不器用な柳蓮二
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地区大会を前に、練習は日に日に熱を増していった。
幸村が倒れた時にみんなで誓った“無敗”。
私たちは無敗で幸村が帰ってくるのを待つ。それでもって幸村と一緒に全国制覇。
それを実現させるには生半可な気持ちではやっていけない。血のにじむような努力の上で、王者は君臨するのだから。
そして、私の役目はそんな彼らを支えることだ
「苗字。ドリンクをくれ」
「はい真田。お疲れ様」
「ふん、まだぬるいわ!」
それは、練習がですか。ドリンクがですか。とは聞きたくても聞けなかったため、苦笑いでやり過ごす。今は休憩の時間。給水所のような大きなテントではないけれど、長机をふたつ置いてドリンクとタオルを置いてある。うちも部員数は多いのでいちいち一人一人に渡すことは出来ない。だからセルフサービスなのだ。
まあ渡してくれと頼まれたら、今のように渡すのだけれど。
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「今日は、あついなあ」
ジリジリと肌を焼く日差しが眩しい。
夏はまだだっていうのに熱気からかじわじわと汗をかいていく。ジャージを脱いでパイプイスにかける。こんな暑いと立っているだけでもしんどいのに、プレイをする彼らはどんな気持ちなのだろうか。
休憩が終わり、長机にドリンクを置いてコートにみんなが帰っていく。ご丁寧に置く時に「あざす」だとか「ありがとう」とか言ってくれるから自然と頬が緩むのは仕方ないだろう。お礼を言われるのは気持ちがいいことだし。
「苗字」
「ん」
柳からもドリンクを受け取る。ちなみにこいつの口からありがとうという言葉を聞いたことは無い。むしろ毎回ドリンクの厳しい採点だけは聞こえてくるのだが。まあ私もありがとうだなんて言ったことはないのだけれど。お互い意地を張り合っていたらこうなっていた。
「今日はいつもに比べると薄めてあってよかったな。まあお前のことだろう。意図せず氷が溶けた確率78%だ」
「褒めるか貶すかハッキリしてくれませんか?」
珍しく今回は批判だけではなく褒めてくれた。いつもならボロクソに言って帰るのであえて柳のだけ水にしたりと嫌がらせをしていた。が、今日は珍しいこともあるものだ。お礼を言われるのは気持ちがいい。先程私がそんなことを考えていたからなのか私も何故か言いたくなった。なんだか無性に言いたいと思ったのだ。
「ま、ありがと」
口から零せば急に恥ずかしくなってきた。
逃げるように背を向けドリンクの補充のために走り出そうとするといつぞやの時のように腕を掴まれた。
「なにするの」と文句を言おうと振り返れば、顔を真っ赤にして目を開眼させて私を見つめる柳がいた。見たことの無いその表情に。余裕のないその瞳に、胸が張り裂けそうになる。
「え、は、え」
「…お前、熱があるんじゃないのか」
「ないし!柳でしょ!おかしいのは!私がお礼言っちゃダメ?!」
ああ、もう。めちゃくちゃ恥ずかしい。
頬に熱がこもっていくのが自分でもわかる。もう離してくれ頼むから。恥ずかしくて仕方なくて、無理やり柳の腕を振りほどいて走って逃げた。
やっぱり、やっぱり。
私はこいつの考えてることはわからない。