す途中で雅治は少し驚いた顔をしていた。
「…なんで、こんなにモヤモヤするのか。わかんない」
「…名前は、どうしようもない馬鹿やの。」
「はあ!?」
雅治はわかりやすくため息をついて、私の肩を掴んだ。それから、いつもはなかなか見せない真面目な顔をしていつもより少し低いトーンで私と目を合わせながら堂々と言った。
「名前が参謀のことどう思っとんのか。そんでもって参謀とどうなりたいんか。参謀に今何を求めとんのか。ちゃんと考えてみんしゃい。」
そう告げて雅治は帰って言った。
雅治の考えていることは分からなかった。