6話
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時刻は夜。探偵社の事務員はほとんどが帰宅の途について残っている影はまばらだ
お兄ちゃんを始めとする探偵社の調査員であるあたし達は事務フロアを抜けて会議室へと入った
「おやおや。茉白に男4人がゾロゾロと不景気な面揃えてどうしたんだい?解剖志願なら結構だけど、今日は営業終了だよ」
細い足を組んで座って掲げた新聞を読んでいた与謝野女医
異能者・与謝野晶子
異能力【
与謝野女医は探偵社専属の外科医師だ。世界的に見ても極めて稀な治療系異能者であり、荒事が多く生傷の絶えない探偵社員の治癒加療を一手に仕切って居るのだ。
お医者様でもある与謝野女医は2年前。あたしが探偵社に入った時色々と話を聞いてくれた人物でもあるわけで
探偵社では珍しく自分より下にいる女の異能者であるあたしを良くしてくれていることは知って居る
与謝野女医の腕は頗る良い。然し問題は手術と解体を3度の食事よりも好んでおり、打ち身、掠り傷程度の軽傷でも解体手術をしようとする事がある為、敵よりもむしろ身内である探偵社の方から恐れられている。また、彼女の主な手術道具は鉈でもある
「与謝野先生」
「茉白じゃないかい」
「会議室で何をされてるんです?」
「見ての通り新聞を読んでるのさ」
机の上に読み終えた新聞を置いて
「今日は忙しくて新聞読む暇も無かったからねぇ」
まぁ、探偵社が暇な時なんてそうそうあるわけじゃない
「しっかし、今日もいい記事だねぇ」
「あんまり与謝野さんが新聞好きって印象がありませんけど」
与謝野女医の方に向かって後ろから覗き込むと、案の定だ。
与謝野女医が好きな記事が載っているのだ
「いい記事って何です?」
「新聞でいい記事はねぇ、死亡記事だよ」
「やっぱり」
「なんだい茉白は気づいていたのかい」
「なんとなく。だってほら、3度の食事よりも解剖とかが好きな与謝野女医ですから、恐らくはと思っていましたけど」
「さすが、太宰の妹なだけはあるねぇ」
「だって、お兄ちゃん」
「おや茉白の場合織田作の方が良かったんじゃないかい」
「まさか。お兄ちゃんがお兄ちゃんで良かったよ?あたしは」
だから、織田さんと知り合う事も出来て、織田さんを好きになることも、好きでいることも、そばに居られる幸せも噛み締められるんだから
「そうかい」
なんて話してたあたしとお兄ちゃんに
「織田さんともそんなに付き合いが古いんですか?」
「古いよ。私は出会って7年。茉白も6年の付き合いだ」
「そんなに付き合いが古いとは思いませんでした」
「だろうね」
「でも、与謝野女医、なんで死亡記事が委員ですか?」
思い出したようにそう言った谷崎さんは
「この世で1番公平にその人を判じてくれるからさ」
「全くだね」
なんて言いながら会議室には
谷崎さん、国木田さん
お兄ちゃん、織田さん、あたしの順に席に座る
「それで、会議室まで使って何をする気なんだい」
「入社試験の決定会議ですよ。昨日の虎の少年君、与謝野先生も居合わせたからご存じでしょう?」
「彼の入社試験を決めるにあたり今回は皆の意見を募り民主的に決めようって話になったのですよ」
「民主的ねぇ。谷崎の時と同じことをやればいいじゃないか。ダメなのかい?」
そう言った与謝野女医の言葉に顔を青くした谷崎さん
「あ、あの時の事は思い出したくありません」
谷崎さんもまた新参者であり入社の際にはある意味では過酷な入社試験を通過している。
「僕の話は善いんです。今回の試験は穏当な奴にしましょう」
穏当ねぇ
新聞を見ていた与謝野女医は
「へぇ見なよこの記事」
そう見せてくれたのは新聞記事の見出しには
「上海蟹の無許可飼育店にて火災発生。死傷者多数。だって」
「なんともまぁ旨そうな香り漂う事故現場だねぇ。帰りに寄ってみようか」
「そうだな」
「お兄ちゃんは蟹につられていきそうだねぇ」
「い、いくら何でも不謹慎では…」
「それに与謝野さん。その新聞日付が1カ月前ですよ。古新聞です。今行っても上海蟹の焼ける芳醇な香りは嗅げませんって」
「残念だな。太宰」
「おやぁ。本当だ。誰だいこんな所に古新聞を出しっぱなしにしたのは。全く折角死傷者が大勢出たなら司法解剖を手伝う名目で死んでる奴等から生きてるやつ迄切り刻んでやろうと思ったのに」
相変わらず物騒だなぁ
「早く決めてやれ太宰。茉白もすぐに限界が来るぞ」
「え?」
「だねぇ。でも織田作茉白の事だ。織田作が居れば何処でも寝られるさ」