純愛シリーズ
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息を吐くともう白い。もう冬だ。
少しでも寒さを紛らわすために指先に息を吹きかける。一瞬暖かくなったかと思えど、直ぐに冷気で冷えていく。
午後17時。今日は早く部活が終わるから、少し待っていて欲しい。彼氏の蔵之介に言われた言葉である。今の時刻は17時15分過ぎ。少し伸びているのかな、なんて思いつつ久しぶりに彼と帰れることが嬉しくて特に時間がかかるのは気にならなかった。
17時30分を過ぎた頃、ちらほらとおなじみのテニス部が正門をくぐって行く。数人、通り過ぎて私の仲良しの小春ちゃんが近づく。笑顔で手を振ると、小春ちゃんは私のことを見て驚いた顔をした。それから少し気まづそうに手を振ってくれた。その行動が不自然で私は首を傾げる。そして後ろから小春ちゃんに飛びかかるように一氏くんが走ってきた。
「あ、一氏くん」
「おー、白石の…。白石なら中庭に」
「ちょっと!ユウくん!!!」
小春ちゃんが一氏くんの口を咄嗟に隠す。
ああ、蔵之介は中庭にいるのか。と理解してありがとうと礼を告げ、中庭に向かう。後ろから小春ちゃんの怒鳴り声が聞こえるけれどお構い無し、だ。
中庭に出れば、小さな声が聞こえてきた。ちらりと覗き込む。そこには蔵之介とかわいい女の子。それを見てああ、と納得する。だから遅かったのだと知る。なんて、ベタな。胸がジクジクと痛むのを感じながらそっと身を引いた。
はぁと息を吐く。やっぱり、白い。
彼の告白現場を見るのはかれこれ数回目だ。いつまでも慣れはしない。彼はその度に私に優しく言うのだ「俺にはお前だけやから」と。その度に私は心が満たされるのだけれど、それと同時に不安にもなる。いつまで私は蔵之介の一番でいられるのだろう。
顔だってそんなに可愛くない。ほかの女の子みたいに女子力だって高くない。こんなズボラな私を愛してくれるのなんて蔵之介くらいだ。私なんかより、もっといい人がいるのなんて分かっている。それでもわかれないのは私のエゴだ。それでも尚、付き合っていたいと。このぬるま湯にいたいと望んでいる。
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告白にしては、長すぎないか。もう一度のぞき込む。すると、バチりと彼と目が合った。やばい。そう思い反射的に隠れる。いや、何故こんな隠れ方をした。私よ。
変な汗をかいてきた。壁によりかかって、ずるずるとしゃがみこむ。すると中庭の方からバタバタと足音が聞こえてくる。
ゆっくりと顔をあげれば慌てた様子で蔵之介が私のことを見つめていた。私を見つけて安心したのか、ほっと息を吐き出した。
「…もう、おわったの?」
「すまん。ほんま、すまん。」
「なんで謝るの、蔵之介は悪くないじゃん」
蔵之介が私に手を伸ばすものだからその手を取る。するとそのまま引き寄せられて抱きしめられる。距離感が一瞬にして0になったせいで突然のことに心臓がついて行かない。バクバクと大きな音を立てる。聞こえてないといいけれど。
「不安にさせて、すまん」
「もー、謝ってばっか!」
猫のように私の首に顔を埋める。蔵之介の髪の毛が頬にあたって、少しくすぐったい。体全身でごめんと告げてくるんだから、許す他ない。私は背中に手を伸ばしてあげてポンポンと叩いてあげると、蔵之介はさらに私を抱きしめる力を強くした。
「俺が、ホンマに好きなのはお前だけやから」
「…うん」
「せやから、捨てんといて…。」
私が、蔵之介を捨てるなんて。あるはずないのに。大人しく抱きしめられながら、そう伝えるべく、少し身を遠ざける。しかし、逃げられると思ったのか、蔵之介は必死に離したくないと言わんばかりにさらに抱きしめる力を強くした。
「苦しいよ」
「…すまん」
「謝ってばっか」
蔵之介はそっと壊れ物を触るように私を離した。
蔵之介の視線は痛いくらいに熱い。眉を下げて、まるで捨てられた子犬のよう。私は大きくため息をついて、蔵之介の手を握った。
「嫌いになるわけないじゃん。好きだよ」
そう言えば蔵之介は本当に嬉しそうに笑ってみせた。