好みのアイツ
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海堂薫 ↔ おいしそうにご飯を食べる子
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俺がそいつと出会ったのは2年の冬だった。キャプテンとして部を率いるのにも大分慣れてきて、緊張感も解けて来た頃。一人中庭で猫と戯れていると、木下に這いつくばって死にそうになっている女を見つけた。その時は本気で焦ったのをよく覚えている。俺が必死に声をかけるとそいつは掠れた声で小さく呟いた。
「お、…おなか、へった」
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その日から俺とコイツの奇妙な関係は続いていた。中庭にいけば必ずいる女。いつでも腹を空かしていて俺に食い物をねだってくる女。俺がパンをわけ与えればそれはそれは美味しそうにこの世で1番美味いもんを食ったみたいな顔をするそんな女。
今日も、いつものように向かうと木に寄りかかって気持ちよさそうに寝ていた。
「おい、起きろ」
「…んん、かいどーくん?」
もそもそと体を起こして大きな欠伸をしながら伸びをすると、俺に向かって微笑んだ。「それじゃあ食べよ」と。今日の俺の飯は手作りの弁当とクリームパン。どうせこのクリームパンはコイツの腹に収まるのだろうけれど。
まだ少し眠いのか目を擦りながら持参してきたのであろうコロッケパンをもそもそと食べる。しかし食べ始めると途端に幸せそうな顔になり、だらしのない気の抜けた顔をした。本当に美味しそうに食うもんだから見てるこっちも気分がいい。
「おいひ~!!」
「お前昨日もコロッケパンじゃなかったか?」
「コロッケパンブームなんだー。クリームパンももちろん大好き!」
「…仕方ねぇな」
「やったー!」
ひとくち、ひとくち。
口に含む度に幸せそうに口元を緩ませるその仕草をみて胸がキュッとなった。口いっぱいに頬張って、ハムスターみたいだ。あまり見すぎたのか、俺の視線に気づき苗字は俺の方を向いた。キョトンと不思議そうな顔をしたあと閃いたように微笑んだ。
「かいどーくんもひとくち食べる?コロッケパン!」
「いや、俺はいい」
「そんな物欲しげな顔されちゃーね!お世話になってるし!はい!」
無理やり口に入れられたコロッケパンからは、程よく揚げられたコロッケのソースの香ばしさとパンの独特の甘みが絡みあって美味しい。だけれど、普通に購買で売っているコロッケパンだ。苗字はいつも本当に美味しそうに食べるからよっぽどなのかと思ったが味としては美味しいがそれまでだ。
どう?どう?と俺の感想を求めてくるので素直に「うまい」と伝えると満足げに笑ってみせた。
その笑顔にどうしようもなく胸が苦しくなった。コイツの笑顔を見る度にもっと見たいだとか、俺と居る時に笑ってくれんのが嬉しいだとかそんな女々しいことばっか考えちまって…こんなの、俺らしくねぇ。
「お前、何でそんな美味そうに食うんだよ」
「だって、おいしいんだもん!」
「…おれの唐揚げもいるか?」
「食べる!!!」
俺が唐揚げを箸の裏側でつかみパンの袋の上に載せようとするとそのまま俺の手首をつかみ苗字は唐揚げにかぶりついた。無意識、なのか。無自覚、なのか。どちらにしても俺の頬は熱を帯びて、鼓動は早くなって、胸はおかしいくらいに苦しかった。
(こんなんじゃ、認めてるみてぇなもんじゃねぇか)
自覚してしまったこの感情を放置するわけにも行かず俺はため息をこぼした。
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俺がそいつと出会ったのは2年の冬だった。キャプテンとして部を率いるのにも大分慣れてきて、緊張感も解けて来た頃。一人中庭で猫と戯れていると、木下に這いつくばって死にそうになっている女を見つけた。その時は本気で焦ったのをよく覚えている。俺が必死に声をかけるとそいつは掠れた声で小さく呟いた。
「お、…おなか、へった」
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その日から俺とコイツの奇妙な関係は続いていた。中庭にいけば必ずいる女。いつでも腹を空かしていて俺に食い物をねだってくる女。俺がパンをわけ与えればそれはそれは美味しそうにこの世で1番美味いもんを食ったみたいな顔をするそんな女。
今日も、いつものように向かうと木に寄りかかって気持ちよさそうに寝ていた。
「おい、起きろ」
「…んん、かいどーくん?」
もそもそと体を起こして大きな欠伸をしながら伸びをすると、俺に向かって微笑んだ。「それじゃあ食べよ」と。今日の俺の飯は手作りの弁当とクリームパン。どうせこのクリームパンはコイツの腹に収まるのだろうけれど。
まだ少し眠いのか目を擦りながら持参してきたのであろうコロッケパンをもそもそと食べる。しかし食べ始めると途端に幸せそうな顔になり、だらしのない気の抜けた顔をした。本当に美味しそうに食うもんだから見てるこっちも気分がいい。
「おいひ~!!」
「お前昨日もコロッケパンじゃなかったか?」
「コロッケパンブームなんだー。クリームパンももちろん大好き!」
「…仕方ねぇな」
「やったー!」
ひとくち、ひとくち。
口に含む度に幸せそうに口元を緩ませるその仕草をみて胸がキュッとなった。口いっぱいに頬張って、ハムスターみたいだ。あまり見すぎたのか、俺の視線に気づき苗字は俺の方を向いた。キョトンと不思議そうな顔をしたあと閃いたように微笑んだ。
「かいどーくんもひとくち食べる?コロッケパン!」
「いや、俺はいい」
「そんな物欲しげな顔されちゃーね!お世話になってるし!はい!」
無理やり口に入れられたコロッケパンからは、程よく揚げられたコロッケのソースの香ばしさとパンの独特の甘みが絡みあって美味しい。だけれど、普通に購買で売っているコロッケパンだ。苗字はいつも本当に美味しそうに食べるからよっぽどなのかと思ったが味としては美味しいがそれまでだ。
どう?どう?と俺の感想を求めてくるので素直に「うまい」と伝えると満足げに笑ってみせた。
その笑顔にどうしようもなく胸が苦しくなった。コイツの笑顔を見る度にもっと見たいだとか、俺と居る時に笑ってくれんのが嬉しいだとかそんな女々しいことばっか考えちまって…こんなの、俺らしくねぇ。
「お前、何でそんな美味そうに食うんだよ」
「だって、おいしいんだもん!」
「…おれの唐揚げもいるか?」
「食べる!!!」
俺が唐揚げを箸の裏側でつかみパンの袋の上に載せようとするとそのまま俺の手首をつかみ苗字は唐揚げにかぶりついた。無意識、なのか。無自覚、なのか。どちらにしても俺の頬は熱を帯びて、鼓動は早くなって、胸はおかしいくらいに苦しかった。
(こんなんじゃ、認めてるみてぇなもんじゃねぇか)
自覚してしまったこの感情を放置するわけにも行かず俺はため息をこぼした。