空谷の跫音-短編・番外編-
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「雛鶴きいて!昨日の夜ね、天元様が私のこと、"李亜"って言ったの。最中だったから、はっきりとは聞きとれなくて。"李亜"って李亜様のことかな?もしかして私と李亜様ってそんなに似てる?それとも全く別の女の人とか?」
昨日、天元様の夜のお相手をした須磨が少しすねた口調で言う。
「聞き間違いじゃないの?」
軽く流すように言い返したが、正直かなり動揺していた。
-----------数ヶ月前のこと
「天元様の好きな食べ物はなんですか。」
柱の任務でお忙しい日々を送る天元様とのたわいもない会話。時折訪れるこの時間が私にとって、とても幸せなひとときだった。
「んー、食いもんならなんでも。」
「ふふっ、天元様らしいですね。特別好きなものってないんですか?」
「うーん・・・・あ、最近食ってないが、”ふぐ刺し”だな、あれはいくらでも食える。」
「・・・・・ふぐ、ですか。」
ふぐ。特に刺身なんて、そうそう食べられるものではない。ふぐは調理に特別な資格を有する超高級食材だ。
「そろそろ食べたくなってきたな。雛鶴、今度買ってきてくれないか?」
「・・・・・天元様、ふぐは一般には流通していませんし、猛毒をもってるので、特別な資格を取った者しか調理ができないのですよ。
・・・・・・天元様はどこでふぐを召し上がったのですか。」
天元様の背中がピタリと固まる。気まずそうな雰囲気を隠しきれていない。
「...あ~、どこだったけな。忘れちまった・・」
そういって逃げるように去っていく天元様。
私がふぐを知ったのは、李亜様と一緒に暮らしていたころ。
「李亜様、これは、魚ですか?」
「そう、ふぐっていうのよ。雛鶴もあとで食べてみる?」
「食べられるのですか?」
「ええ。でも猛毒があるから、毒を取り除いてからね。刺身で食べると、とってもおいしいの。」
「毒...ですか。もしかして、戦闘時に使う毒を抽出しているのですか?」
「さすが雛鶴。察しがいいわね。」
「魚までも武器にしてしまうのですね。さすが李亜様です。」
「ふぐから効率よく毒を抽出するためにたくさん研究したのよ。あの頃は毎日のようにふぐを捌いていたから、飽きるほどふぐ刺しを食べていたわ。」
笑いながら話していた李亜様。
あらゆる毒を抽出し調合する資格を多数持っていた李亜様にとって、ふぐの調理はお手の物だった。毒が入っている部位を熟知していて、毒を除いたあと刺身にしたり唐揚げにしたりして私たちに食べさせてくれたことがあった。
ふぐは超高級食材で、一般人の手に渡ることは滅多にないことを知ったのは、つい最近。魚屋の主人から聞いたのだ。
・・・・・・
李亜様との思い出と天元様の好物”ふぐ刺し”が
頭の中で重なりあった。
”ふぐ刺しだな、あれはいくらでも食える”
”飽きるほどふぐ刺しを食べていたわ”
”・・・・・天元様はどこでふぐを召し上がったのですか”
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数カ月前の仮説が、須磨の愚痴によって実証に近づいてきている。
やっぱりあの二人は・・・
頭をぐるぐるさせながら、ふと縁側へ行ってみると
天元様が昼寝をしていた。
風邪をひかないように、そっと掛布をかける。
「・・・・・・李亜。」
寝言?かすかな声でちゃんと聞こえなかったけど「李亜」と聞こえたような。気のせい、よね。
ふと、私は立ち止まる。
いや、気のせいじゃない。