純愛シリーズ
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忙しなく足音が聞こえてきて、深く息を吸い込んで、ため息混じりに吐き出した。こんな時間帯に、こんな大きな足音を立てて、俺の所に来るのなんて考えなくてもわかる。アイツだ。
「せんぱい!せんぱい!日吉せんぱーい!」
「またお前か、飽きないな」
「飽きませんよ!」
にへらとだらしなく笑うのは、一つ下の後輩である、苗字。特にこれといった接点があった訳でもないが話してるうちに懐かれてしまった。
今だってせっかくの昼休みなのに、わざわざ遠い2年の教室まで来て、日吉せんぱいと騒ぎ立てる。その顔はまるで犬だ。
仕方ないからと弁当箱をカバンから取り出し「一緒に食うか」と声をかける。すると苗字は本当に嬉しそうな顔をして元気よく「はい!」と叫んだ。
「お前は本当に物好きだな」
「そうですか?日吉先輩と話すの楽しくて、私好きですよ」
「…そうか」
本当に嫌なら突き放すことも、迷惑だとハッキリ言うことも出来る。それでもそれをしないのは、少なからずこいつのことを気に入っている証だろう。俺らしくもない。箸を取り出し手を合わせる。俺を横目で見た苗字も「いただきます!」と楽しそうに叫んだ。
ここは中庭の一角、そこまで目立ちはしない俺のお気に入りの場所。本来なら人によってきて欲しくないから誰にも言わないのだが、苗字ならいいだろうと何故か連れてきてしまった。コイツと、いると調子が狂う。パーソナルスペースをぐちゃぐちゃにされた気分だ。
「見ろよゆーし!日吉が女子と飯食ってんぜ!」
ゲ、と思った。恐らく口からも零れていたと思う。遠くに見えるのは赤色と青色の髪色。あんなに目立つ先輩には残念ながら見覚えがある。テニス部の先輩である向日さんと忍足さんだ。俺は今更逃げてもどうせ部活の時にからかわれるだろうと踏んで大人しく居座ることにした。
案の定こっちにやってきた先輩方。隣を盗み見ると苗字はポカンとしていた。いきなりで何が起きたかよく分かってないのかもしれない。
「…なんですか」
「日吉、隣彼女かよ!」
「そんなんじゃないです」
「にしても、べっぴんさんやなあ。名前、聞いてもええか?」
ベンチに座る苗字に合わせるように忍足さんが片膝を着いた。それを見て、なんでか胸の中心が疼くような、痛むような、そんな感覚がした。咄嗟に苗字の腕を引っ張り、立ち上がった。
「あの、こいつは俺のなんで。あまりちょっかい、かけないでもらえますか。」
数秒の沈黙。途端に俺は顔に熱が集まっていくのがわかった。前にいる忍足さんも少し顔を赤くして目を見開いているし、向日さんに至っては石化している。俺は何を先走って…!恥ずかしくて苗字を掴んでいた手をゆっくり離した。
ちらりと隣を覗けば顔を真っ赤にして、口をぱくぱくと魚のように動かす苗字がそこにはいて、俺はさらに顔に熱がこもって行くのがわかった。
残念ながら、俺はこいつに気に入っている以上の感情を抱いている。そう知ってしまった時、昼休憩の終わりを告げるチャイムがなった。