不器用な柳蓮二
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「柳くんってかっこいーよねー」
柳蓮二はモテる。
というかテニス部はモテる。イケメンが揃いも揃ってテニスでもしてみろモテないわけがなかった。私からすればキレやすい問題児に五感を奪う恐ろしい魔王に、厳しすぎる副部長に、ブラジルハーフにお菓子おばけにペテン師に人を殺せるくらいの速さでたまを打つジェントルマンにデータを集めるのが好きなやばいやつにしか思えないのだが。
とにかく濃いメンツが集まっている。
私の友達がテニス部の誰かを好きになるなんていつものことだし情報を聞かれるのもいつものことだ。それが今回はただ柳だったってだけ。
「名前ちゃん柳くんとめっちゃ仲いいよねー」
「は!?どこが!?」
「毎日鬼ごっこしてるし。柳くんが自分から話しかけるのなんて名前ちゃんくらいだもん」
「いやいや、おもちゃくらいにしか思われてないって」
あの追いかけっこも。回収も。口論も。
傍から見れば仲良しに見えるというのだからなんだか気持ち悪い。それにこの子は柳のことが好きなんじゃないのだろうか。これは嫌味として捉えてもいいものなのかどうなのか。
カバンの中で折れてしまった教科書のはしを弄りながら、彼女の話に耳を傾ける。
テニスをしてる時がかっこいいだとか。頭がいいところがかっこいいだとか。女子にも優しいところがかっこいいだとか。いつでも冷静なところが素敵だとか。
なんだ、なんにも分かってないじゃん。この子も結局は柳の表面しか分かってあげてないんだな。
「もう聞いてる?」
「聞いてるって~!ごめんごめん」
どうにも、虫の居所が悪かった。
表面上の柳のことを好きだという目の前の女の子も、彼らの努力も知らずにすごいすごいというミーハーな女の子達も。
なんで今更、私がこんなことでイラつかなきゃいけないの。柳がどう思われてたって。柳のことを好きな女の子がいたって。いいじゃないか。
「苗字」
だから、今柳が私の名前を呼ぶ声が聞こえてホッとしたのは、きっとやっとこの会話から解放されるから。たったそれだけ。
それだけだから。
「なに?柳」
「…いいからついてこい」
無理やり腕をひかれて立たされる。いつものように強引に連れていかれる。教室から出る瞬間に見えた友達の顔は歪んでいた。柳は何も喋らない。だけれど私を掴む手はいつもより少しだけ力が強いように感じられた。
人気のない階段の下。
柳は私の手を離さない。
「おまえは」
「ん?」
「おまえは、あんな風に質問をされるのが嫌だとは思わないのか?」
「嫌だよ」
嫌に決まってる。
前までは少しイラッとするくらいだったのに。今となれば少しじゃすまない。なんでこんなことで怒っているのか、私でもわからないから困っているのだ。柳のことを好きだっていう女の子を見たら。上っ面しかしらない奴らにそう言われるのもすごいいや。
いつからこんなに面倒くさい女になってしまったんだろう。
「自惚れていると思われても構わないから言うが、彼女が俺のことを好きな確率は高い」
「そんなの話聞いてたらわかる」
「嫌ならなんで拒否しないんだ」
何を求めているの。柳は。
「なんでそんな機嫌悪いの」
「…悪くない」
「感情任せに呼び出すとからしくないよ」
肩に手を置き逃げるように歩き出した。
今日の柳はなんだか怖かった。
こいつの考えてることはわからない。