嫉妬シリーズ
name change
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物心ついた時にはコイツが好きだった。
いつも隣にいて鈍臭い癖に頑張り屋で自信は無いくせに誰よりも努力ができる。そんな必死にもがいて生きているような名前のことがどうしようもなく好きだった。
中学生になって、俺は男子テニス部に、名前は女子テニス部になって学校で話すことは少なくなった。何より名前がそれを拒んだ。学校では嫉妬の対象になるから嫌だと俺に申し訳なさそうに言ってきた日をよくおぼえている。しかし俺はそんなことで簡単に恋心を捨てるほど単純じゃない。その代わりと言わんばかりに名前の家に上がり込む回数が増えた。本当は学校で名前が誰かと話す度に嫉妬で気が狂いそうになってるなんて。言えるわけない。
「赤也ただいま」
「うぃーす。新しく買ったゲームしよーぜ!」
「する!早く部屋行こ!」
当たり前のようにリビングでテレビを見ている俺に当たり前のようにただいまと名前は言う。それがなんかあったかくてうれしいのは少し秘密だ。早く早くと急かされて二階にある名前の部屋に行く。簡単に男を部屋にあげるのはどうかと思うが。それは、俺への信頼なのかただ単に馬鹿なのか。微妙なところである。
いつもの定位置に座ってコントローラーを握る。新しいゲームを買うのはもちろん俺がやりたいのもあるけどこうして家に上がる口実が増えるからでもある。
「赤也彼女いるの?」
「…は?」
突然。本当に突然。
彼女の口から細々とした声が発しられた。小さな部屋でその声は静かに響く。思わず間抜けな声が零れてしまった。これは、もしかしなくても、もしかしなくても脈アリなのだろうか。胸の内側がジンと熱くなる。鼓動が早くなっているのを自分でも感じた。
「_____いねぇよ」
「ふーん」
「お前は?」
「いないよ。」
「まだね」と素っ気なく呟いた名前を2度見する。まだということは彼氏ができる予定だと言っているようなものだ。さっきとは違う意味で胸がジンと熱くなった。それは、俺なのか、テニス部の先輩か。はたまた全然知らないどこかの男なのか。
聞くに聞けなくて情けなく俺はコントローラーに力を握りしめた。画面にはSTARTの表示がされていた。
_____
「苗字名前が2組のあいつに呼び出されたらしい」
どこからやってきたか知らないが、クラスメイトであるそいつがにやにやしながら教室のドアを乱暴に開けた。そいつの口から聞こえてきたのはあまりに衝撃的な内容。周りは「やっぱり~」だとか「あの二人いい感じだったよな」とかそんな言葉を漏らしていた。
意味わかんねえふざけんな。なんだよいい感じって。あいつは俺のもんだ。俺以外と付き合うなんてありえねぇし、許さねぇよ。
フツフツと湧き上がる黒い感情。試合の時に相手に向けて感じるようなそんな何かと似た同類の感情。思わず勢いよく立ち上がって走り出した。椅子が大きな音を立てて倒れたのも無視をして、名前を探すために全速力で走り抜けた。
告白といえば。で知られる立海の名所。屋上の花壇の前で結ばれたカップルは長続きすると言う謎の噂がたっている場所。やっぱりそこには名前とどこかで見たことがある男の姿があった。
なんだよ。昨日言ってたまだって今日の事だったのかよ。そいつと付き合うのかよ。俺のことほっといて?
_____ふざけんな
「…赤也?」
「コイツは俺のだ!だからわりぃけど諦めてくんね?」
名前の手を引き自身に引き寄せる。離さないように後ろから抱きしめ、目の前にいる男相手に見せつけるように微笑んだ。俺以外が名前と付き合うなんてぜっってぇ許さねぇ。情けないほどに余裕が無い心では苛立ちが誤魔化し切れずにその場から逃げるように名前の手を掴み走り出した。名前は何も言わなかった。
中庭について足を止める。少なくとも付き合う予定だった相手を勝手に振って連れ出したのだ。怒鳴られるのを覚悟で下を向いた。名前の手ははなさなかった。
「…赤也」
「…」
「わたしのこと、すきなの?」
「すきだ」
俺の口から零れたその言葉は、恐れているのか少しかすれて震えた。この3文字は重すぎる。もしかしたら今までのように仲良く出来ないかもしれない。気持ちを伝えてしまえば、俺たちの関係は崩れてしまうかもしれない。それでも俺は俺以外のやつが名前と付き合うのは譲れないのだ。俺だけの、もんだ!
「…その…わりぃな告白妨げて」
「わたし、うれしかった」
「は?」
「私だってずっと赤也が好きだった」
泣きそうな声で小さく体を震わせながらそう呟いた名前を思わず包み込むように抱きしめた。脳内では信じられないだとか本当なのだろうかとかそんな気持ちで溢れていたけれど口から出たのはなんとも冷静な言葉だった。
「…俺と付き合ってくれるか?」
「あたりまえじゃん」
名前が目からぽろぽろと零した涙は死ぬほど美しかった。